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女騎士団長、アナスタシア・マーベル~あなた以外の愛ならいらない〜  作者: Alicia Nish
第一章:騎士団長編

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12.騎士としての誇り




 「団長、出撃準備完了です!」

 「ご苦労。」

 「魔狼を目視しました。おそらく奴らがリーダーです。」

 「統率は?」

 「ガルムの群れを連れていました。」

 「群れ攻撃(パックアタック)……だな。」


 アナスタシアが少し考え込む。


 「魔狼の色は?」

 「それが……。」


 フィルが言いよどむ。


 「よくわからなかったか。」


 アナスタシアの言葉に、フィルが驚く。


 「認識阻害魔法だろう。だとすると、魔狼の正体はフェンリルとみてまず間違いないな。」


 素早く情報を整理し、アナスタシアが騎士たちに向き合う。


 

 「ガルムが王都に向かって襲撃を開始した。我々の目的は迅速な制圧。一匹たりとも王都へは入れるなっ!」

 「はっ!」


 気持ちいいほど統率の取れた声が返ってくる。


 「ルーカス、隊を四つに分け、各部隊につかせてくれ。遠距離攻撃と接近戦になった際の防御を頼む。それと、万が一に対応できるよう治癒ができる者……」

 「各隊に一名ずつ確保しております。」

 「助かる。任せた。」

 「カイン。」

 「小隊四つを、魔術師戦闘部隊と組ませてくれ。メインで正面の防御を任せたい。」

 「残りは?」

 「二小隊は左右から揺さぶりをかけろ。まずはスピードを落とす。」

 「団長は?」

 「お前と共に、フェンリルを撃つ。」


 力強い言葉に、カインがにやりと笑う。


 「わたしはあなたに付きますよ。」


 そこへルーカスが加わった。


 「お前……本気か。」

 「お二人の共闘を邪魔するつもりはありません。遠距離攻撃での援護と、対フェンリルに集中できるよう、集まってくる雑魚を処理します。」


 ルーカスの能力は十分に証明されている。

 先の戦いで、思いつきで行った最後の攻撃にも適切な判断をして合わせてくれた。

 共闘の時間は短いが、彼が戦況を理解し、先読みする力に長けていることに疑問はない。


 「頼む。」


 迷いのないアナスタシアの返答に、カインが一瞬、顔をしかめた。


 「みな、英雄になろうとするな。お前たちの命も等しく尊いことを忘れてはならない。」


 団員たちの目の色が変わる。


 「行くぞ、出撃!」


 その合図と同時に、各隊が一気に動き出した。

 

***


 王都の城壁を出ると、ガルムの群れの土埃が見えた。

 アナスタシアは深呼吸し、騎士団の先頭に立つ。

 心の片隅で渦巻く不安を振り切り、今は目の前の任務だけに集中する。

 魔獣たちは、待ってはくれない。


 ――わたしは大切な人を守る。


 剣を掲げ、先頭を切って馬を走らせる。

 できるだけ早く、王都から離れた場所を戦闘地点にしたい。

 

 フェンリルが目視できる射程内の少し手前で、二小隊に左右に離散する合図を送る。

 左翼と右翼に分かれた部隊には、信頼する同期がいる。

 右斜め後ろのカインと左斜め後ろのルーカス。

 二人もまだ余裕の表情だ。


 「ルーカス、正面突破だ。ついてこれるか?」

 「問題ありません。」


 魔術師だというのに、ガルムの群れに突入することに躊躇がないとは……。


 意外性に驚きながらも、その能力の高さに震える。

 カインと自分の戦いについてこれる魔術師など、期待することさえなかった。

 思い描く戦術の幅が広がったことに喜びを感じていると、ガルムの群れがすぐそこまで迫っていた。


 「我々が狙うは司令塔、フェンリル。邪魔するガルムのみを撃つ。」


 カインとルーカスに大声で告げた直後、群れの動きが変わった。


 「何っ!」


 王都までなだれ込むように突入するかと思われたガルムたちが壁のように立ちはだかる。

 アナスタシアも予定を変えて足を止め、続く部隊の動きも止めた。


 双方がにらみ合う形で、一歩も動かない。


 「団長、フェンリルの魔力を後方で確認しました。」

 「奴には認識阻害がかかっているのではないのか?」

 「仮にもわたしは、魔術師団の団長ですよ。」


 ルーカスが皮肉たっぷりに笑う。


 「さすがだな。」

 「恐れ入ります。」


 馬上だというのに、優雅に一礼する姿が憎らしいほどよく似合う。


 「それで、作戦は?」


 カインもルーカスも、アナスタシアの支持を待つ。


 「相手は高みの見物でもするつもりだろう。ルーカス、奇襲で驚かせてやれ。」

 「ルーカスの攻撃と共に、我々三人は真ん中を突っ切る。」

 「残りの部隊は?」

 「作戦通りだ。ここを防衛前線とし、守り切るように告げろ。」

 「はっ。」


 カインが素早く伝令に走る。

 ここからは一気に混乱するだろう。

 左翼と右翼はこちらの動きに気づいて身を潜めているようだ。


 「本当に優秀な部下たちだ。」


 アナスタシアのつぶやきは誰に聞こえることもなく落ちた。

 ルーカスは奇襲の合図を待っている。

 カインが定位置に戻ると、アナスタシアがルーカスに視線を送る。

 短く頷いて指先を軽く唇にあて詠唱する。

 空に掲げた指先から光が放たれる。


 同時にアナスタシアが駆けだした。


***


 一度の連携を経験した部隊は、互いの動きを活かし合い、驚くほどの統率力をもってガルムの群れを制圧した。フェンリルは闇属性魔法が使えたようだったが、ルーカスの光魔法の前にその威力は大きく抑えられた。接近戦での鋭い牙も爪も、カインの身体能力とアナスタシアの防御魔法の前に無力化され、三人の息の合った戦闘によって、脅威とされたフェンリルさえも、無事討伐された。




 コツコツと石畳の廊下を歩く。

 魔獣の王都襲撃を制圧した報告と、その襲撃に対する違和感を報告するために登城した。

 正直、王宮会議など煩わしいばかりだが、嫌な予感がぬぐえない。

 前例のない魔獣の目撃情報。

 違和感のある分布図――何らかの対処をしなければ、取り返しがつかない。


 そんな悪い予感がぬぐえぬまま、アナスタシアは会議場の扉の前に立った。

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