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二十四話

 灰色のコンクリートでできた、くすんだ人工の雑木林を抜けて白いゴミ収集車が走る。

 もう動かなくなってしまった廃車の渋滞をさけ、積もった瓦礫を迂回してひたすらにエンジンを吹かす。

 運転しているのはキロタイプエクゾスレイヴを身にまとった、幾多だった。

 幾多はハーミットキューブ捜索の際、残されていた抑制剤二本を懐に忍ばせていた。ムントに最初投薬してから二週間、効果があった抑制剤のうちの保管されていた二本だ。これなら、偽の抑制剤でないとわかっている。

 これさえあれば、まだミタカとムントを助けられる可能性は残っているのだ。

「アイオス、情報の集まり具合は?」

『場所の特定率は範囲ニ十キロ四方、まだ詳細なナビゲーションは行えません』

 アイオスが行っているのはネストをハッキングする情報収集、通信や情報のやり取りから今媒介者がどの付近を徘徊しているか検索しているのだ。

 探しているのはもちろん、ミタカとムントだ。

 アイオスと並行して、幾多もネストの通信に耳をやる。

 耳に入る情報によれば、現在の戦況は芳しくない。各地で媒介者の襲来を受けた施設は壊滅的な被害をこうむり。また、レイダーにも襲撃を受け満足に移動もできていないようだ。

 幾多の場合、ネストでレイダーの通信も傍受しており危険な地帯を避けるようにナビゲーションしているので安心して走れている。

 通信には媒介者を殺害した、ような未確認な情報も錯綜しており、各企業も捕獲をあきらめ殺害を含む対処的な方法に切り替えているようだ。

 そしてネストを通じて入ってくるのは有益な情報だけではない。媒介者に襲われているであろう悲痛な叫び、レイダーに銃弾の雨を降らされ恨むような怒声交じりの声、どれも直接聞くには堪えがたいものだ。

 幾多は舌打ちをして、通信による情報収集をアイオスに任せて自分は運転に集中した。

 ミタカとムントの居場所がわからない以上、今はいけるとこまで北東に上がり、二人の遭遇情報を待って再移動する予定だ。

 幾多は次のビルを現在のナビゲーション通り右に曲がった。

『警告、飛翔物体接近!』

 アイオスの突然の警告に、幾多が何!?と反応する間もなく、ゴミ収集車の左前方車輪で大きな爆発が起こる。

 そのまま車は慣性に引きずられながら横倒しになる。幾多はシートベルトで身体を固定していたため、投げ出されない代わりに車内で宙づりとなった。

 衝撃が収まり、幾多は自分の身に重大な欠損がないことを確認してから扉を思いっきり蹴破った。そしてすぐさまゴミ収集車を盾に、飛翔物体が飛んできた方向と逆方向の車の背後に隠れ、拳銃を抜いた。

 幾多が向こうの出方を待っていると、声が聞こえてきた。

「凩幾多。これくらいで死んではいないだろうな」

 やたら偉そうな、上から目線の声。幾多は、その声の持ち主が誰なのかすぐには判別できなかった。

「誰だ、てめえは。レイダーの一味か」

 幾多が車の陰から待ち構えていると、声はさらに接近してきた。

「お前にお抱えのメガタイプエクゾスレイヴを壊された貧相な指揮官だよ。あの時もそうしてこそこそしていたな、盗賊」

 そうして近づきながら語る内容に、幾多は心当たりがあった。そうだ。あれはタブチと共にレイダーの拠点を強襲した時の出来事だ。

 なら、相手はレイダーのリーダー、弐部誠一だ。

 幾多は腰に付けたキューブをばらまく。それは羽を広げ、索敵型のドローンとなり、周囲に飛び立った。ドローンが集めた情報はアポック内部で統合され、周辺の地形や人間の配置を立体的に把握することができる。

 そして得られた情報からすぐにわかったのは、姿を現しているのは一人だけだということだった。他に伏兵がいないか、ドローンは更に隅々まで地形のデータを取り始めていた。

「心配するな。お前ごときに人員を割く予定はなくてな。今回は私の独りよがりだ」

 幾多は弐部の言葉を信じるつもりはないものの、ドローンが収集するデータは確かに周辺に別の人影がないことを示していた。

 アポックのモザイク、のような高度な光学迷彩をすれば、そうでなくてもある程度の迷彩を施せばドローンの索敵能力を上回る隠ぺいを可能にするかもしれない。しかしそれでも、弐部一人だけが出てくるのはやや非合理な気がした。

 どちらにしろ隠れた敵を見つけ出せないなら、取るべき手段は二つに一つだ。その中に逃げの一択はない。

 幾多はゴミ収集車の背後から身をさらし、弐部と向かい合った。

 弐部は最初目撃した姿とは違っていた。黒いスーツを同色のキロタイプエクゾスレイヴに着替え、それは動きやすく洗礼されていた。そのデザインは幾多のような多目的型や作業支援型とは違い、軍用なのだと幾多は察した。

 幾多は口を開いた。

「どうして、独りで俺に会いに来た」

「私の仕事はもう終わったのでね。レイダーの目的は既に達せられた。後は姿を消すだけなのだが。手に入れたコレのデータ収集も兼ねて、更に言うと」

 バイザーは同じく透過性のある黒で見えにくいが、弐部がこちらをにらんでいることだけは分かった。

「先の返礼、私は完璧主義でね。邪魔をされたらそれなりの礼を返そうというのだよ」

「正直、俺には時間がねえんだ。ほっといてほしいな」

「そういうな。邪魔をしたんだ。邪魔をされても仕方がないだろう」

「… …そもそもなんでアンタはこんなことをしたんだ。動機は?」

 動機を聞かれ、弐部は嬉しそうに何度も頷いた。

「動機か。よく聞いてくれた。私は世界が媒介者に対して危機感がなさすぎる現状に憂いていてね。こんな簡単なテロでさえ気づけず、対処しきれない企業の管理では安全保障を保てないと思っていてね」

 弐部は御高説をのたまうように片手で空を操る。

「政府や国際機関はもっと、汚染地区に対して目を向けるべきだ! もっと管理されるべきなのだ! 私はその警鐘を鳴らしているだけなのだよ」

 世界の危機、汚染地区の危険性、それは昔から騒がれていたことだ。なのに、それをもっと高めろ。もっと支配せよとこの男は言う。

 幾多はそんな世迷言に、怒りを表さずにはいられなかった。

「勘違いの笛吹き男が、そんなの今まで十分されてきたことだろ。危機感がねえと思うのは、誰も汚染地区に関わりたくないだけだろ!」

「関わりたくない。だけで逃れられるほど汚染地区は遠い存在ではないのだよ。それは知らしめねばならないことだ。少し壁の外に行けば、例え壁のすぐ傍でも、ただ汚染地区難民を卑下しまたはようごする右と左の政治思想の持ち主の小競り合いばかり。誰も問題の本質、汚染地区の危険性に向き合おうとしない。政府も、国際的な管理の丸投げをして重要な汚染地区への対策費用を捻出しようともしない。何もかもずさん。危機感がなさすぎるのだよ」

 弐部はそう、轟々と論じる。

「72時間法の適用は私の敗北か。否! 国の介入こそ僥倖。それは否応でも世論が汚染地区の危機に目をやるチャンスだ。政府も対策に乗り出し、人類は次の段階へ進める」

 弐部は自分の弁論に酔い、自分の弁に恍惚となり、目の前の幾多さえ目に入っていない様子だった。

「次の段階、それは汚染地区の排除。媒介者の殲滅。真の人類の敵を駆逐する聖戦の始まりだ!」

 弐部はまるでミュージカルの盤上で高らかに歌う演技者のように声を張り上げる。

 だが、幾多はそれに水を差した。

「くだらねえ。媒介者と一緒に飯を食って、悩みを聞いてやるようなこともしない無知な男が全てを決めようってのか。馬鹿々々しい。上の連中はもっと冷静だ。媒介者の戦いの歴史は俺たちが生きた年月の何倍もある。それが解決方法なら、今更過ぎるぞ。アンタはただの馬鹿げた夢想家なんだよ」

 そう言い切る幾多に、弐部は明らかに気分を害したような空気を纏う。そして、離れていても分かるような殺気と憎悪を、幾多は感じた。

「私の計画をじゃまするだけでは飽き足らず、思想ですら対立しようというのか。いいだろう。凩幾多、私はその貧相な考えを実力で打ち砕いてやろう」

 言うや否や、弐部は腰から黒い拳銃を抜いた。どっしりとしたそれを片手で幾多に向け、すぐさま発砲した。

 幾多は弾丸がヘルメットの上をかすめるのを感じながら、左腕で頭を庇い、右手で同じく拳銃を抜き放つ。

 互いに同じ体勢で銃弾を撃ちつつ、接近する。胸に、腹に、腕に、足に銃弾が当たるのも構わず、軽い身じろぎだけで歩みを止めることはない。

 ついに二人は肉薄し、どちらも拳銃を捨ててがっぷりと四つに組みあう。

 両者は頭突きの要領でヘルメットをぶつけ合うと、二つの双眸がかち合った。

「ここで終わりにしよう。盗賊」

「逃がしはしねえぞ。夢想家野郎」

 二人は激戦の予感を感じ、武者震いの共鳴が起きるのを感じていた。


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