第一話 はじめてのテイム
「ん、うーん…。さ、寒っ?!」
ソファーに倒れ込んだミツハが、次に目を覚ましたのは翌朝だった。
春先の肌寒さに身体を震わせながら、ゆっくりと上半身を起こす。
どうやら、昨日はそのまま眠ってしまったらしい。
冷え切った身体を温めるため、ミツハはキッチンへと向かい、目覚めのコーヒーを淹れる。
砂糖を二杯とミルクを少し。ミツハの好みに合わせた、少し甘めのコーヒーだ。
「ほっ…。」
温かいコーヒーを口に含むと、思わず安堵の息が漏れる。
カップを両手で包みながら、少しずつ頭を働かせていく。
そして、昨日の出来事を思い返す。
「うーん…。どうしようかなぁ…これから…。」
昨日の記憶は、途中からすっぽりと抜け落ちている。どうやってギルドから帰ってきたのかさえ、曖昧にしか思い出せない。
ただ、ダンジョンで起こったことだけは、はっきりと覚えていた。
スライムを倒したこと。
そして、自分が得たステータス。
「ス、ステータス。」
◇
名前:胡蝶 ミツハ
年齢:18
種族:人間
レベル:1
ジョブ:テイマー
HP:80 / 80
MP:110 / 110
SP:90 / 90
STR:5
VIT:5
AGI:9
DEX:6
INT:7
MND:4
LUK:15
【スキル】
・テイム(I)
契約数 :0 / 1
◇
平均以下のステータス数値。
不人気ジョブのテイマー。
そしてスキルレベル1のテイム。
改めて自分のステータスを見つめても、やはり昨日と何も変わってはいなかった。
ステータスの数値については、それほど悲観する必要はない。レベルが上がれば各数値も上昇するため、今の段階で平均を下回っていたとしても、これからいくらでも挽回できる。
ただし、講習では別の《《問題》》についても説明を受けていた。
探索者同士でパーティーを組む際、《《互いのステータスを開示》》することがあるというのだ。
もちろん、必ず見せなければならないわけではない。しかし、少しでも危険を減らすため、加入前にステータスを確認するパーティーは珍しくないらしい。
そうなれば、今の低いステータスを見て、ミツハを仲間にすることを敬遠する人が出てくる可能性もある。
そして、もう一つの問題がジョブだった。
テイマー。
特段、有能とは言い難い。かといって、明確なハズレというわけでもない。
テイマーは、テイムした魔物によって大きく評価が変わるジョブなのだ。
強力な魔物をテイムすることができれば、それだけで大きな戦力になる。
逆に、戦闘能力が低くても、索敵や偵察、運搬など、状況に応じた便利な能力を持つ魔物をテイムできれば、パーティーの足りない部分を補うこともできる。
実際、世界的に有名なテイマーの中には、空を飛ぶ魔物や、小型のドラゴンを仲間にしている探索者までいる。
そう考えれば、テイマーは決して弱いジョブではない。
強く、頼れる魔物を仲間にできるかどうか。
すべては、テイムする魔物次第なのだ。
しかし、テイマーには、戦闘能力とは別のところに大きな問題があった。
一般の人々にとって、魔物は《《悪》》だ。
ダンジョン災害によって多くの命を奪った存在であり、今もダンジョンの中で人間を襲い続けている。
だからこそ、「魔物は危険だ」「魔物は淘汰するべきだ」という世論が強くなればなるほど、魔物を従えるテイマーの肩身は狭くなる。
たとえ自分の魔物が人間を襲わないと分かっていても、周囲から見れば、それは所詮「魔物」なのだ。
ただ、ミツハが問題視しているのは、そこではなかった。
最悪、ステータスが低くてもいい。ジョブがハズレだったとしても、まだいい。
スキルさえ優秀なものを引けていれば、十分に挽回する余地はあった。
しかし、ミツハが得たスキルは『テイム(Ⅰ)』だけ。
レベルが上がれば、新たなスキルを獲得する可能性はある。だが、そのレベルを上げること自体が、今のミツハにとっては大きな問題だった。
レベルを上げるには、ダンジョンへ潜り、魔物を倒さなければならない。
稼げる階層まで行こうと思えば、テイマーとして魔物を一匹テイムしたところで、最初から戦力として頼れるとは限らない。
ただでさえ他人とのコミュニケーションを苦手としているミツハにとって、探索者の仲間を募り、パーティーを組むという行為そのものが高いハードルだった。
むしろ、今のミツハにとっては不可能に近いと言ってもいい。
「確か、テイム(I)でテイムできる魔物は……一層と二層の一部の魔物だけだったよね? 昨日行った、鞍ヶ池ダンジョンの場合だと、スライム、ラージラット、ダンジョンモス、プチスパイダーに、二層の跳びウサギだったはず…。」
さすがに進学校を卒業しただけあって、ミツハは記憶力には自信があった。講習で学んだことはもちろん、これから探索者になるにあたり、近隣のダンジョンに出現する魔物についても、その大半を頭に叩き込んでいた。
「もし最初に仲間にするのであれば、どの魔物にするのが正解かなぁ?」
ミツハが候補に挙げた魔物は、どれも最低ランクに分類される弱い魔物ばかりだった。
昨日ミツハが倒したスライムのように、どの魔物もアルミロッドの一振りで倒せる程度の強さしかない。
「うーん…。」
ミツハは腕を組み、真剣に考え込む。
しかし、そこで一つの問題に気がついた。
そもそも、テイム(I)の対象になるような低級魔物を倒したところで、ほとんどお金にはならない。
得られる経験値も少なく、レベルを上げるのも容易ではない。
テイムできる魔物を探すこと以前に、その魔物を連れて、どうやって自分のレベルを上げるのか。
そこまで考えたところで、ミツハは再び頭を抱えた。
◇◇
数時間後、ミツハは再び、鞍ヶ池ダンジョンへと足を踏み入れていた。
いくら考えたところで、支払期日という現実は刻一刻と近づいてくる。
悩んでいる時間があるのなら、その時間を使って少しでもお金を稼いだほうがいい。
考えているだけでは、一円たりとも増えない。
だったら、まずは動いてみる。
時間はお金だ。
そう割り切ったミツハは、必要な荷物をまとめ、原付にまたがり、電車を乗り継ぎ、約一時間。
そして今、昨日と同じ鞍ヶ池ダンジョンの入口に立っている。
「さて……と。」
昨日は人生を左右するステータスを得るために訪れた場所だったが、今日の目的はもっと単純だった。
一つ、お金を稼ぐ。
二つ、魔物をテイムする。
ダンジョンで魔物を倒せば、魔石が手に入る。
魔石とは、魔物の体内に存在する魔力の結晶であり、ダンジョンから得られる代表的な資源の一つだ。大きさや純度、内包されている魔力量によって価値が変わり、魔道具や各種設備のエネルギー源として利用されている。
ただし、一層の魔物から得られる魔石は小さい。
大きさは、せいぜいビー玉ほど。雑多な属性、内包されている魔力量も少なく、買い取り価格は一個につき十円程度にしかならない。
「…十円かぁ。」
一個十円。
百個集めても千円。
しかも、魔石だけでなく、魔物を倒すためには体力も必要になる。
効率がいいとは、とても言えない。
それでも、何もしないよりはマシだった。
二層へ進めば、出現する魔物も強くなり、それに比例して魔石も大きくなる。三層、四層と深く潜るほど、より高価な魔石が手に入るようになる。
探索者が命を懸けて深い階層を目指す理由の一つが、そこにあった。
「まずは、一層で稼げるだけ稼ぐ…。その為に、仲間を得ないと…。」
昨日までは、探索者になるためにダンジョンへ入った。
今日は生活するために、ダンジョンへ入る。
◇
ミツハは一層にある林へとやって来ていた。
この林に出現する魔物、プチスパイダーをテイムするためだ。
ここまで移動する間、ミツハが考えていたのは、自分と魔物、それぞれの役割についてだった。
アタッカー、ディフェンダー、サポート。
戦闘や探索において、パーティー内で役割を分担するのは基本中の基本だ。
テイマーの場合、その役割を自分ではなく、テイムした魔物に担わせることになる。
ならば、一匹でできるだけ多くの役割をこなせる魔物を選んだほうがいい
そう考えた結果、ミツハが目をつけたのがプチスパイダーだった。
プチスパイダーは、噛みつきによる攻撃と、口から吐き出す拘束糸を持っている。
攻撃と拘束。
単純な戦闘だけでなく、魔物の足止めや捕縛にも使える。上手く使えば、アタッカーとサポートの二つの役割を担わせることができるはずだ。
「うん。やっぱり、最初はこの子かな。」
ただし、プチスパイダーは決して強い魔物ではない。
見た目こそタランチュラを一回り大きくしたような姿をしているが、毒は持っていない。牙も小さく、爪もそれほど鋭くない。おまけに移動速度まで遅い。
正面から戦えば、昨日ミツハが倒したスライムと同じく、一層に出現する最低ランクの魔物である。
それでもミツハは、プチスパイダーを選んだ。
「強さだけが、仲間を選ぶ基準じゃないもんね♪でもどうせだったら虫系の魔物の方が今後のやる気にもつながるし…。」
そう呟きながら、ミツハは林の奥へと進んでいった。
◇
林の中を進むと、太い木の洞で休んでいるプチスパイダーを発見した。 ミツハはなるべく足音を立てないように慎重に近づいていく。 さすがというべきか、今までたくさんの虫を捕まえてきた経験から、警戒させないように確実に距離をつめるミツハ。
本来であれば、魔物を弱らせてからテイムするのが常識なのだが、下手にダメージを与えてしまうと、一層の魔物の場合はうっかり倒してしまう恐れがあるため、戦闘に移るのを避けているのだ。
そして、もう手が届きそうな距離になった時、プチスパイダーに向かって手を伸ばし、「テイム!!」とミツハは叫んだ。
しかし、
「あ、あれ?」
何も起こらない。
目の前のプチスパイダーも、何事もなかったかのように木の洞でじっとしている。
「…失敗?」
ミツハはステータスを確認する。
契約数は、0/1。
どうやら、テイムには失敗したらしい。
「そっか……。失敗することもあるんだっけ。」
テイムは必ず成功するわけではないと参考書にも載っていた。
魔物との相性や個体差などによって成功率は変化し、何度試してもテイムできないこともある。
「じゃあ、もう一回…。」
ミツハはもう一度、プチスパイダーへ手を伸ばした。
「テイム!」
しかし、結果は同じだった。
「……もう一回!」
失敗。
「もう一回……!」
失敗。
「…………。」
何度試しても、契約数は0/1のままだった。
木の洞にいるプチスパイダーは、そんなミツハの苦労など知る由もなく、のんびりとその場に留まっている。
「うぅ……。」
ミツハは困ったように眉を寄せた。
もしかしたら、この個体とは相性が悪いのかもしれない。
そう考えたミツハは、別のプチスパイダーを探すことにした。
しばらく林の中を歩いていると、今度は木の根元に別のプチスパイダーを見つけた。
「いた……!」
先ほどの個体とは違う。
今度こそ、とミツハは慎重に近づいていく。
そして、十分な距離まで近づいたところで、ゆっくりと手を伸ばした。
「テイム!」
何も起こらない。
「…あれ?」
ステータスを確認する。
契約数は、0/1。
「もう一回!」
失敗。
「…もう一回!」
失敗。
何度試しても、やはり結果は変わらなかった。
「…駄目だ。」
ミツハはその場にしゃがみ込んだ。
同じ種類の魔物で、別の個体まで試した。
それでもテイムできない。
「……もしかして、プチスパイダーが駄目なのかな?」
ならば、別の魔物で試してみるしかない。
ミツハは林の中をさらに進み、次の候補を探し始めた。
そして見つけたのは、地面を這う一匹のラージラットだった。
ラージラットは地面の匂いを嗅ぎながら這っていた。
ミツハはラージラットの死角に回り込みながら近づいて、テイムを試みる。
しかし、
「もうッ!!なんでテイムできないの!!」
結果は失敗だった。
背後から大きな声で「テイム!」と叫んだ為、ラージラットはびっくりして逃げ出してしまった。
それから何度もテイムを試みてみたが、種類を変えても、個体を変えても、テイムは一度も成功しない。
気がつけば、ダンジョンへ入ってからかなりの時間が経っていた。
「…………。」
結局、この日も魔物を一匹も倒していない。
魔石もゼロ。
テイムもゼロ。
当然、収入もゼロである。
「帰ろう…。」
ミツハは力なく呟き、ダンジョンを後にした。
ギルドへ戻り、出口へ向かって歩いていると、見覚えのある姿が目に入った。
「……あ。」
受付の奥から出てきたのは、昨日自分の指導官を務めてくれた女性――深山サラサだった。
「…………。」
ミツハはその場で足を止めた。
聞きたいことがある。
どうしてテイムできないのか。自分のスキルに何か問題があるのか。
それとも、テイムの方法そのものを間違えているのか。
サラサなら、きっと知っている。
「…………。」
ミツハはサラサを見つめたまま、しばらく立ち尽くす。
話しかければいい。たったそれだけのことだなのに。
昨日、一時間近く一緒にダンジョンへ潜った相手なのだから、話しかけても何もおかしくない。
「…………。」
けれど、声が出ない。
喉の奥まで出かかった言葉が、そこで止まってしまう。
「…………帰ろう。」
結局、ミツハはサラサに声をかけることができなかった。
そのまま踵を返し、ギルドを後にする。
昨日も、今日も、何一つ上手くいかなかった。
家に帰ったミツハは、玄関で靴を脱ぐと、そのまま居間へ向かった。
そしてソファーに腰を下ろし、天井を見上げる。
「……どうすればいいんだろう。」
◇◇
「グゥー」とお腹がなった。
そういえば昼食も食べていなかったなと思い出したミツハは、夕食の準備に取り掛かった。
適当に野菜を切り、冷蔵庫に残っていた食材をフライパンに放り込む。
料理をしながらも、頭の中からテイムのことが離れない。
「…やっぱり、やり方が悪いのかな。」
ミツハは片手で料理をしながら、もう片方の手でスマートフォンを操作する。
検索サイトを開き、『テイム 成功率』『テイム 方法』『テイマー テイムできない』など、思いつく言葉を片っ端から検索していく。
探索者向けの掲示板や攻略サイト、初心者向けの解説記事まで目を通していく。
しかし、どこを調べても、ミツハがやった方法と大きく違うものはなかった。
「弱らせてからテイムする…。でも、一層の魔物は弱らせすぎると倒しちゃうから、できるだけ弱らせずに…」
講習で教わった内容とも一致している。
「……やっぱり、やり方は間違ってない。」
ミツハはスマートフォンをテーブルに置いた。
結局、原因は分からなかった。
夕食を食べ終える頃には、すっかり日も落ちていた。
食器を片付け、風呂を済ませると、ミツハは自室へと戻る。
「はぁ…。」
机の前に座ったミツハの視線が、机の隅に置かれた透明なケースへと向いた。
そこには、ミツハが以前から飼育しているアリの石膏巣があった。
透明なプラスチック製の飼育ケースの中には、女王アリを中心に、何匹もの働きアリが暮らしている。
働きアリたちは巣穴の中を忙しそうに動き回り、女王アリはその奥でじっとしている。
ミツハは小さな容器に砂糖水と、冷凍コオロギの死骸を用意すると、ケースの中へそっと差し入れた。
「はい、ご飯。昨日は上げられなくてゴメンね。」
すると、何匹かの働きアリがエサへと近づいてくる。
ミツハはそのアリたちの様子を観察する。
巣の中に異変はないか。カビが発生していないか。女王アリは元気そうか。幼虫の数に変化はないか。
いつものように、一匹一匹の動きを目で追っていく。
「……うん。大丈夫そう」
働きアリの一匹が砂糖水に口をつけ、巣の中へと戻っていく。
すると、それを追うように別の働きアリが動き出した。
ミツハは、その光景を眺めながら小さく息を吐いた。
今日一日、何度もテイムを試した。
けれど、一度も成功しなかった。
なのに…。
「…なんでだろう。」
ミツハは、透明なケースへ顔を近づける。
昼間、ダンジョンでテイムを使ったときとは、何かが違う。
もちろん、今はスキルを使ったわけではない。
ただ、いつものようにアリたちを眺めているだけだ。
それなのに、不思議な感覚がミツハを襲っている。
女王アリがいる場所が、なんとなく分かる。
働きアリたちが何をしているのかも、いつもよりはっきりと理解できるような気がする。
もちろん、アリの考えていることが分かるわけではない。
それでも、なぜか、感じる。
「……私のこと、分かってる?」
ミツハは、透明なケース越しに女王アリを見つめる。
女王アリは、いつものように巣の奥でじっとしている。
なのに、なぜか目が合っているような気がした。
その瞬間。
胸の奥から、昼間とは違う感覚が込み上げてきた。
何かが、細い糸のように繋がっていく。
自分と、この小さな生き物の間に。
「…あ。」
ミツハは思わず息を止めた。
これは何だろう。
魔物をテイムしようとしたときには、こんな感覚はなかった。
もっと自然で、もっと当たり前のような。
ずっと前からそこにあったものが、今になってようやく繋がったような感覚。
ミツハは無意識に手を伸ばした。
そして、口から自然と言葉がこぼれた。
「…テイム。」
瞬間。
ミツハの目の前に、見慣れたステータス画面が浮かび上がった。
◇
《テイムに成功しました》
《契約数:1/1》
◇
「…………え?」
ミツハは、しばらく画面を見つめたまま動かなかった。
何度も瞬きをする。
もう一度、ステータスを確認する。
契約数は――1/1。
「…え、成功…した?」
信じられない。
今日一日、あれほど試しても一度も成功しなかったテイムが。
どうして。
ミツハは思考に溺れながらも、恐る恐る透明なケースへと視線を戻す。
その視線の先。
巣の奥にいる女王アリが、ゆっくりと身体を動かしていた。
「……まさか。」
ミツハはケースに手を添える。
なぜ、魔物ではないただの蟻をテイムできたのか?
そもそも、アリにスキルが効くの?
さっき感じた、あの感覚は何?
すると、また胸の奥で、あの不思議な感覚が生まれた。
繋がっている。
今度は、はっきりと分かる。
この子と、自分は繋がっている。
「……私が、テイムしたの?」
ミツハは驚きながらも、少しずつ頬を緩めていった。
今日一日、何をやっても上手くいかなかった。
それなのに。
自分がずっと大切に飼ってきた、この小さな女王アリだけは。
「……そっか。」
今の今まで、何一つとして良いことがなかったミツハだった。
両親を失い、祖父母も失った。施設では周囲に馴染めず、虫を飼っている変な子だと避けられ続けた。
そして、ようやく自分の力で生きていこうと決めた矢先、与えられたジョブもスキルも、自分が思い描いていたものとは程遠かった。
それでも。
「……これから、何かが変わる」
ミツハは、そう確信していた。
初めてだった。
自分の前に、何か新しい道が開けたような気がした。
女王アリへと視線を向ける。
小さな身体で巣の中を動き回る働きアリたち。
その中心にいる、一匹の女王アリ。
ミツハが大切に育ててきた存在。
「……よろしくね。」
そう呟いたミツハの顔には、昨日までにはなかった笑顔が浮かんでいた。
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