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女騎士団長、アナスタシア・マーベル~あなた以外の愛ならいらない〜  作者: Alicia Nish
第二章:運命が紡ぐ未来

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40. 成し遂げたもの

『アナスタシアのしあわせ』のため、

キースランとカインは真正面から貴族院に立ち向かう。

それは、あの軍事会議の再戦でもあるかのように苛烈に展開されて――




「時間を無駄にしているのはあなた方だ。」


カインの立ち振る舞い(威圧)に、貴族院のメンバーが息を呑む。第一騎士団の二人はキースランに制圧されているようだ。騎士だというのに、ずっとうつむいたままだ。その様子を改めて確認すると、今度はまるで今思い出したかのように、キースランが告げる。


「大切なことなので、忘れる前に申し上げておきますが、この件に関して貴族院から了承を得られなかった場合、騎士団と陛下の承認で功績が認められることになっています。」


――まただ。この人はカードの切り方を知っている。


カインの身体が小さく震えた。これほど的確に、最善のタイミングで敵に致命傷を与える。


――この人は、恐らく騎士になったとしても優秀だろうな。


会議室を掌握したキースランに視線を合わせる者さえいなくなる。

その上でカインが合図を受け取る。


「本件は陛下の裁可を前提とした諮問案件であり、貴族院の判断は勧告に留まります。よって、承認されたということでよろしいですね。」


カインの言葉に、反対の声をあげる者はいなかった。


「それでは、この新制度確立に伴い、最初の功績授与者を騎士団長及び魔術師団より推薦したい。

 紅蓮龍(アグニシル)討伐後に除籍となったアナスタシア・マーベル元騎士団長に、紅綬褒章(こうじゅほうしょう)の授与と騎士団長復帰を。」


アナスタシアの名前に、保守派の貴族たちが一斉にざわつく。


「なにか問題が?」


カインの冷ややかな声が落ちる。


「重傷を負い、騎士を引退したのではなかったか」


どよめく貴族たちの中で、一人が遠慮がちにアナスタシアの近況を語る。

無意識に握り込んだ手のひらに爪が食い込むことにも気づかず、カインはその男を睨みつけた。


「マーベル団長は、第三騎士団と魔術師戦闘部隊を無傷で守り切り、その身を挺して炎を受け続けた――一歩として引くことなく、立ち続けたんだ。それを、あなた方貴族院は、調査もなしに不適格とし、騎士団から追放した。本来ならば、その責任の有無も問いたいところだ。」


カインの殺気が、一瞬で会議室の空気を凍らせた。

その威圧に、ほとんどの貴族が俯くことしかできずにいた。


「この件に関しても、陛下とは話が済んでいます。正当に評価される場を設けることで、団長を不当に解雇したことは不問でよいと仰せでした。この言葉が意味することを、よく考えてお答えくださいね。」


カインが満面の笑みを浮かべる。



――これは、想定外だ。


笑みを浮かべて陛下との密約を口にしたカインに、思わずキースランの感嘆の息が漏れる。



「これは第二・第三騎士団員全員と、魔術師団員全員の総意による推薦だ。これを無下にすることが、何を意味するのかを、重々理解してもらいたい。」


カインがさらに言葉を重ねる。


――やはりこの場は、彼にとっては戦場と同じなのかもしれない。


キースランの背中にぞくりと泡が立つ。最後の切り札を切ったのは自分だったはずなのに、最終局面でその場を制圧し、カインが本来の目的まで一気に切り込んだ。

鮮やかに勝利をもぎ取っていくカインの姿に、思わず笑みが浮かぶ。


「それでは、承認を陛下へ報告します。授与式は追って連絡されます。言動と行動には、くれぐれもお気を付けください。」


***


誰もいなくなった会議室に、キースランとカインの二人だけが残る。


「終わったな……」

「まだ、これからです。」


圧倒的勝利を収めたというのに、カインの表情にはその喜びが欠片も見当たらない。


「覚えておくといい。『王宮の戦場(ここ)』では、一つ一つの勝利を噛みしめるものだ。魔獣討伐と違ってな。」


キースランがカインの肩に手をやる。


「魔獣討伐とは違い、勝利で終わるわけじゃない。この先があるんだ。」

「……」

「人相手っていうのは、勝敗だけの単純なものじゃないからな。」


キースランが皮肉たっぷりの笑顔を向ける。


「抜けるときに、力は抜いておけ。それが、次への力になる。」


カインが大きく息をついて、天井を仰ぐ。

緊張を一気に解いたような長いため息を吐いて、キースランを見つめた。


「やはり、あなたには敵わない。」


一人では何もできなかった後悔は、どうしてもぬぐえない。


「大事なのは誰と為したかではない。何を成し遂げたかだ。今日、わたしたちは何を成したと思う?」


キースランがいたずらっぽく笑う。


「貴族院の可決よる騎士団制度改正と陛下による新制度承認……です。」

「大きな変革だ。」

「そうですね。でも、大公のお力添えなく成り立つものじゃなかった。」

「堅苦しい制度ばかり見ているからだよ。」

「えっ?」

「この新制度は何をもたらす?」

「……」

「シアのしあわせだろ?」


その言葉に、この法案改革の根底にあった『本来の意図』を思い出す。


「人同士の戦いは、魂がすり減るもんだ。大切なものも、簡単に見失う。」


何かを思い出したのか、キースランの表情が少しだけ翳る。

その憂いにも似た影に、歴戦の騎士たちの『心の傷』が重なる。



――この人が生き抜いた『修羅場』も、生命(いのち)のやり取りの場だったんだろうな。


カインは、経験値の圧倒的差を見せつけられて、やるせなさが募る。


「俺は何もかも足りない。男としても騎士としても、足りないものだらけだ。」


ついこぼれたカインの本音は、礼節わきまえない言葉だったが、嘘偽りのない心だった。


「それのどこが悪いんだ。足りないなら補っていけばいい。君はまだ若い。」


キースランの言葉に、カインが驚いたように目を見開いて苦笑した。


「あなたにはかなわない。」

「おいおい、そんなに簡単に追いついてもらっちゃ困るんだ。」


キースランが茶目っ気たっぷりに笑う。


「それに……わたしは君より少し、長く生きている……それだけだよ。」


その言葉に、カインはキースランがくぐり抜けてきたいくつもの『戦場』を思った。

そして、尊敬の念をもって、キースランに頭を下げる。


「あなたはやはり、すごい人です。ありがとうございました。」


――この素直で真っ直ぐなところが、無限の可能性に繋がっているんだろうな。


キースランには、そんなカインの若さが眩しく思えた。


「そういうわけで、シアはわたしが幸せにするから、任せてくれ。」


真剣な雰囲気をぶち壊す爆弾発言に、カインの肩がびくりと跳ねる。


「どういう意味ですか。アナスタシアを諦めたりしませんよ。」

「いや、この流れなら、君は敗北を認めるんじゃないのか?」

「ありえません。制度は整った。彼女は彼女の居場所(騎士団)に帰れるんだ。俺が彼女を迎えに行く。」

「共闘は終わりだと?」

「そうですね。」


キースランとカインが互いに睨み合う。


「……悪くない。」


余裕たっぷりに笑うキースランに、カインがふっと肩の力を抜く。


「俺は、ようやくスタートラインです。もう、間違わない。」

「シアはわたしにとって大切な人だ。簡単に渡す気は、ないよ。」

「わかっています。」

「もっとも、決めるのは我々じゃなくシアなんだがね。」

「……そうですね。」


いつの間にか部屋中が夕日に染まっていた。

並んで伸びている二つの影は、よく似ている。


「全力で向かうだけです。」

「そうか……」


カインは、真っ黒な軍服を身に纏い、一つにまとめた髪を揺らして戦場を駆けるアナスタシアを思い出していた。守ることを誇りとするその背中を思い出しながら、自分が『その誇りを守る方法』を知ったことを自覚した。それこそが、自分に足りなかった覚悟であり、間違いだったのだ。


――ようやく、あいつに選択肢を渡してやれる。


アナスタシアが望む未来の先に、自分の姿があるかはわからない。


――それでも、俺の未来には、あいつが必要不可欠だ。

  あいつがどんな道を選んでもいい。

  俺は、あいつの守る誇りのその隣に必要不可欠な存在になってやるさ。



戦場ではない戦いに勝利した二人。

共闘が終わりを迎え、

キースランとカインは再びそれぞれの道へと分かつ。


次回「君に逢いに行く」

新たな決意を胸に、再びアナスタシアのもとを訪れたカインは――

お楽しみに!

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