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南門近くの男子寮、女子寮の施設へと到着した。寮も学科によってそれぞれ有って基本的に他の学科の生徒と交流する機会は、座学の時のみだとリリネル先生が教えてくれた。学園の南部エリアが戦闘学科専用で、訓練施設が多くグラウンドや体育館などが連立している。初等部、中等部、高等部よりも丈夫に設計されているようだ。
「これが男子寮か。 温泉宿みたいだな」
男子寮は一階建ての平屋だ。高級温泉旅館のような外装で、木造なところに親近感が湧く。
ちなみに、アルナとリリネル先生とは先ほど女子寮の前で分かれた。その女子寮はベルサイユ宮殿でした。どこぞのお姫様が住んでいそうな、煌びやかな建物だ。男には近づきにくい異彩さでだった。アルナが慣れたように入っていたことにはもっと驚いた。あとキングが俺の頭の上から、アルナの頭の上へと飛び移っていった。主人は俺のはずなんだが・・・ もしかしてキングは雌だったのか?
「すいませーん」
一万円札の裏側にあがかれている鳳凰が木彫りであしらわれた引き戸を開いて中に入る。
「ようこそいらっしゃいましたレッド様」
浴衣姿の女将さんが、正座で頭を下げて向かい入れてくれた。なんて言うか日本を感じる。
黒髪黒目の30代後半で清楚感あふれる、大和撫子の仲居さんたちが俺の手荷物を持ってくれる。
長らく忘れていた。俺の周りにいた女ども決してこんなことをやってくれない。ロルル姉様は部屋を散らかしまくる。テリアは馬鹿すぎてそのしわ寄せは全部俺が被っていたし、アルナは甘えだしたら邪魔だし、ギルド嬢たちは、俺をコキ使うのが普通でしょ?とでも言う感じだったんんだ。なんか涙が出てきたぜ。
「こちらがレッド様のお部屋『梅の間』でございます」
女将はそう言うと俺に、梅の木が描かれた木製の札を渡してきた。
部屋の隅に荷物を置いてくれ、寮についての説明をしてくれた。
木製の札は部屋の鍵となっている。鍵といってもカギ穴に差し込む訳では無く、身に着けていればいいのだ。札を持っていなければ、絶対に戸が開かないのだという。まさかのオートロックに驚いた。
続いて、食事の時間は自由だった。部屋についている電話のような魔道具で連絡すればすぐに用意してくれる。何を食べたいかもそのとき教えてくれれば用意できる。またいちいち連絡するのが面倒であれば、食事の時間帯を先に教えて貰えばそれに合わせてくれると言う。布団の設置もやってくれるし、洗濯物は部屋に置いてある籠へ入れておけば翌日には返却してくれるらしい。しかも破れていた場合は裁縫しての返却だという。至れり尽くせりだ。文句など言うやつがいるのだろうか。
なにより入浴だ。源泉かけ流しの温泉である。24時間いつでも入浴可能だ。露天風呂もあるらしい。最高だ。
学園の制服なんかは、明日には用意しておいてくれるらしい。採寸が必要かと聞くと、目測で測ったらしい。なんて有能な女将さんだ。武器屋防具も預ければ、無料で研ぎ直してくれるんだとか。オルガに貰った短剣を渡そうかと思ったが、自分で研ぎ直そうと思って頼まなかった。
「それでは、ご用がございましたらご連絡ください。 失礼いたします」
女将さんといい仲居さんといい部屋を出ていく動作の一つ一つが洗練されていた。
本当に寮というより旅館に泊まっている気分だ。
「ならさっそく風呂に行きますか ここんとこ水浴びだけだったしな」
部屋に用意されていた浴衣に着替えてさっそく浴場へと足を運ぶことにした。
備え付けの浴衣の所為か、すこしサイズが大きくてはだける。鏡を前にしてポーズをとってみる。
鍛えてはいるが、まだまだ華奢だ。10歳だし仕方は無いと思うが、ちょっとナヨナヨしてるな。顔も確かにイケメンだけど、まだまだ幼さがあって中性的だし。肌は白いし黒髪を伸ばしっぱなしで女みたいだ。
「流石に髪切るか・・・ でもまあ先に温泉だ!」
梅の間を出てから大浴場へと向かう。途中で他の寮生は見かけなかった。そう言えば、かなり早く付いたんだった。まだ他の生徒は着ていないのか・・・なら当分風呂は貸し切りかもしれないな!
嬉しくなってスキップしながら脱衣所に入ると、まさしく温泉の脱衣所だった。棚と籠に、洗面台とドライヤーのような魔道具。ガラス張りの冷蔵庫には、瓶に入った牛乳まで用意されていたのだ。
「・・・すばらしい」
感動した。涙が出た。
浴衣をちゃっちゃと脱いで籠に入れて、浴槽の戸を開く。ガラガラという懐かしの音。温泉ならではの硫黄の臭いと白い湯気。浴槽は木張りで、これもまた森の安らぐ匂いがする。奥を見ると露天風呂へのガラス戸があった。露店は岩風呂だ。
「先客無しの一番風呂かな 堪能するぞー!」
小一時間ほど温泉を堪能できた。少しのぼせ気味だが、また後で浸かりに来ようと思う。いい温泉は何度使っても飽きないのだ。
「いいお湯だったな~」
身体についている水滴をタオルで払う。タオルは絞って腰に巻いて、脱衣所へもどった。戸を開くとムキムキの熊耳の半獣半人の大男と目があった。熊の半獣半人は、まじまじと俺の身体を上から下へ見て。そして何故か顔を真っ赤にした。いきなり前傾姿勢になって腹を抱えたのだ。
「うぉおおおおおお!?」
「え!?」
熊の半獣半人は勢いよく土下座をするみたいに床に這いつくばると、籠に入れていた着替えを持って脱衣所から逃げるように去っていった。
「腹でも痛くなったのか?」
良く分からんが、まあいいか。のびっぱなしで長い髪をドライヤーで乾かして、瓶入りの牛乳を一気に飲み干した。至福のひとときを堪能して、梅の間へと戻ることにした。
「本当にあの熊男はなんだったんだろう?」




