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ラビッシュとの決闘に勝利したはずのレッドが目を覚ますと。
そこは牢屋の中だった。
日に光が一切届かない地下深くの牢獄。ランプの弱弱しい光だけがポツリポツリと地下牢の大きさをうかがわせる。しかいのさらに奥までもランプのい灯りが続いていたのだ。
そして、聞こえてくる呻き声。「ごめんなさい」と何度も死にそうな声で繰り返している。
「俺は死んだのか?」
地獄じゃあるまいし。何だ此処は?
考えようとしたら、まだ頭痛が収まりきっていなくて思考が途切れた。
現状を確認だけしておくと、両手足に枷がしっかりつけられている。牢屋の床にはなにやら魔法陣が刻まれていた。きっと魔法を使えない様にしているのだろう。
「逃げ出すは簡単そうだが、体力回復が先だな」
枷が付けられていることなど気にもならない。兎にも角にも、寝て回復が先決だな。それに待っていればいずれ、俺を此処へ押し入れた輩が接触してくるだろうしな。
それから数時間して、体力魔力がともに全快になったところでレッドが目を覚ますと。
牢屋の外側に、金色の装飾をあしらった神父服の男が立っていた。
「ようやく目が覚めたか。咎人よ」
そうか、そう言うことだったか。古代魔法を連発しすぎたか。
ということは、このおっさんはルーラー教ってことか。何時かぶつかるだろうと思っていたが、早まっただけだと思えばいいか。
アリアには悪いが、腐った宗教など叩き潰してやるとしよう。
「元気いっぱいだぜ、おっさん。 いつでもこんなチンケな牢屋ならぶっ壊せるぐらいにな」
「クレタの迷宮であるこの牢獄を抜け出せるものなら、そうすればいい咎人よ」
「へえ 古代魔法でこの天井ごとぶち抜いたらいいだけか」
神父服の男の表情がピクリと動いた。
釣れた! やっぱり古代魔法が原因で捕まったのか。これでスッキリしたぜ。
「今の発言で貴様の極刑は決まったようなものだ。古代魔法を習得し、使用した罪は死んで詫びるといい。女神ルーラーの元へ行けるのだ、感謝せよ」
「・・・」
俺も大概いかれた奴だって自負してたけど、コイツも相当いかれてやがる。
「ああそれと言い忘れたが、貴様と同様に学園理事もこのクレタの迷宮へ投獄済みだ。古代魔法を布教しようとは、女神ルーラーの元で裁かれるといい」
エリスさんも捕まったのか・・・
【暗黒郷】は完璧に古代魔法の一つであり、エリスに教え。彼女も使えるようになった。彼女のステータスに【古代魔法陣】が追加されたのだろう。
何らかの手段を用いてエリスのステータスを調べたか。学園理事でSランク冒険者のエリスのスタータスを、いっかいの人間が開示しろと言ったところで、開示させられるようなことはできない。
それこ同じ立場か、それ以上の立場の人間でなければ無理だろう。
だとすると、国王コウリュウ。もしくは王下五人議会の誰かだと推測が付く。
「面白くなってきたな」
「なんだと?」
神父服男の声に怒気が混ざる。
「一つだけ言っておいてやるよ、おっさん」
どうせなら悪魔に見えるだろう笑みでも浮かべてやろう。
すると面白い様に神父服の男の顔がさらなる怒りで歪んだ。
「俺が、エリスさんが、それとアリア辺りが、このまま何もしないと思うか?」
「我が娘の名を咎人の貴様が呼ぶな!」
またも釣れた! このおっさんはアリアの父であり、法王だと言うことになる。
ならばエリスのステータスを開示させたのも、このおっさんに間違いない。
「聖導書って何だろうな?」
「——っ!? 何故それを」
「嘘偽りが嫌いな心の優しい聖女さまがお教えくださいましたが、なにか?」
ギリギリと法王の歯ぎしりをする音が、地下牢獄に響く。
「そこまで知られていたのか・・・貴様は何処の回し者だ」
「さてね? あんたさ、交渉とか下手過ぎだろ? 人に頭とか下げたこともなさそうだしさ」
「・・・」
「何を恐れているのか知らねーけど、エリスさんを牢に入れるのは止めた方がいいと思うぜ?」
「何故だ。あのものも古代魔法を習得していた」
「学園だけじゃなくて、ギルドも下手したら騎士団も敵に回すことになるかもって思ってな。ただの忠告だ。古代魔法云々の話じゃなくて、アンア等の今後の話をしただけだ。聞き流してくれて結構。」
「・・・」
「それともう一つ。大事な大事な娘さんが誰に惚れているのかも気を付けとけよ。恋は盲目っていうだろ? 悪いけど利用させてもらうぜ。」
「貴様っ!」
気付いていた。というより最初から利用する気でしかなかった。アリアは完全に俺に気がある。普段の言動を見ていても分かる。アルナと一緒になっていることでさらにわかりやすかった。
まあアルナも同じように利用するために近くに置いているだけどな。いや、言い方が悪いな。利用するんじゃなくて、ウィンウィンなだけだ。アルナとアリアは俺が好きで恋愛しようとして近づいてくる。俺は恋愛する気はあるっちゃあるが、二人のバックの力の方が魅力的だった。劇的な人生を望む俺にとって、そこが大きければ大きいほど期待できるだろう? 暇のない人生を!
今牢屋に押し込められてるのだって不快でも何でもない。むしろ宗教団体と正面からドンパチ出来るだなんて楽しすぎる。武者震いが止まらないほどにな。
「俺が強引に出る必要もないかもな」
「絶対に此処から出させん! もう知られているのならば、いいだろう・・・」
法王は魔力を流してとあるものを出現させた。それは俺の扱う【魔導書】と酷似した。鍵付の半透明な書物だった。
「これが【聖導書】だ咎人よ」