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女騎士団長、アナスタシア・マーベル~あなた以外の愛ならいらない〜  作者: Alicia Nish
第二章:運命が紡ぐ未来

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39. 戦場ではない戦い

弱さを認め、最大の強敵と手を結んだカイン。

その選択がアナスタシアの未来を変える。

愛する者のため、二人の男たちが貴族院という名の敵に立ち向かう――




王宮のある廊下で、カインはあの人を待っていた。

夜会から数週間、騎士団の任務と並行で騎士団改革の方法を模索してきた。


  ――打つ手なし


あらゆる可能性を考え、最終目標は定めたというのに、そこへの道筋が見えない。


「正攻法が足りないというなら、目的のために手段など選ばない。」


そのつぶやきが、待っている人を呼んだのかもしれない。

待ち人が廊下の奥から歩み寄ってきた。


「キースラン大公閣下。」

「時間通りだな。」


面会を希望したカインに、この廊下で待つように指示してきたのはキースランだった。


「覚悟が決まった顔をしている。」


――この人を前にすると、どうしても『盤上の駒』にされているような気がする。


カインは浮かんだ戸惑いをかなぐり捨て、拳を握りしめてキースランに向き合った。


「俺では力不足です。でも……書簡で説明したように、大公さまとなら成し得ることができると確信しています。お力添えを願いたい。」


カインが迷うことなく頭を下げる。

キースランは、媚びる貴族は嫌というほど見てきた。都合よく自分の政治的立場を利用しようとする輩も、掃いて捨てるほどいた。


――彼は……そのどちらでもないようだ。

  腑抜けた顔であらわれたら、そのまま素通りしようとも思っていたが……悪くない。


カインの瞳に灯る熱量に、成し遂げたい未来を見据えて迷わず進める力を感じる。


――だがここで、安易に頷くのも面白くない。


「わたしが協力するとでも?」


その若さを皮肉ってみたくて、キースランがわざとカインを挑発する。


「あなたのアナスタシアへの愛は本物です。」


――ここで笑ってみせるか。


キースランはカインの微笑みに不意を突かれた。


「この改革は彼女を幸せにできる。ならば、あなたは助力を惜しまないはずだ。」


確証の空気を纏い、カインの声が重みを増す。


「買い被りだと言いたいところだが……」


手にした書類にもう一度視線を落とし、ゆっくり笑った。


「確かに『これ』は、彼女の幸せにつながるな。」


互いを静かに見ているだけなのに、その周辺の空気は凍りついていた。

冷静さを装いながらも、カインの鼓動は耳元でどぐどくと大きく脈打っている。


「聞かせてもらおうか、君の言う『シアのしあわせ』というものを……」


***


キースランの参入で、カインが考えた騎士団制度改正案は劇的な変化を遂げた。


「机上の空論、理想主義では貴族院の議題にも上がらん。」


最初の案は、一刀断絶とばかりに即座に真っ二つにされた。


「貴族院への根回しは任せておけ。お前はこの改正案をマシなものにするんだな。」

「……根回し?」

「騎士らしい反応だ。お前たちとて、魔獣相手に無策では挑まんだろ?」


キースランが意味深な微笑みを浮かべる。


「魔獣討伐……ですか。」

「やることはたいして変わらないということさ。ただ、なまじ知恵があるだけ人間は少し厄介だがな。」

「嘘も妨害も、貴族院の仕業だったと……?」


どうやら何か思い当たる節があったように、カインが少し考えこむ。


「そういう煩わしい部分は、わたしが請け負うと決めている。案ずるな。お前の役目は」

「改正案にアナスタシアの功績を組み込みます。」


言葉の意味を理解し終えたのか、カインがキースランの言葉を終わらせる。


「もちろん、女性の功績とは気づかれないように」


そう言い切ったカインの答えに、わずかに口元を緩ませ、キースランが満足気に笑う。


「少しは()()()がわかってきたようだな。」

「身近に素晴らしい手本がありますので。」


皮肉というよりは、本心でカインが答える。


「まぁ、わたしの()()は少し大規模になる予定だ。もっとも、シアに害した者はもう|ここにはいない(王都追放だ)けれどね。」


――この人は、本当にさらりととんでもないことを言う。


ただ、この言葉が単なる脅しでないことも、カインはよく理解していた。

ここ数週間で、貴族院のメンバーが半分に縮小され、そのほとんどが王都で姿を見なくなった。


――怖い人だ。

  戦場とは違う戦い方があると示してくれた。


アナスタシアという共通の存在があってこその共闘……だが、これほどの人物が騎士団の改革に力添えをくれている。


――やり遂げてやる。

  剣では守れなかったものを、今度こそ守ってみせる。


手元の改正案には、アナスタシアの未来……しあわせがかかっている。


「魔獣相手の戦場というなら、慣れたものです。今夜中に改正案を書き直します。」

「正攻法はいらん。特徴を学び最も有効な方法に致命傷を負わせる――できなければ死ぬ(ゲームオーバーだ)。この法案で、最も重要な論点が『功績を現場に承認させる』ことだからな。」


カインが大きく頷く。


「君は、その代表だ。しくじるなよ。」


キースランは軽く手を振って騎士団の執務室を出る。

大公という立場でありながら、騎士団の詰所へ訪れては二、三、会話をし、改正案をぶった切っては執務室を出ていく。


「わたしがこちらを訪れる方が、怪しまれずに済む。君はいろいろと目立つからね。」


言葉の真意はわからないままだが、頻繁に騎士団を訪れている。


「しかも、騎士団制度改正を理由にしているのだから、つくづくこちら側(味方)で良かったと思う。」


パタンと締まる扉の向こうに消えた背中を思い出しながら、本音をこぼす。


「納得してもらえるものを、完成させるぞ。」


ばちんと両頬を叩いて気合を入れる。

胸の奥に、アナスタシアの笑った顔が浮かぶ。


――お前の居場所は俺が作る。


カインは、決意を新たに、再び机へと戻った。


***


   女性騎士の地位向上と権利保障

   騎士団内における男女平等権の行使

   女性騎士団長の法制化


王宮の重鎮たちが相手だというのに、キースランはまるで赤子をあしらうように、貴族院に次々と法案を承認させていった。


――もはや、反則だな。


その姿は、魔獣を蹂躙するアナスタシアの姿にも似ていた。

貴族院をやり込め、議題を騎士団員の功績承認へと移したキースランが、声を張る。


「ニコルソン団長、この改正案については貴殿からの説明を願う。」


――ここに第一騎士団長と副団長を呼んでいるあたり、抜け目がない。


ルーカスを亡くした時の軍事裁判がフラッシュバックする。

罵詈雑言の中、凛として真正面を見据えていたアナスタシア。

彼女の言い分を聞くこともなく、一方的に処分を決めたあの裁判では、第一騎士団のこの二人も、嬉々としてアナスタシアを貶めていた。


「主に功績授与ついて詳しく説明を頼もうか。」


キースランのよく通る声に、意識が現実(いま)に引き戻される。


「功績授与に関しては、騎士団長と魔術師団長の推薦をもとに貴族院での論議を行い、その功績価値は再び騎士団長と魔術師団長の承認によって功績授与が認められるものとする。」

「それこそ、時間の無駄だろう。」

「現場を知らずして、どう功績価値を決めるというのです。」

「魔獣討伐など、できて当然の職務だろう。」


騎士を馬鹿にしているような言動に、カインの頭に血が上る。


「ならば、貴族院の方々が魔獣の前に立ち塞がってくださるか?」


キースランが冷静に質問を投げかける。


「なっ!ふざけたことを」


――ははっ、なるほど。これが『王宮の戦場』ということか。


相手が感情的になったことを確認して、カインがようやく冷静さを取り戻す。


「我々の仕事の価値は、騎士団で決めさせていただきたいと、そう言っているのです。本来ならば、貴族院は無関係でも陛下の承認さえあればいいものなのです。」


カインの説明に、会議室は怒りでざわついている。


「時間を無駄にしているのはあなた方だ。」


よく通る声が響き、静けさが部屋の空気を重くする。

カインの立ち振る舞い(威圧)に、貴族院のメンバーが息を呑む。


   ――場の制圧


戦場で幾度も死線をくぐり抜けたカインの気迫に、正面から立ち向かえる者などいるはずもなかった。


王宮という名の政治的戦場で、

アナスタシアのしあわせのために

キースランは策を練り、カインは知性を武器に戦った。


次回「成し遂げたもの」

共闘の果てに、二人が手にしたものとは――

お楽しみに!

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