英才教育
ズァパリ民国には学校と言う概念が存在しない。全員お嬢様として母親が選んだお世話係が教育を施すのである。
ー惑星リズ建国記念博物館の収蔵品ー
・ヴィゼルバード級戦艦・ヴェレンティア級巡洋艦
ヴィゼルバード級はズァパリ民国軍の主力戦艦、空母艦隊を除く艦隊の旗艦専用艦でヴァレンティア級巡洋艦を従える。主要な艦隊構成はロゼンダ級、ササリッサ級と共通しているがヴェレンティア級自体はササリッサ級とは異なり単艦での長距離運用は可能となっている。
ズァパリ民国軍所属軍人はほとんど次世代種が割合を占めるが、一定数在来種も所属しているものの、国策で末代になる事は無い為ロゼンダ級巡洋艦が割り当てられる事は無い。従える船の数は子の数により決まる為、明確な艦隊編成と言う概念は存在しない。
ロゼンダ級の廉価素材で建造されるが、それでも高い耐熱性由来の高い防御力と速力を有しており、銀河最高峰の軍艦として名高い。砲射程は銀河平均より若干短めである。
ちなみにズァパリ民国軍にフリーゲートクラスその他は存在しない。
・エンデラー級戦艦
エマンクリシット皇国プリズムミリタリー社製の主力戦艦、高速性能に優れ、部隊の素早い展開を実現しており、鈍足艦の多い帝国軍をしばしば悩ませる。
巨人族系の主要戦闘艦であり、巨人族領内の各国で幅広く運用されているが、比較的設計の古い艦でもある為、隔壁系統に欠陥が存在しており、被弾に弱い傾向がある。被弾した艦は大半が与圧喪失を起こす為、戦闘時は全員ヘルメットを装備する事が義務付けられている・・・しかしそれは巨人族系の軍艦であればどれでも該当する。
「ミー!」
・・・なぜだろう?
目の前の子供達を眺めていて仕事が全く手につかない。この子達はロゼンダ級巡洋艦がそのままリストーン星系に持ち帰った子達、そして、親が居ない事を良い事にちょっとリスキーな実験に付き合わされて生まれた13人、そのうち10人がエルフ族の遺伝子やその他色々を使って生まれたアルビノ個体、3人は俺以外の男性の遺伝子を使った既存技術によって生まれた子・・・育成はミヴェルマンに任せているが、ミヴェルマンの部下に任せるとお出かけは日常茶飯事なので大体は研究ステーションの中型ドックの俺の事務所に行き着く。もう状況的に完全に俺とは無関係の子達だが、俺は今日もジャングルジムにされてしまう。
・・・あのクソトカゲ。
無事に全員命を宿す所までは褒めてやっても良い、しかし彼女らの未来がかなり心配なのである・・・アルビノの10人は十中八九いじめに遭う事だろう事が容易に想定できる。
そもそもエルフ族自体は不完全体・・・なぜ彼らの遺伝子まわりを使おうと考えたのか理解出来ない。医学的に何か発見があったのは確からしいのだが、何か企んでいるのは確かだ。だがそれは知った事では無い、むしろそれどころじゃない。
獣人族国家がもう6種族滅亡、この短期間にここまでの事になるのはやはり繁殖力の強い種族だからである。コロニーだらけの星系で防衛で動いた軍艦が全く身動きがとれなかったのが敗因なのだ。同様の国家があと3国家ある、ここが崩れれば皇国ドロイド艦隊はドラゴン星系およびオレスト星系へ刃を向ける事となる。そうなる前にオレスト星系に帝国艦を少しでも多く送り込む必要がある。ミヴェルマンの姉、スミオル卿のジューラ辺境伯が中古船として買い付けている事にしているが、建前でそうしている事にしているだけなので金銭のやり取りは一切していない。ズァパリ民国軍からの苦情も無視できない状況・・・実際問題、ファランス領の港町、デオノールの港湾には所狭しと帝国軍艦が敷き詰められ、まともに漁業が出来ないと地元民の不満を買っている。
ひとまず子供達にリンゴジュースを買いに立ち上がる。大アリ属の子供は生まれたばかりでも筋力がそれなりにある、止まり木から解放されるにはやはり甘い物、これに限る。
リンゴジュースを渡せば夢中になってしまうのはサシリア同様のようだ。休憩所から外を見れば応急処置状態のZB8型、MA30型など30隻編成の船がズァパリ民国の貨物船団に続く、それらを守るのはカトロニコフ艦隊、AT3型航空母艦も続く。実はこれはツェルナの考えだ。
そもそもツェルナが貰ったファランス領、平地が少なく、農作物の作付けに適していない立地をしている。主な生産品も海に面している事からか魚介がメイン、しかしズァパリ民国人は基本的に草食である。魚介も食べるがそんなに多くない傾向なのでこのファランス領という土地は必然的に生産品が少ない貧乏な土地と言う推測が自然と出てくる。現状はスミオル辺境の鉱石採掘で延命しているようだがジューラ辺境伯も出来れば今すぐにでも負債にしかならないファランス領を手放したいと考えている様子、このままではツェルナが成人した時には領民共々貧困に苦しむ・・・そこで役に立つのが目の前のスクラップ達と言う事だ。ツェルナはファランス領で艦船修理業を始めるつもりなのである、その修理費用は当然ネドリー運輸持ちだ。一応娘の為ならそれぐらいの出費も惜しまないつもりだが、実はズァパリ民国、外国艦を専門とした修理ドックが無い、上手い事軌道に乗ればズァパリ民国の商船は帰りも貨物を積んで帰る事が出来るようになる。護衛で雇った船の修理も問題ない、そして道中の安全も保障される訳だ。だがそれだけじゃない、基本的に手付かずに等しい海産資源を輸出出来る船を誘致する事も出来る。ズァパリ民国の海洋には一番近いラクトパレト王国など獣人族国家では高額種も多い、だが足も早いので高速かつ、大気圏突入頻度が高い中型貨物船が必要である。中型貨物船は大気圏突入頻度も非常に多い艦種なので外装損傷で離陸が不可能になる故障も多い、外国艦を降ろせる修理工場が存在しないズァパリ民国との交易において主に農作物中心なのは耐熱性に優れるロゼンダ級とササリッサ級しかノーリスクで惑星ズァパリに降ろせないからで、ズァパリ民国艦で衛星軌道に持ち上げて積みかえが外国商船と主に行う交易になる。ゆえに日持ちしやすい農作物交易が主となってしまうのだ。
ともあれ、事業を始めるにはひとまず技術と資金が必須となる。軍艦を送るのは領民の練習台にする事と、有事になればズァパリ民国軍に売却すれば早い段階で軍備を底上げ出来る事にある。
技術面は元々計画していた修理をルーガが技術指南としてまとめ上げて各船に乗せてある。金は外注扱い、問題は何処で修理するかだが、港町があるという事は海洋専用の造船ドックもあると言う事、このプロジェクトはそれらの造船ドックの拡張と言う形を取るようだ。ここまで全部ツェルナ一人で考えた事、部品の仕入れ面でちゃっかりネドリー運輸側に投資に見合うだけの採算も確保しつつだ、流石は王家のエリート教育をしれっと受けていただけはある。実際の領主の仕事はジューラ辺境伯が行っているが、スミオル卿自体もあまり優れた家柄では無いらしいのでのちにファランス領にどのような恩恵をもたらすかは全く想像がついていない様子・・・ちなみにズァパリ民国は女性国家なので人間族で一般的な貴族制度とは男女が入れ替わっている事や、性は貴族以外存在しないので家名が爵位名である事など、色々注意しなければならない。
つまりミヴェルマンは本来はスミオル・ミヴェルマン、恐らくは男爵辺りの地位、ツェルナの場合はファランス・ツェルナ、領地を与えられたと言う事は辺境伯の地位を有する地方長官となる訳だ・・・平民育ちにはよく分からん。
コーラを飲みながら休憩スペースを眺める。何処から沸いたか知らないが、ヤシマ中尉がよだれを垂らしながら子供達の頭を撫でている。シルヴァも気が付けば隣に居た。アルビノの一人を抱えている。名前はアイリス、シルヴァの遺伝子構造をあれこれして受精に成功したと言う、、もはや男性の遺伝子情報すら使わなかったとか言う、アルビノ10人の中でも一番成功率が低かった子である。
「どうした?」
「可愛いですね」
「まぁな?君の子だ、生物学的にどうなのかまでは知らないが・・・」
「生物学的には・・・違いますが・・・その・・・生物学的にも自分の子が・・・欲しく思います」
「・・・じゃ、母国で相手を探さないとな?」
ぎゅっ。
袖をつままれる。
「・・・あの?シルヴァさん?これは・・・?」
「・・・私じゃ・・・駄目・・・でしょうか?」
「一応、俺、異星人だぞ?」
「生物学的には半分以上同族です・・・」
シルヴァはうつむく、顔は真っ赤だ。目の前を見れば、ヤシマ中尉がニヘェとよだれと鼻血を垂れ流しながらこちらを見ていた。
「・・・医学とは・・・時に厄介な物だな・・・」
美白で美人、腰より長い銀髪で小柄、典型的なエルフ属、唯一の違いはリュウグウノツカイのような細い魚類の尻尾があると言う点だけだ・・・だが、ソデス国王はどう言うか・・・かたや王族、平民商人ともなれば雲泥の差、人間の血を濃くする事で遺伝子を安定させる事も出来るだろうが、逆も十分にあり得る。
「戻るか・・・」
「良い返事をお待ちしております」
シルヴァが体を押し付けてくる。
「・・・考えてお・・・」
ヤシマ中尉が目の前に居るのでとりあえず逃げたい・・・そう思って休憩スペースを後にしようとすればリーサが目の前に居た。そう言えばソル フランクリン大将が指揮するクローン兵中心のマーズラ星系警備隊と入れ替えでリストーン星系に戻って来ていた。
「・・・あのねぇ」
何故か顔を赤くし、涙目、そして何処かへ走っていってしまった。
「いや、これは・・・」
追いかけようとするがアイリスが張り付く、無理に追いかけようとすればアイリスの腕がもげかねない・・・してやられた。
ひとまずは事務所に戻る。残りの子達はミヴェルマンの部下に任せてあるが、リンゴジュースが切れれば泣いて飛んでくる事だろう。
「・・・参りましたね」
「・・・小型機で済む範囲で頼む」
「いえ、なんであろうとどうにも出来ない事態!我々の完敗です!これでは仕事が出来ません!」
「・・・たまには有給使えばいいだろ?」
リユン少佐が目の前で内心嬉しそうにくるくる回っている。12人の子供達に張り付かれて足取りが重そうだ。
アイリスは俺の頭の上にいるのでそれ以外がリユン少佐に張り付いている。恐らくは彼がいつも使っている甘い柔軟剤の香りに魅かれて寄ってきている・・・のだと思うのだが人気者には変わり無い、容姿が良いから?性格が良いから?出来る男だから?理由はとにかく分からないが、同じ柔軟剤を使う人達が最近増えてきているのも確か・・・ツェルナやサシリアに聞けば、確かに魅かれる香りだが、ヤシマ中尉が使っていても特に変化が無い様子なので柔軟剤説はたぶん違うと思う。
リユン少佐が持ってきた報告書は海賊の墓場区間の航路清掃完了の件と第12資材置き場プラットフォームの収容限界の報告書だ。
「海賊の食卓区間は通行量制限がありますが全区間開通しました。来週より大回りしていた大型貨物船の航行が可能です」
「ご苦労」
「開通こそしましたが、資源余りが酷く、このままではリサイクルプラントが在庫余剰で停止してしまいます、何か大規模な建築計画をご検討願えれば・・・」
「そうは言ってもだな・・・」
それはルーガに打診すべき、だがここまで来たと言う事は断られたのだろう。確かに他に何を建てろと言う話、闇雲にコロニーを建てても良いが、フルジア王国の人口もそこまで多くは無いので無人コロニーを量産するだけだ。じゃあ他の使い道は?とは言っても艦船建造・・・エルーラの造船所もフル稼働、おまけに消費量がそんなに期待出来ない。セルース衛星軌道上の皇国軍要塞ステーションは完成、ステラー王国艦も全力製造しているがやはり資材消費量はイマイチ、ステラー王国国営の交易ステーションと2件目の大規模造船ドックの建築もやっているがそれ以上に余っている・・・コロニー?今のステラー王国に必要か?
「一番資材を浪費出来るのは要塞ステーションだが・・・リストーン星系にも建てるか?」
・・・となると軍事施設、必要かと言われれば自国や他の国から何か言われそうな物でもある、しかしセルルド星系も近年物騒だ、あって損は無いはずである。
「名案です、オロラ星系側のジャンプゲート付近に建築しましょう」
「フルジア王国軍に何言われるか分からんけどな?とりあえずシルバーロッド整備工場の大型整備工場と言う事にしておいてくれ・・・最近どこぞの星系に出来たばかりだがな?」
「まあ、おっしゃる通りです・・・そんなに大型整備工場を増やす意図を聞かれたとしても何も言い訳は出来ないでしょう・・・とはいえ、リストーン星系は事実上我々の支配下にあります、ここは警備事業の本部と言う事にしても問題ないかと思われます、オロラ星系で万が一の事があればより強い防備のある要塞ステーションは便利です、どうせならより強固な物を建造しましょう。手配します」
「出来るだけ資源を浪費出来る物にしてくれ・・・それと、今から有給使っても良いぞ?ただでさえうちは年中無給のブラックだ、幹部クラスなら特に・・・」
「いえ、リストーン星系の平和の為でしたらこれくらい・・・失礼します」
リユン少佐は12人を引き連れて部屋を後にした。毎度何処で引き剥がしているのだろう・・・研究ステーションから出る事は無いらしいのだが・・・。
それから一カ月、要塞ステーションの建築が始まった。うちの建築部門の仕事は早いが、あくまでも中核である港湾モジュールの設計が終わり、先行で建築をしている状態、全体像の設計はまだ終わっていないが、大型艦が5万隻も収容出来る銀河最大規模の大規模軍事ステーションになる様子、これでいてネドリー運輸の警備事業本部と言い張れるかいささか疑問が残る所だが、どのみち自国の軍より多い艦隊を運用している事や、支店が無い事からこれらを全艦収容するにもやはりこれくらいの大きさは必要になってきてしまう物である・・・そう言う事にしよう。ちなみに皇国軍の要塞ステーションの設計は設計不良が目立つ為使わない方針だ。
要塞ステーションの建築については正直何処からも何も言われない・・・これで浪費できる資材量は資材置き場プラットフォーム10個分である。
一方で皇国軍の要塞ステーションは建築完了して何か解決したかと言えば何も解決していない。自爆命令は機能したものの、あくまでも自爆機能が搭載されていたメソポタニア級のみ、現行の皇国艦にそんな物は搭載されておらず、皇国ドロイド艦隊の脅威は衰える事には至らなかったのだ。
・・・大アリ属の子の成長は早いとは言うが・・・。
早すぎる。見ていてそう思う。アイリスはもう立って言語も話せるのだ。体の成長が追いついて居ない・・・そのように見える。
それが明確なのは10人・・・アルビノの子達だ、残りの3人とは違って明確に成長スピードが早い。
「クソトカゲ、何を仕込んだんだ?」
「エルフ族の遺伝子だけじゃよ?彼らの適応能力は銀河中の組織の中でもトップクラス、それに遺伝子改良次第では人間属の倍は生きられる余地がある、その改良でシノノギ製薬は詰んでいたのかのー?情けない」
「勿論改良した上で・・・だよな?」
「当然じゃ!・・・色素破損を招いて失敗こそしているが、理論上は人間族と同等の寿命延長が出来ているはずかのー?まだまだ完成にはほど遠い」
「もしかして、人間の遺伝子を組み込んだ事でツェルナ達の寿命も伸びているとか?」
「そこまでは知らん」
エルムンドドエルが茶をすすりながらアイリスの定期診断を終える。珍しく研究室を出てきているこのクソトカゲ、だが研究しか頭に無い様子。アイリス達の定期診断を終えればそそくさと研究区画に戻ってしまう。
「さて、家庭教師が来るぞ」
「勉強は既にしています」
アイリスはむっとする。ミヴェルマンの所でもそこそこに高度な教育が受けられる・・・が、ツェルナとサシリアは王家の教育をまだ中途半端にしか終えていない、サシリアは身辺警護すらも置いてきたので現状の大使館業務はネドリー運輸の総務部の数人が出向しているのだ。
「王女様の家庭教師だよ」
「王女様・・・」
アルビノの子達10人が目を輝かせる、他の3人は友達が出来て研究ステーションに来る事はなくなったが明確にまわりが避けているようにも見える。
・・・成長速度、筋力が平均より遥かに優れる。
クソトカゲが招いた副作用、事情を知っている大人とそれを気にしない異星人は別としても同族間では白い肌を避ける傾向にある・・・同族にも厄介な性質を持つ種が居るようだ・・・人間族的にはシロアリと呼ばれる・・・一応生物学的には異なる種でもあるのだが、樹木が主食である為、地上の木々を食用としている、ここまでは良いが、大アリ族の居住区は木の根で空間を支えているとも言えるので、シロアリ族が無作為に抜いた木が原因で地下空洞崩落事故が度々起こるらしい、一応都市部の上に生える木々の伐採は条例で禁止しているようだが、年期の入った樹木は非常に美味らしいのでそれを巡って崩落事故が後を断つことが無い・・・ちなみに大アリ族以上に食用になりやすく、頭もあまり良くは無い種族でもあるらしいのであまり宇宙に出てくる事が少ない、宇宙に出てきた時点でシロアリ属ではかなりの秀才という事らしい、ちなみにそれでもなんとか億単位のクレジットの計算が出来る程度と聞く。
そんな話はさておき大型交易ドックに行く。ミヴェルマンのロゼンダ級とテティア女王陛下のだったロゼンダ級がここには入っている・・・結局この船はここに帰って来てしまったのはなにより・・・その隣にズァパリ民国軍のヴェレンティア級巡洋艦が入港してきた。見かけこそロゼンダ級に近いが、一回り大きく、特に装甲が厚いのが特徴、艦隊では旗艦を守るシールドポジションを担当する艦らしい、その性能はこの前この目で見せつけられた、帝国艦と相性が非常に良い船である。
・・・それの迎えはツェルナ・・・考えたな。
サシリアがこの場に居れば本国に連行されてしまう可能性がある、だからサシリアはツェルナを迎えに差し向けた。ツェルナは成人するまで本国に帰る必要が無い・・・多少は実質領主として顔出ししなければならないとも思う所もあるが、王家が本国まで連行する理由がそもそも存在しない。サシリアの狙いは搭乗員をヴァレンティア級から引き剥がす事だ。搭乗員は大使館職員をしていた者がほとんどで、信頼こそ置けそうだがサシリアはどう考えるか・・・。
「遠い所からご足労頂きありがとうございます。サシリア王女殿下より皆様を出迎えるよう仰せつかりました、ファランス辺境伯ツェルナでございます」
貴族の接待も板についてきたツェルナ、その後にステーション代表としてルーガが握手を交わす。後の事はルーガに任せておけば良いだろう、しかしアイリスを見て動揺しているのはよく分かる。
・・・この場はなんとかなりそうだな。
執務室へ戻ろうとすれば電話、リユン少佐からだ。
「・・・あーいつものね」
・・・そう言えば年に数回、セルルド星系が嵐に包まれる時期だった・・・だが見に行かなければいけない物があるらしい・・・しかしおかしい、帝国、皇国共に新型艦が出てきた情報は商人ネットワークでは上がっていないはず・・・。
「悪いな、アイリス、ちょっとだけお留守番出来るかな?」
「分かった」
「シルヴァも来てくれ」
「分かりました」
執務室に戻ってシルヴァをつれて大型交易ステーションへ急ぐ。展望デッキに呼ばれた、ドーベック大佐がその場で悩みながらくるくる回っていた。リーサですら頭を抱えている。カトロニコフ大佐はいつになく厳しい顔をしている。
「・・・で、話ってなんだ?リユン少佐」
「前線で厄介な物が見つかりました」
「また新型艦か?」
「いえ、その前に今回の鹵獲艦および救出艦を・・・ロゼンダ級輸送艦が1隻、ササリッサ級輸送艦が6隻、アークバーレイ級大型輸送艦が43隻、ズヴェーラ級大型輸送艦が35隻、ノア級大型貨物船が4隻、ベーベル級大型貨物船が49隻、いずれも全て大破クラスで民間の総生存者は107名ほどと聞いています。大部分の他社籍の民間船はシルバーロッド社にて修理完了後、顧客に引き渡しますので我々の所属にはなりませんが・・・」
アークバーレイ級はラクトパレト王国籍、ズヴェーラ級はリビューイ帝国籍の大型貨物船なはずだ・・・なぜ?
「鹵獲艦につきましてはFT14型戦艦が52隻、AT3型航空母艦が5隻、ZB8型フリーゲートが184隻MA30重巡洋艦が178隻、エンデラー級戦艦6隻となっております」
「・・・またスクラップだらけじゃない」
リーサが溜息をつく。
「生存者は帝国軍人が約3万人、皇国軍人が約500人、戦況としては皇国の圧勝・・・とも言えますが・・・」
「皇国ドロイド艦隊がセルルド星系に現れ、民間商船500隻近くが被害に会いました」
カトロニコフ大佐がリユン少佐の報告に後付けする。
「・・・これにより皇国軍は早期撤退、帝国軍がドロイド艦隊に挑みましたが、我々が到着する頃には帝国軍艦隊も虫の息、帝国軍の後を継いで我々が状況を収めた次第であります、恐らくリビューイ帝国籍の商船が知らない間に狙われ、引っ張って来ていたのでしょう」
リユン少佐が肩を落とす。
「・・・我々もそろそろ1万隻の艦隊を揃えなければならない・・・と言う事だな?」
「その必要もありましょう、数に対してはいくら士気が高くとも限界があります・・・それに・・・」
「それに?」
「ドロイド艦隊から新型のドロイド兵の残骸を回収しています」
カトロニコフ大佐は目をさらに細めた。
「新型・・・だと!?」
ドーベック大佐が目を見開く、俺だって驚きたい。
「ここからは、私の推測に過ぎませんが、皇国軍は兵士不足の為に新型のバトルドロイドを生産しています、これは帝国軍がクローン兵を生産している事に対する対抗手段でしょう、その設計図が流出、あるいはアップデートと言う形でドロイド艦隊の手に渡ってしまった可能性があります」
「セルースの衛星軌道に復元した皇国軍要塞ステーションの自爆スイッチが部分的にしか機能していなかった件で大体想像出来た」
「今後の詳しい調査が必要とはなりますが、現行型は自爆機能を搭載していないのでしょう、問題のバトルドロイドの残骸は格納庫に用意してあります」
リユン少佐はタブレット端末の画面を落としてエレベーターの方まで歩いていく、それに続いて軍用ドックへ降りればそれがあった。
「電源喪失しているので動きはしないはずです」
「自爆機能が無いのは厄介だな・・・」
「まぁ、手はあります・・・皇国軍側で自爆モジュールを追加すれば一網打尽でしょう・・・しかし、果たして彼らはそんな事まで考えられるか・・・」
リユン少佐は悩ましい顔をする。
「恐らくはドロイド艦隊を利用して帝国軍を一掃、完了の目途が立った頃にようやく実装するつもりでしょう、その頃には銀河中の大部分の種族が滅びます」
カトロニコフ大佐の言葉が重い。
「喧嘩を売り放題だな・・・」
皇国軍がなぜ火消しをしないのか、口減らしを目論んでいるからだろう。
「帝国艦の修繕を最優先にしてくれ」
「了解」
・・・嫌な時代だな。
ヴェルグーリさんの店のカウンターでビールを一口含む、そして溜息。
「なんちゃって君主も大変じゃの」
「うちはただの商船会社だ」
ヴェルグーリさんに愚痴をこぼしたその時、ドアが開いた。とても大柄、普段はこんなド田舎に居ない人種の人達・・・ラクトパレト王国の商人だ。
「・・・なんだ、ここはバーだったか、こんな一等地にあるのだからてっきり飯処かと」
「食い物もあるぞ?」
「それは本当か?!肉はあるか?!」
「獣人族じゃな?あんたに馴染みがある物も作ってやるさ、ちょいとまってろ」
トラのような包帯の多い男がカウンターに座って来る。ヴェルグーリさんは店の厨房に向かっていった。
「・・・誰かと思えばソルじゃないか」
「その声!ファルマンじゃないか!」
ソル・セバネル、ラクトパレト王国のドラゴン銀河運輸の雇われ商人だったはず、右腕を骨折しておりあちこち包帯で手当がされていると言う事はドロイド艦隊との戦闘に巻き込まれたようだ。確かに航路的にも今回の戦闘区域を通る。
「ここに居ると言う事は、船を失った口だな?」
「そうさ、帝国軍と皇国軍の小競り合いが終わるのを待っていたら後ろから容赦なく皇国軍に撃たれてしまってな・・・気が付けば君の私兵に助けられてたと言うオチさ」
「災難だったな」
「民間船も攻撃するとはどうなっているんだ!」
「ソル達を襲ったのは皇国のドロイド艦隊だ、皇国軍とは別組織だよ」
「なにぃ!?皇国軍では無いのか!?」
「正確には皇国軍の遺産だ・・・所で会社や家族には生存報告したのかい?」
「したさ・・・うちの会社は倒産、この一月でリビューイ路線で約6000隻、シーモア、トライアド路線で約3000隻も貨物船を失ったんだ、もう船が残ってない上に従業員の9割が死んだ、取引先のステーションもほとんどスペースデプリと化している、会社としても立ち直れない状況になっているらしい・・・そこそこの大企業だったがお前の所のように私兵を抱えている企業では無かったからな・・・晴れてフリーランスよ」
「・・・船を用意する約束だったな」
「覚えてくれていたか!我が友よ!」
「直ぐには用意出来ん、その前にその怪我を直せ、継ぎ接ぎで良ければその間にアークバーレイ級を1隻を用意するよ、君達を乗せていた軍艦を牽引するエンジンになっていた船がかなりある」
「金はそんなに無いぞ?」
「いいさ、捨てる場所が無い程ガラクタだらけだし・・・同期の為なら・・・しばらくはフルジア、シーモア間で稼げばいいんじゃないかな?ミヴェルマンは知ってるよな?」
「そう言えば最近見かけないが・・・」
「今はフルジアとシーモア間を飛んでるんだ、最近はだいぶ貨物の単価も上がって来たし、それなりに稼げるんじゃないかな?どれくらい稼げるかは彼女に聞いた方がいい。隣のステーションに居る」
「君も同じ路線で商売をしているのだろう?君が一番詳しいんじゃないのか?」
「うちは滞納貨物専門の赤字路線担当だよ・・・ミヴェルマンや弱小の為に金にならない貨物を引き受けているんだ・・・主にステーション経営とかで採算バランスを取っているだけに過ぎない」
「フルジア王国の大企業ともあろう所が・・・」
「元々ネドリー運輸は一万人以上の従業員を抱えるようになってからは貨物輸送で黒字を出した事は無いんじゃよ・・・本当に今の状況は奇跡に過ぎんが、いつまでもこの奇跡が続くとも限らん、他の商船乗りにも他人のフリをせず頑張ってもらう必要がある」
ソルの目の前に豪快な骨付き肉の皿が置かれる。
「店主よ!ラクトパレトの料理を知っているとは!何者だ?」
「元海賊じゃよ、ほっほっほっ」
ヴェルグーリさんは笑いながらまた厨房の方へ消えて行った。ソルは大満足で骨付き肉にかぶりつく、獣人族はワイルドな料理が好きなのである。ちなみにこれはメニューには存在しない料理である。
「・・・ま、店主はそう言うが、まずは自分の所の経営が最優先・・・うちはなんだかんだ周りが優秀だからなんとかなっている、ひとまずは怪我が治るまでゆっくりしていけよ・・・その間に船はなんとかなると思う」
「助かったぞ!」
ソルを置いてヴェルグーリさんのバーを出る、研究ステーションまで戻ればアイリスが事務所でふてくされていた、そういや忘れてた。
「遅いです!」
「悪かったって・・・シルヴァは?」
「おじいさまと緊急会議ですって!」
「ああ、そう」
流石にバトルドロイドの件はソデス国王陛下の耳に入れておかなければならないだろう・・・。
事務所のドアが開いたのでシルヴァが帰って来たのだろう・・・だが入って来たのはツェルナだ。
「いいように使われているな?ツェルナ辺境伯様?」
「なんでぇ・・・」
お疲れ気味のツェルナが長ソファーにぽふっと倒れ込む、そして頭の上あたりに座っていたアイリスを抱き込みすりすりし始める。
「アイリスーぅ!!」
「・・・何故?」
アイリスは何故ぬいぐるみのように抱きかかえられるのか不思議に思いつつもツェルナの頭を撫でる。だが、アルビノの子達を何もためらいも無く抱きかかえる近しい年齢の子はツェルナの他に居ない様子、アイリスが調子が狂うと言う顔を浮かべるのもしょうがない。
「そう言えば、二人は飯は?」
それを聞いてツェルナは何処から出したか知らないがカップラーメンを掲げる・・・さてはここに来る前にちょっと行った所の休憩スペースの自販機で買ってきたな?
「・・・お前は本当にそれ好きだな?」
ツェルナはニタァと笑みを浮かべながら給湯スペースに飛んでいく、帰って来た時にはもう一個増えていた・・・片方はアイリスの手の中に収まった。
ひとまず二人がカップラーメンを食べるのを見守る、ミヴェルマンの部下も万能じゃない、他の子達の面倒をコロニー側の方で面倒を見ている事だろう。
結局迎えは来なかったのでアイリスを連れて中型交易ドックに置きっぱなしのオーエンスへ、俺はいつも何処で寝ているのかと言えば使っていない会議室にベッドを持ち込んで仮眠室にしているのだが、流石にここは狭い、オーエンスの船長室にはキングベッドがある、今日はツェルナとアイリスと一緒に寝た。
翌日、目を覚ませば目の前には金髪の髪がまず目に入る。
・・・ツェルナ、アイリスと一緒に寝たはずでは?
きめ細かな肌、みずみずしい唇、整った肩まわり、適度な胸にレースの紫色のブラジャー・・・俺はいつシルヴァをベッドに引き込んだのだろう?酒の勢い?いや、泥酔するほど飲んでいない。
長いまつ毛が動く、水色の瞳がまた綺麗だ。
「おはようございます・・・旦那様?」
「・・・あの、シルヴァさん?これは・・・?」
「アイリスがここに居るのです、保護者として当然かと、医学的には異なりますが・・・ふふっ」
シルヴァは顔をそらしながら顔を赤くする、このまま向き合っていたら変な気になりそうなので後ろを向く、アイリスはまだ寝ていた。
「・・・あれぇ?パパ・・・てっきりリーサとこういう関係だと思ってたけどぉ?」
ンミィィィ・・・。ツェルナが体を伸ばしながら起き上がった。背中の羽が広がるのは生理現象だと言う。ちなみに進化の過程で退化しているので空を飛ぶ事は出来ないらしい。
「私とはそう言う関係なのです」
シルヴァが抱き付いてくる。
「ふーん・・・私は別に良いけどぉ?だって医学的に言えばパパは本当は私のパパでは無いんだしぃ」
そう言いながらツェルナは頬を突いてくる。時に医学とはめんどくさい。
ひとまず起き上がる。オーエンスの冷蔵庫は主力から離脱して長いので何も入っていないはず、こうもあろうかとツェルナはカップラーメンを気が付けば4つ抱えているが、何もいつもの休憩スペースの自販機にはカップラーメンしか無い訳じゃない。
「好きなの取れ」
ツェルナは自前のカップラーメンに目を輝かせるが、これは駄目だ。とりあえずペペロンチーノを投げつける。アイリスは焼きそばパンを選んだ、シルヴァはサンドイッチ、俺はおにぎり2個だ。
ここの休憩スペースには属に言うコンビニ自販機と言う物がある、居住エリアから中型ドックエリアに向かう通路の近くにあるコンビニエンスストアが補充してくれるので長期保存食以外の物も入っている、お菓子からアイスまでなんでもある。
窓の外を見ればガラクタの回廊、しかし大破しているロゼンダ級だけは特別扱いで研究ステーションの真横に置いてある。
事務所に戻れば仕事だ、社長となれば勤怠が無い・・・と言うか、休めたもんじゃないのが現状、事務所で普段寝泊りしていると言う事はすなわち退勤すらしていないような物、家に帰った事が無いのだ。そして何処にあるのかすらもう分からない。
早速ルーガから今週の上がり分の船のリスト、ZB8型フリーゲートが中心だがFT14型戦艦と言った高火力艦も6隻上がっている。これらに乗せる人達はリユン少佐が既に用意してくれている。艦隊指揮官はシュワルツァー大佐、初任務はズァパリ民国籍の貨物船の護衛、護衛対象は大型艦用の部品を積載したズァパリ民国船60隻、エンジンなどの重量物は相変わらず使い道に困るサラマンダー級を充てている、そして損傷軽微な帝国軍艦40隻だ、修理用の部品も搭載してズァパリ民国に送り込む、同じ業務をしている艦隊は他に4艦隊もある。ちなみに民間船の上がりは少なく、在庫不足になっているようで、未だにフルジア王国の貨物船不足は解消しない。
それとは別件でバーボン星系の掌握の打診が来ている。元を絶たなければドロイド艦隊は増え続ける、フランクリン大将はそう考えている・・・確かにそれはそう、カトロニコフ艦隊とドーベック艦隊とリーサ艦隊、ミヴェルマンの護衛艦隊であるオキタ艦隊が現状空いている・・・現状500隻程度の艦隊にしかならないのだ・・・足りないので戦力確保の為に先送りにしていたが、戦力が一向に増やせない・・・これはこれでもう動くしか無い。
一方で建築関係・・・小型機工場がマスビダ星系側に完成した報告もある。ちゃっかり手に入れた設計図でスーパーツァーリー8の生産をする為だ。ギャラクシーファイター6も良いが、エネルギー魚雷の威力と帝国軍パイロットの接近スキルがあれば前衛の被害を減らしつつ敵の数を減らして攪乱する事が出来る。
・・・だが、それだけじゃない。
小型機工場で作る物はなにもスーパーツァーリー8だけではない。帝国軍機と皇国軍機のいい所取りをしているステラー王国軍機の設計も上がっている。カサブランカ型戦闘機とスターゲイザー型重爆撃機、両者とも名称がユリ科由来だけあり、とてもエレガントな印象、バランスも良く、火力も強力だ。艦船はイチから作る余裕が無いが、小型機はそんなに手に入る物でもないので導入しても良いかもしれない。
・・・しかし、予想外の事態となった。
「・・・割と、手薄ですな?」
バーボン星系、ドロイド艦隊は数千億隻くらいが待ち構えていると思っていた。メソポタニア級の残骸だらけで、これは自爆させた物と推測出来るがストーム級が100隻くらい隣のブリッド星系へのジャンプゲート付近に漂っていただけ、造船所も全て吹き飛んで居るようだ。
「調査隊の報告ではN-68惑星の衛星軌道上にある造船所のうち、生産区画が消失している様子、修理すれば使えそうですが、どのみちステーションとしては機能しそうに無いとの事です」
「N-68惑星とは?」
「鉱物性の惑星で地表面の温度は赤道付近で平均マイナス15度、大気は主に窒素と水素で居住は困難な惑星です、鉱物資源はリストーン星系を越えるとは思いますが、リサイクル資源を膨大に抱える我々には採掘事業に手を出すメリットはありません」
「・・・となると、まずは要塞ステーションの建築からだな」
「リストーン星系のステーションと同様の物を建築いたしましょう、その間は皇国軍のステーションを寄せ集めて仮設基地とします、この際ですから資源の捌け口としてコロニーなども建てましょう」
「その辺はリユン少佐に投げてくれ」
カトロニコフ大佐にそう言う。しばらくは星系の調査で偵察機隊が忙しくなるだろう。
・・・と、なるとバーボン星系の防衛体制が整い次第、ブリッド星系と言う訳か。
カトロニコフ大佐のFT14型戦艦の艦橋からN-68惑星を眺める。白くて綺麗な惑星だが降りれば地獄の寒さが待ち受ける。バーボン星系は居住可能な惑星が存在しない、遥か昔のデータ上はリストーン星系と同じく鉱物資源が豊富な星系らしい・・・現状はどうだか知らないが。
その後もバーボン星系掌握会議が続く、N-68惑星はクリスタと名称を付け、その衛星上に要塞ステーション、造船ステーション、大型コロニーに食料プラントなど基本的な物を用意していく事となった。建造期間は通常なら30年以上かかるが、造船所からかき集めた建築ドローンとセルース衛星軌道上の要塞ステーションの建築に使っていたドローンを持って来れば1年くらい、その間に領有権は主張出来るだろう。ステラー王国の領土にしても良いのだが、特に価値も無い星系の領有権など現状の国政では負担に等しい。
ミヒー・・・。
事務所に帰ればツェルナがソファーに転がっている。
「領主も大変だな?」
「財政が厳しいよぉ・・・」
「・・・まぁ、多少は援助してやるから」
基本的に実権はジューラ辺境伯が握っているはずだったが、スミオル辺境領も貧乏な方なので今は亡きファランス卿の家臣だった人に丸投げしてしまっているようだ。その家臣と言うのがルベンダさん、中々に忠実な人らしく、貴族の家臣としては珍しい次世代種らしい、その人とツェルナは色々やり取りしているらしく、それはもう多忙極まりない。その業務はオーエンスの艦橋でいつもこなしている様子、船長室でも良いのだが、艦橋の設備の方が高性能で色々なデータのやり取りが出来るからそうしているようだ。
アイリスはテーブルを挟んだ反対側のソファーでアイスをペロペロしている。
「お疲れ様です」
シルヴァが2つに割れるアイスの片方を差し出して来た、ツェルナの分はテーブルに置かれている。
「どうも」
それを受け取りひとまず口にする、シルヴァがソファーの空いているスペースをぽんぽんと叩いている。座れと言う事だよな?
立ち食いする気もあまりないのでその隣に座る。シルヴァは肩に頭を乗せてきた、ふわっと花の香りがする。うーん仕組まれた。
あまり意識しないようにツェルナを見る。あの手この手の政策を考えたのだろう、相当疲れている様子だ。
「・・・アイス溶けるぞ?」
その言葉でゆっくり手がテーブルの上のカップアイスに伸びていく、そして仰向けになりながら食べ始めた。
「だらしねぇなぁ・・・」
一応親である俺のいう事を聞かない・・・いよいよ反抗期って奴か?それにしても、器用に食べやがる・・・人間でもまずその態勢でアイスを食うのは無理だぞ・・・?
「ツェルナお姉様は自由なお人ですから・・・」
ツェルナのかわりにアイリスが答えた。その顔は全てを諦めたような顔をしている。
「ああはなるなよ?アイリス」
「まぁ、こう見えても優秀な方ですから・・・」
ムヒィ・・・!!
甘い物を食べて満足そうな顔をするツェルナ・・・今日くらい許してやるかと思う辺り、自分もまだまだ甘いのだなと思う。
翌日、朝食を食べながら窓の外を見る。元液体ガス船のER-1000Lがコロニーから資材を運び出しているのが見える。不法投棄の資材運搬船、特にガス船は本当に使い道が無いので液体タンクを取り払って床張りと補強を加え、平貨物船にしている。勿論銀河中何処を探してもそんな船種は存在しない。一時加工した建材やリサイクルプラントで作成したステーションモジュールを運搬する為だけに作った船で、元々液体物を運ぶ都合、通常のERシリーズよりエンジンが2基多いので重量物輸送ならコレに限る。スクラップ回収にも使えて地味に便利なネドリー運輸オリジナルの船である。ネドリー運輸ではリストーン星系に拠点を移した辺りから徐々に数を増やし、今では140隻くらいの縁の下の力持ちな存在の船だが、初期メンバーの貨物型に比べても明確に接触痕が多い。
・・・そろそろオーバーホール時期だよなぁ・・・。
ネドリー運輸の貨物船はオーバーホールを迎える前に新造のER-3000Cに置き換えをしている。古参な部類の船は記念艦のごとくしぶといER-2000Cやジュリエット級などの異機種貨物船団の船達、元々スクラップだったのは確かだが、この船団の船は戦線復帰してから一度も被弾経験が無いと言う運の良い船団の船の為、些細な故障を除いては中古のER-3000Cより船体がしっかりしている、それにERシリーズは古ければ古いほど強固な作りを求める帝国設計思考が強く、コストカットが十分実施されていない、その都合で設計が堅牢である。窓の外のER-1000Lも実際そう、あれだけぶつけた跡が多くとも船体自体はかなり堅牢なのである。
・・・で、なんでそんなにもぶつけた跡が多いのか。
答えは簡単、デプリ帯航行やデプリその物の回収、民間人の船員育成に使っているからだ。いわゆる教習用の大型貨物船である。帝国軍式の実技講習は質が良く、操船免許取得率が非常に高いと好評、今まではこっそりやっていたグレーな慈善活動だったが、最近では教習スクールとして民間人に提供しているのである。コースは小型機、中型船、大型船の3つで教習機として小型機はES17戦術偵察機、中型船は海賊船、大型にER-1000LやBを使っている。
ずずっとパック牛乳を吸い込む、今日の仕事は特に急ぎの物は無い・・・ここ最近は忙しかったのでたまには買い物でもするか・・・。
中型交易ドックにある車、ずいぶんと埃を被っているが自家用車である、随分昔に拾ってきた難破船の貨物に乗っかっていたエルーラモータース製のスポーツタイプの電気自動車で加速に優れる、現行型だったなら田舎の若者に人気の車種である。
「こちら、ファルマン様のでしたのね?」
車の鍵を開錠すると目の前にシルヴァが居た。
「拾い物だよ、元帝国軍人の自家用車の中でも年式の古い車は皆海賊の食卓の難破船から獲得した車なんだ、昔報酬として配った名残だよ」
しれっと隣に乗り込むシルヴァ、先ほどまで乗っていた黒塗りのセダンとは違ったホールド性の高い座席、少し狭い2シーターの車内に目を輝かせている。
「・・・今日の仕事は?」
「本日は特にございません!」
「・・・ああ、そう」
「これから・・・その・・・どちらに?」
「服とか買おうと思ってな?」
「是非ご一緒に!」
「・・・近くのスーパーまでだぞ?」
「是非とも!」
何言ってもついてくる気だろう。
諦めて電源スイッチを押した。走行距離はわずか15kmのド新品、長期期間不動だった為バッテリーにヘタりが生じて走行可能距離はカタログスペックの半分以下、そんな車を走らせて近くの大型ショッピングモールへ。フルジア王国の大手大型スーパーチェーン店、日用品なら薬以外何でも大体手に入るが、リストーン星系内の店舗に限って言えば薬も入手しやすく無敵な存在、薬を爆買いする旅行者も多いほどだ。ちなみにデパートは無い、ビーア星系まで行かないとそんな高級ブランド百貨店などは存在しない。
「凄い・・・です!」
「・・・いつもそれはどうしてるんだ?」
「本国からお取り寄せです!」
「・・・ああ、そう」
シルヴァは異国の民族衣装をひらひらさせる・・・確かに人間族の伝統ある古代貴族、もしくはズァパリ民国のドレスとは全く別系統、どちらかと言えばトライアド民主共和国の市民服に近いファンタジー物のエルフ族の民族衣装、こんな特徴的な品はいくらリストーン星系なら何でも揃うとはいえ、置いているはずが無い。
・・・しかしこんなに人が居たのか・・・。
改めて周りを眺めていれば軍人らしい人もそこそこ居るがフルジア王国の民間人も多い、人口は5千万人くらいだから当然だろう。比較的裕福そうな客層が多くなりがちなステージアコロニーの同一チェーンの複合スーパーような高級商店街のイメージは全く感じられない。事実、リストーン星系の経済力はマスビダ星系の経済の4倍近い、フルジア王国としてもドル箱星系なのだが、母星に出来る星が無い事や公共コロニーが無い事から実質の領有権が存在しない、母星との経済格差が深刻で、母星から別の国扱いされている節もある。
せっかくなので専門店街の方へ足を運ぶ。色々なブティックショップがある、若者のトレンドのジャンルの店と言えばここなのだが、シルヴァにはとある問題があった。
「ファルマン様!いかがでしょうか!!」
「・・・うーん、その・・・」
容姿に全く釣り合わないのもそうだが、目のやり場に困る、それは試着前から薄々気が付いていた店員さんも同様だった。
「お姉さん・・・申し訳ないんすけれど、体格的にミニスカートや短パンはやめときな・・・」
「でも、故郷では短パンも・・・今日だってミニスカートを・・・」
「うちの服じゃ下着が丸見えっすよ?」
「下・・・着・・・?」
シルヴァは顔を赤くしていく・・・そう、尻尾の行き場が無く後ろから下着が丸見えになってしまうのである。ミニスカートも尻尾が持ち上げてしまい同様に局部を丸見え、エルフ族の短パンやスカートはそうならない為に尻尾が抜ける穴と付け根を覆うようなデザインをしているのだ。
「異種族のお客様におススメなのは向かいの店、よく昆虫族のお客様が来るっすよ?」
店員は目の前のクラッシックな洋服の店を指さす、短パンは駄目でもロングスカートやフリルの多いスカートやワンピースなどなら人間用の既製品を着られる・・・そう思ったのだろう。
言われた通りに向かいの店へ、ズァパリ民国の客も多い、大人になれば特注クラスで取り扱いしていないので主に子供用として買いに来るようだ。恐らくツェルナの私服も大半はここなのだろう。
やはり異種族が一定数居るだけあり、エルフ族にも寛容、シルヴァの完璧な容姿に店員は大興奮、俗にいう地雷系、お嬢様系、清楚系色々着せられる。ミニスカートに関してはやはり目のやり場に困るのだが、向かいの店とは違い、これすらも売る気満々だ。
「・・・後ろから下着見えるけど、あれいいの?」
「現状はともかく、当店では異種族のお客様用に仕立てサービスもご用意しております!」
「仕立てサービス?」
「はい!例えばズァパリ民国人の方々は腕が4つに背中にお綺麗なお羽がございます、これに合うように袖の追加と背中の部分を切り抜き加工するサービスを行っております!」
「そう言えばそうしないと着られないよな?」
言われてツェルナの姿を思い出してみれば確かに・・・そう言った趣旨の仕立て料金表がある。
「エルフ属のお客様は初めてでして、多少お時間頂きますが、彼女様をお借りしても?」
店員は目をキラキラさせて懇願してくる。
「彼・・・女・・・!?」
シルヴァは顔を真っ赤にして物々と何かを言い始めた。もう何も言う気が起きない。
「・・・自由にしてくれ」
そう言って店を出た。
・・・そもそも俺はここに何しに来た?
時間潰しに直営店側の建物に向かった、そもそも服や日用品を買いに来たのだ。
シャツにズボンに洗剤に・・・。
大体買う物なんて決まってる。売り場を歩いてサクサクカゴに入れていく、買った物を車に入れてさっきの店に戻れば完成していた。
・・・このご令嬢は・・・誰だ?
モジモジしているシルヴァを眺める。普段着は戦闘着に近いような物だが青いワンピースにヒールサンダル、容姿がそもそも良いのでより育ちが良いように見える。尻尾は外に出す事で後ろから下着が丸見えになるのを防ぐ、エルフ属にとって尻尾そのものに貞操概念は付かないようだ。
「いかがでしょう?」
店員は自信満々でこちらを見てくる、シルヴァも気に入っている様子だ。
「とても良く似合っているよ・・・で、支払いは?」
「そんな!私が!」
「・・・そもそも外貨を持ってないだろ?」
「うっ・・・そうでした」
ステラー王国、生活水準は銀河基準に追いついて居ない、その為嗜好品の輸出入がほとんど無く外貨の出入りがほとんどないのである。
・・・それにしてもかなり買わされたな・・・?
ズァパリ民国人とは違い、そのまま着られる物も多い、紙袋4つ分も買わされた。
その後は休憩がてら昼食、パスタ屋は昆虫族で賑わい、カレー屋は爬虫類族、ステーキ屋は獣人族がそこそこちょっと、フルジア王国人はファーストフード店に群がる傾向にあるし、オヴェルツィッヒ帝国人は価格帯が高めの店に多い、巨人族は・・・一品当たりの量が多い店に多い傾向がある。
異星人はもっぱら大型交易ステーションのスーパーマーケットを利用するはずだが、生活必需品以外の品物はどうしても研究ステーション側のショッピングモールに頼る必要があるようだ。確かに言われてみれば向こうのスーパーでは買えない物が多い。
そう思いながら割と空いている海鮮料理の店へ、帝国の人間は多いがフルジア王国の人のお財布事情には厳しく、昆虫族はあまり魚介を食用にしない傾向、辛くは無いので爬虫類族は好まず、量も多くないので巨人族も来ない、獣人族は魚より肉である・・・でも見覚えのある顔が居た。
「あら、ファルマンちゃん、おデート?」
「・・・まぁ・・・そんなもんだな、そちらはオキタ大佐と?」
「そ!ミナちゃんとおデート!ここの海鮮丼、美味しいわぁ!」
頬にご飯粒を付けたミヴェルマンが刺身とご飯を一口、そしてあまりのおいしさに体をよじっていた。昆虫族は魚介をあまり食さないが稀に食べる時もある・・・今がその稀だ。
「我が祖国の味、お気に召して頂き光栄です」
その隣でオキタ大佐が満足そうにしていた。和食に分類される人間族の料理はオキタ大佐やヤシマ中尉、スギヤマ大佐などと言った特徴的な名前の人達の生まれ故郷がルーツなのである。
カウンター席に座って注文をする、しかしシルヴァは初めてな様子だ。
「・・・火を通さなくても食べられるのでしょうか?」
「鮮度がちゃんとしていれば生でも食べられるんだ、冷凍すれば日持ちもする」
「・・・冷凍?」
「・・・うーん、船の食堂に食料貯蔵庫があるだろ?凍り付かない温度で保存する機能と凍らせる機能があるんだ、凍らせると食料を腐らせる細菌が活動を停止するから腐らなくなるんだよ」
「まだ、知らない物があるのですね・・・」
シルヴァはメニューを両手に遠い目をしながらカウンターの奥にある冷蔵庫を見つめる。フルジア王国で最も流通している業務用冷蔵庫だ。中型以上の船には大概搭載されているが、ステラー王国の人はそもそも食料保存に電気を使った事が無かった。在庫過剰だった船舶用の核ジェネレーターユニットを使った発電でステラー王国の人達が電気を使うようになったのはごく最近の話である。知らなくて当然だった。しかし海その物はセルースにもある、もっぱら魚と言えば川魚だけだろうと思うが、シノノギ製薬の研究施設から出た集落も研究施設からそう離れていない場所に点々としていただけだった。これらの集落は経年劣化で崩れ落ちた天井から出たそうだ。
時期に料理が出来上がる。自分は何度も口にした事があるので特別な感動こそ無いが、シルヴァは違った。
シルヴァは恐る恐る一口食べる。食当たりでもするだろうか?と心配していた顔が全く別物に変わった。
「これは・・・大変美味しいです!!」
シルヴァは大喜びで勢い良く口に放り込み始めた・・・そして、緑色の練り物についてもお察しだった、これを一口で食べて平気なのは爬虫類族だけである。
「急ぐようなもんでも無かったのに」
「緑色の練り物だけは気を付けます・・・しかし!かいせんどんと言う物は我が国にも欲しく思います!」
「海洋資源は手付かずだろ?そもそも海に何が居るか分からないからな?海洋生物が存在しない可能性もある」
「今度調査しに行きましょう!」
シルヴァは目を輝かせる、確かに資源になるのならば調査しておいて損は無いだろう。
とはいえ・・・。
セルースの海洋生物調査についてルーガに相談したら止められた。と言うのも、プリズムライオッド12含む皇国艦は着水可能な設計をしていないらしい。
「調査は構わねぇが、帝国艦を用意しないと駄目だぞ?それもノーダメージの新造艦だ。銀河中探しても着水可能な設計をしている船はせいぜい人間族の船に限るぜ?うちで修理しているガラクタの大部分は古傷由来で保障は出来ない、海賊船は大気圏突入時点であやしい、エルーラ製の民間モデルはその機能を持っていない、あの時は損傷していたとはいえロゼンダ級もバランスよく海面に浮かばなかった所からたぶんズァパリの船もダメだ」
「うちが新品で作れるのは皇国軍の船だけだぞ?」
「G-8000Cの新品かZB8型フリーゲートで陸地に降りるか、小型機をプリズムライオッド12に乗せて現地で乗り換えが妥当だな?」
ルーガがコーヒー片手に困った顔をする。
・・・そう、うちの船、不法投棄と一部の新造船以外は全て一度穴が空いている船である、帝国艦に限って言えば恐らくどれも問題なく着水可能ではあるが、底部の修復歴があるかどうかについては今まで記録してこなかったし、最近は底部の状態が良い物に関しては優先的にズァパリに送ってしまっている、現役の船を適当に引っ張ったとしても、修復歴を追う事や修繕痕を探すのも時間がかかる、万が一も考えて現役の船を調べもせずに使う事は避けるべきではある。流石にもう新品の中型貨物船をローンで買えるようにはなったが、調査するには船体ダメージが無い船をこれから見繕って直す必要があるのだ。
「当社の最初から浮きもしない船を買うより、セレストスピアー級とかなら可能では?」
「・・・アンタ、さりげなく居るがエルーラの営業だよな?」
「弊社もステラー王国の船の設計に参画しているのですよ?船体システム系は帝国主導だったので性能諸元にはもれなく離着水能力が含まれていたはずです、実用試験こそしてませんが船体も健全なステラー王国艦なら全く問題ないかと」
「そうなのか・・・で、今日はなんの営業だ?」
「本日はVZR-2000Hのご紹介に・・・」
「俺はもう死の商人と言っても良いんだ、サラマンダー級で良いよ・・・何隻あると思ってる?使ってないのが修理していないのも含めて16隻もあるんだ」
「ですが!この度マイナーチェンジ致しまして・・・より快適性が向上いたしました!ステラー王国にもご紹介頂きたく思っているのでまずは1隻!」
「ステラー王国の外交艦には既にセレストスピアー級が就航している、それよりフルジア王家の船の機種更新でもしたらどうだ!?」
いつものエルーラの営業の人がパンフレットを見せて勧めてくる、銀河でもそんなに売れていないVZRシリーズ、フルジア王国では大富豪の証だが、銀河目線で見れば成金ご用達もいい所、せいぜいクルーズ船に使えればいい所だが、観光名所が無いクソ田舎に果たしてクルーズ船は必要かどうか・・・答えは要らない、これに尽きる。
「・・・つか、うちには銀河最高額の中古クルーザーが4隻もある事も忘れるなよ?」
ルーガが熱心なエルーラの営業トークに横やりを入れる。9隻を部品取りにして修理したロゼンダ級が4隻もある。勿論、ミヴェルマンと今はツェルナ名義のサシリアのロゼンダ級巡洋艦は除く。この4隻も本来はルミナスに放り込むべき船だが、クソトカゲのせいで棺としてはお役御免になってしまった船達だ。将来的には子供達に譲渡するつもりだが、ルシャーサはリストーン星系に住む子供達用の船は在来通り国費で建造する方針、クソトカゲの研究は繁殖用男性を生み出せないのが欠点なので末代だった人達の子供達も結局は末代のままなのである。余談だがロゼンダ級の修理部品のストックもある程度は確保出来た。
「・・・ロゼンダ級と比べられては・・・」
・・・勝った。
渋い顔をするエルーラの営業の横でルーガがにやついた。ルーガはコーヒーをテーブルに置いてエルーラの営業を追い出す。事務所がこれでようやく静かになった。翌週にはセレストスピアー型戦艦が研究ステーションに来ていた。
木の根っこのようなかご型のデザイン、噂では魚人族の船が似たようなデザインをしていると言うが、銀河の中では斬新な外観をしている。エンジンはセブンスターエンジン、動力系のジェネレーターは帝国製のMA167Gパワージェネレーター、AT3型航空母艦が搭載している最新型の大型艦用ジェネレーターである。この組み合わせはもう聞き覚えがある、うちのAT3型航空母艦がこの組み合わせだ、うちのAT3型航空母艦、空荷であれば実は銀河最速の戦艦である皇国軍のエンデラー級戦艦より速いのである、AT3型航空母艦でこの結果なのだからそれよりも船体が軽いセレストスピアー型戦艦はエンデラー級戦艦より速いと言う事になる。勿論そのままではただの直線番長、スラスターの数もその分多く、FT14型戦艦より片側5基ずつ多い。旋回性能についても申し分ないだろう。
主砲はHT-702主砲が4基、対空兵装もそれなりにある、FT14型戦艦に搭載されている装備と大体同じ数を搭載している。HT-702主砲はリストーン星系ではかなり実績がある主砲で、高火力と長射程を誇る銀河最強クラスの主砲と名高い。そんな物を搭載している時点で帝国艦と対等、速度面も考えると理論上は銀河最強クラスの戦艦なのである。そんな物がいつもの休憩スペースから見える。
・・・しかも、貰い物だ。
目の前にあるセレストスピアー型戦艦は量産一番艦のユリアス、普通は企業が国王に献上する物なのだが、海洋調査で適当な船を借りる事をソデス国王にお願いしたらユリアス号を前報酬として与えられたと言う訳である。王家専用艦は量産試作型のオーベルト、その前の試作型は色々試したのち廃艦にしている。材料と部品調達全てにおいて実際はうちで製造しているような物だったのでアルパ級巡洋艦とテラー級フリーゲートも記念艦として量産一番艦はネドリー運輸向けになるそうだ。普通ならばあり得ない事である。内装は戦闘艦よりクルーザーと言う方が正しい、設計のクセからしてうちの建築部門が絡んだのだろう。とにかくファンタジーコンセプトが激しい、旗艦運用が予定されていない量産艦にも関わらず木目調があちらこちらに施されている。当然プリント印字の難燃材だが機能性第一なのも帝国人らしさがある。旗艦をプリズムライオッド12から乗り換えしたいくらい・・・だが、プリズムライオッド12もなんだかんだで使い勝手が良い時もある。空母だから純粋に貨物が乗るまでは普通の利点だろう、だがまだある、皇国軍のアーカイブを盗み読みしたりとか、皇国軍の軍事作戦内容をたまに受信していたりとか・・・このガバガバセキュリティは帝国軍のAT3型航空母艦には無い痛快機能である。
「・・・どうだ?これだけでもVZR-2000Hより上だろ?」
「よくこれをヨシとしたよな?」
とても広い艦橋、全面窓ガラスのようなモニターで覆われ解放感がある、これはロゼンダ級と同じ作り、唯一の違いは白を基調としたゴシックデザインをしていると言う事、帝国軍の旗艦専用艦に見られる特別内装のような物が標準装備と言う所もまたおかしな所、だが悪くは無い。
ルーガが自慢げに艦橋を見せびらかす、ぽつんと置かれた艦長席はどことなくロゼンダ級の面影を感じる。
「その下には冷凍保管室は無いから安心しろ」
「普通は無いからな?」
一応椅子を動かしてみる、特に何も無い。ちなみにオーベルトはこの椅子が金装飾でもっと座り心地の良い物・・・らしい。
「小国の軍艦にしてはハイエンド過ぎんかのー?」
「うるせぇ、うちの部品倉庫に収まらない機材の数少ない捌け口なんだ・・・つか、お前何処から沸いた?」
「海洋調査ともなれば医学研究者が居ても良かろう?」
エルムンドドエルが艦長席にちゃっかり座っている、シルヴァは母国の資源調査に参加は必須だが、クソトカゲを呼んだ覚えは無い。事前情報では川魚の存在は確認されている。テラフォーミング計画で何処までの種類が持ち込まれたかにもよるが、おおよそはランザールで確認される種と同じだろう・・・何故ならば地上だけでも確認された植物はランザールにも存在する物だったから。これはつまりテラフォーミングで他星系から持ち込まれた品種と一致する。ランザールにも海洋生物は存在するのであればセルースにも存在しているはずである。
「急に操船を頼んで悪いな、マイラ」
「いえ、私もセルースの海は気になります!」
「早速出してくれ」
「了解しました」
マイラは初めての船の操縦席をワクワクしながら操作していく。ユリアスはセルースに向けて出航した。
操船なら自分でも出来る・・・のだが、何故マイラに任せたのか、その答えはアズニー兄弟は地上育ちである事である。コロニー生まれとは異なり、食用や観賞用以外のランザールの海洋生物にもそれなりに詳しいからあえて任せたのだ。それ以外にもジーナさんが同行している。ハネムーン・・・もそうだが、ジーナさんはヴェルグーリさんの店の食材調達を担当している、自分以上には食用生物の目利きが得意なはずだ。自分が知っているのは全て加工済み、加工前の姿を見た事など一度もないのである。だからその手に詳しい民間人が必要、リーサやヤシマ中尉、パルサー大尉も多少なりは帝国領内で流通している物に心当たりがあるはずである・・・もっとも、何かと雑用をさせがちないつもの海兵隊達の方が地上の田舎育ちも多いので彼らに聞いた方が早くて確実な気もするが・・・。
もはや中型以上、ユリアスは3時間もあればもうセルースに到着、おおよそ半々の陸地と海面の割合、居住惑星としては海面の割合も重要要素の一つだがユリアスの海の海底は非常に深い、これは地上の居住面積を増やす為に意図的に造成したのだろう、セルースは平たい土地もかなり多い。
マイラは基本的に大気圏突入を行わないが、その辺は帝国軍の人達が詳しい、大気圏突入も難なくこなし、セルースの海に着水した。その後の再上昇も問題なし、設計通りの機能を備えているようだ。
まずは小型の船、本来は河川用だがユリアスからそこまで離れるつもりは無い、同様に潜水ドローン、そこまでの深度は潜れないが地上では教育教材として重宝している比較的安価な物だ。
「どうかしら?」
海と言えば水着である。幸いにも温暖な場所を選んだので遊泳は出来るだろう。
「似合っているよ、ジーナ」
「良かった」
ジーナとルーガは熱いキスをする。
「・・・羨ましいなぁ」
「悪かったわね、胸が無くて」
「そう言う訳じゃ無いですよ、いや、水着持って来れば良かったなって・・・」
「・・・そこなの?」
いちゃつく二人を横目にユリアスの木の根のように見える特徴的なスラスターフレームの上でいつもの帝国軍服姿のヤシマ中尉とパルサー大尉が釣り糸を垂らす。そう言えばうちの会社に制服が無いんだっけ、むしろ帝国軍服が制服に近い所がある。しかも彼らは定期的に新品を下ろしているようで、その出所は帝国軍の難破船、結構新品を抱えている事が多いようだ・・・同様に宇宙服も同じ、うちの船乗りは全員帝国軍の最新鋭の宇宙服装備を持っている。勿論服装に特に規定は設けていないので元帝国軍軍人も休日は私服で過ごしている。
・・・しかし、クソトカゲと来たら・・・。
とある異星人は働く気が無い様子、ツェルナは日頃忙しいので許そう、あのクソトカゲと来たら、ビーチパラソルの下で寝転んでいやがる。アイツは海洋調査でついてきたはずだぞ?
「ミヴェルマンさん!凄いです!」
「これはどうかしらぁ?」
「イシガキダイですね、食べられますけれど、毒がある場合があるのであまり食用には向きません!」
「そうなのぉ?」
マイラはそう言いながらミヴェルマンが釣った魚を写真に収めていく、ツェルナの付き添いとしてついてきたのに何故か一番働いているミヴェルマン、釣りがやたら上手、なおかつ昆虫族は意外と筋力がある、大型の魚もあの人が一番釣っている。
釣った魚を海に戻してもう一度垂らしたらもう次がかかった。釣り上げたのはマグロじゃないか・・・!マイラが飛んで喜ぶ、普段全くないような気がして実はかなりあった胸がユサユサ揺れて男の目線も釣っていく、そんなマイラも水着を用意していた。急に声をかけたのになんたる準備の良さ、つい目が行ってしまうがリーサの目に気が付いた。そんな彼女も水着姿、前々から思っていたがスタイルが良い。
「・・・ファルマン様?」
「・・・あー・・・基本は人間族共通の生物が持ち込まれているようだ・・・な?」
「私だけを見てくれれば良いのです」
「・・・なんの話かな?」
「いえ、なんでも」
リーサの姿を眺めていたらシルヴァの視線を感じた。彼女は普通のステラー王国の民族衣装、それなりに露出こそ多いが水着では無い。エルフ族は恒星の紫外線を受けても日焼けしにくい体質らしく、やはりきめ細かい白い肌が美しい。だが今回調査する内容では無いのだ。
・・・ここまでで分かった事は海洋生物も帝国が持ち込んでいたと言う事だ。
となれば、もう大した調査も必要無い、ミヴェルマンが食用出来る魚を大量に釣り上げ、ミヴェルマンの部下達が捌いて調理していく、昆虫族は魚介をあまり食べないが調理して食べる事も出来るからである。魚もある程度銀河では共通の骨格をしているようでササッと捌いてしまうのもまた昆虫族らしい、スラスターフレームの上ではバーベキューが行われていた、このスラスターフレーム、横幅だけでも10mはあるのだ。
結局エルムンドドエルは一切仕事をしなかったが、その部下達はしっかり仕事をこなしてくれている、主に潜水ドローンで色々調査をしてくれていた。やはり、帝国が惑星開拓の為に持ち込む共通品種で間違いないようだ。
「お刺身・・・!」
バーベキュー・・・と言いつつも焼いて美味しい魚はあまり無い、バーベキューグリルは持ち込みの食材を焼くだけになってしまっているが、ミヴェルマンは自分の釣ったマグロの刺身を見て目を輝かせる。マイラ、料理が上手なのは知っていたが、他星系の魚とは違う部分を昆虫族の料理人達に教えられるくらいには魚を捌くのも上手だった。地上でも海に面した港町出身だったらしい。ミヴェルマンの部下達が魚の生食を全力で止めようと必死になっている。
「美味いな、これ」
「そう?うれしい!アナタ」
ルーガとジーナは羨ましい限り、もちろんジーナさんも何もしてない訳では無かった、調理に関してはマイラより知識が上である・・・そりゃ祖父が色々な種族の料理に詳しいんだ、昆虫族に魚を捌かせるのをマイラと一緒に手分けして教えていた。
そして、今日はハネムーンも兼ねているのだ。今日くらい好きにさせてやろうと思う。
・・・楽しいな。
そう感じるのはいつぶりか、フルジア王国には娯楽が無い・・・正確には娯楽に使う金が無い。ただ働くだけで人生が終わる。遊べるのは子供の時だけだった。大人になっても遊べるのは金持ちの特権である。
「パパ!なにこれ美味しい!」
「ママが釣った魚だぞ?良かったな?」
「あれも!これも!」
ツェルナは麺でも吸うかのように刺身を食べていく、やはり同じ血の親子と言うべきか、それはミヴェルマンの部下も同じ、皆同じ顔をして食べていた。
しかしマグロとなれば海兵隊が居ても一匹は食べきれない。当然ソデス国王に報告する為にもある程度残しておく必要がある。ステラー王国への調査報告も兼ねて献上する為に厨房の冷凍保管庫がパンパンになるまで釣り、空港に着陸、空港は再整備がされ、モダンな地上設備を整えてある、旅客こそ無いが将来的には旅行客も受け入れが出来る設計である。
「しばらく来ない間に完成したな?」
「建設の手が全く追いついておりません」
シルヴァが申し訳なさそうに頭を下げる・・・が、現状はリストーン星系に居ても把握出来る。
「首都が数カ月程度で完成する訳が無い、急いで作るべき物は全部完成したんだ」
流石に数の暴力をもってしても、首都レベルの都市を築き上げるのには最低でも1年以上は有する。
「住居に公共施設は最低限ある、商業施設は後回しでも良いんだぜ?」
ルーガはヘラヘラ笑う、そしてこの先にある街の都市計画の責任者である事をジーナに自慢しはじめた。一国の首都を一から建築だ、テラフォーミングの責任者じゃなければ普通出来るもんじゃない、そりゃ自慢したくなるだろうよ。
「ま、そう言う事だ、もう少し気長に待っててくれ、材料なら上に沢山ある。パルサー大尉、ヤシマ中尉、空港で冷凍コンテナを確保しておいてくれ、俺はその間に車を取って来る」
「了解しました」
ユリアスから降りればネドリー運輸のステラー王国支店の事務所へ、ここには最初に来た時に置いておいたピックアップトラックがある。
「久しいなぁ」
ルーガはにやつく、V8エンジンの車など地上でしか乗れない。以前の調査で付いた泥跳ねは洗車こそされているがしばらく洗っていない様子である。
「そりゃ、ステーションに持ち帰っても使えないからな?」
「物も中途半端にしか運べないからな?建築周りの車は全部新規に用意したぜ?」
「船は買わないのに車ばかり買って、いい加減エルーラから怒られそうだ」
「しょーがねーだろ?ゴミをリサイクルして出来た建材の捌け口がコロニー建築なんだから、その構内車は難破船サルベージじゃせいぜい普通車がちょこちょこ見つかる程度、初期の頃使ってたトラック、ありゃ本当に奇跡でしかない、それに買わなきゃ経済が回らない」
「分かってるさ、海賊からしたら自動車運搬船が一番ハズレくじだって事も、貨物車はほぼ見つからないって事も!」
そう言いながら管理事務所の現地職員に車の鍵を出して貰い、ルーガとマイラ、リーサと海兵隊達に合計10台分の鍵を分配した、そしてその車をユリアスの横まで持っていく、その頃には冷凍コンテナにサンプルの魚の移送は完了していた。
「じゃ、ソデス国王に報告に行かないとだな?」
「了解、ジーナちゃんはこっちだ」
「勿論隣によね?」
「席は空けてあるよ」
ルーガはそう言いながらジーナの手を引いてピックアップトラックの助手席までエスコートしていく。
「・・・アツアツねぇ」
「そうだねぇ」
その様子をミヴェルマンとツェルナが見守る。
「ファルマン様!私も隣が良いです!」
「・・・好きにしてくれ」
「・・・あらあら」
「・・・なんだ?二人してその微笑ましそうな顔は」
「何でもないわぁ?後ろ、失礼するわね?」
「そそ、早くしないとお魚の鮮度落ちるよ?」
俺の車の後席にはツェルナとミヴェルマン、助手席にはシルヴァが乗った。
銀河最高峰の医学研究者と俺やルーガは・・・さておき、ステラー王国の王女がこの車列に居る、海兵隊の一部に厳重に守られながら空港を出ると大きな城壁が見える。人類が宇宙進出はおろか、車も馬車だった頃の古い街を再現したような物で、建設その物も手作業、大部分が工事中の王都エストムニア、ステラー王国全人口分の住居は既に完成しており、現状大都市とする為の不必要な建物の建設が多く進められて居る、推定20万人が暮らせるシステムを構築しているが、既存人口は2万人にも満たない小国、全ての建物に人が入るまでには最低でも百年はかかる、その頃には立て直しである。その為、50年後に増える想定人口分の余剰建物を今は建築している、だが用意した土地に反して人口が極端に少ないのには変わりが無い、外郭のほとんどの土地は立て直し用の建材倉庫を建設する予定だ・・・ただのスペースデプリの押し付けでもある。
街の様子としては基本的に石作りの街並みをしている・・・が、インフラについては最新鋭、水道と電気は完備、景観を損ねぬように全て地下に埋没している、その為マンホールがあちらこちらに存在する。
車道だけが茶色い着色アスファルト、それ以外は全て石畳と多少の妥協はあるが、これにより車も快適に通行出来る、信号機もあるのでさしずめ古い街に車も通れるように改良を加えたような街とも言える。流石に石材関係は現地調達、その手の技術も元帝国兵が全部持っていた。なぜなら徴兵された者の前職はこの世に存在する職業のほぼ全てからである。
建物に関する知識も大体揃っているので、景観重視でありながら鉄筋コンクリートか木造で建物を作る技術も普通に持っていた。おかげでまるで街全体が石作りのようでこれがまた異世界感を醸し出している。その中でも一番目を引くランドマークが都市の中心部にある。これこそが王宮、ステラー王国の中心地である。
「ずいぶん立派なもんだぜ」
「これはマジの石作りだろ?」
「いや?鉄筋コンクリートだぜ?」
「・・・ああ、そう」
立派な車寄せに車を止めるとソデス国王の家臣が出迎えてくれる。ただ広い王宮、そしてオール電化だ。案内された所は王の間である。
「ソデス国王陛下、ファルマン ネドリー様がお見えになられました」
家臣がそう言う。帝国軍人は綺麗に並んで敬礼、民間人はひとまず膝をついて頭を下げる・・・が、クソトカゲはお構いなしにその辺をキョロキョロしている。
・・・コイツ、自分の国の偉い人の前でもこんななのか?
とりあえずエルムンドドエルの足を蹴り飛ばして強制的に頭を下げさせる。
「何をする!」
「・・・黙ってろ、一国の王の前だぞ?」
「なぜ足をけら・・・ふごご」
「黙ってろって言っただろ?」
エルムンドドエルの上あごを床に押し付けて口が開かないようにする。
「顔をあげよ、そこまでかしこまらんでも良い、所でファルマン殿、結果はどうであったか?」
「はっ、結果としましては、我々人類が持ち込んだ海洋生物が既に定着しております、本日お持ちしたのはその一部でございます、漁業での外貨獲得も夢ではございません」
そう言って一度リーサの顔を見る。リーサが頷いてハンドサインで他の海兵達に指示を出し始めた。後ろが慌ただしくなる。
「なるほど、見た事が無い種類が豊富だが・・・食用出来るのかね?」
ソデス国王が海兵隊の動きを怪しみながらもそう聞いてくる。その間に今日の献上品がテーブルと共に目の前に用意された。
「おおよそほとんどの品種は何らかの形で食用に出来ましょう。そのサンプルとして、いくつかの料理を今晩ご用意いたしますがいかががなされましょう?」
手のひらで紹介するように見せる、ソデス国王は興味津々だ。
「是非とも試食してみたい物だ、今宵は試食会を開催しよう」
「そのように、手配いたします」
そう言って頭を下げる。
「良かろう、そして私はファルマン殿に話がある、他は下がらせてくれ」
それを聞いてルーガが立ち上がった、全員が王の間を後にした。
「さて・・・・話と言えば、シルヴァはどうかね?」
・・・シルヴァ?
唐突にそんな事を言われて唖然とした、バーボン星系の戦況は・・・だとか、今後の都市開発計画だとか・・・もっと国政に関わる事だと思っていたのだ。
・・・とは言え。
暇さえあればネドリー運輸の事務所でお茶くみや昆虫族の子供達と遊んでいるとは言えない・・・さあ、どうする?
・・・そうだ!
「我々のステーションで異文化に触れ、常に新しい事に挑戦しておられます」
・・・と言っておけば彼女の立場もおおよそ安泰だろう、とはいえ王女の近況は護衛を通じて王の耳に入っているはずではある。
その言葉を聞いて、ソデス国王は大きく溜息をついた・・・どうやら護衛から報告はある程度行っているようだ。そうとなれば何も弁解は出来ない。
「・・・女として、どうだ?と、聞いているのだ」
・・・女として・・・?普段から遊んでいると聞いているが、ランザールに呼び戻す事も考えねばならぬとか言い出すとでも思った・・・いや、異星人の男と遊んでいると解釈されたか?となれば下手な答えは出来ない。
「・・・異星人としても大変・・・魅力的ではありますが・・・異性関係は特に無いご様子のようにお見受けします」
だがソデス国王の不満そうな顔はさらに悪化するばかりだ。何がマズかった?
「・・・これは、私からも何か言うべきなのだろうか?アイシャよ・・・」
ソデス国王は肘をつきながら女王の椅子へ問いかける。ステラー王国の女王は既に亡くなっている、この椅子とその上に置かれたティアラも女王とは全く無関係の飾り物だが、形式上置いてあるのだ。これはズァパリ民国王家の風習由来である。
・・・回答を間違えたか?しかし、男が居るとなれば国政に大きくかかわる大問題、シルヴァの婚約相手は慎重に選ばねばならないのは確かである。
・・・間違えては居ないはずだ。
どこの馬の骨かも分からない男と恋愛関係があってはならない・・とはいえフルジア王国の富豪は銀河的には成金ポジション、おまけに帝国の富豪を紹介出来る人脈が無い、元帝国軍人に至っては平民でしかない・・・たぶん。王族の血統を守る為ならばステラー王国人の間でなんとかすべきである。
非常に悩ましい無言の時間が流れる。
「・・・もう少し、娘を女として見ても・・・良いのだぞ?」
「いえ、シルヴァ王女殿下様のご相手はステラー王国国民であるべきだと、私は思います」
「・・・あくまでも、貴殿の考えはそうなのだな・・・いや、引き留めてすまなかった、夜会まではゆっくりなされよ」
「承知しました」
・・・だがソデス国王の悩み顔は解消されない。追い出されるように王の間を後にした。
扉の横にはシルヴァが立っていた。
「父上とのお話は終わりましたか?」
「ああ、皆は?」
「大応接室にてお待ちです、こちらです」
シルヴァに手を引かれて連れて行かれる、しかし何も会話が無い。だからこそソデス国王のあの顔を思い出してしまう。
・・・女として・・・か。
確かに容姿端麗、物事への覚えも早い、女性としては誰もの理想だろう。王族で無ければお付き合いも真剣に考えたいくらいである。
・・・逆に問う、ソデス国王は王女を異星人と結婚させて良いのだろうか?
仮に異星人間の結婚に無頓着とする、しかしながらステラー王国は村と言う形である程度派閥が分散していた、当然村の間で多少は権力争いも存在するはずだ。そうでなければ村の防衛戦士など存在すらもしないはず、あくまでも今のステラー王国はネドリー運輸の調査団が最初に出会った村の村長を勝手に国王に仕立て上げてしまったから周りの村が流されるように一つに統合されてしまっただけなのである。現状各村の村長ポジションの人達は家臣として国家運営に協力してくれているとはいえ、いずれは別の街を作り、独立する気があるようだ。
・・・だが、そうなれば・・・。
首都エストムニアは人口300人未満のゴースト都市になる訳である。ただでさえほとんどの建物が張りぼて同然なのだ。ルーガが説得にどれだけ苦労した事か・・・とは言え、各村の村長とその側近クラスの人達は現状は貴族の地位にある。人間族と同様の身分の差は無かったものの、他種族の貴族のあり方としてまずは貴族街に大きな屋敷を与えられている。身分の差を作るつもりと言うよりかは景観的都合で貴族街が出来てしまったが、いずれは格差になって来る事だろう。その貴族身分には勿論息子娘が居る、当然政略結婚が発生するはずだ、シルヴァに求婚を申し込む家が普通出てくるはずである・・・シルヴァと結婚すれば、時期ステラー王国の王位に就けるのだから。顔こそ知らないがどれくらい居るかは大体知っている。有力者は2名、それぞれの家臣も含めれば20名くらいと言った所か、薬革命前は非常に短命である事や、種族としての歴史は100年ほどなのである程度の世代交代のサイクルが同じなのか、歳の差はほとんど無い、ほとんど全員が婚期と言える。
結局なんの会話も無いまま応接室にたどり着いた。本来は各国の代表などと挨拶を交わす場所、ひと際大きい空間、大部分はメディアを考慮してスペースを取ってある。記録官の机や国賓向けのテーブルやソファなどがある。そこに料理担当では無い人が居た。
「ようやく戻って来たか、ソデス国王の相談役殿?」
「・・・誰が相談役だ、ルーガさん、アンタの方がステラー王国の国政にかなり肩入れしてるんだぞ?」
「俺はアンタの所の子会社だぜ?うちのグループの元締めはアンタだ」
ひとまず案内された部屋の窓から外を見る。ファンタジー世界に近代的な重機や足場が存在している違和感が一望出来る。現状ここより高い建物は無いが、いずれは超高層ビルで一望する事は厳しくなるかもしれない。これは何処までステラー王国が景観を残していくかにもよる。
「・・・で、なんの話だったんだ?」
「・・・シルヴァ王女殿下のご結婚についてだ」
「・・・あー・・・そう、そんな年頃なのか」
「元々短命だったんだ、13歳でお見合いも自然な流れだろう」
「・・・俺は、深く関わらんでおこう」
「そもそも異星人として静観すべき案件だ、これ以上内政に絡めば民営国家になりかねん」
「うちは民間だからな?・・・そうも言い難い物がその辺に沢山あるけれどな?」
「・・・あれはただの自爆スイッチだった物だ、そのうちステラー王国に譲渡する代物だろ?あんなもの民間じゃ何も役にたたない」
ルーガと一緒に夕日が落ち切った空を見上げる。惑星の衛星としてはかなり小さすぎる球体の人工物が輝いている、皇国設計の要塞ステーションだ。今ではもうほとんどステラー王国軍の造船所となっているが、ステラー王国軍の中核となる要塞でもある。その疑似惑星衛星からちょっと離れた所に交易ステーションと言う名目で建造したコロニー型の資材置き場が浮いている。ステラー王国の総人口からしても5世紀くらいは不要の産物、帝国のリコリスⅡ国際ステーションとほぼ同等サイズを誇る超大型コロニーである。見かけだけはもうフルジア王国以上の大国家・・・まるでうちの会社じゃないか。
フルジア王国ではもう大手の大企業と名乗っても良い頃合いだが、会社の資本としては未だ新品の中型貨物船を買うローンが組めるようになった程度、新造しているER-3000Cは?・・・あれは建造代行させているだけ、材料から部品まで全て持ち込みの特殊なケース、未だに大型貨物船を新規に買えない会社なのだ。そう、グループ内で人材過剰の負債を相殺して数十万クレジットの黒字しか出ていないのだ。全くボランティア精神溢れる会社で困る。
しばらくすれば外は真っ暗、居住しているエリアが明るいがそのほかは暗闇、ステラー王国の人的に言えば要塞ステーションが出来たおかげで夜が若干明るくなったと言うが、たかだか直径300kmの極小衛星の表面反射、ほとんど変わらないだろう。
そして夜会の時間が近くなるにつれて外が慌ただしくなる。夜会と言っても突発的な物では無かった、海洋調査と言う名目でシルヴァ王女殿下が帰国する、その為に準備がされてきたと言う訳だ。
・・・これから行われる夜会とは貴族となった有力者の息子達とのお見合いの場と言う訳である。
場所は大きな催事場に移る。会場には数々の魚料理が並ぶ、大概は王宮の使用人をしている元帝国軍のクローン兵が調理した物だが、元戦闘用クローンなので料理知識が無い、そこで料理が出来る人達が中心となって調理した、勿論大概は帝国料理だ。
家臣達も息子娘を連れて会場に入って来る、誰もが美男美女だ。全員にワインが配られソデス国王の合図で乾杯と言う流れだ、そのソデス国王が催事場の奥から姿を見せる。
「本日はネドリー運輸主導の我が母星、ランザールの海洋資源調査の結果を皆に知らせたく、このような場を用意した。ランザールの海洋資源は創造主の星の物と同様の種類が生息していると見られ、これらは食料源や収入源としてとても価値のある物である。本格的な海洋資源採取に向けて、まずは国政に関わる者達の口で判断して欲しい、それでは今後のステラー王国の発展を願い、乾杯」
「乾杯」
会場の人達がそう言いながら飲み食いを始めた、乾杯の音頭を取ったソデス国王の隣に居たシルヴァ、いつになく不安そうな顔をしている。あくまでも海洋資源の調査報告をする為の夜会・・・という名目なのだが、非公式にお見合いの謁見会にする事はおおよそ検討がついていたのだろう。
ソデス国王に会場を見て回ると言っているような仕草をして階段を降りてきた、直ぐに家臣達の息子に囲まれてしまう・・・のだが、息子が居るなら娘も居るのだ。いつもの動きやすい戦闘服のような半袖短パンスタイルか、ワンピースの民族衣装とはまた別で露出の激しい衣装ではあるが、娼婦のドレスとはまた違う独特なデザインのドレスを身にまとった女性達が俺を取り囲む。・・・コネ作りか?
「お初にお目にかかりますわ、わたくしはフォン・ヴァレンティア財務大臣の娘、リーリア・ヴァレンティアと申しますわ、日頃より我が国の為にご尽力頂き感謝しきれません、父から、ファルマン様はまだ独り身でいらっしゃるとお聞きし、是非ともわたくしをお傍に置いて頂きたくご挨拶に参りました」
「私はヴァテリア・グラコッツ防衛大臣の娘、ボヌア・グラコッツだ、貴殿の私兵には日頃の惑星防衛からわが軍への戦闘指導まで常に世話になりっぱなしである、是非とも我が体を貴殿に差し出したい」
「エストムニア市長、フォビアン・アシュトンの娘、アーシャ・アシュトンとクリナ・アシュトンです、街の工事で非常にお世話になっています。姉妹共々よろしくお願いします」
4人の美女がすり寄って来る、だがまだ16人も居るのだ、しかもかなり重要ポジションのご令嬢が多いじゃないか!?
「あー・・・えーっと、初めまして、ネドリー運輸社長ファルマン ネドリーと申します、その節は商材の確保と戦争での難民の雇用、宙域航行に支障が出ている廃材の利用先のご提供に常日頃から感謝しております・・・まずは他の大臣のご氏族に声をかけられては?」
そう言いながら後ろに下がっていく、すると背中に柔らかい感触が2つ感じる。
「その・・・リーサ ファルマイン・・・様?」
酷い目つき、リーサの胸が背中に当たっているのだ。
「・・・テティア女王陛下といい、ルシャーサ女王陛下といい、ミヴェルマン、そしてシルヴァ王女殿下と言い・・・貴方は少し女をたぶらかし過ぎのようね?」
「ファルマンちゃん・・・浮気は良く無いわよぉ?・・・別に婚姻関係に無いけれどぉ・・・」
ミヴェルマンも居る、こちらに関してはどうでもいいと言った感情のこもった笑顔だ、しかし昆虫族は元々愛を一生引きずる物・・・これはこれで逆に怖い物がある。
「え?そもそもパパと私に医学的関係性が無いじゃん、生殖能力に互換性が無ければママ達とは結婚できるとは言えないよ?・・・と言うか私も将来的にパパにお世話になるんだし、婚姻関係があると余計めんどくさくなるぅ!」
「そうなんだけれどもぉ・・・異種族恋愛って難しいわぁ?」
流石最愛の娘!昆虫族からの医学的根拠の難しい愛に関しては釈明はしてくれる。
「・・・でも、パパはリーサさんとシルヴァさん、どっち選ぶの?と言うか、エルフ族の人に人間族の血入れて大丈夫なの?」
そう言ってクズ人間を見るような目をしているリーサを差し出してくる。相変わらず完璧なボディーライン、何処かで見た事のあるドレスを完璧に着こなしていた。
・・・割とドストレートな事をサラッと言う事も困り物である。
「俺自身からは何もしてない・・・んだがな?そう、所詮ただの商人だ!それも弱小!顔が良いとも言えないぞ?」
「・・・へぇ?」
リーサに帯びる恐怖を煽るオーラがさらに肥大化するように感じる。その後ろからツェルナがひょこっと顔を出す。
「そーいえば、いう事無いかなぁ?」
そしてリーサのスカートを軽く持ち上げてユラユラ揺らす、黒いドレスのスカートは絞りの効いた娼婦が身に付けそうな物、あまり余裕が無く、ただでさえ白くて綺麗な肌があらわになる。
「・・・そのドレス、似合ってるな?」
「・・・オーエンスに載っていた物よ・・・懐かしいでしょ?」
リーサは突然目を逸らしながら顔を赤らめた、それを聞いてツェルナがニヤァと不思議な笑みを浮かべる。ツェルナは俺とリーサを一体どうしたいのやら・・・?
「ほう、エルフ族の娘と交尾!実に結果が気になる所じゃのー?安心せい、ほとんど人間の体だったし、交尾その物は出来るぞ?」
だがクソトカゲ、ワイン片手に余計な事を言い出す。
「・・・こんの・・・クソトカゲェェェ!!」
「わー!!」
「ちょっとリーサさん!ストップ!」
ミヒィ・・・!!
ツェルナが引きずられていく、あの意外に力持ちの昆虫族をもってしても抑えられないリーサはエルムンドドエルの追撃を開始した。
「と言う事は、エルムンドドエル博士の研究の為に我が体、是非ともご活用ください!」
「これも我が国の発展の為ですわ!」
「少しでも国の人口を増やす為にも、是非ともわたくし達とご婚姻を!」
ボヌア、リーリア、アーシャとクリナが目をキラキラさせて体を密着させてくる、ミヴェルマンはあらあらと言うだけだ。こうなれば親から考え直すよう言い聞かせてもらう他ならない。近くにはフォン・ヴァレンティア財務大臣が夫婦で料理を楽しんでいた。ちょうど良い!
「ヴァレンティア財務大臣!」
「おお、これはネドリー殿、我が娘はお気に召しましたかな?リーリアもネドリー殿の事を聞いてすっかり我が国の男性に興味を失ってしまい」
「この夜会はあくまでもシルヴァ王女殿下のお見合いの場であって、私はお見合いの対象では無かったのでは?」
「・・・何をおっしゃるかと思えば、そのような事でしたか、我が国では貴方は創造神に等しい存在でございます。どの大臣も娘が居れば是非とも貴方様に差し出したく思っております。人口も都市計画に反して1割も無いのです、少しでも子を宿して頂かなければ」
「私は異星人ですよ?今後のステラー王国の為にも良くありません」
「・・・困りましたねぇ・・・そう言えば、我が国の人口割合をご存じで?8割が女性でございます、元々我々は男児の出生率が低い傾向にありまして、婚姻に至らなければ、父親が自身の娘を孕ませる事も日常的でございました。我が娘、リーリアも近々私の手で孕ませなければなりませんでしたので」
「・・・お父様とは・・・嫌ですの!」
「そうだ、私ももうじき処女を父親で散らす頃合いだったのだぞ」
「いくら一夫多妻制でも一人の殿方が抱える女性には限度があります・・・」
それ以外にも私も私もと後ろから声が次々聞こえてくる。不安定個体ゆえの弊害だろうか?
「ですので!」
リーリアがベッタリ抱き付いてくる、そして顔がどんどん近くなってくる。
・・・そして唇が重なった・・・ねっとりと長い、聴覚が消し飛んだかのように周りの声も聞こえなくなる。
・・・だが、駄目だろ?こんなもの・・・。
薄っすら目を開くと目が合った、その瞳孔がおおきく開いたかと思えば、腕を強く引っ張られる、目の前にはボヌア、リーリア、アーシャとクリナの姿・・・じゃあこれは誰?シルヴァだった。
シルヴァに連れられて宮殿の庭へ、宮殿全体に灯があるおかげてとても花が多い庭だと言うのは良く分かる。
「シルヴァ・・・あんなことして良いのか?」
「私だけを見てって・・・頼みましたよね・・・?」
シルヴァな涙目だ。
「昼の事か・・・?」
「ファルマン様が何人妻を従えようとも文句は言いません、ですが、一番は私にしてください!」
「だが、俺は異星人だぞ?」
「私は医学的には貴方とおおよそは同じ人種です、そうであればおおよそ同種の結婚も許されます・・・エルムンドドエル博士に問いかけてみればよろしいかと」
「そもそもなんで俺なんだ?他の大臣の息子の方が容姿共に良いだろう?」
「それは・・・あの時から・・・」
「あの時?」
「なんでもありません!父上に正式な交際を報告しに行きましょう」
「それはまずい」
「・・・一緒のベッドで一夜を共にした仲ですよね?」
「・・・それは・・・だな?」
またシルヴァにキスされる、そして勢いよく腕を引っ張られた。
催事場に戻れば直ぐにソデス国王の前まで引っ張られる。
「父上、わたしはファルマン様と婚約します」
「それは良い知らせだ、私も何か言うべきか悩んでいた」
ソデス国王は胸を撫でおろして安堵する。
・・・もしや、ステラー王国王家は異種族婚姻を了承していた・・・?
確かに建国間もない国家・・・とも言えるこれまでの伝統や秩序はほとんど無い。
「しかし、問題があります」
「問題など特になかろう?私と貴殿の歳の差はほとんど無い、遺伝子安定剤のおかげで我々は貴殿らと同じ寿命を手に入れた、貴殿の疑問は我が娘と婚約した時、王位継承が発生し、我が国が貴殿の会社の国と同等となると言う点であろう?貴殿がこの国の国王となる頃には我が孫が継承の頃合いとなる頃だ、つまり貴殿は望まない限りは国王となる事は無い、安心して会社運営を続けると良い」
「・・・最初からそれを考慮して?あんな話を切り出したと・・・?」
「当然であろう?それに我が国は貴殿にかなりの恩がある、王女を嫁がせるくらいは当然の事、それに娘も元々その気であった。ファルマン ネドリー、我が娘を頼む、婚姻の儀は準備が整い次第連絡しよう」
「えっ・・・ちょっと!」
しかしソデス国王は聞いていないように笑い声を上げながら人影に隠れて行った。
・・・これは、まずい。
デレデレなシルヴァの顔を見る。容姿淡麗は当たり前、今まで恋愛感情は押し殺して来たと言うのにソデス国王にまでそう言われてしまうと急に我慢ができなくなる。
ガシャン。
後ろでグラスが割れる音がした、落としたのはリーサだ。リーサはうつむき、催事場の外へ走り出す。
「・・・リーサ?」
これは明らかに俺とシルヴァの関係に対してだ。リーサを追おうとするもシルヴァに止められる、ミヴェルマンが悩ましい顔をしながらも跡を追ってくれた。そしてツェルナがこっちに来る、浮気に関してのお説教タイムと言う事だ、正確にはリーサを選ぶのが遅すぎたと言う事についてである。
リーサ ファルマイン、ネドリー運輸の社員の第一号、一番長い付き合いの元帝国軍人である。会社を大きくする事を優先するがあまり、彼女からのアプローチを時期じゃないからと無視し続けていたのである。正直まだその時期にも達していない、会社こそビックカンパニーにはなったが売り上げは未だ弱小その物、会社が軌道に乗るまでは恋愛に現を抜かす暇が無いと思っていたのだ。
「いよいよ臨床試験じゃの?今夜か?今夜かの?少しデータを取らせてほしいの?」
「・・・何処から湧いて出た、クソトカゲ」
「なに、既にシルヴァの卵子とリユンの精子で受精が出来る事は確認出来ておる。遺伝子検査の結果、不安定遺伝子の安定化効果が期待出来ておる、後は実際に孕ませて無事に産めるかまで検証したいの?検体の数も出来るだけ多く欲しい!と言う訳で他の令嬢も孕ませろ!ファルマン!」
「急にその辺から生えてきて何を言い出すと思ったらドエルさんんん!?」
ミキィ!
ブチギレツェルナがエルムンドドエルの尻尾を踏みつけながら首を締める。
「ふごごご!!!」
「・・・オイ、クソトカゲ、最近シルヴァ王女殿下の体でかなり色々な実験をしているようだな?」
「わたくしはまだ処女でございます、ファルマン様」
「シルヴァ、何をされたかまでは今聞いていない」
「医学研究者として、エルフ族の不安定な遺伝子の改良をしてやっておるのだ!放せ!放せぃ!」
エルムンドドエルはその場で高速回転、ツェルナを尻尾で吹き飛ばして尻尾を抱えながらひえーと言いながら逃げ出した、残念ながら尻尾の切り離しにまでは至らず、そして昆虫族のツェルナでも、あの尻尾の攻撃には叶わなかった、気絶しているようだ。
・・・ンミィィィ・・・。
とりあえずツェルナに駆け寄る、王宮の医務室に運ぶ事となった。この後、クソトカゲは海兵隊の手でしっかり捕獲された。
「大丈夫か?ツェルナ」
「・・・どういうつもり?・・・パパ」
「・・・なぁ、俺らであのクソトカゲの尻尾を切り落としてやりたくないか?」
「それは同感だけれども、血縁関係が無いとは言え、扱いとしては娘の前で17人の女をはべらせているのもどうかと思うけれどなぁ?」
「・・・まぁ、それは私から説明しよう」
ご立腹なツェルナの前にヴァレンティア財務大臣夫妻が割って入る。
「そもそもはソデス国王陛下は我々の不完全な遺伝子構造の改善をエルムンドドエル博士に依頼していました、その検体としてシルヴァ王女殿下がリストーン星系の研究ステーションに滞在する形を取っておりまして、その結果こそが我々の遺伝子構造を生を成した時点では変える事が出来ないと言う結論でした」
「そりゃ無理でしょ」
ツェルナがヴァレンティア財務大臣を睨みつける、ヴァレンティア財務大臣の妻が大きな胸にツェルナの頭を埋め、頭を撫でながら警戒を解こうとしている。
「ですが、次世代からは遺伝子安定剤を使用せずとも良い体にする事が出来る、その解決策が人間の遺伝子と特殊な薬を一緒に取り入れると言う事です、この話はステラー王国の今後に関わる話で、国家一丸となって一度遺伝子修正を行う方針となりました、しかし割合的には同族とは言え、異星人の子を宿すなど国民にはかなりの抵抗がございます。そこで国民への理解を深める為にも我々の娘を臨床実験に差し出す運びとなったのです。勿論シルヴァ王女殿下もその中に含まれます。実験には数が必要との事ですので・・・」
「・・・そんなの、親としていいに決まっているの?」
「どのみち女性に偏る出生率、子孫を残す為、最悪は親自ら子を孕ませなくてはなりませんでした、その選択肢よりかはまだまともな選択と言えましょう、それにファルマン様は信頼出来るお方です、むしろ創造主とも呼べるお方ですので娘達も積極的になっておられます」
「・・・それで、ステラー王国の殿方はどうなるの?」
ヴァレンティア財務大臣の言葉を聞いてさらに女性達に体を密着させられているファルマンを睨みつける、ファルマンは目を逸らした。
「それについては心配要りませんぞ?逆もしかり!我が国の男児は人間族の娘と性交すれば結果は同じ!ツェルナ様の心配は必要ありませぬ!」
グランゴッツ防衛大臣がドハハと笑う。
「ま、人間族に近しい子が生まれるだけじゃのー?根本的な解決にはならぬが、また別種族が出来る場合もあるのー?」
「・・・ドエルさん?」
「ひえー!」
エルムンドドエルは逃げようと必死に走るが海兵隊の束縛からは逃げられない、そう言えばマイラとヤシマ中尉、海兵隊にも女性が居ない。
・・・もしや?
ツェルナはベッドから起き上がって催事場に戻ろうとすればマイラとヤシマ中尉はそれぞれ口説かれていた、リーサは催事場で酔い潰れていた、数々のイケメンにこそ囲まれているが、彼らは全く相手にされていない、ママがあらあらと背中をさすっていた。
「・・・ひとまずヴァレンティア財務大臣」
「何でございましょう?」
「・・・私意外じゃ、駄目ですか?」
「ルーガ様は既にご婚姻関係にあるとお聞きしたので、ご家庭環境を崩さない範囲であると・・・ファルマン様他ありません」
「私じゃなくとも、上にはもっと優秀な人間がおりますが・・・」
とりあえず小さく光っている皇国要塞ステーションを指さしてみた、それこそ、リユン少佐など優秀な仕事人がうちの会社にはかなり居る。だが、その言葉で、何故わたくしでは駄目なのですか?とか全員妻にしてしまえば良いではありませんか!とか一夫多妻制特有の声が上がる。
「ひとまずはお気に召した娘を連れて行ってはございませんでしょうか?」
ヴァレンティア財務大臣はニッコリ、結局はあの後ツェルナを医務室に運び込んだ大臣と市長の娘、そしてシルヴァが研究ステーションまで付いてくる事になってしまった。
「・・・好きに使ってくれ」
気が付けばルーガに用意されていた高級住宅地の一等地、その中でもひと際大きい城のような邸宅にボヌア、リーリア、アーシャとクリナを連れて行く、エントランスには段ボールの山と一人暮らし向きの家具家電が埃被っていた。そう、お前の家だと鍵を渡され、勝手に引っ越しさせられてから一度も来た事が無い屋敷なのである。庭は荒れ放題、新築なので窓が割れているとかそう言った経年劣化こそ無いが全体的に埃被った空間が広がっていた。家具は既に備え付けられている。
・・・しかし、誰かに押し付けたい。
従順で全てにおいて完璧な美少女達、落ちない男など居ないだろうが、フルジア王国では一夫多妻制は王族でない限り認められていない。リーサの事も気がかりだが、うちの部下達にも花を持たせてやりたい奴はかなり居る。
「・・・司令官殿、話とは何でしょうか?」
まずはリユン少佐、実質総司令官の重役ポジション、ネドリー運輸が誇る仕事の出来るイケメンの代表格なのだが、彼には一つ問題点がある。業務量が凄まじく、休みが無いのである。勿論彼の下にもそれぞれに特化した部下が居るのだが、戦局をひっくり返したりとかが出来る天才達では無い、その点リユン少佐はどんな状況においても俺の判断無しで的確な予測をして事前にそこへ艦隊を待機させておく事が出来てしまう有能、しかしここ最近はドロイド艦隊に振り回され、休みも無くかなり疲弊しているのだ。
「ちょっと紹介したい女性が居てな?」
最近の栄養管理は職場からエレベーターで直ぐのヴェルグーリさんの店に任せっぱなし、その為やせ細ってたりこそはしていないが、ヴェルグーリさんからも従業員の扱いについて苦情が来ている、明確に労働基準法違反であるからだ。
「・・・ステラー王国人のようにお見受けしますが?」
「ステラー王国首都、エストムニア市長、フォビアン・アシュトンの娘、アーシャ・アシュトンとクリナ・アシュトンだ、仕事を増やして悪いがしばらく相手してやってくれ」
「このような美人をお二人・・・具体的には・・・」
「息抜きに一緒に飯を食いに行くとか好きにしてくれ、婚姻関係を結んでもいいぞ?」
「ファルマン様?わたくし達は貴方様と・・・!」
「だが、まだ婚姻関係には無い、つまりまだ貴方達はまだ独身である。そして俺の会社の警備部門の総括ともあれば、正直、俺より優秀なのは確実だ。有事の際は俺を通すより素早く行動に移せる、ステラー王国にとって、俺より魅力的な物件である事を保障しよう」
「その、指揮官の女性とそう言う関係は恐れ多く・・・」
「リユン少佐?貴方の歳ならそろそろ世帯を持っても良い頃合いだろう?それにあのクソトカゲの実験に何度か付き合わされたようだな?これも実験の一つと言う事だ、する時はこの薬を彼女らに飲ませろってよ、詳細は箱の中に入っているそうだ」
リユン少佐の前にクソトカゲが用意した薬の入った箱を置く、そして、何かの鍵を4つ置いて席を立つ。
「おまちください!」
アーシャとクリナが付いてこようとするが、それでリユン少佐がカウンター席から引きずり降ろされる、疑問に思った二人は違和感のある場所を触る、腰のベルトに南京錠とロープ、それがリユン少佐の腰のベルトにそれぞれ繋がっていた。さっきこっそり仕掛けたのだ、どれがどの鍵か混乱している間に会計を済ませ、ステーション間シャトル乗り場へ走ってそれに飛び乗った、次は15分後だ。
・・・これで二人は始末した。
殺してとかそう言う意味じゃないが、次なるターゲットはスギヤマ大佐だ、彼もとても勤勉で優秀、若者の指揮官勢の中ではリユン少佐と同じく凄腕メンバーだ。特にカトロニコフ大佐と共に行動すれば思い通りの戦局を簡単に作り上げてくれる。リユン少佐ほどでは無いが、彼もリストーン星系で色々な事をやらせている雑務艦隊の一人、船に住んでいるような物で休暇で研究ステーションに戻って来ていても船を降りる事がほとんど無い、これもアインザック大佐の一件以来の事、有事でも直ぐに船を出せるようにと船から全く離れないようになってしまったのだ。
・・・だからこそ、船から降りなければならない理由が必要だ。
正直どちらにしようか悩んだ。ボヌアかリーリア、ボヌアは父親が防衛大臣と言う事もあり、スギヤマ大佐を紹介しやすい、リーリアは非常に純情、一度掴んだら放さないと言う感じがする、つまりスギヤマ大佐を休日は船から引きずり下ろしやすいと言う事である。
だが、リーリアとは接点を確保する口実が無い。
ここはやはりボヌア一択だろう。そう考えて今回はボヌアを呼んだ。
「会わせたい人とはどのような者か!」
「戦術に優れた人に合わせたい、もしかしたらステラー王国の防衛能力の向上が期待できるかもしれないからしばらくその人と行動を共にしてくれ」
「より優れた戦術を学び、母国に持ち帰えれば良いのだな!任せて欲しい!」
ボヌアは目を輝かせる、しばらくしてオーエンスの隣にZB8型フリーゲートが降り立った。しばらくしてスギヤマ大佐が降りてくる。
「何用でありましょうか?指揮官殿!」
「今日は君に紹介したい人物が居る、ステラー王国のヴァテリア・グラコッツ防衛大臣の娘、ボヌア・グラコッツ、ステラー王国の軍事力強化の為、しばらく君に預けたいと思う」
「是非ともご指導ご鞭撻のほどよろしく頼む!」
ボヌアとスギヤマ大佐は互いに敬礼しあう。
「そのようなご用命でしたらお安い御用です」
・・・これは、惚れたか?
平然を装うスギヤマ大佐だが、顔が赤い、目がなんとなく明後日な方向を向いているようだ。
「・・・それじゃ、よろしく頼む、特に期限は設けていない、可能な限りで色々教えてやって欲しい」
「かしこまりました・・・そして、この箱は?」
「詳しくはエルムンドドエルに聞いてくれ、中には説明書が入っている、とある臨床実験に使うそうだ、待機の時とかで良いから後で中身を確認しておいてくれ」
「かしこまりました!」
・・・チョロい。
スギヤマ大佐は例の箱を受け取り、敬礼、そしてボヌアをZB8型フリーゲートへ案内していった。
・・・問題は、リーリア、彼女だけだ、出来ればシルヴァも押し付けたい所だが、有能でイケメンの若い男を知らない、パルサー大尉?あれはヤシマ中尉と出来ている。
いつもの事務所へ戻ればリユン少佐が厄介事を押し付けられた仕返しと言わんばかりに厄介な事件を持ち込んできた。セルルド星系の帝国軍前線基地が陥落したという一報だ。正直彼もまたしばらくは女遊びをする余裕が無くなるだろう。元々そんな余裕が無い?ネドリー運輸の警備事業とはそう言う所だ。
この事により主戦場はセルルド星系から帝国領地のレミア星系及びフルジア王国側のオロラ星系に移る事となるのだった。
ー銀河の常識ー
・リビューイ帝国
竜人系の獣人族所属国家、獣人族連合の代表国でもあり、銀河の中でも平均寿命がかなり長い種族でもある。
おおよそ容姿は爬虫類属と似る所があるものの、人類的に言えばドラゴンや竜と言った伝説の生物におおよそ似た種族であり、爬虫類属とは遺伝子的にもほとんど異なる種族である。
大変長寿な為、慢性的な人口過多問題を抱えてはいないが、比較的戦いを好む種族である。主食は肉であり、ズンドラ王国のようにズァパリ民国人を食べるような事は無い。




