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この宇宙の片隅に  作者: verisuta
アズランド新生帝国
18/27

民間人救援活動

アズランド新生帝国は銀河で唯一の避難救助の技術を持った国として知られる。銀河各国も自国の商船には可能な限り有事の際はアズランド新生帝国軍の民間人救援活動に参加するよう通達をしている程で、参加した企業や船団は勲章を用意する国も多くなってきている。

ー惑星リズ建国記念博物館の収蔵品ー

・MA40型重巡洋艦

元オヴィルツィッヒ帝国企業のシン造船社がアズランド新生帝国企業になってから初めて建造した重巡洋艦、デザインは今までのMAシリーズから大幅に斬新され、角ばったフォルムから曲線を採用するフォルム、そして船体本体を包み込むような大型のスラスターフレームを備えるようになった。

先代MAシリーズからのコンセプトはそのまま継承しており、シールド艦としての役割は健在、新たに展開式の反エネルギー弾装甲を装備するなど、最前線におけるスーパーシールダーと言う役割を新たに確立した。

セブンスターエンジンを採用する事により、人類が抱えている慢性的な速度不足を解消し、銀河標準で考えてもそこそこ高性能な戦闘艦に急成長を遂げている。

アズランド新生帝国では既にアルパ級巡洋艦が一定数就役しているものの、より高い防御力と量産性はMA40型重巡洋艦の方が優秀であり就役数としてはMA40型重巡洋艦の割合が高くなる。アルパ級はその旗艦としての運用に方針転換された。


・PC-700

エルーラ社製の警察船、警備船、主にフルジア王国の星系警察の巡視船、フルジア王国軍の連絡船や哨戒艦、ステーション警察船や民間警備会社の警備船などに使用されている。

海賊船の材料の一部でもあり、基本的には艦首部分がそのまま転用される事が多い、材料となるのは主に星系警察の巡視船で海賊が破壊した船が引き上げられて改造されるケースがほとんどである。

現行型はPC-800で、PC-700と混用運用している組織がほとんどである。

 「ついに皇国軍が動き始めたか!」

 「・・・偵察機・・・からの情報だな?」

 ルーガが目の前でクルクル回っている。軍部の人間では無いはずなのだが、彼がここでクルクルしているのには事情があった。

 「MA40型重巡洋艦400隻、これが帝国軍の手に渡っても乗員が乗り込む前にスペースデプリになっちまう!」

 MA40型重巡洋艦、これは帝国軍から発注があった訳ではなく中古部品倉庫の在庫一掃とリサイクル資源の無駄使いの為に建造した船である。半ば押し売りと言う形でこれからビーア星系に輸送しようとしていた時の事だ。やっぱり皇国軍はヤツを持ち込んできた、それも2隻もである。

 「とりあえず引き渡しはメルシア星系の帝国軍基地で良くないか?」

 「間に合うか?」

 「間に合うだろ、実戦投入には間に合わないがな?」

 「歯がゆいぜ全く」

 「ええ、全くです・・・しかし、ここの紅茶はいつも美味ですな!」

 シュンエイは紅茶をすすりながら貧乏ゆすりだ。リユン元帥もそうだが、レム出身の人は基本的に目が細め、その細い目がさらに細くなっている。

 「・・・悪いな、初ロットの出荷先がオヴェルツィッヒ帝国で」

 「是非とも新生帝国の為にお役に立てたかった・・・!しかし帝国軍の現状も元帝国人として無視できません・・・しかし、この紅茶の産地は何処で?」

 「それか?ズァパリ民国ファランス領産の高原紅茶、アッシュレム・バルトだ。紅茶にうるさいズァパリ民国人的には甘味が強くて砂糖とミルクを入れられない・・・不人気ゆえにそこまで大量生産もされない現地消費のマイナー茶葉らしいが、ストレートで飲む分には人間族の口に良く合うだろう。ツェルナが現地でも余っているからと領地視察の土産にロゼンダ級1隻分持ってきた」

 「こんな素晴らしい紅茶がマイナー茶葉とは」

 「あまりの物量ゆえにセントラル・プロムナードのスーパーにも置くようにはなったが」

 「なんと!市販されているとは!今度買いに行かせて頂こうかと思います」

 「ローラ、1箱くれてやれ」

 「かしこまりました」

 ローラは近くの棚から未開封の100パック入りの紅茶パックの箱を取り出しシュンエイに差し出した・・・アッシュレム・バルトは人間族では比較的安価の定番であるセイロンティーのようにズァパリでは激安紅茶パックの品種だったのだ。

 「まだ中央区画の混乱は収まっていない、金持ちが気楽に買い物にいけるスーパーは存在しないからな」

 「よろしいのですか?」

 「在庫ならまだある、好きなだけもってけ、初ロッドの詫びだ」

 「ありがたく頂戴致します」

 「・・・で、ルーガ、さっきの流れで良いだろう?」

 「・・・しょうがねぇな、だが護衛も含めて軍を動かしてもらわなきゃ困る、と言うかいつものごとく救援の民間船も必要だ」

 「それはツェルナにも用意してもらうよう頼もう・・・アンタも居るか?」

 「・・・うちのキッチンにまだ8箱もある、遠慮しとくぜ・・・?」

 「そうか、それは残念」

 棚の中にビッシリ詰まっている紅茶の箱を眺める。この部屋だけでも60箱近くある、下の空き部屋には500箱近くあったはずだ。

 「さて、今度は難民を増やさないよう、努力するか・・・」

 そう言って立ち上がる。ローラが無言で1箱ルーガに押し付けている横を通り過ぎ、ドアを目指す。

 「だから要らねぇって・・・」

 ・・・と、言いつつも受け取るルーガ、ルーガは紅茶の箱を抱えながらついてきた。

 「MA40型重巡洋艦の量産型は主砲を在来のHT702主砲にしてある・・・そんだけだ」

 「その方が使いやすいだろう?」

 「まぁな?HA900長射程主砲は専用艦を設計すべきだ、MA40型重巡洋艦の船体じゃジェネレーターが収まらない」

 「・・・ま、今後に期待って所だな・・・それじゃ、配達に行ってくる」

 「気いつけろよ」

 ルーガに手を振られながらユリアスへ向かう。修理はもう終わっている・・・あれから4カ月立っているんだ。

 そんなユリアス、流石にスラスターフレームは全交換の重症だったらしい、ぶつかったのが船同士だったのでこの程度で済んだのだ、ステーション相手なら間違いなく穴が空いていたと言う。

 相変わらず外はスクランブル状態、ロゼンダ級とササリッサ級がこの手の任務には優秀過ぎる。速い、農業貨物船ゆえに貨物室空間が非常に大きく人が乗る、大気圏内の航行に強い、元々艦隊を組んで運用するので軍隊のような艦隊運用支援機能は貨物船クラスではずば抜けて高い・・・ズァパリ民国艦の真の実力が試される任務でもある。

 マイラにはER-3000Cを50隻用意してもらったが主力はズァパリ民国艦、ゆえに真っ白のロゼンダ級巡洋艦を旗艦とした救助艦隊は赤い通常型のロゼンダ級に追従するササリッサ級を中心にER-3000Cが外側に並ぶ、その旗艦のロゼンダ級巡洋艦を護衛するかのように居るのがヴァルカン船団、海賊船はボロだが運動性能は民間枠に収まる中型艦の中は実はトップクラス、ボロと侮るなかれ、意外にも大気圏突入時のリカバリーも比較的楽な入門向けにも丁度良い艦種である。その為ウェルグーリさん直伝の操船技術ならばほぼ無限に大気圏へ突入出来てしまう。その技術を継承したヴェルグーリさんの酒場の従業員が大気圏突入が古傷由来で不得意な一部のER-3000Cなどに代わって大気圏突入をこなす、その数60隻、そのうちの10隻は各支店からの応援で、いずれも純粋な仕入れ用だが、50隻はシルバーロッド整備会社の売り物である。海賊船の在庫など1万隻くらいあるのでこういう時はルーガが貸し出すのだ。

 ヴェルグーリさんの酒場はいまやチェーン店、A地区の本店とD地区の支店、主にセントラル・プロムナード型大型ステーションの港湾に必ずある店だ、もはや差別レベルで帝国美人揃いのある種のキャバクラだが、あくまでも港湾の酒場兼飯処である。

 ・・・とはいえ、何処に引き上げるか・・・それについてはひとまずやっていた事がある。

 レミア星系の元スライパーの衛星ステーション群、仮避難場所として勝手に使っていたが、築年数が古いステーションで、環境は衛星周回で変化する惑星依存型、現在主力の自立環境型ステーションでは無い、そこで自立環境型ステーションへ改築する計画を一時退避させた難民回収ついでに粛々とこなしていた。ついでに簡易的な非常糧食生産プラントもモジュールとして追加、発電関係は船舶用ジェネレーターを適当に持ち込み、セントラル・プロムナードのようなステーション集合体の避難ステーションをスライパーの残骸の中に隠すように作り上げた。防衛は皇国艦の仕事、もちろん中身は新生帝国兵、いざという時の為にメソポタニア級機雷もいつでも使えるようにスライパー残骸の小惑星帯に隠してある。しかし皇国軍に存在をバレてはいけない、理論上はレミア星系も新生帝国領と言える条件を満たしているが、それを宣言するのは今じゃない、それに宣言してしまえば一瞬で皇国軍に吹き飛ばされるステーションである。

 今回どさくさに紛れて運び込むのは小惑星を使った野戦基地、それをそこそこ大きい小惑星に仕込む。最終的に帝国に売ってしまえば新生帝国軍もより巧妙な作戦を立てられる事だろう。ちなみに言えば難民の一時受け入れにも使える、むしろそっちの方が利用価値として大きい。

 ・・・が、問題はどうやってハンマー・オブ・ゴッドを沈めるか、1隻分はもう既に用意してある、もう一隻分はこれからだが、流石に同じ手が通用するとは思えない。

 「メソポタニア級機雷、全艦突撃を開始しました」

 ひとまずはこの大艦隊に横から挟みこむ方向性でメソポタニア級機雷を配置した。ES17戦術偵察機の各員が時間通りに事を始めた。メソポタニア級機雷はES17戦術偵察機の誘導でそれぞれ大艦隊に迫る。勿論迎撃されるのだが、皇国軍艦隊にも少なからずダメージが入っている。ES17戦術偵察機は任務を終えしたい全機撤退、後方に配置した空母艦隊はES17戦術偵察機を回収しつつ、戦闘機隊を出撃させ追撃してくる皇国軍戦闘機隊を迎え撃つ。その間に帝国艦で遠距離から攻撃を加えていく、しかし全然削れていない。

 皇国軍艦隊はレミア星系を通り過ぎ、ラスタバス星系へ到達してしまった・・・だが作戦通り、ここにはとある艦隊が置いてある。

 「目標、飛んできました」

 「HA900主砲、打ち方用意」

 「目標、ハンマーオブゴット航行用エンジン、ファイア!」

 強力なエネルギー弾がセレストスピアー級の主砲から放たれる。その威力は船その物を後退させてしまう程だ。主に船が後退する理由はエネルギー弾射出用のリニアトリガーモジュールのリコイルなのだが、それだけの物がHA900主砲に装備されている、勿論耐久寿命はHT702主砲に比べれば遥かに短命、一発撃つたびにスペースデプリに正面衝突したかのような衝撃が船員を襲うのだ。

 とある艦隊と言うのは勿論オキタ艦隊、それ以外にハンマーオブゴットを相手に出来る戦艦なんて無い。ゲートの裏で待機させていた。至近距離で主砲を6発、しかしオキタ艦隊旗艦のセレストスピアー級、実はジェネレーターの都合で連射が出来ない。なら何でそのエネルギーを賄ったか、メソポタニア級機雷のジェネレーターからである。これをまるでリボルバー式拳銃のようにジェネレーターを繋ぎ替えて放つのだ。しかし6発撃ち終える頃には皇国艦隊もある程度ジャンプを終えてしまっている。メソポタニア級機雷は放置して旗艦が離脱、他の船が旗艦の退避のバックアップでさらに後方から援護射撃だ。

 「申し訳ありません、1隻不動にするのが限界でした」

 「オキタ大将、よくやった、予定通り撤退してくれ」

 「了解」

 オキタ艦隊のステラー王国艦は旗艦を全力で退避させつつ合流し、本体は帝国軍のバックアップに回る。やはり皇国軍も下手に追撃まではしない様子だ。あとはレミア星系の我々がジャンプゲートを潜る隙さえあれば良いのだが、そこまでは流石に無理だ。皇国軍艦隊はレミア星系の側のジャンプゲートを囲み、航続の我々が追ってこられないようにしている。これはセルルド星系側でもやられた、だがセルルド星系側は撃破済み、しかし我々にも1艦隊ですら億を越える皇国軍艦隊相手に他の星系にあらかじめ味方を置けるほどの艦隊を有していない、後は帝国軍次第と言う訳だ。

 今回オヴェルツィッヒ帝国の民間人は帝国領地にそれぞれ運ばれる。うちの船もそれを想定して動いており、首都惑星カリルの退避は順調との事だ。

 ジャンプゲート越しに皇国軍と4時間にらめっこしていればオキタ艦隊から通信が入る・・・ゲートの門番は始末した・・・だ。予定には無いがやってくれた、遠距離狙撃はオキタ艦隊旗艦の十八番、距離さえ開けばもう一方的なのである。

 「全艦突撃!」

 5千隻程度の色んな国の軍艦が入り乱れた艦隊はラスタバス星系へ飛んだ。状況としてはよろしくない、帝国軍艦隊は突破され、ハンマー・オブ・ゴッドのビーア星系への侵入を許してしまっている。だがしかし、皇国軍は自爆すらさせられない物をジャンプゲート脇に残した・・・そう、ハンマー・オブ・ゴッドである。

 海兵隊が突入を開始、そしてホイホイと使い捨て出来る理由が突入後に発覚した。

 「・・・そう言えば、皇国軍の人手不足はドロイド兵で補っておりましたな?」

 「ともあれ、自爆させればジャンプゲートを粉々にしてしまい、帝国領土を奪えなくなる、自爆すらさせられない状況だ」

 ひとまずはカトロニコフ艦隊が突入作戦を指揮している。ドーベック艦隊他全てはもう一隻のハンマー・オブ・ゴッド追撃に動いている。

 帝国軍は借り物の他軍の艦隊を極力逃がす行動をしたらしく、オキタ艦隊はおおよそ健在、オキタ艦隊は帝国軍の人命救助に当たっている、その救出した艦を引っ張って目の前に来ていた。

黒いFT14型戦艦・・・?

 「・・・皇帝陛下、この場は我々にお任せください」

 「・・・そうしよう」

 FT14型戦艦、基本色は帝国グレー、旗艦ならば艦首の一部が赤色になる。中隊旗艦は青、小隊旗艦は黄色だったりする。しかし、派手にやられてはいるが一部区画は生きて居そうなFT14型戦艦は黒に金色、あからさまに旗艦より上位の存在だ。そう、ロゼンダ級巡洋艦と同じ匂いがする。

 オキタ艦隊に合流してレミア星系の一時避難用のステーションへ、既に新生帝国籍の病院船が待機していた。

 状況は移動中に聞いた。この船は帝位継承権第3位のカルデナ・オヴェルツィッヒ皇女殿下旗艦、ラベル・プリムナード、帝国軍が用意した迎撃艦隊とは皇族直属のいわゆる皇女艦隊、帝国軍に限らず一般的に皇族や王族艦隊とは余程の事が無い限り前線に赴く事が無い艦隊である。

 ・・・つまり皇女艦隊が前線に居たという事は・・・?

 ズバリ帝国軍にはもう皇族艦隊しか残っていないと言う事になる。だいぶ追い込まれている様子だ。

 「・・・皇帝陛下、申し訳ございません」

 「・・・駄目だったか」

 「・・・惑星カリル、消滅しました」

 人類史、オヴェルツィッヒ帝国首都惑星カリルの消滅は人類の築き上げた大国の消滅を意味した、人類はエマンクリシット皇国に2度目の敗北を叩きつけられたのだった。

 しかし首都惑星が消し飛んだ所でオヴィルツィッヒ帝国と言う国家もそう簡単には消え去らない。

 ・・・オヴェルツィッヒ帝国皇帝、ディソルバート オヴェルツィッヒが死す事無い限り、オヴェルツィッヒ帝国は健在なのだ。


 今回の戦闘で皇族艦隊はディソルバート皇帝艦隊、パトリシア皇后艦隊、帝位継承権第一位のアルダー皇子艦隊が生き延び、それ以外の皇子と皇女の艦隊5艦隊が消滅したらしい。

 「おお!アルデン君!無事だったか!」

 「シュンエイ君じゃないか?両親共々ユーリアス社の造船所へ退避したがその後逃げられなくて、たまたま仕事を終えたアズランド新生帝国籍の貨物船団に助けてもらったんだ」

 「ならば共よ!私と一緒に父の会社を継いで、アズランド新生帝国で共に美しい船を作ろうでは無いか!」

 「ここには様々な種族の船があるとの噂は前々から聞いていた、全部ばらしてどのような技術で作られているのか知りたいと丁度思っていた所だよ!」

 「なら、我が社の造船所として建築依頼をしていた造船ステーションをユーリアス社に割り当てよう!なあ!良い考えだと思わないか!?皇帝陛下殿!」

 「・・・好きにしろ・・・ルーガには一声かけておけよ・・・?」

 ・・・コイツ、純粋無垢な青年のくせしてユーリアス社のボンボンじゃねーか・・・何で帝国の造船会社が2社もうちに亡命しているんだ・・・。

 連れてきたのはツェルナだ、おまけにユーリアス社の資産も全部持ってきた。シン造船社と全く同じ流れなのだが、この時、ツェルナは帝国領の別の星系に送り届けようとしていた。しかし乗せた船が悪かった・・・ロゼンダ級、しかも銀河に2隻しか存在しない巡洋艦型である。それに目の前のアルデン・トレンジット君は大興奮し、親が反対する間も無くサクッとアズランド新生帝国への亡命を決めてしまったのである。

 聞くに彼らは帝国一番のロックベル大学の学友だったらしい、それは目の前のエルゼが教えてくれた・・・何故それを知っているか、そのうちの一人だったからである。彼女が言うにはお船大好きの変態だったそう・・・実際に兵器メーカーの息子でも二人のようなお坊ちゃまお嬢様は存在しなかったそうだ。毎日女や男遊び、パーティ三昧、お買い物三昧、贅沢な暮らしを楽しんでいたそうだ。エルゼは領主家系の身分である為、そう言った事は厳しく管理されていたようだが、目の前でセレストスピアー級について議論を重ねる二人のような異端児はまず帝国貴族に存在しないそう・・・おかげで相当ないじめられっ子だったそうな。

 「・・・全く、皇帝陛下の前でなんて口の利き方・・・」

 「ルーガとかもそうだ、どう考えても皇帝らしく無いからな、俺は・・・」

 そう言いながらカップラーメンをすする。皇帝ともあろう者がカップラーメンを普通食すか?・・・ありえんが、とても親しんだ味である・・・庶民時代の主食だったしな?

 ちなみにローラは今日は一日中居ない、カルデナ・オヴェルツィッヒ皇女殿下のお世話で忙しいからだ。

 「とは言え、私は君と船作りが出来るようになって嬉しい、実はユーリアス社の大型艦に関する技術力が欲しいと思っていた所だったんだ・・・MAクラスの船体ではジェネレーターが収まりきらなくて困っていたんだ」

 「・・・対ハンマー・オブ・ゴッド用の船だね・・・僕もここまで帝国が押される状況が見ていられないんだ」

 「実は砲に関してはもうエンジンまでは破壊出来る物が我々の手の中にある!後はエネルギー回りなのさ!それで・・・」

 ・・・これは・・・。

 ・・・もう少し掛かるかと。

 エルゼと黙ってにらめっこをしてその場を立ち上がる。

 「・・・ラベル・プリムナード、なぜこんな所にあるのでしょう」

 「ほとんどお取替えだからな、部品なんていくらでもある」

 カップラーメンをすすりながらところどころ標準塗装の帝国グレーのラベル・プリムナードを見上げる。一応特別仕様の船、艦橋が特別内装だったり、皇女専用の部屋があったりと中身は大体ロゼンダ級巡洋艦に似る物がある。見た目の割には大体外装損傷程度だったので取り替える物を取り替えて目の前に戻って来たばかり、内装修理など普通のドックでも出来るのでここで行われているのだが、もう一隻がキツい状況である。

 第一王女ファーレンヒ・オヴェルツィッヒ皇女殿下の旗艦、ローズ・プリンセス、文字通り真っ赤な船体に金色装飾なのだが艦首紛失、艦橋損傷で入庫している。ファーレンヒ皇女はエルムンドドエルの手で一命は取り留めた。だが両足と右腕切断という重症、よく生き延びたと言うべきだが、そこは銀河最高峰の医学研究者・・・つか、アイツ、異星人の手術も出来るんだ。

 第2皇子と第3皇子、第2皇女は戦死、かろうじて回収したのは第2皇女の下半身のみだと言う、木っ端みじんに等しい状況だったようだ、そうとう悲惨な戦場だったらしい。

 「・・・そろそろこの船の持ち主の所にでも行こうか」

 「ええ」

 カップラーメンの空容器を格納庫の管理棟のゴミ箱に入れてから屋敷に向かった。

 カルデナ皇女の客室へ行けばローラが倒れていた。

 「ローラ!どうした!」

 「うま・・・れる・・・!!」

 ローラは辛そうにお腹を抱えている。

 「隣の客室は空いていたな!?」

 「下から衛生兵を呼んでまいります!」

 「エルゼ!頼む!」

 ローラを抱き抱え、急いで隣の客室へ。とりあえず靴を脱がし、スカート下に付けていた銃とベルトは抜き取った。その間に他の使用人達が色々用意してくれていた。時期に女性の衛生兵が来て部屋から追い出された。未だ昏睡状態のカルデナ皇女の世話は他の使用人に任せて廊下で時を待つ事30分、元気な産声が聞こえた、元気な女の子だそうだ。

 ・・・初の実子か・・・。

 ツェルナ、サシリアが居るので実感こそない。そもそも医学的に繋がりは無いので養子みたいな物ではあった。だが今度は医学的にも実子だ、それはツェルナ達から見てもおおよそ同じだった。

 「妹!血の繋がりは無いけれど!早く会いたい!」

 「お名前は決まっておりますか!?」

 「さぁ!まずは採血!どのような遺伝子配分か気になる!はよせい!」

 ツェルナは目を輝かせて落ち着きが無い、サシリア王女も一緒、ついでにエルムンドドエルも湧いて出てきた。

 ・・・騒がしい。

 それは隣のカルデナ皇女も同じだった。

 「・・・騒がしい・・・異星人ども・・・」

 カルデナ皇女はそう言いながら再び倒れた。使用人が直ぐにベッドへ戻そうとしている。

 「ファーレンヒ皇女殿下に比べたら軽傷だが、足は複雑骨折だぞ・・・おとなしくしとけ」

 「お姉様は・・・無事なの!?今すぐ会わせなさい!」

 ・・・マズったなぁ・・・。

 しれっとファーレンヒ皇女の名前を口走ってしまった。

 「ワシとしては構わぬが、目も当てられない状態じゃぞー?」

 「・・・ま、俺も直接状態を見た訳じゃないからな、オメーの手でも相当リスキーな手術だったそうじゃないか?」

 「異星人の手術は不慣れじゃしのー?ファルマンの配下は熟練医師も各種様々の分野で揃っておったからなんとかなっただけの事、一人だったら何も出来んかったぞー?」

 「・・・どんな状況でもいい!会わせなさい!」

 「・・・だとよ」

 「しょーがないのう」

 「えー?パパは初の実子を抱かないの?」

 「そうです!お父様」

 「・・・使用人との子でしょう?何処の貴族か知らないけれど抱く必要がありますこと?・・・早くしなさい」

 「・・・へーへー・・・わりい、ツェルナ、後頼む」

 「えー・・・?まずはパパからじゃないの・・・?」

 ミィィ・・・??ツェルナは目を丸くしながら首を傾げた。

 普通、子供が優先ではなかろうか?ツェルナはそんな顔をしながらもとりあえず引き留めようとは頑張る。だが所詮アズランド新生帝国も人類の中では一番若い新参国家、権力的にはオヴェルツィッヒ帝国皇帝家の方が上である。

 「・・・ま、ここも所詮は小国だしの?」

 「そう言うこった、帝国様には逆らえない」

 エルムンドドエルは溜息をつきながら正面玄関の方へ行く。俺は地下の駐車場へ行って正面へ防弾仕様のセダンを正面玄関に回した。自分で運転するのはいつぶりか。

 さも当然のようにエルムンドドエルが後ろに乗り込む、カルデナ皇女はそれ相応の身分だからまあ許そう、だが、このクソトカゲより俺の方が現状身分は上だ、一応一国の王である人物が何故車を運転する?と言うかコイツは本当にどうやってここに来た?まさか本当に地面から生えてきた訳じゃないだろうな?

 研究区画の内側を走る高速道路へ出る。車通りはそこそこ、基本的には貨物トラックが多い。しばらく車内はロードノイズとモーター音、そして時々隔壁継ぎ目をタイヤが叩く音だけになる。病院とは言っても隣の区画のVIP区画、C78多目的輸送艦の病院船はいわゆる移動式軍病院、あくまでも外科手術が専門で継続的な治療となる入院には向いていないが、ドックに入っている状態なら別、薬や水その他のサプライも無尽蔵、そして前線ともあれば緊急で必須となるある手術にも対応していた。実際ファーレンヒ皇女殿下の手術も薬とエルムンドドエルをルーガがE-1000Mで現地へ緊急持ち込みして行われたのだ。そこは良くも悪くも時代遅れなエルーラ製、しかも民間払い下げ、ES17戦術偵察機は居住空間があっても貨物室が無い、それ以外は居住空間すら無い。

手術内容も左腕を除く四肢切断、切除した末端には義手義足の接続システムが取り付けられている、取り付けられる義手義足その物は後日調達するのが帝国軍では一般的、病院船には搭載されていなかった。

 オヴェルツィッヒ帝国一の美貌を持つと言われたファーレンヒ皇女殿下、顔も体も火傷だらけと見るも無残、おまけに血液型もRHマイナスとかなり特殊、幸いにも遺伝子改造された獣人やエルフ族にその血液型が多い、人工的に作られた獣人は愛でて良し、使って良し、ドナーにしても良し・・・そう言う目的の為に作られた存在であった。あいにくエルムンドドエルも一人助けるのにもう一人殺す選択を選ばないレベルでは常識がある。それにファーレンヒ皇女殿下の臓器は健全なので迎賓館で犠牲になった使用人が提供した物はあくまでも血液のみにとどまっている。

 「すまんの、今は動かせる状態ではないからのー?おさわりも厳禁!」

 「お姉・・・様・・・!?」

 生命維持に関する設備に囲まれている集中治療室、この船の病室にはここまで装備の整った部屋が無いらしく、治療室に入れっぱなしと言う事だ。

 そして、病院船ともあれば車いすくらい常備している、カルデナ皇女はそれから身を乗り出し近寄ろうとする、車いすが倒れる音がした。

 「ファルマン!」

 「・・・お医者様の言葉は絶対だしな?」

 ひたすらにファーレンヒ皇女の名を叫ぶカルデナ皇女の肩を掴み強引に車いすへ戻す。絶対にそう言う事する奴だとは思っては居なかったが、なんとあのエルムンドドエルが車いすを起こしてくれていた。

 その後は医者の判断により強制退場だ。迎賓館に連れて行きファーレンヒ皇女から引き剥がす、皮肉にも出迎えたのはファーレンヒ皇女の治療にあたってドナーを務めた使用人達だ。腕に全員絆創膏が貼られている。勿論死ぬ程抜いてなど居ない。なにせここには30人も居る。おおよそ半数から400mlずつ抜いただけである。

 「とりあえず、カルデナ皇女殿下並びにファーレンヒ皇女殿下の存命に関しては、既にオヴェルツィッヒ帝国軍を通じて皇帝陛下の耳に入られていると思われますのでその後の帰還日程につきましてはまた後日、我々から殿下にお伝えできればと思いますが、しばらくは当ステーション、セントラル・プロムナードにてまずご療養を、ファーレンヒ皇女殿下におかれましては外出すらままなりませんが、カルデナ皇女殿下につきましては当ステーション内であれば私の使用人にお申し付け頂ければご自由に外出なさっていただいても構いません・・・しかし、当ステーションの住人のほとんどは徴兵により帝国の為に一度は命を落とした身の方です、護衛もお付けしますが、細心の注意を払って行動してください」

 そう言う事務的な会話をする、だが全く耳に入っていない様子。

 ・・・無理も無い。

 彼女の艦隊は旗艦も含めて全滅だ、もちろん奇跡的に生き延びた人間も居るには居るが、寄せ集めてもせいぜい40人ほど、FT14型戦艦一隻運用がせいぜいの人数である。おまけに帝国軍カルデナ皇女艦隊指令のエドガー・クレイアット大将の独断が無ければうちのオキタ艦隊の本隊も全滅だったのだ。外国の支援艦隊を逃がす為に自らしんがりになったとも言えるが、オキタ艦隊の本隊が言うには総指揮権はカルデナ皇女殿下にあったらしく、エドガー大将とオキタ艦隊本隊の撤退勧告を無視してまで総攻撃へ動いてしまっていたようだ。結果、損傷艦だらけの艦隊は何もする事が出来ず全滅、そして突破されてしまったと言う事だ。その背後、ジャンプゲートの先で皇族家4艦隊が待機していたが、こちらはこちらで難があった。武勲を立て、自らが皇帝になり上がると野心を燃やすアホ皇子達とマヌケ皇女、その艦隊を取りまとめる者こそがファーレンヒ皇女の勤めだったが、皇女殿下にずば抜けた艦隊運用能力が存在する訳が無い、結果統率が取れずフレンドリーファイアも多々、結果として壊滅に至ったと言う。そもそも5艦隊で迎え撃つ作戦だったらしいのだが、カルデナ皇女殿下はこの3人の仲が悪い事は知っていた、皇女としては一番上のファーレンヒ皇女殿下まで火の手が及ぶまいとの決断で1艦隊のみが最前線で出向いたようだ。だがファーレンヒ皇女殿下に艦隊運用能力が無ければカルデナ皇女殿下もまた同じ、これならば5艦隊で最初から迎え撃つ方がおおよそ現実的だったと言える。回りの護衛を排除さえすれば外国の救援艦隊の増援でハンマー・オブ・ゴッドの行動停止も望めた。ドーベック、ワトソン艦隊も護衛排除が間に合わなかったのだ。

 いずれにせよ、5艦隊で迎え撃っても損害としては壊滅だったであろう。だが惑星カリルまで吹き飛ぶまでにはいたらなかったはずだ。これは突出したカルデナ皇女殿下が招いた損害である。

 「話は以上、しばらくは私の屋敷でおとなしくして頂きます・・・迎えが来ております」

 何を言おうとうつむいたままであろう。防弾仕様のセダンの鍵を屋敷の使用人に渡す、変わりにスーパーカーの鍵を受け取った。深い青が美しい車、特に急ぎの送迎関係でよく使われる一台である。

 ちゃりん。

 さっき受け取った鍵を眺める。もう一人の使用人が待っていた、つまり彼女に渡せと言う事だったのだろう。

 ・・・そして、ようやく我が子とご対面・・・にはならなかった。

 「少し体重が軽くて中央区画の病院に入院だって、残念だったね、パパ」

 「ローラさんにそっくりな可愛らしい子でしたよ?お父様?」

 屋敷に戻ればツェルナとサシリアが代わりに抱いた感想を自慢してくる。ローラも念のため入院だそうだ。

 「次はわたくし・・・ですからね?陛下」

 「国を勝手に押し付けたのは悪かったが、アグランダー王家から交際に関して同意を得ていないから駄目だ」

 「わたくしが良いと言えばそれで良いのでは?父上は国民に殺されました、兄上はフルジア王国の民を守る為に戦死されたと伺っております・・・これ以上、側室の方々に先を越されるのは皇后として許せません」

 「・・・駄目か」

 「確実に子を授かる極意は学びました、わたくしにお任せください」

 ベッタリとエルゼに抱き付かれる・・・しかし彼女は17歳である。いくら本人の同意があるとはいえ許される年齢では無いのだが・・・。

ー銀河の常識ー

・アッシュレム・バルト

惑星ズァパリで栽培されるアッシュレムの葉から作られる紅茶、ズァパリでは主に高地で栽培される一般的な紅茶の品種ではあるが、ファランス領で栽培された物はバルト海の潮風の影響で葉が非常に甘くなってしまった事からアッシュレム・バルトと名付けられた。

500年前ほど前に領内の鉱脈枯渇を理由にファランス領の新たな財源として鉱山跡地にて栽培が始まったが、潮風の影響を受けると葉が甘くなってしまう事が新たに発見された為、事業としては大失敗に終わった。しかし鉱脈とは異なり、毎年一定の収益がある事からその後も生産が続き、安価な紅茶として市場に出回る事になった。

不人気茶葉である為現地や貧乏人の間で消費にとどまっていた事もあり、輸出も無かった名もなき紅茶だが、在庫処理としてアズランド新生帝国に渡った事により異星人達の間で大きく注目を集める事となる。

アズランド新生帝国政府も日頃の難民対応で蓄積された国民の不満を和らげる事や貨物船一隻分の紅茶を捌く名目でセントラルプロムナード市民向けに1箱無料配布を行ったのだが、これをきっかけにアズランド新生帝国の大手喫茶チェーンのローズ・オブ・ティーのデューア・イシェル社長の手に渡り、様々な新メニューが考案されアズランド新生帝国領内の各店舗で販売されるようになった。港湾にも店舗を展開していた為、様々な種族を唸らせ、爬虫類族や巨人族商人が新たな商材として現地に調達を試みるようになった。

ズァパリ民国人の口には合わなかったが、口に合う異星人は銀河中にそれなりに存在していた為、ズァパリ民国の最高級紅茶、アッシュレム・シェルコーニを超える人気茶葉となった。

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