遺伝子学
生物の理すら超越する禁忌の学問である。
ー惑星リズ建国記念博物館の収蔵品ー
・アークバーレイ級大型貨物船
ラクトパレト王国ガイアス社製の大型貨物船、旋回性能と加速力が非常に優れている獣人族系貨物船の3大ベストセラー機種の一つで主にラクトパレト王国人を筆頭とした中型人種の間で運用される。
獣人族系船舶特有の短距離加速装置のリアクターブースターと回生ブレーキシステムの性能が特に優れており、特にハイパードライブ航行が出来ない人口の多い星系では大変有用な機能を備えているが、ハイパードライブ航行が可能な一般的な宙域では多種族の船に劣る。
急加速、急停止性能に特化した貨物船である。
・ズヴェーラ級大型貨物船
リビューイ帝国リージェン社製の大型貨物船、アークバーレイ級と同じく旋回性能と加速力が非常に優れている獣人族系貨物船の3大ベストセラー機種の一つで主にリビューイ帝国人を筆頭とした大型人種の間で運用される。
性能も設計思想もアークバーレイ級と共通しているが、大型人種用の艦船の為旋回性能が劣る。
銀河で現状3番目に大きい特大型貨物船だが、その巨体ゆえに交通量の多いジャンプゲートを使用する時は細心の注意が問われる。
獣人族系貨物船のフラッグシップと言える代表的な艦船である。
銀河の情勢が大きく動いた。
皇国のドロイド艦隊の手によりリビューイ帝国滅亡、これによりラクトパレト共和国は銀河中に鎖国を宣言、玄関口であるマルモ星系の船の往来一切を禁じた。これにより自動的にドロイド艦隊はセルルド星系に流れるようになるのだが、この政策の影響によりソルは締め出しを食らってしまったのだ。彼にはアークバーレイ級を不幸の見舞いとして送ってやった。
ソルはとりあえずフルジア王国とオデム=ササラの定期航路輸送を始めた。同様の獣人族の難民は皆ソルの会社に押し付けて、既に彼の配下にはアークバーレイ級2隻、ジュリエット級5隻が次々就航している、まずは順調そうでなにより、だが銀河は順調どころじゃない。
皇国軍はドロイド艦隊を利用し、無人のストーム級を遠隔操作で誘導しつつ帝国にぶつけると言う、リビューイ帝国が取っていた戦法を利用して帝国にさらなる進撃を開始している。その結果がセルルド星系の帝国軍前線基地陥落と言う結末をもたらした。これを成し遂げた事により皇国軍もセルルド星系では大艦隊を運用する必要が無くなり、年に何度か開催される武術大会も皇国軍の不戦勝のような状況となっていた。フルジア王国の通常路線に加え、ズァパリ民国方向の護衛艦隊が引き連れてくる負傷者も皇国軍人の姿がほとんど見られなくなった。うちに出来る事と言えば船を失った商人達に見舞いと言う名目で在庫処分の船を押し付けるくらい、特に獣人族がフルジア王国の物流改善に一役買っている。
獣人族商人の救済についてはまだマシな方、帝国軍の難民量が危機的状況にあり、ズァパリ民国に貸しているステーションの第二区画の建材を片付けてコロニーとして運用を迫られる事態にありつつある、ネドリー運輸グループ総勢の有効職員の2倍の人数を受け入れている状態なのだ、病院もパンクし、帝国から盗んだ病院船も研究ステーションに数珠繋ぎ、たいして使い道が無いサラマンダー級も野戦病院としてフル活用状態である。バーボン星系へ修理品と一緒に送っては居るが間に合わない。それにしても帝国軍がかなり弱体化している。
皇国のやり方はドロイド艦隊をぶつけ、帝国軍を十分に疲弊させてから皇国正規軍が追い打ちをかけるやり口だ、これをされてはどんなに帝国艦が優秀でも勝ち目が無い。
リストーン星系の要塞ステーションは数の暴力でさらに工期を短縮し来月には竣工予定、防衛指揮官にはユーノドア・ラミリス大佐を割り当てるつもり、彼もまたスギヤマ大佐と同様の若手指揮官、どちらかと言えばアインザック大佐と同じ系統の帝国軍の期待の新人・・・だったようだ。
ユーノドア大佐には皇国艦構成の戦艦30隻、巡洋艦200隻、フリーゲート400隻の艦隊を3つに帝国艦構成の戦艦10隻、巡洋艦100隻、フリーゲート300隻の艦隊を4つ、そして両軍混合の空母10隻に巡洋艦60隻、フリーゲート600隻の空母機動艦隊を2つ用意させた、勿論リストーン星系の保管宙域にはもう海賊船以外残らない状況、これらも有り余る整備士で野戦修理をさせ早急に用意した、修理待ち保管場所もだいぶ民間船が目立つようになってきたのはなによりだが、またネドリー運輸は赤字倒産の危機に面してしまった。
「・・・俺は戦争がしたい訳じゃないんだ」
「小型機でどうにかならんかのー?」
「・・・それは俺のセリフだ」
基本的に自衛組織と言う位置づけのネドリー運輸の警備事業、国から依頼を受けている訳でも無ければ他社の輸送船団の護衛業務なんかも収益が発生していない場合がほとんど、そんな赤字組織が自国軍の数十倍の大艦隊を運用してみろ、他の事業でも穴埋めが効かなくなってくる。
そんなこんなで今日は俺が何故かエルムンドドエルの周りを周回するハメに・・・ここ最近毎日のように色々な船団や艦隊がちょっと頑張れば直せそうなゴミに負傷者をパンパンに詰めてくれるおかげで流入量は既に一億人を越えた。流石に医療品の生産量不足も出始めたのでステラー王国衛星上か地上に至急大規模生産プラントが欲しいと頼みに来たのがここでのんきにコーヒーをすすっているエルムンドドエルだ・・・この事務所はカフェテリアじゃない。
「で、いつになったらおぬしらは交尾を始めるのだ?」
「それどころじゃねーんだわ」
「とっとと交尾せんと研究が進まぬのだが?」
「交尾、研究、それ以前の問題だ!うちの経営がかなりピンチなんだぞ?」
「元々じゃろ?シルヴァ、リーリアよ、はよ服脱いでそいつを襲ってくれんかのー?」
「ボヌア、スギヤマペアだけで研究してくれ」
「なんじゃ?リユンに続き、おぬしも立たんのかの?ファルマン!」
「・・・クッソ腹立つなお前・・・役員クラスはポンコツ皇国軍のせいで女遊びどころじゃねーんだよ!」
「ふごふっ!」
とりあえずエルムンドドエルの頭をグーで殴る。
「えぇ、わたくしは家政婦として貴方の元に居る訳ではございませんのに、一度も家に帰ってこない・・・わたくしと子作りする気はありますの?」
「それに、ボヌア、アーシャ、クリナも他の男に押し付けて・・・もしや、私達もそのようにするおつもりで?ファルマン様?」
「・・・あいにくだが俺より有能でイケメンな若い奴にこれ以上心当たりが無いんだ、良い物件が出てくればリーリア、君にも紹介してやるさ」
「わたくしはファルマン様一筋ですのよ!?・・・とはいえ、現状のご様子、流石に夜の営みをしている余裕は無い事はよく分かっております・・・リユン様も相当お疲れと聞いておりますので」
「でもしたくなればまず私を」
「わたくしが先ですわ!?」
シルヴァとリーリアに抱き付かれる、彼女らの胸の感触で力が抜けそう・・・性欲より疲れが遥かに強敵なようで、そんな気にならない。エルムンドドエルの言う通り、立たなくなっている男になっているのかもしれない。
そんな中、オルドネスク提督が何故かこんな貧相な事務所に入って来た。
「・・・お楽しみ中すまないが緊急の要件だ、レミア星系の帝国軍基地から救援要請が入った」
「わざわざオルドネスク提督、こんな場所までご足労願い申し訳ありません」
とりあえず敬礼をしておく。貴殿は民間人だろ?と言う顔をされた・・・うるさい、俺だって民間人なのに元帝国軍連中から敬礼されるんだ!
「内容は惑星キーブ衛星の民間ステーションから帝国市民の救助の依頼だ」
「・・・フルジア王国軍で対処出来ない理由でも?」
「帝国軍の救援部隊が編成されたが、皇国軍の侵攻が激しく、ステーションにたどり着けないと言う状況だ、ステーションの位置関係が皇国軍側に入っており、避難民を乗せた船が前線を越えるリスクも伴う状況、フルジア王国側のステーションが唯一の逃げ道となる。それにわが軍は帝国軍の軍艦を運用している・・・残念ながらわが軍では難民を乗せた船が攻撃を受けるリスクがあり得るのだ」
・・・なるほど、帝国艦で行けば皇国軍が攻撃してくる・・・そこで皇国艦を使用して偽装する、ドロイド艦隊に通用するとは思えないが、皇国艦は高速性能に優れる、だからうちに委託する事にした・・・と言う事だろう。
だがしかし、大容量の輸送艦が無い事である。
サラマンダー級、確かに腐る程余っている・・・が、艦載機満載か負傷者満載で動かせない、他の皇国艦なら何隻必要だ?コロニーレベルなら空母抜きの艦隊丸々一つじゃ足りないのは明白、おまけに皇国艦は設計図が手元にあっても運用上の安全基準に難がある事から新規製造した事が無く、補助艦や輸送艦などの在庫が存在しない。
「・・・うちの出番、なのは確かですね」
だが、オヴィルツィッヒ帝国方面以外の星系に住む人類国家にはうち以上に貨物船を保有している企業は無い。
「包囲こそされていないが、いつ皇国のドロイド艦隊に撃破されてもおかしくない状況である、頼めないだろうか?報酬は約束しよう」
「・・・断れない・・・ですよね?」
「貴殿には難民向けの食料援助を約束しよう、どうかね?」
「・・・最善は・・・尽くしますが、収容人数の多い、動ける艦船が無いので何処まで可能かどうかは未知数です」
「多少の犠牲は仕方あるまい」
オルドネスク提督が悩ましい顔をしながら手を差し出してくる。
・・・握るしか無いじゃないか・・・。
そうと決まれば船探し。皇国艦は沢山ある。しかし退避には時間がかかる。
「マレッタステーション、人口は2億人、そこそこの大きさの規模です、食料供給は途絶えてしまっているので持って一カ月が限度でしょう」
リユン少佐の所へ行けば作戦の詳細を詰めてくれる。今回の作戦に投入するのは皇国艦で編成された艦隊を一つにプリズムライオッド12、ユリアス、そしてロゼンダ級6隻にササリッサ級が9隻を投入する。いずれも高速艦、純粋な貨物船があれば軍艦より多くの人口を収容する事が出来る、王国軍は道中経路の防衛に当たる流れだ。ロゼンダ級4隻を出すと言ったらアーバン船団商事もステージアコロニーの避難に加担した経験があるからと協力してくれた。
「ツェルナ、巡洋艦の指揮は任せたぞ」
「任せてぇ!」
ビシッとツェルナは敬礼する。俺はいつものプリズムライオッド12、ユリアスはドーベック大佐に任せる、他のロゼンダ級4隻はドーベック配下の船の乗員を充てた。
「悪いがカトロニコフ大佐は俺の船に乗ってくれ」
「仰せのままに」
普段はドッキングしっぱなしのロゼンダ級が研究ステーションや大型交易ステーションからそれぞれ出てくる、その中でもひと際美しい元テティア女王陛下のロゼンダ級、純白に金装飾、銀河に2隻だけの巡洋艦型が銀河最高額の中古高級クルーザー4隻を従える陣形を取る。これだけでもえげつない金額だがその横にはアーバン船団商事の船団がさらに並ぶ。
「ロゼンダ級がロゼンダ級を従えるとはまた奇妙な光景ですな?」
「・・・このままオデム=ササラに行ってみたいね、だが今回は逆方向だ」
「非常に残念ですなぁ」
「ああ、管制官がどうなるか楽しみだが、その機会はまた今度って奴だ、急ぐぞ」
「帝国軍には事前に通達してあります」
「了解、マレッタステーションへ」
・・・だが、マレッタステーションは厄介な事になっていた事はその時誰も知らなかった。
「マレッタステーション・・・とはこれの事か?」
「時既に遅し・・・と言った感想でしょう、サリマンの努力は見受けられますが・・・」
カトロニコフの考察通り、マレッタステーションは粉々、その周りにはサリマン運輸のER-3000Cの残骸が点々としていた、ここまで粉々であれば生存者は絶望的、ストーム級フリーゲートが生存者確認に何隻か動いているが報告は無さそうだ。
「司令官殿、レーダーに情報の無いステーションがあります」
「ステーション?」
「モニターに画像出します!」
望遠レンズのカメラからの映像が表示される、確かに何か人工物がある、そしてこれはギャラクシーネットワークに登録の無いステーションだ。
「生存者がいるかもしれない、急げ」
「はっ」
同じ惑星衛星軌道にある未登録の施設に近づく、その間に生存者確認が大体終わった。
「・・・これは・・・シノノギ製薬のプラント・・・か?」
「そのようです、どの道接岸し、生存者確認をしなければなりません」
カトロニコフ大佐が苦い顔をする、サリマン、そしてシノノギ製薬・・・非常に嫌な組み合わせだ、しかしこの規模のステーション、推定でも3万人くらいは従業員が居そうなステーションである。
「ステーションに通信を試みましたが返答ありません」
・・・どうする?
正直、クソトカゲが喜びそうな物が一杯ありそうだ。だがステーションは無傷、一応確認しなければならないのは確かである。
「とりあえず接岸、念のため海兵を頼む」
「了解」
「カトロニコフ大佐、しばらく頼む」
「了解しました」
とりあえず海兵と一緒に突入準備だ。接岸が終わればステーションに侵入、中は一見無人なよう、しかし内部のカメラにアクセスすれば生存者が存在する。
「・・・で、それは何処だ?」
「恐らく中心部に近い実験プラントでしょう」
「そこへ急ぐぞ」
「了解」
迷路のような研究施設、闇雲に歩けばサーバールームなどがある、施設のハッキングに同伴している諜報部隊は記録媒体をサーバールームから適当に回収しているようだが、何に使うのだろう?その答えがしばらくして見えてきた。
「これってもしや・・・」
「シノノギ製薬の生物実験プラントです、構造的にはセルースにあった施設とほぼ同等かと思われます」
「・・・マジ?」
「とはいえ、生体反応は多数、放置しておけません」
諜報部隊の人間がそう言う、海兵隊達は中心部にたどり着いていた、監獄のような場所にたどり着く、猫耳、ウサギの耳・・・おおよそはステラー王国の人達と同じ、獣人種、既存の獣人族とは異なり、体その物は人間である。
「・・・うっわ、こりゃまたやべぇ・・・実験体だぞ?」
「ひとまずは全ての檻のロックを解除します」
諜報部隊が檻のロックの解除を試みる。海兵隊は帝国軍人として檻の中の人達を追い出して回る、脅して走らせるやり口、だが急いでいるので理に叶っている。全員を広場に集め終わる頃には30分経過、で、どれだけ居たと思う?20万人くらい居るんじゃないかな?圧倒的に女性が多そうだ。
「ロゼンダ級の応援を頼む」
ひとまずこれを逃がすのにはプリズムライオッド12じゃ足りない、ロゼンダ級に接岸してもらい全員を輸送、1時間もかかった、その間に要求には無いが、別のステーションから帝国民間人を救い出していく、むしろこっちが最重要で、ドロイド艦隊に攻撃を受けている最中の採掘ステーションなどが多数、結果として任務を遂行して戻ってこれたものの、オルドネスク提督に結果報告時に悩ましい問題が発生した。
「避難民はひとまず旅行者扱いで我が国が受け入れる事となるが・・・なんだね?また悪趣味な・・・」
「あー提督さん?これ、帝国社会の裏で取引されるって噂の獣人奴隷って奴じゃねーかな?人と獣人族をかけ合わせて作る愛玩動物みたいな物なんですわ、掃除洗濯から夜のおもちゃまで、使い方は様々、ザ・金持ちのおもちゃって奴」
移民となれば星系警察が動かざる得ない、オレット巡査部長がうちの事務所に居るのはなんら不思議な事じゃない、むしろその後の対応について色々聞きたくて呼んだのだ。サンプルとして連れてきた赤髪の猫耳少女はかなり警戒している、今にも噛みついてきそうな感じで首輪には568と言う管理番号が付けられていた。
「これは我が国でも受け入れは出来ない人種だな・・・ファルマン殿・・・貴殿の所でなんとか出来ないかね?」
・・・そう言われても・・・。
とっさにシルヴァを見る・・・シルヴァを見たってフルジア王国の国籍が得られる訳でもない・・・いや、解決策ならあるじゃないか?
「シルヴァ・・・押し付けで悪いんだが、ステラー王国で引き取れないか?」
「えっ・・・とー・・・可能かと思われます」
「リーリア、どう思う?」
「えっ?・・・そっそのー・・・わたくし達の先祖と同じ生まれ方をしているようですし・・・?ほぼ同じ種族とも言えるんじゃありませんの?知りませんけれど!」
何故そんな事を聞かれるのかも分からない様子の二人、ともあれソデス国王に一度相談しなければならない。
「だが、検体は欲しいの!」
「だからテメェは何処から湧いて出た!?検体なんて無くとも海兵隊が盗んできたデータで事が済むだろ!!」
気が付けば居るクソトカゲ、ひとまず事務所に置いてあるビームライフルを突きつける。安心しろ、パワーパックが装着されていない。
「最初からおるわい!ファルマン!君の席でコーヒーを飲んでいたぞ!?」
「・・・そこは、ファルマン様以外着席なされてはいけません」
「・・・全くその通りですわ?」
ペキポキ・・・二人は拳を鳴らしてエルムンドドエルを見下す。
「ひえー!!」
クソトカゲが逃げ出した、これで事務所が静かになる。
「・・・最近、旦那の所の博士、ちょっとヤベー事に足を突っ込むようになってないか?シノノギ製薬は表にしていないとはいえ、あそこは遺伝子研究最高峰の名門だぜ?それを検体として欲しいとか・・・」
「・・・うちの会社の所有物じゃないぞ?あれはどちらかと言えばサイズァー薬品の所有物だ、知らん!アイツが何をやってるかはサイズァー薬品に聞け!」
「まあ、どちらにせよ、帝国軍のクローン兵、アレの出所もシノノギ製薬だろう、あの博士、帝国の遺伝子学を盗もうとしているな?・・・まぁ、正直旦那の手元に置いている二人には悪いが失敗作と言うか、金持ちのおもちゃレベルの比較的次元の低い技術がリークしているだけだ。それに俺らフルジア王国は関係ない、今優先すべきは経済の安定化ただ一つ、クローン技術とか本当にどうだっていいんだが、一応気を付けろよ?」
「肝に命じて置くさ、最近やれ交尾しろとかうるせぇんだわ」
「なんだ、そんな美人を二人もはべらせてまだ指一本触れていないのか?」
「このご時世、指揮官クラスともなれば女遊びする余裕もなかろう?ひとまず獣人は貴殿に任せるとする、報酬はフルジア王国政府から支払いと援助が来る・・・が、わが軍の補給艦はほぼ無い、悪いが何隻か出して頂きたい」
「・・・C78多目的輸送艦を融通しましょうか?」
「貨物船として使えるであろう?」
「180隻あるうちの30隻は医療器具を搭載した病院船、今現在使用中です、50隻はステラー王国軍へ譲渡を検討中なのでお譲り出来ませんが、100隻は軍用艦なので運用に困る事から有事のみの運用をしております」
「要するに、要らないと言う事だな?」
「現状、我々も新造のER-3000Cと置き換えをしており、古い船は他の業者に回しておりますので・・・」
「分かった、軍上層部に掛け合ってみる・・・それと、これから今回のような救出作戦がまた帝国から依頼されるかもしれん」
「その時は我々も対応しましょう」
「申し訳ないがよろしく頼む」
オルドネスク提督は立ち上がって事務所を後にした。
「・・・で、ここからが俺の仕事だ、俺らはフルジア王国政府の特例命令で難民として受け入れる」
「旅行客扱いじゃなかったのか?」
「色々変わったんだよ、ひとまず今回連れ出したレミア星系の帝国民間人はラザーニャコロニーで引き受ける事となる、旦那の所でも良いんだが、ステージアコロニーの半数が旦那の所に居る事や、帝国軍兵の受け入れで余裕が無い、丁度マスビダ星系の人口低下が著しかった、ラザーニャコロニーに余力があるんだ、旦那の船でそこまでの移送をお願いしたい」
「まあ、もうすぐすれば、居住区画の整備が始まる所だが・・・」
「フルジア王国の経済の中心はもはやリストーン星系だ、民間ステーションしか無くてマスビダ星系に富の再分配が出来ないのが現状だな、それで豊かさを求めて国民の流出が多いんだ」
「なんか、悪いな?」
「知るかそんなの、たいして開発してこなかった国が悪い。ともあれ後は星系警察側で全部やってやるから船だけ貸してもらえると助かる」
「分かった、移送を指示しておこう」
・・・そうしてロゼンダ級5隻がPC-700に連れられてマスビダ星系へ向かった、なんだかんだで5000万人ほどの帝国市民をレミア星系から連れ出した。のちにロゼンダ級だけが艦隊を組むと言う異常編成は近隣諸国でニュースになった。
・・・ちなみに海賊対策はどうか?完全に考えていなかったが、そもそも人類の領域で活動する海賊達はドロイド艦隊に根絶やしにされてしまっており、現在海賊で生きている組織と言えば造船業だけ、居るには居るようだが、レミア星系が通行止めみたいな物な為、海賊も全然活動出来なくなっていたのだ。
そして、なんとなく気にはなっていたが・・・適当に連れてきた管理番号568番の娘、割と臭いがキツイ。
「・・・ひとまずは、綺麗になってもらうか、シルヴァ、リーリア、オーエンスまで連れてきてくれ、俺は少し指示を出してから行く」
「かしこまりました」
シルヴァ達は568番の娘を連れてオーエンスへ向かった、この事務所の付近で入浴設備と言えばオーエンスである。地上はともかくステーションならば中型以上にドッキングサプライシステムが必ずある。これはここで言えば研究ステーションのインフラと接続されているので今のオーエンスは水を使い放題、普段はいつもオーエンスで汗を流している。ちなみに上下水代と電気代は他のステーションであれば普通に発生するが、全てのインフラはうちが管理している為タダである。
とりあえずツェルナが臨時で率いているロゼンダ級部隊に指示を出してからオーエンスに向かう。船長室に向かい、クローゼットを開けた。帝国軍の女性用の軍服、それに下着類、リーサの私物がまだ残っているようだ、だがそれ以前の住人か客人か不明の私物も残っていた。
「リーリア、ひとまずこれでも着させてくれ、下着はこの中から適当に、この辺の破廉恥な物はたぶんリーサの物では無いはずだ」
「・・・わたくしも・・・こういった物を履けば、お相手してくれるのですか?」
リーリアは局部がスケている黒い下着を広げて顔を赤くする。
「・・・確かに男なら誰だってその気にはなるが・・・俺は忙しいんだ、ヤリたきゃ他を当たってくれ」
「いえ、わたくしは貴方とだけ、したいのですわ?」
リーリアは黒い下着をくしゃっと畳む、下着についてはパンツは紐で調整可能だが、以前の持ち主は余程の巨乳好きな様子なのでブラジャーについては無し他無い、持ち出した真っ赤で露出の多いドレスは体格的にも合わないのも明白だった。
・・・となると、やはりこれか。
リーサの荷物が残っているのならば当然ヤシマ中尉の荷物もある程度残っている。勝手に荷物を漁って出てきた物、ヤシマ中尉の帝国軍の式典用の礼装を着せればおおよそサイズ感は丁度いい、しかも式典用の制服は女性ならばロングスカート。大体はズボンかミニスカートが多いのだが、おかげで尻尾はクリアである。戦闘服に関しては白に赤だが、式典用の礼装は黒に赤いアクセント、それが赤髪だとかなり相性が良い。
「ひとまず、ローラと名乗らせますわ、いちいち番号呼びは物扱いで面倒ですので」
「まず、何からすればいい」
ローラと名付けられた少女は何処かで見たようなキツイ目つきでそう聞いてくる・・・何処となく、リーサに似たような性格をしていそうな気もしてきた。
「俺からは特に無い無いんだが?」
「・・・拾っておいて捨てるのか?何でもする!」
「そう言われてもだな・・・ここに居る2人の国の王様と移民の受け入れ交渉が終わるまでは特にする事が無いんだ」
「ならば、せいぜい主人の性欲処理をさせて貰おう・・・忙しすぎて溜まっておるのだろう?すぐ終わ・・・」
ローラは急に距離を詰めて、俺の股間を触る、いかん、立ってしまいそうだ・・・という事は立たない訳では無いらしい。だがシルヴァとリーリアはどうとも思わない・・・訳が無い、シルヴァがローラを引き剥がした。
「それはわたくしの仕事でございます!」
「貴方はせいぜいわたくし共のお屋敷の掃除でもしていなさい!」
「・・・承知した」
ローラはあっさり引き下がる、単に何かの仕事をしたいだけだったのだろう。流れ的にローラが言い出した性欲処理と言う単語も商品としての知識としてシノノギ製薬の職員か何かが教え込んだ物だろうと思う・・・いわゆる奴隷業に関する知識だ。
「・・・そう言う訳ですので性欲処理はわたくしがお相手を!」
「リーリア、ローラを頼むぞ?開錠ボタンを押していれば駐車場の車のどれかの鍵が開く」
そう言ってリーリアに車の鍵を投げつける、リーリアはそれを受け取って一言。
「・・・ムキーっ!」
その場で足を床に叩きつけるリーリアを置いてヤシマ中尉が使っていた船員室を出る。邪魔者は居なくなってシルヴァがここぞとばかりに腕を絡めてくるが彼女は外交官としてまだやる事をしていない。ちなみにこのステーションは治外法権なので運転免許が無くとも車の運転が出来る。最低限のルールが存在しており、それが分からなければ自動運転にでも任せれば良い、あいにくリーリア達は既にステラー王国で車の運転の仕方を教わっている。交通ルールも帝国式、つまりフルジア王国とも同じなので覚えが速いエルフ族にとっては容易い物だろう。だから戸惑いも無くリーリアに車の鍵を投げつける事が出来た。
オーエンスを降りて後ろを振り返ればリーリアが言われた通りにローラを連れて駐車場に歩いていく姿が見えたので安心して事務所に戻った。
「・・・さて、シルヴァ」
「はい・・・準備は出来ています」
シルヴァは顔を赤くしながらスカートをまくって見せようとする。汗かどうか知らないが太ももの内側を透明な液体がつーっと垂れていった。彼女はやる気のようだ、その気ならそれ相応の言葉をかけてやろう。
「・・・今夜は寝かさないからな?」
とりあえずシルヴァをソファーに押し倒す。そして腹の上に今回引き上げた獣人のリスト名簿、カトロニコフ大佐がまとめ上げた獣人救出に関する報告書、諜報部隊が解析中の獣人生成と出荷後の用途、出荷予定の顧客リスト、メールや音声通信の使える端末など、合計10枚のタブレット端末をシルヴァの腹の上に投げ込んでいく。
「そんなぁ・・・」
シルヴァは涙を流しながら渋々外交官の仕事を始めた。
「昨日は皆さんお盛んだったようで!どうしてわたくしは放置なのですの!?アーシャとクリナ、殿下も帰って来ないと思ったらこんな所で!」
「ああ、リーリア、昨日は激しかったぞ?」
「くぅぅっ!わたくしもご一緒したかったのに!」
「そうか、じゃ、残りを頼む」
「・・・ん?」
リーリアに財務大臣その他宛てに送る今後の計画書の作成の書きかけと資料となるタブレット端末6枚を渡す。
「・・・そこの王女様はいい所で失神しちまったのさ」
「・・・用事を思い出しましたわ?・・・あははぁ・・・」
「アーシャとクリナも昨日はお盛んだったようだな?」
さらに一枚タブレット端末を追加する。リユン少佐からの帝国軍や王国軍絡みの報告書その他だ、内容からして一部は女性が書いた物とも思われる、つまりそう言う事だ。
「ボヌアはただの口実をキッチリこなしているようだな?」
そしてもう一枚、国防大臣からの感謝文だ。
「・・・やりますわ・・・やりますとも・・・何もせず一人大きなお屋敷で寝ていたのはわたくしだけと言いたいのですね?・・・ええ、やりますとも」
渋々リーリアはお姫様の仕事を引き継いだようでなにより、ツェルナがカップラーメンを持ってやって来た。
「お前がサンドイッチを買ってくるとは珍しいな・・・俺には相変わらずカップラーメンだが・・・」
「えー?だってパパが働かせてるんでしょ?朝ごはん抜きは何の拷問かな?」
そう言いながらツェルナはサンドイッチをソファーの前のテーブルの上に置いた。そしてリーリアの隣でちゅるちゅるカップラーメンを食いだす。
「一応言っとくがステラー王国大使館が急いでやらなきゃいけない仕事だぞ?俺が働かせたのはアーシャとクリナだけだ、今頃大型交易ステーションの仮眠室で三人とも力尽きてると思うぜ?」
「・・・大使館職員でも無いわたくしがこんな事して良いのかしら?」
「財務大臣の娘ならいいんじゃないか?大体それは王女様名義でソデス国王宛てに送信されるんだ」
「お国の為に働きますわよ!働かせて頂きますわ!!」
「大変そうだねぇ・・・」
「貴方も領地経営で多忙でしょうに!!」
「バレたぁ?」
ツェルナは何気ない顔でリーリアに返事する。そうだ、ジューラ辺境伯は大赤字のファランス領統治権を手放してしまった。これで未成年だが正式にツェルナがファランス領領主となり、全ての権限を担うようになってしまったので割と休みが無い事の方が多いのだった。だが、やりたい放題、準備の為に持ち込んだ帝国艦約1万隻のうち50隻がもう既にズァパリ民国軍に売れた。その50隻はいまやズァパリ民国軍の最終兵器、オレスト星系に侵入したドロイド艦隊をほぼ無双状態で撃破出来ている。いくら中古とはいえほとんどが利益になる軍艦、それを元手にファランス領では大型艦用の整備ドックの大規模建設を始めた。資源は向こうに沢山あるので、それを加工する為の施設に必要な機材が必要となって来た、それならリストーン星系に山ほどある。娘の為だ、輸送費くらいはネドリー運輸が持つ事にしている。おかげで建設費が大幅に節約出来そうだ、なにせ建材の価格は無料に近いからな?供給が極端に多くて暴落しきっている。
そんな建材をさらに無駄遣いする計画が出来た。研究ステーションと大型交易ステーションと大型コロニーを繋いで一つの大型ステーションとする計画だ、大型交易ステーションをもう一つ、そしてコロニーを5個建設、研究ステーションを中心部に持ってくる為、他のコロニーより大きくする為の改修工事をしなくてはいけない、そしてさらに生産プラントも作る、完成には通常30年はかかりそうだがいつもの事、3年で作り上げる事になりそうだ。
そんな計画が急に浮上してから僅か3日、バーボン星系で使用した建設ドローンが大量に送られてくる。要塞ステーションの建設は大体終わっており、工期は伸びるが少量のドローンでもどうにかなる。色んな所から集めて接続用の支持構造や生産プラントの建造を開始した。まずは研究ステーションから研究エリアを独立させる。大型交易ドックを潰してそこから貨物と道路と鉄道を新設、6本の支持構造がインフララインにもなる。そこから円盤状の研究区画が少し離れた所に建設されるのだが研究区画だけでも既存の6倍の大きさとなる。その為修理待ちエリアと保管エリアの船舶の移動、大型交易ステーションの牽引計画が進められていた。船ならいくらでも融通が効く、本来は仮設スラスターを用意するが全部船で行うパワープレイ、仕事の無い帝国軍人をフル活用したこの計画、外郭B居住区と新たに名前の付いた資材置き場コロニーの資材が瞬く間に溶けていくのは勿論、不法投棄船が資材搬入の為に列を成していた。
・・・こんなに速いのか?
建築ドローンが壊れそうな勢いで研究区画の骨組みと外郭が組み立てられていく。汎用建材で作られる区画だ、それ以外にもリサイクルプラントが直接製造するモジュールも引っ切り無しに搬入されて組みつけられていく。建築設計に携わる奴らは本当に寝ているのか、答えは否、元軍人と言う事もあってか、会社組織の巨大化にかなり執着しており、その象徴となる巨大施設の建築によだれを垂らしながら向き合っている・・・大丈夫か?こいつら・・・。
だが、この大規模増築計画はただ薬の製造力増強と移民の受け入れ強化の為だけになされるわけでは無いのだ、防衛設備を持たない研究ステーションの防衛能力強化や中型艦の修理場の大規模化も兼ねている。ついでにプリズムライオッド12が収まるネドリー運輸専用の格納庫まで作ってくれるようだ。それは研究区画の下側に設置される、バランスが悪いので残り5区画は来客用、アーバン船団商事、ノースソルドック商事、ソルの所のスターオーシャン物流が入る、残り一つはステラー王国線専用ドックだ。
野ざらしのロゼンダ級が再び厳重警備の格納庫に置かれるのは建設開始から僅か一カ月、建築ドローンも老朽化している事から既存と同数の建築ドローンを製造し、壊れ次第置き換えをするとかルーガが言い始めたのでさらに倍の建築ドローンが建築に携わったおかげか、建材が枯渇し、研究区画と大型交易ステーションの接続を終えた所で建築作業がほぼほぼ止まってしまった。
・・・ここも長かったな。
何も無くなった事務所を出て休憩スペースに行く。自販機も引っ越しだ、自販機が置いてあった後が残る、中型交易ドックは取り壊され、星間シャトルの発着場にリニューアルするのだ。そう言えば旅客に関しては貨物と同等の扱いだった。この際分けようと言う事になり、首都機能を持つ研究ステーション改めリストーン交易ステーションの中央区画に旅客ターミナルが整備される流れになったのだ。
新しい拠点は中央区画からA区画である元大型交易ステーションの間の研究区画、研究区画とは言っても構造は複雑、大きく分けて3つあり、車や鉄道の通る物流区画とプラントと研究区画、格納庫直上のVIP区画の3つ、全部一つに出来なかったのには安全と構造上の問題がある、攻撃を受けた際の安全策としてこまめに隔壁分けがされているのだ、便宜上研究区画とひとまとめに言ってしまっているが、この隔壁と隔壁の間の干渉区画に新しい拠点がある。ネドリー運輸の営業所・・・と言った所だが本社機能は中央区画のど真ん中にそのまま残している。アーバン船団商事も同様に残して営業所を置いて居るがノースソルドック商事はこの区画に営業所を移設している、本社機能は本国にあるからだ。スターオーシャン物流はそもそも事務所を持っていなかった。ちなみにVIPエリアにはファランス辺境伯のお屋敷がある。ツェルナのお屋敷だ。普段はミヴェルマンの家を拠点としているはずだが、最近はファランス領主の執務室になっていた中型交易ドックの指令室やオーエンスに寝泊りが多く、半ば家出状態になっていたのでこの際だからオーエンスを使わなくとも良い設備を整えた巨大な邸宅を用意したのだ・・・独り身には無駄が多いとは思うが、迎賓館としても使おうと考えている、人間に近い方の獣人の使用人を雇ったので維持管理については別に気にしなくても良いようにしてある。B区画系はズァパリ民国関係が集中、F区画は居住区が無いがステラー王国周りを押し込んだ。アーバン船団商事の初期のビルに入れていた大使館を移転して置いてある。ちなみに建物デザインはツリーハウスを基調とした金属パネル製でズァパリ民国様式とは異なるファンタジー系、初期は大使館、最近は勝手に建てられて一切使ってない高級住宅街の邸宅で寝泊りしていたシルヴァもようやくまともな家を持てる事になった。だが、本音としてはA区画のネドリー運輸の事務所に同居したいようだ。
・・・と言うのも、ネドリー運輸の事務所・・・。
事務所と言うよりかはただの豪邸なのである。真っ白な洋館、居住用と事務棟が分かれて通路で繋がっているような形、部下の間でもホームレス社長と言われているように万年職場で寝泊りしている人間だ。建築部門の人達が気を使ってくれたようで、オーエンスのシャワーを使わなくても良いように真後ろに邸宅を用意してくれたらしい。天井は宇宙が見える作りで丸々ステーションを建築する富豪の無駄使いの極みと言った豪勢さ、しかし収入としては年収は300万クレジットにも届かない底辺っぷりである。
事務所は今までの4倍、高級そうな木製の家具に囲まれ、いささか中世の領主の執務室と言った内装である。
「これで、ようやくファルマン様もわたくしと一緒に寝てくださると」
「掃除から料理、夜のお世話まで、何なりと」
リーリアが張り付く、ローラは帝国軍の礼装のまま、だがヤシマ中尉の名札が無くなっている。それだけでは無い、実験体と言う名目で残された他の獣人の女性も全員がメイド服のごとく帝国軍の礼装を身にまとっていた。理由は式典の時以外は使わない事と、捨てるほどある使い道の無い在庫品だからである。
「・・・掃除と料理までで頼む」
ひとまずリーリアを引き剥がして事務所を出る。空き部屋しか無い、一応数百人規模が勤務する設計なので食堂もあるが、当初より使う気の部屋じゃない、最低限の調理機材だけが設置され、テーブル類は配置されなかった。食事は屋敷側で取れという事だろう。
格納庫の方へ降りれば鉄道、貨物両方が引き込まれている通路に貨物置き場、格納庫用の制御管制棟がある。そこの休憩所に行けばいつもの椅子と自販機、そしてA区画となった大型交易ステーションが一望出来る場所がある。海賊の食卓側でもある・・・より広くなってそのままな所が嬉しい限り、しかも大型艦に直接アクセス出来るのが素晴らしい所で、大型艦が20隻、中型艦が30隻、小型が200機以上も格納出来る。あいにくここに入っているのはプリズムライオッド12とユリアスとロゼンダ級4隻とアルパ級巡洋艦のマジックスピアー、中型はテラー級フリーゲートのテルミナとZB8型フリーゲート、小型にE-900MとルーガのE-1000MとES-17戦術偵察機4機、カサブランカ型戦闘機とスターゲイザー型重爆撃機・・・おおよそよく使う船と試供品として貰った船などが収まっている。だがステラー王国向けのF格納庫はともかく他はもっと悲惨、全然船が無い会社ばかりだ。
ちなみにここには無いオーエンスとロゼンダ級巡洋艦はツェルナのVIP区画、ミヴェルマンのロゼンダ級とササリッサ級その他はC格納庫だ、オキタ艦隊もC格納庫に格納される。
格納庫に戻ればボロボロのER-2000Cが格納庫に入って来ていた。サリマン運輸のペイントが施されている。
「何これ?」
「社長、いつものです」
「あぁ・・・ガラクタの積み下ろしか」
「新古車は積み下ろしも面倒なので、こういったプライベート格納庫は整備場より広く、通常の貨物ドックよりも他の船の荷下ろしスケジュールを気にせずこう言った物の積み下ろしが便利で助かります」
「良かったな」
「今回の船はゼヌラやプルートのクラッシックスーパーカーです、社長も全種類一台ずついかがでしょうか?」
シルバーロッドの職員の後ろをついていく、帝国の名門スーパー電気自動車、加速と速度に大変優れる、主にレースカーとして開発され、バッテリーも出力が大きくお高い代物である。おおよそ80年前のモデルが勢ぞろい、当時は新車として輸入されていたのだろう。
「かっこいい車ばかりですわ!?」
「・・・欲しいなら今のうちだぞ?リーリア」
「・・・よろしくて?」
「この手の車は盗品扱いになるから他の国に売れないんだ、うちの派閥かステラー王国にしか持ち込めない代物、それに売り物としてステーションで流通させる事も出来ない、一度オーナーが付いてしまえば売却も出来るだろうが、電気自動車は古くなるほど価値が落ちる。地上に下ろして化石燃料を使うエンジンを乗せて第二の人生でようやく価値が戻ってくるってもんだ、改造費もそれなりにするがな?身内で引き取り手が居なけりゃ廃棄処分だな」
「勿体ないですわ!この赤いのとあそこの黒いのが欲しいですの!」
「まぁ、焦らず、ひとまず下ろしてから選ぼうや・・・」
「早く!早く!」
リーリアは目を輝かせて車を下ろすのを手伝う、このER-2000Cにはおおよそ2万台が搭載されているらしい、たとえ電池が死んでいようとも、置物として飾る価値のあるプレミアが付く車種もあるので総額いくらかは知らない。だが、メーカーがシリアル管理しているので照合されてしまえばプレミア車両であろうともタダ同然の鉄くずと化す。
電気自動車の積み下ろしは非常に面倒、電子パーキングを解除する為に電装系バッテリーを入れ替える、そして真空に晒されて破裂したタイヤを付け替えて押して下ろした後、それを使うためにまたホイールを元に戻さなくてはならない、ブレーキが固着していればなお面倒なのである。リーリアが気に入った車は別の場所に避けられ、そしてさりげなくファルマン用にも全車種一台ずつ程度の良い物かつ珍しい装備や仕様の物を選ばれた。限定何台とか特別仕様とか特殊カラーとか、中にはレーシング仕様とか全部だ、整備部門にはその手に詳しい車好きがいるらしい。
「迷いますわぁ・・・!!」
「欲しい分だけ持ってけよ、どうせ大部分は廃棄処分だ、下ろしてる奴らも好きなだけ持って行って良いぞ?電気代以外は維持費もかからんからな?」
「残念ながら使えるように整備するお金と置き場が無いんですよ、この価格帯になればバッテリー交換はしなくともある程度は走れるとは思いますが・・・」
欲しいのは山々だが・・・と言う顔をする整備部門の人達、この手の車は整備部門の人達が一番持っているのだ、かと言って船乗り連中は船の上に居る時間の方が多く、ステーションでは使う事も少ない物でもある。そう言う人達の為にカーシェアリングの車も用意してあるが、これ以上は必要ないレベルで車両を在庫にしているのである。
「そう言えば帝国ネットワークとやらがあったな?クソトカゲを探すのに便利な奴、それで人集めて譲渡会でもやれよ、盗品扱いとはいえ希少な車両が多いんだろ?選別した物だけでも100台は越えてるんだから・・・」
「そうしましょう!」
そうして譲渡会が開催される事にはなるのだが、そこから逃れた最低限の整備をされた334台が事務所の駐車場を埋め尽くす、うち180台はリーリアの物、こんなに沢山の車、何に使うのかよく分からないが、好きなだけ持っていけと言ったのは何を隠そう、この俺である。
残りの154台はどうしようか、ひとまずワインレッドの30台限定生産のスーパーカーの鍵をローラに渡す。
「・・・これは」
「普段使いに使ってくれ」
「では、ご主人様の送迎につかわせていただきます」
「・・・じゃ、それ用はこれだな」
黒い特別仕様のスーパーカーの鍵をさらに渡した、それでローラは黙り込む。この調子で使用人に配り回り、40台は捌いた・・・もう残りはシルヴァに全部渡そうか悩むが、シルヴァにはリーリアから話が行っていたらしく、既にステラー王国行きも含めて1万台を引き取っていた。ツェルナ配下の使用人にも40台配ったが、ツェルナも成人を迎えれば乗れなくなってしまう車が大半である。人間属とおおよそ同身長の範囲で成長が止まるのは部下達のみ、ミヴェルマンを見ても分かる通り、女性はもう一回り大きく成長する。
74台の限定スーパーカーを前に困り果てる。毎日好みで乗り回す他無いだろう。
事務所棟の目の前の道はこの建物にアクセスするだけの道、その手前には下に降りるトンネルがある、これが下の格納庫に繋がっており、特にアーバン船団商事などは医療品などの貨物をこの道路と線路で取り扱うのだ。
スーパーカーの本領を発揮するのは各区画を繋ぐ高速道路で、中央区画から末端の区画までは電車に縛られず30分で移動が可能となる、だがその分電車も陸続きになったのでシャトルより本数も増え、移動が楽になったとも言える・・・ステーションであまり車は使い物にはならない。
とりあえず事務所まで戻り、仕事を片付ける。そう言えば前の屋敷はリユン少佐に譲った、たぶん使う事は無いかもしれないがリユン少佐も大型交易ステーションの宿舎で寝泊りだ。リストーン星系の防衛大臣的ポジションに居る人間にくらい豪華な屋敷をやっても良いだろう。元々彼の事実上妻二人はあの屋敷に暮らしているし、適当なスーパーカーを10台くらい押し付ける予定。そもそもリユン少佐も大型交易ステーションで全てを完結していた人だ、陸続きになった以上、これから車を使う事が増えるかもしれない。
お茶くみはシルヴァからローラの仕事に変わっていた。引き出しから使いそうも無い車の鍵を適当に10個掴みローラに渡す。
「これをリユン少佐の邸宅のガレージに入れておいてくれ」
「かしこまりました」
ローラが一礼して部屋を出ていく、変わりにシルヴァが入って来た。
「仕事をしに来たか?」
「・・・そろそろ一月、いい加減子作りをお願いしたくお伺いいたしました」
「子を作るよりも先に既存の子の生活環境を整えるのが先だ」
「・・・そうやっていつも先送り・・・お父様に叱られてしまいます」
「隣の区画にどれだけいると思ってる?400人くらい居るんだぞ?教育のキャパが全く足りないんだが空地も無いんだ」
「もう少し私を見てください!」
シルヴァは距離を詰めてくる、そして唇を強引に合わせに来たのだ!
「・・・今日のお仕事はこれで終わりです」
「勝手に決めるな」
シルヴァは止まらない、俺の上にまたがり、上着を脱ぎ始めた。下半身のある物が硬くなってしまう。
俺は女の体を知らないんだ・・・こんなの止められる訳無いじゃないか。
そう思った矢先、ドアが閉まる音がした。誰かに見られたかも知れない、ドーベック大佐などでは無い事を祈る他無かった。
「その・・・申し訳ない」
「司令官殿、誠に申し訳ございません」
翌日、ボヌアとスギヤマ大佐が目の前に居た。
「・・・何が?」
正直もう出来ていると思ってた、だから驚く事も無い。
「そ・・・その・・・本当であれば、ファルマン殿の子を宿すつもりではあったのだが・・・」
「思いの他、ボヌア殿が魅力的で・・・つい迫ってしまいました、どのような処分も受けます!」
「・・・処分も何も、元々君に押し付けたつもりだったんだが?そうでなければあんな箱渡す訳無いだろう?」
「押し付ける?このような魅力的な女性を、私などに!?」
「そんな事・・・父になんと言えば良いのか!?」
「安心しろ、スギヤマ ジュンイチは信用に足る男だ、ネドリー運輸では相当のやり手だと説明したはずだし・・・ボヌア、それが本当かどうかは今まで調べてきただろう?防衛大臣の娘であればそう言うやり手とだって別にいいじゃないか?・・・とはいえ、未婚の女性との間に子を宿すのは頂けない、罰として責任を持って彼女を幸せにするように、それと子供が生まれた時には半年の自宅謹慎を言い渡す」
「そんな!それでは艦隊が!まだ司令官殿に恩を返し切れておりません!」
「・・・ただの育児休暇の事だぞ?うちは民間企業である事を忘れていないかな?スギヤマ大佐?期間中、貴官の艦隊はドーベック大佐の指揮下に入れる、グランゴッツ防衛大臣には吉報を送っておこう、そして来週はランザールに出向いて貰う、準備に関しては貴官の艦隊の副指令のサノキダ大佐に詳細を送っておく、以上だ、おめでとう」
ひとまずそう言って事務所から俺は出る、計画通りだ。
とりあえず必要そうな物はサノキダ大佐にメールを送っておいた。到着後一週間は艦隊の部下全員は休暇にして、結婚式は盛大に彼らに祝ってもらう事にする。どうやらスギヤマ大佐の部下もその気だったらしい、盛大に祝わせて頂きますと返事が来た。
それに、忙しいからと先延ばしにしていたステラー王国を上げての結婚式が晴れて開催出来るのだ、あくまで俺は参加しないが、ルーガに代理で出向いて貰おうか・・・リユン少佐も混ぜたい所だ。
その翌日、目の前にリユン少佐が来た。
「指揮官殿の女性と知りながら・・・大変申し訳なく思います」
目の前には辞表、とりあえずそれは破り捨てる。
「もとよりそうさせるつもりだった、で、どうだった?」
「日々の疲れを癒していただける魅惑のボディ・・・あれを知ってしまった以上、私は彼女らと一緒に居ない日々が想像出来なくなりました」
「じゃ、来週、スギヤマ艦隊に便乗してランザールに向かってくれ、サノキダ大佐にも伝えておく」
「・・・なぜ、スギヤマ艦隊のサノキダ副指令を?」
「スギヤマ大佐も大体同じ事になっている、丁度いい、美味い飯でも食って羽伸ばして来い、どんどん作れば隣の区画のクソトカゲも喜ぶからな?なんなら半分くらい部下を連れて行っても良いぞ?マクシミリア副指令だけはリストーン星系の為に置いて行って貰えると助かるんだがな?エストムニア市長には吉報を送っておく、随伴の部下の選別はマクシミリア副指令に決めてもらうとする、以上だ、楽しんで来いよ?合同結婚式にはなるけれどな?」
そう言って執務室を去る、スギヤマ艦隊の副指令官のサノキダ大佐と警備部の副総司令のマクシミリア大将にはそうメールを送った、自分は出向けない事を悔しがりながらも人員選別と準備を受け入れてくれた。やっぱりルーガには俺の代理でランザールに出向いて貰おう。
一見平和に見える銀河だが、帝国が酷い有様でどんどん領土を失っていく、難民の数もそれなり、何故うちの艦隊の被害が少ないか、エンジン換装で足が速いからだ。ズァパリ民国の護衛艦隊も同様、本来はロゼンダ級の半分以下の船速のFT14型戦艦がロゼンダ級に難なく追従出来る、つまりやり方次第ではストーム級フリーゲートを除く皇国艦を撒けるのだ。撒いてしまえばストーム級フリーゲート以外の皇国艦など敵では無い、仮に絡まれても後退が純正エンジンの船より速いので帝国が最も苦手とする撤退戦にもめっぽう強い、逆に帝国はうちのような改造艦が無い、都合、撤退戦が苦手なので持久戦を取る他無い、数で押されて領有権を次々奪われて行っているのだ。それに有能な指揮官の一部はうちの会社に居る。当然彼らの心境からもそろそろ祖国を守りたいと言う声が上がる事だろう。
・・・その声に答える為にも我々はドロイド艦隊に戦争を挑まなければならなかった。
休憩スペースでメールを打ち終わればうちの船とズァパリ民国籍のロゼンダ級やササリッサ級がロゼンダ級4隻とササリッサ級57隻、ヴェレンティア級巡洋艦6隻にヴィゼルバード級戦艦2隻を引っ張って来た。
・・・ズァパリ民国軍の軍艦じゃないか!?
ルシャーサ女王陛下に怒られかねない・・・いや、サシリア王女関連の何かか?だが残念ながらヴェレンティア級も頭が無かったりと散々なやられ具合、ヴィゼルバード級戦艦も手の施しようが無いような傷、もっぱらロゼンダ級のエンジンとして使用されてきた感じがしてならない。
ロゼンダ級、無傷な方は元々うちで護衛している常連の船だ、だがこの4隻はうちでは見覚えの無い船体記号である。
「お久しぶりですわ?ファルマン様」
「ミデルリーニさん・・・これは?」
「・・・いつもの・・・ドロイド艦隊の仕業ですわ?シーモア共和国行きの農作物輸送船、艦橋を撃ち抜かれ艦長共々即死、彼女らの卵はご無事のようですが、彼女らの部下も傷だらけ、駆け付けたズァパリ民国軍も全滅と悲惨でしたのよ?スレイマン様が先行してくださり撃破して頂きましたが、ズァパリ民国軍全員の救出は叶わず、追加のドロイド艦隊に追われ、リストーン星系まで逃げてきた次第・・・あぁ・・・スレイマン様と結婚したい!わたくしの子は彼の子種を元としたいですわ~」
キャーッ
ミデルリーニは顔を赤く染めてモジモジする・・・そう言うスレイマン ドレムニー中佐は40代の中年なのだが、昆虫族にとって、年齢は特に関係ないようだ。
・・・ともあれ、部下が生き残ってしまった場合、どうなるんだ?
女王が死んだコロニーは緩やかな死を迎えるとは言うが、昆虫族としてはどうなるのか?
「・・・卵はご無事でしょうか?」
考えていたらそんな声が後ろからした。ミデルリーニが急に態度を変えて膝を地面に付けてお辞儀をする・・・振り返ればサシリアが居た、真後ろにはツェルナに譲った赤いスーパーカーが止まっている。ツェルナは生きた心地がしないかのように手を震わせていた、思いのほか速度が出てビビったのだろう。
「当艦が責任を持って保護しております、殿下」
「それでは、エルムンドドエル様にご提供致しましょう」
「国民の大事な卵をまたロクでもない実験のネタに使うのか?それでも王女か?」
「・・・どの道このままでは生き延びてしまった彼女らの子供達が存在意義を失ってしまうだけです、手術費用は国費負担にて手配いたします」
「・・・実験用ならタダにしてくれるとは思うがな?命を粗末に扱うのもどうかと思うが」
「ともあれお父様、ご心配に及びません、卵を預けて頂けませんか?」
「直ぐに手配致します、殿下」
ミデルリーニは一礼してロゼンダ級に走っていった。その間に白いC78多目的輸送艦がドッキングしてきた。医療船型だ、そして救急車も相当数の数がやって来る・・・その数約300台、中央ステーションを走るほぼ全てと言っていい。それが事前に指示していたかのように綺麗に並んでいく、流石元軍隊、観覧式でも見ているようだ。
卵はツェルナの車でクソトカゲの実験台に、救急車は負傷者を乗せて難民キャンプ区画へ、ここは野戦病院がある、医療品の量もかなり、しかし受け入れ出来る量もそこまで多くは無い、C区画の建造を急がねばならないようだ。
・・・問題は・・・。
ズァパリ民国軍の兵士だ、組織構成は基本的に船団と変わりが無い、次世代種が主とはなるが部下を沢山産むのは在来と同じ、唯一の違いは産めるのは女王のみ、繁殖用男性を産まない、在来と次世代の違いは単独繁殖が出来るか出来ないかである。よってズァパリ民国軍でも生き残った兵士と言うのは部下がほとんどと言う事だろう。今回のロゼンダ級のようにはいかない、この人達はどうするべきかが問題となる。
「・・・民国軍の兵士ってどうなるんだ?」
「民国軍の他の指揮官の部下になりますわ?戦闘機隊はこういう事は日常茶飯事ですのよ?しかしこの場合はサシリア王女殿下の直属の部下に編入と言う事にもなりましょう・・・心配しなくても良いのです、一般の船員も拾った船団で受け入れる事もありますから」
「へーっ、そうなるのか」
「ともあれ子供が生まれればロゼンダ級は無用の産物ですわね?ファルマン様も船を集めるのが大変お得意です事!動かせれば8隻も・・・銀河記録更新ですわよ?最大でも2隻と聞きますから」
「あっても襲撃リスクが高くて動かせないんだよ」
「とはいえ、最近では帝国市民の救出に役立てているではありませんの?」
「高速で大気圏突入が常用出来て人が大量に人を引き上げられる手頃な船がロゼンダ級なんだよ、戦場なら海賊に襲われないしな?」
「ま、ササリッサ級も救出いたしましたし、今後とも是非とも罪なき帝国市民の為に役立ててくださいまし。さて、わたくしは通常荷役を済ませますわ、ごきげんよう」
「いつも助かるよ」
ミデルリーニさんを見送って後ろを振り返るとルーガが居た。
「まーたえぐい物が・・・うちは船舶コレクターか?」
「直してもうちの物にはならない、軍艦はサシリア王女直属の護衛艦隊になるだけ、丁度サシリア王女が外交に出向く際の護衛を自国から用意してもらいたいと思った所だ、修理費はうちで出す」
「たぶんニコイチに出来るぜ?いいよ、タダでやったるわ、確かに王女単身もいささか問題だったからな?」
「頼むよ、ロゼンダ級とササリッサ級も好きにして構わなそうだ、卵はめでたくクソトカゲ行きだしな」
「・・・あーあ、可哀そー・・・」
ルーガはそう言いながら現場の指揮に入った。
・・・あれからも次から次へとズァパリ線がシーモア共和国行きのズァパリ民国籍のロゼンダ級船団とズァパリ民国軍の軍艦を一週間刻みで色々な船団が引っ張って来る。
「・・・デルビエ、ゴーランド、ラヴィア、セルドナ、ミアータ、エルメミル、フロネリア、ハーリャン、スレッタ、カルドナ、ドエルケルネ・・・シーモア共和国路線の4分の1では無いか!どうしてこんな事に・・・ともあれガレーシャが無事で何よりだ・・・」
「私、フルジア王国線担当になったから、それにファルマン君の私兵は皆強いし、私、ピンピン!」
16隻の前で膝を付いて泣き崩れるエルムスミエルをガレーシャさんが慰める。16隻のうちの4隻はここにきて長い4隻、傷一つない綺麗な1隻はガレーシャさんの物だが、修理を終えた11隻が格納庫を圧迫していた。ササリッサ級なんか400隻以上居るのでアーバン船団商事など他の船団に譲渡してなんとか行き場を確保しているが、怪我をしている船員も多いので保管宙域がとりあえず直したササリッサ級だらけになってしまっている。
「あれまぁ・・・ベテラン揃いが・・・こりゃ酷いねぇ」
弔いと言う事でマドリニスゾリゾも来ている、爬虫類属が相当数だ。
「日に日に増える難民、消える国・・・見てられんよ全く」
「ソル、アンタも同じ口だろ?」
「その通りだ、我が友も難民受け入れに答える為コロニー建築に全力、食料の生産強化や輸送に全力、もはや儲けすら出していない、それなのに俺は船と人を譲ってくれて、のんきに通常営業・・・情けなくなってくる」
「そうしょげるでない、体格に見合わずみっともない奴だねぇ・・・それはここに居る商人全員に言える事だよ・・・ファルマン ネドリーを除いてね」
「俺は見かけに反して小心者なんだよ」
「ま、あたしらに出来る事はこの会社の負担にならないよう普段通り荷物を運ぶだけだ、君の会社も滞納貨物はある程度運んでいるんだろ?」
「ミヴェルマン姉やエルムスミエル先輩には断然劣るけれど、少しは運んでいるつもりだ」
「それが一番だよ、あたしら国内線の中型乗りは地上とのやり取りが主だ、本来ここまで来る事は無いからね」
「とは言え、このままじゃオデム=ササラに薬草や食料が行かなくなる、鉄壁防御のフルジア王国線だけになる事も十分あり得る話だ、そうなればトカゲ属もフルジア王国のように物流障害で経済が破綻するようになる」
「・・・そろそろファルマンの所から船を買って、国際線も考えなきゃいけないかねぇ」
「そうするべきだと俺は思うぞ」
ソルはそう言い残して最寄りの鉄道駅に向かって歩き出した。マドリニスゾリゾはうつむいて今後どうすべきか悩む。
「・・・しかし、アンタは子沢山だねぇ」
「うふふー・・・皆、ママはもう居ないけれど、この子達はママ達の意思を継いで皆船乗りになるんだから、先輩として良い船乗りに育てなくちゃね?」
「そーそ、お船の操縦も早く教えたいな?」
「この子達は・・・抱かせてくれる・・・!」
「カナはいつも避けられてるからなぁ・・・」
マドリニスゾリゾは11人の子供達のあやしている集団を見つめる。この船の子供達がこの子達と言う事かい。
「それにしても、ツェルナももうこんなに大きくなって・・・空母を無免許で走らせていたあの頃が懐かしいよ」
「げっ!覚えてたの!?」
「爬虫類族の記憶力は舐めない方が良いね?それと幼少時代から船の操縦をさせる子達には育てんでくれよ?ミヴェルマン!!子供が飛ばして来た日にはまたオデム=ササラの管制官の尻尾が飛ぶ!」
「分かってるってぇ・・・リストーン星系だけにするからぁ」
「それが駄目なんだよ!」
「どうしてぇ・・・皆きっと優秀よぉ?才能はきちんと伸ばさなきゃ!」
「まさかアンタも幼少期に無免許で船を乗り回してたとか言わないよね!?」
「・・・おば様の部下のササリッサ級をちょっとぉ・・・かな?」
「ミーヴェールーマーン!!」
「ゾリゾちゃんこわいよぉ!うえーん!」
「ミーッ!」
子供達が一斉にマドリニスゾリゾに威嚇する・・・うーん、こりゃ将来有望だ、皆ツェルナと同じ匂いがする・・・。
ママも、おば様もちょっとだけなら良いって言ったんだもん!一杯褒めてくれたし!と泣き叫ぶミヴェルマン、それにちょっぴり場がなごんだか、弔いに来た友人達が子供達に興味を示し始める、一番興奮してたのはエルムスミエルだった。
「・・・いい加減相手を探したらどうだい?」
「・・・い・・・今は戦時だ!」
「・・・この戦争が終わったら結婚するんだとか言って、ドロイド艦隊に消されるつもりかい?」
「・・・その相手がおらん、なので散る事も無い、うむ」
「・・・あんたねぇ」
「おーよーちよち」
・・・駄目だコイツ。
完全に緩み切ったエルムスミエルを放置して鉄道の駅を目指した。
「ありゃ、ソル、アンタずっとここで待っていたんかい?」
「船、買いたきゃ良い場所知ってるぜ?」
「まだ悩んでるよ」
「だが知っておいて損は無いはずだ、それに船自体は我が友から直接買えない、彼の船の整備士に会う必要がある」
「その整備士に会わせてくれるってんのかい?」
「そこに居るかどうかまでは分からんが、俺の紹介があれば安く譲ってくれるだろう・・・とはいえ金属スクラップよりも安い、もはや値切る必要性すら無いが・・・」
二人は電車に乗る。行先は船を止めている埠頭、そこの管理棟のエレベーターへ、かなり上がれば不動産屋のような場所にたどり着いた。
「シルバーロッド整備工場、ここの社長のルーガ ドミッドラーは我が友のお抱え整備士である。元は海賊船の再生から始まったスクラップ造船業、ここは我が友が息を吸うように船を増やして来た背景に居た男が手がける弱小企業向けの船舶販売場だ」
「こんな人目の付かない所になんでわざわざ・・・」
「あくまでここは弱小企業向けだ、小型から中型、中型から大型に簡単にステップアップする為の、中古ディーラーや造船メーカー殺しの船舶販売場、新品を買える大企業なんかが来て良い場所じゃない、フルジア王国の物流の底上げの為だけに存在する店舗だ、新品が欲しけりゃ下のエルーラのディーラーに行けって寸法、だから目立たず、薄暗いんだ」
「・・・とんでもない値段だねぇ」
「ここから買って、金属スクラップとして売るだけでも利益が出てしまう、だがこれらの船はフルジア王国の物流会社が短期間に力を付け、滞った貨物輸送を解消する為の物だ、転売用途じゃない」
「分かってるさ」
「アンタの所なら型落ちのジュリエット級が一番だろう?」
「飛ばし方は乗ってなくとも分かるね」
「じゃ、この辺はどうだ?」
「ジュリエットⅦ後期型のプロフェッショナル、型落ちとはいえ最上級グレード、中古なら状態最悪でも3億クレジットはするがたったの100万クレジットかい・・・艦橋部は同型から移植、エンジンは被弾の為シックススターエンジンに換装済み?5億でも足らないよ、こりゃ」
「とはいえ中型1隻で地上とステーションならば一月で稼げる額だ、悪くはないだろ?」
「ああ、4隻は買えるね」
「後はやる気次第だ」
「・・・覚悟決めるさ」
マドリニスゾリゾはその紙を持ってカウンターへ向かう。
「ご新規さんでしょうか?」
「ああ、俺の友人だ、中型からの乗り換えをしたい」
「ソルさんの・・・でしたら半額でご提供させていただきます」
「定価で構わないよ!・・・相場いくらか知ってるのかい?この船の・・・」
「通常の中古として並べると・・・そうですね、6億クレジット程でしょうか?ですが元は難破船、この船もフルジア王国の物流改善の為に弱小企業にお安く提供させていただいておりますので100万クレジットという価格でご提供させていただいております」
「まさに市場崩壊だねぇ」
「だからこそ、このような場所で営業させていただいております。我々より購入された艦船が100隻に到達次第、エルーラ社へ新造船の購入のご案内を致しますのであらかじめご了承ください」
「100隻も持てばもう大手だろう?中型50と大型50が買える権利と言っていいが、元々中型でやって来たゾリゾ姉さんなら大型を100揃える事だってできる、一応言っておくがそれは船体価格だからな?乗り出し価格じゃないぞ?だがフルジア王国の船体検査は甘すぎる、どんなボロでも破格で通せる」
「我々が販売する船は帝国基準の船体検査要項に基づき修理されておりますのでご心配なく」
「知ってるさ!大型の登録費用は一億に近いんだ!それも考慮して4隻は買えちまうって言ったんだよ!」
「それではお手続きしますのでこちらにサインを、船員につきましては無料でご紹介出来ます、爬虫類族の方で何名かいらっしゃいます」
「そこまでしてくれるのかい?」
「そうだよ、ついでに言うが俺の所は獣人族難民の受け入れ先、エルムスミエル先輩は巨人族難民と皇国軍人の受け入れ先、ミヴェルマン姉は女王を失った船員の受け入れ先だ、ズァパリ民国軍の兵士はランドラー王家の王女直属になるようだが、人間族が今特に厄介だ、船乗りならばネドリー運輸を通してフルジア王国籍の商船会社に船ごと押し付けられるシステムだったが今はそうでもないようだぞ?ちなみにトカゲ族の難民は航路的にも珍しいが、居ない訳じゃない、今後はアンタが受け入れ先になるだろうよ?そうなりゃ船舶販売規制も免除だ」
「だからアイツらは息を吸うように船を増やしてるんだね!?」
「・・・難民が増えたらタダで押し付けられるんだ」
「譲渡は対象外です」
「その通り、ここも受け入れには限度があるし、我が友の負債もグループ会社で相殺出来なくなってきている・・・分かってくれ」
「・・・なんだか入っちゃいけない沼に足を突っ込んじまった気分だよ」
「ようこそ、底なしの事業拡大沼へ」
「・・・覚悟するさ」
マドリニスゾリゾはそう言いながら契約書類にサインをした。手続きを終えれば早速船の引き渡し、内覧はしなくていいのかって?内部戦闘アリなのでリフォームは実施済みであろう。案の定新品にほど近い状態だった。
ー銀河の常識ー
・ドムンド王国
人類的に言えばネズミに似た容姿を持つ獣人族系国家、寿命も短いが繁殖力が非常に高い為星系内は常に居住スペース不足に陥っている国家。慢性的に領土拡大に意欲を示す国だったがズンドラ王国と同様の状況でドロイド艦隊によって滅ぼされた。




