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 穏やかな陽気に包まれている午前中。


「……暇だぁ…」


 とある屋敷の一室から、そんな呻き声が聞こえてきた。

 犯人は言わずもがな、部屋の主であるレイラである。


 大抵側にいるイネは、用事があるらしく街へ出掛けた。

 妹のマリーと遊ぼうと思ったが、残念ながら、彼女は夢の中だった。

 部屋をのぞいたら気持ちよさそうにお昼寝をしていたので、そのまま放置してきた。

 子供は寝るのが仕事だし、第一、天使の寝顔を叩き起こすなんてマネできない。


 屋敷内には他にも人が居るけれど、彼らとあまり話したことがないので、遊び相手としては却下。

 というか、話し相手になってもらったとしても、彼らの仕事を妨害するだけだろう。


 貴族も平民も、十二歳にならないと勉学を習うことは出来ないから、読書をしたくとも出来ないし。

 かといって、遊ぶと言っても、特別遊びたい物がない。 


 …つまりは、消去法の結果、遊び相手がいなくて退屈なのである。


「何か時間を潰す方法ないかな…」


 力無く呟きつつ、だだっ広いベッドをごろごろと転がる。


 子供は遊びを見つける天才だから、部屋に閉じこもっていても暇ではないのだろう。

 けど、私は(精神的には)もう大人だ。暇つぶしの方法すら思いつかない。


「…あ。森とか?」


 ふと、そう思いついた。

 この屋敷の近くにある森のことだ。木の合間からは木洩れ日がちょうど良い感じに差し込んで、幻想的な雰囲気を醸し出す森。

 誰の敷地でもない。強いて言えば国の物なんだろうけど、別に、入ったら罰則があるというわけではない。


「森に行くなら、動きやすい服に着替えようかな…」


 家で着る服は、母親の好みにより、『いかにも女の子』な服が多いのだ。

 しかも、ほとんどがドレスやスカートというね。


 …まぁ、私自身はあまり服に興味がないから、ぶっちゃけフリルでごてごてのドレスであろうが、清楚なコーディネートであろうが、どっちでも構わないんだけど。

 ただ、こういう時に動きやすい服がないのは困る。

 短めの丈のドレスもあるにはあるんだけど、いくらなんでもドレスで走り回りたくない。

 というか、動きやすいといえど、所詮はドレス。有事の際に逃げられないと困るってことで、却下。



 そうして探索開始。


「(服がやたらと多いと感じるのは、元庶民だからなの…?)」


 小一時間後、黒系統の

 服を捜し当てるだけで疲労困憊って。


 ようやく見つけたのは、ショートパンツ丈の、微妙に二股に分かれているスカート。

 どこまでもスカートであることに内心ぐったりしつつも、いそいそと着替える。

 スカートの下には黒タイツを着用し、仕上げに、淡いベージュ色で薄地のトレンチコートを羽織った。





 差す日差しは暖かいのに、如何せん風が冷たい。

 これはコートを羽織ってきて正解だったな、と過去の自分を褒めておく。


「……名目上は春なのに、寒いって一体」


 屋敷から出た瞬間、暖かい部屋に戻ろうかと思ったわ、マジで。


 …とはいえ、屋敷ですれ違った使用人たちに「遊びに行ってくる」と言った手前、すぐに戻るわけにはいかない。

 ここで帰ったら、何だか居たたまれない。

 そう。簡単に言えば、意地だ。


 寒いとひとりごちたレイラは、適当に森を散策して時間を潰そうと思い直し、森へと歩き始めたのだった。





「──……迷った…?」


 あれ?と首を傾げて、周りを見回してみる。

 木、木、木。

 どこを見ても、同じ様な樹木ばかりだ。

 いつの間にか森の中心部に入ってきてしまっていたらしく、木がとぎれている場所──いわば森の出口──が見えない。

 

「…あれ? ところどころ、木に印を付けてたはずなんだけどな…?」


 あちこち気になってキョロキョロしたり、地面を見て歩いていたから、印を見失ってしまったみたいだ。

 ……さて、困った。

 子供の体力で歩き回っても力尽きそうだし。かと言って、このまま此処にいても餓死しそうだし。夏とか秋なら、木々に木の実がなっていたんだろうけど。

 試しに少し歩いてみたけど、木が邪魔をしてまっすぐ歩けない。しまいには、元の場所がどこだか分からなくなってプチパニック状態。

 まだ、精神的に大人だから良いけど、これがほんとに子供だったら、今頃気を病んでいただろうな。もしくは、パニック状態になってバカな行動をしでかしているか。

 どちらにせよ、精神年齢的に大人で助かった。


 外に出るにしても、水や食料を確保するにしても、結局は歩かない事には何も解決しない。

 そう気付いた私は、即行動に移した。


「(水脈探知機が欲しいなー)」


 ついでにショベルカーと作業員さんも来てくれるとありがたい。


 そんな現実逃避気味のことを考えながら、歩く。ひたすらに歩く。


「(一向に景色が変わらないのは、結構精神的に来る…)」


 言いようのない不安と孤独感に苛まれながらも、懸命に足を進める。


 ──遠くで音がした。

 枝が折れただけかもしれないけれど、これまで動物にすら見かけなかった私は、動物かもしれない、と期待して振り返った。


「…………え、と」


 うん、たしかに、動物なら嬉しいなーと思ったよ。

 虫じゃないと良いなーと思ったよ?

 けどさ、さすがに──


「(……狼までは望んでない)」


 死亡フラグ立ちました。



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