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プロローグ

初めまして。作者のスパイスダイスキです。

よろしくお願いします。

※本作品はフィクションです。物語に登場する人物・団体・施設・出来事等は、実在するものとは一切関係ありません。実在する地名が登場する場合がありますが、作中の世界観および設定は現実とは異なります。

あと、虫が苦手な方はご注意ください。

 岐阜県某所の山林


 カチカチと、硬質なものが重なり合う高い音がトンネル内に響き渡っている。

 音の発生箇所は1つではなく、洞窟内のいたるところから、何十、何百もの音の重なりが響き渡っていた。

 薄暗いトンネルには、黒く蠢く生き物がひしめき合っている。


『マスターミツハ、まもなくG-2番出口が開通いたします。』


 薄暗い洞窟の中、ぼんやりと明るく浮かぶステータス画面を覗いていた視線が、視覚共有していた個体の映像を覗き見る。


「おっ、いよいよだね。これで山越えしなくても、実家から最寄りのダンジョンまでの直通ルートが開けるね!」


 報告の念話を入れたのは、体長1mほどもある働きアリの一匹だ。

 トンネル開通工事の責任者として、現場を統率している個体である。


 直近のダンジョンまでの距離は、ミツハの実家がある愛知県内のダンジョンよりも、岐阜県側にあるダンジョンの方が近かった。


 しかし、近いと言っても標高の高い峠みちをジグザクに上ったり下りたりとしなくてはならない。

 原付バイクだけで行ける岐阜県側のダンジョンか、原付と電車に乗って行く、よりお金のかかる名古屋方面のダンジョンかを、天秤にかけた結果、よりお金のかからない岐阜県側に軍配が上がっただけであった。


「ほんと、スキル様様だよねっ!最初は、超ハズレだと思ったけど、いざ使ってみると、これ以上ないほどに万能なスキルよね。これで、峠越えで悲鳴を上げていた原付ちゃんも楽になるし、燃費も減るし、時間短縮にもなるし、もうサイコー!!」


 ミツハは、鼻歌を歌いながら、ステータス画面を閉じ、お尻についた土埃をはらいながら立ち上がった。


「よしっ!いつも通りトンネル掘りの残土は箱庭に収納して、トンネルの補強はダン爺達に任せて、あとは…あっ、そうだ!リンコママに確認を入れないと!」


 ミツハは、心の中で『念話』スキルを発動して、リンコママに呼びかける。


『リンコママ、こっちはもうすぐ出口が開きそうなんだけど、巣の拡張の具合はどう?』


 念話を発すると、すぐに柔らかな女性の声が返ってくる。


『はーい、そうねぇー。巣の拡張は大体終わったわぁ。今は新しい仲間のダンゴムシ達の部屋の内装を相談しているわぁ。あとは…オオスズメバチ達は、やっぱり自分たちの巣は自分たちで作るそうよぉ。私たち、黒蟻よりも立派な巣を作るんですって。』


 新たに仲間になったダン爺が率いるダンゴムシ達は、テイム前は地上で石の裏などに生息していたが、テイム後にサイズが体長1mくらいになったため、新たな住処を求め、黒蟻の女王であるリンコママに蟻の巣の部屋を間借りして住むことになっている。


 黒蟻達も、眷属達の数が増えたことと、体長が大幅に大きくなったことで、今までの巣の拡張をせざる終えなくなった。


 オオスズメバチの女王である、スズ姐は、黒蟻達との相性が悪く、互いにいつも牽制しあっており、今回の巣の拡張をリンコママが申し出た時も、いつものように「我らの方が、地べたを這いずり回る黒蟻よりも、マスターに相応しい城を作ることができきる!!」とリンコママに突っかかっていた。


 そしてミツハがトンネル開通現場の視察をしている間に、眷属達と未報告ダンジョン(通称エサダンジョン)に突撃していき、巣の資材であるダンジョン内の素材を採りに向かったようであった。


『はぁ、やっぱり協力は無理かぁ。まあ、いいや。とりあえず、予定通りになっているなら、スズ姐達の分の部屋も作ってあるんでしょ?このあと私が説得してみるわ。もし、すでに作り始めているとしたら、地上にいる人たちにバレちゃう可能性があるもんね。』


 本来であれば、巣の存在がバレないようにするために、地表付近ではなく深くまでトンネルを掘り、そこから各部屋を作っていく予定だったが、オオスズメバチが巣を作る場合、地表に近い地中に、木の皮や朽木の繊維を唾液を加えたペースト状のもので形成していく。

 本能に従って造る場合は、必ずそうなるとミツハは考えていた。


 いくら素材をダンジョンから持ってくるにしても、作る場所が地表に近ければ彼女達の羽音で色々とバレてしまう可能性がある。


 未報告のダンジョンのことも、勝手にトンネルを掘って移動を楽にしようとしていることも、スキルのことも…、バレると今後の計画に支障が出てしまうと思い、慌ててスズ姐に念話を繋げる。


『スズ姐、聞こえる?』


 次に、ミツハはオオスズメバチの女王であるスズ姐を念話で呼び出す。

 するとすぐにハキハキとした口調の返事が返ってきた。


『はっ!!マスター!!お呼びでしょうか!?』


『今、あなたの眷属達はなにをしてるの??』


『はっ!!マスターにふさわしい城を献上するために、眷属たちにエサダンジョン1層の森で城の素材の木材を集めている最中であります!!』


(はぁ……。)


『巣は、黒蟻の巣を使うって言ったでしょ?せっかく貴方達専用に大部屋をわざわざ作ってくれているのよ。それに、私の為の巣じゃなくて貴方達の為の巣よ。ちゃんと眷属達にも伝達したの?私のために働いてくれるのはうれしいけど、今回はちゃんと黒蟻たちと協力して巣を作ってちょうだい。』


『はっ!!マスターの意図を推し量れず、申し訳ありませんでした!!我が眷属達にも周知いたします!!』


『うん、よろしくね…。』


 虫達の統率は、とてもシンプルだ。

 アリとハチは、女王を頂点に形成されており、次に、卵の世話や子への餌やり、エサの調達、巣の拡張となる。


 すでにピラミッドが出来上がっているのに、ミツハがテイムしたことで、頂点がミツハへと変更されてしまい、さらに自然で生きるのとは違うダンジョンでの活動や、地上に出ない隠密行動、スキルや、モンスターとの戦闘など、普通ではありえないことが目白うしな為、エラーがところどころで発生してしまう。


「はあ、まだまだうまくいかいないものね…。まあ最初の頃と比べたら、天と地ほどの差はあるけど、それでももっとお金が稼げるようになりたいわ…。」


 その時、ミツハのお腹が、「キュルルー」と可愛く鳴った。

 ミツハはお腹を抑え、「まだお昼の時間ではないわね…」と俯きながら人ごちる。


「よし、明日こそ新鮮なお肉を食べるわよ!魔物の肉団子じゃなく、ちゃんとした家畜の肉を!!!」


 一人気合いを入れ、ミツハは新たにできる出口に向かった。


 ◇◇


 ミツハがどうしてこうなってしまったかと言うと、さかのぼること半年前。

 ダンジョン災害者支援制度を使い無償で通った高校を卒業し、探索者になるために最寄りのギルドへ足を運んだことから始まった。


 その日ミツハは、探索者になるため必要な書類と印鑑を持ってギルドへと向かっていた。

 ギルドの建物は市役所のような見た目だが、もしもの時の為にとても頑丈にできている。


 ギルドに着くと、ミツハは登録窓口のある2階へと上がり、発券機から受付番号札を取る。

 受付番号は60番。

 呼ばれるまで近くの長椅子に座ろうとしたところ、すぐに「60番の方ー!」と、呼び出しがあった。


「こんにちは、60番の方ですね。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「こ、こんにちは、えっと、あの、私、探索者登録をしたくって…。」


 ミツハは緊張しながらも、必要書類を受付のテーブルへと出した。


「はい。探索者登録ですね。書類を確認させていただきます。少々お待ちくださいませ。」


「は、はいっ!!」


 緊張の勢いで大きな声で返事をしてしまい、受付のお姉さんに笑われてしまう。

 高校在学中に、探索者になるための講習はすでに受けており、必要書類の中には修了証書も入っている。

 他にも住民票や、健康診断書、通帳の写し、それとダンジョン災害被害者支援受給者の写しなどだ。


 ミツハの両親は、世界にダンジョンが現れた日に亡くなった。

 ダンジョンの出現と同時に魔物が地上へ溢れ出し、日本だけでも数万人が犠牲になった。

 世界中が混乱と絶望に包まれる中、地上へ溢れ出した魔物たちは、数日も経たないうちに次々と姿を消していった。


 当時は原因すら分からず、「大気中に活動を維持するためのリソースが不足したためではないか」と語った自称専門家の説が、もっとも有力な仮説として扱われた。

 後に、魔素の存在しなかった地球の環境に魔物が適応できず、存在を維持できなくなったことが判明する。


 奇しくも、あの時の仮説は正しかったということだ。


 その自称専門家は、いつしか本物の専門家として認められ、ダンジョン研究の第一人者としてテレビや新聞に引っ張りだこになっていった。


 だが、そんな世界の変化とは無関係に、ミツハの世界はあの日に終わっていた。


 両親だけではない。

 離れて暮らしていた祖父母も、ダンジョン災害によって命を落としていたとこが、避難所での生活中にわかった。


 身寄りを失った子供たちは全国から保護施設へ集められ、集団生活を送ることになった。

 ミツハも、その中の一人だった。


 家族を失った心の傷は、それぞれ違う。

 誰とも話さず、一人で過ごすことを選ぶ子供もいた。

 ミツハも、そんな子供の一人だった。


 ただ、ミツハには少し変わったところがあった。

 施設の庭や建物の隅で見つけた虫を捕まえては、小さな容器に入れて飼っていたのだ。

 ダンゴムシ、コオロギ、カマキリ。

 時には、どこから見つけてきたのか分からないような虫までいた。


 ミツハの暮らしていた村は、自然あふれる場所だった。

 週末になると、家族でピクニックに出かけ、虫取りをしたり、ザリガニ釣りをしたりと現代の遊びより、たくましい遊びをしていた。

 ミツハにとっては、家族と過ごした幸せな記憶を頼りに、虫取りをしたりしていたのだが、周りの子供や施設の大人たちは、そんなミツハを気持ち悪がっていた。


 虫たちは何も聞いてこない。

 両親のことも、祖父母のことも。

 ミツハが何も話さなくても、ただそこにいてくれた。


「気持ち悪い」、「なんでそんなの飼ってるの?」、「捨ててきなよ」と、言ってきた子もいた。

 そんな言葉を何度も浴びせられても、それでもミツハは虫を飼うことをやめなかった。

 大勢の子供たちに囲まれて暮らしているはずなのに、人間の輪には入れない。

 けれど、虫たちと一緒にいる時間だけは、不思議と心が落ち着いた。

 それに小さな虫たちを眺めていると、両親と過ごした日々を思い出すこともできた。


 そして、いつしか施設の中でミツハは、


「虫を飼っている変な子」


 として知られるようになっていた。


 ◇


「大変お待たせいたしました。ただいま確認が終わりました。書類の記載に問題はありませんでした。これより胡蝶ミツハ様の仮探索者ライセンスを発行いたします」


 受付のお姉さんは、手元の書類を確認しながら説明を続ける。


「これからの流れといたしましては、仮探索者ライセンスを発行後、十一時半よりステータス獲得のためダンジョンへ入っていただきます。その後、指導官と共に魔物を一匹倒していただくことになります。」


 ステータスを得るには、ダンジョンに入り、自力で魔物を倒さなくてはならない。

 ダンジョン災害の当時、地上へ溢れ出した魔物を倒してもステータスを得られなかった。

 その後、自衛隊がダンジョン内部で魔物を倒した際にステータスを獲得したことで、ダンジョン内で魔物を倒すことが条件だと判明したのだ。


「仮探索者ライセンスである理由といたしましては、獲得したジョブやスキルによっては、探索者にならないことを選ばれる方もいらっしゃるためです。それまでは、探索者としての活動はできかねます。」


 ジョブやスキルは千差万別だ。

 戦闘に向いたジョブもあれば、何の役に立つのか分からないようなジョブもある。

 有名なところでは、ひよこ鑑定士や逆立ち名人などがある。

 もちろん、ダンジョンに潜るのに不向きなジョブを引いてしまっても、変更することはできない。

 自分で選ぶこともできない。本当に、運に頼るしかないのだ。


 もっとも、ジョブが外れだったとしても、戦闘に役立つスキルや、仲間を支援するスキルを得られる場合もある。

 それどころか、日常生活で役立つ便利なスキルを得ることもあり、ダンジョンの外でスキルを活用し、一般の仕事に就いている者もいる。


「ダンジョンに入られる方のみ、探索者ライセンスを発行いたします。ただし、もし探索者にならない場合でも、取得されたステータスは記録に残ります。ですので、決して犯罪行為などにスキルを使用しないようお願いいたします。その場合、一般の犯罪よりも刑が重くなりますので、ご注意ください。」


 今までの人類にはなかった能力を得られるようになったことで、ステータスを取得した者による犯罪は厳しく取り締まられている。

 魔物を倒せば、ステータス上のレベルが上がる。

 レベルが上がれば肉体は頑丈になり、身体能力が向上する。魔法を使える者なら、その威力も上昇する。

 ステータスを持たない人間からすれば、同じ人間でありながら、その差は天と地ほどもある。

 それだけの力を、これからミツハも手に入れることになる。


 それからいくつもの注意点を受付のお姉さんから聞いたミツハは、出来上がった仮ライセンスを受け取った。


 そして、ダンジョンのある隣の建物へと移動した。


 ◇


 鞍ヶ池ダンジョン支部A棟


 建物の自動ドアを潜ると、先ほどの市役所感あふれる雰囲気とは打って変わり、張り詰めた空気がミツハを包み込んだ。

 行き交う人々の多くは、探索者らしき装備を身につけている。

 防具に身を包んだ者。大きな荷物を背負った者。腰に武器を携えた者。

 受付で手続きをする人間もいれば、これからダンジョンへ向かうのか、黙々と準備をしている人間もいる。


 ここは、これから命を懸けてダンジョンへ潜る者たちが集まる場所なのだ。

 ミツハは無意識に、受け取ったばかりの仮ライセンスを握りしめていた。


 受付のお姉さんに教えてもらった、仮探索者専用の窓口に向かい、一緒に潜る指導官を待つ。


 しばらくすると、受付の奥から一人の女性が姿を現した。

 年齢は二十代くらいだろうか。

 簡易な革装備を身に着けており、腰には短剣を携えている。


「こんにちは。これから一緒にダンジョンに潜る、指導官の『深山《みやま》サラサ』よ。よろしくね!」


 明るい笑顔で名乗った女性を見て、ミツハは思わず目を見張った。

 身長は180cmを超えている。

 それだけではない。

 革装備の隙間から見える腕や脚は、女性とは思えないほど鍛え上げられていた。

 無駄な肉が一切なく、全身が引き締まっている。


 ミツハは、目の前にいる女性がこれから自分をダンジョンへ連れていく指導官なのだと、改めて実感した。


「こ、胡蝶ミツハですっ。きょ、今日はよろしくお願いします。」


 若干ひより気味になって挨拶をしてしまったミツハだが、指導官のサラサは緊張をほぐすように柔らかい笑顔を作り「安心して、任せてちょうだい」と言った。


 ◇


 ダンジョンに入る前に、ミツハは指導官のサラサに連れられて女性用のロッカールームへと向かった。

 レンタルの革の防具を着せられ、扱いやすい初心者用の強化アルミ製できた棒、通称アルミロッドを持たされた。


「はい、これ」


「……棒ですか?」


「そう。これが一番扱いやすいわ。軽いし、壊れにくいし、変な癖もつかないから。」


「これで……魔物を?」


「そうよ。今日の相手はスライムだから、十分よ。強化アルミ製だから腐食にも強いわよ。価格も安価だから、お財布にも優しいしね。」


 ダンジョン災害被害者支援を受けている場合、基本的にお金を持っているものは少ない。

 なのでそういった人たちは、ギルドからのレンタル武器や、安価で丈夫な強化アルミ製の武器を好んで使用している。


 サラサは、ミツハが着替えている間に、戦った経験や、武道を習っているかどうかを聞き、武器を扱った経験のない初心者には、これが一番扱いやすいと判断したのだ。


「鞍ヶ池ダンジョン1層のスライムは、強く蹴っただけで倒せるほど弱いわ。」


 サラサはそう言ってから、ミツハの持つアルミロッドを見る。


「でも近づくのが怖いと思う子もなかにはいるからね。」


 見た目こそただの棒だが、内部にはしっかりと芯が入っており、簡単に折れたり曲がったりすることはない。

 持ち手には滑り止めのゴム製グリップまで付いている。よほど無茶な使い方をしない限り、手からすっぽ抜ける心配もないだろう。


「じゃあ準備もできたことだし、さっそくダンジョンに入るわよ。」


「はい」


 ミツハはアルミロッドを握り直した。

 サラサに続いて、ダンジョンへ続く門をくぐる。

 その先にある地下への階段を、二人でゆっくりと降りていく。

 階段を下りきった、その先。


「……え?」


 ミツハは思わず足を止めた。

 そこには、地下とは思えないほど広大な空間が広がっていた。

 木々が生い茂り、草原が広がっている。

 遠くには水面まで見える。

 それはまるで…。

 地上の鞍ヶ池を、そのまま地下へ持ってきたような景色だった。


 ◇


「びっくりしたでしょ?」


 サラサの一言で、ミツハは顔をサラサへと向けた。


「はい。テレビでは見たことあったんですけど、実物は全然違いますね…。」


「ふふふ、そうよね。でも実際は、植生も構図も全然違うのよ。ダンジョンが地上の鞍ヶ池を真似て作っているのよ。不思議よねぇ」


 ミツハは頷くことで返事を返した。


「さあ、いつまでも呆けていないで、移動するわよ。ここはダンジョンの入り口。他の探索者の邪魔になるわ」


 そういうとサラサはミツハを連れて少し離れた丘を目指して歩き出した。


 3分ほど歩いたところで立ち止まり、サラサは進行方向に向かって人差し指を刺した。


「見て、ミツハさん。あそこにスライムがいたわ。」


 ミツハはサラサの指刺す方向へと視線を向けた。

 すると、青く半透明の物体がぽよぽよと原っぱを跳ね回っているのを見つけた。


「見つけたかしら?ちょうどよく1匹しかいないわね。入り口近くは、基本的に弱い魔物しか出ないわ。でも、大きな音を立てたり、強い匂いを出したりすると魔物が寄って来てしまうこともあるから注意してね。」


 ミツハは視線をスライムから動かさずに返事を返した。

 これから倒すスライムのことを考えると、自然とアルミロッドを握る手に力がこもる。


 スライムの討伐は意外とすんなりと終わった。

 最初こそ、命を奪うことに躊躇しそうになったが、それよりも魔物のことを心のどこかで家族を奪った存在として認識しており、気がついた時には、アルミロッドを振り抜いてしまっていた。


「おめでとう、ミツハさん。綺麗なスイングだったわ。」


「はっ…。あ、ありがとうございます…。」


 ミツハは意識していなかったが、サラサが見たスイングは、虫取りをするために培った虫タモを扱うそれであった。


「じゃあ、魔物も倒したことだし、周囲は安全ね。さっそく確認してもらおうかしら。」


「は、はい!!」


 スライムを倒した瞬間からミツハの視界には、半透明のディスプレイが浮かび上がっていた。

 それを講習で習った通りに指で操作し、自身のステータスを確認する。


 ◇


 名前:胡蝶 ミツハ

 年齢:18

 種族:人間

 レベル:1

 ジョブ:テイマー

 HP:80 / 80

 MP:110 / 110

 SP:90 / 90

 STR:5

 VIT:5

 AGI:9

 DEX:6

 INT:7

 MND:4

 LUK:15


【スキル】

 ・テイム(I)


 契約数 :0 / 1


 ◇


「どうだったかしら?一応決まりだから、私にもステータスを確認させてもらえる?」


 ミツハはステータス画面がサラサにも見えるように、少し身体を横へずらした。

 サラサはミツハの肩越しに画面を覗き込みながら、端末へ一つずつ内容を書き込んでいく。


「…テイマーは珍しいわねぇ。それに…。」


 サラサの声が、そこで止まった。

 テイマーというジョブは、結構珍しい部類に入る。

 魔物を使役し戦わせるジョブとして一般的な認知度も高い。


 しかし、ダンジョン災害を経験した現在の世界では、テイマーというジョブは必ずしも歓迎されるものではなかった。人々は、魔物そのものを忌避している。


 ダンジョンから溢れ出した魔物によって、家族や友人を失った者は世界中にいる。そんな魔物を仲間として従え、共にダンジョンへ潜ろうと考える者は、決して多くない。中には、テイムした魔物を虐待していた事件まで発生している。


 サラサは、ミツハがダンジョン災害被害者だと知っている為、余計に辛い思いをするのではないかと、心配していた。


(よりにもよってテイマーなのね…。それに…。)


 さらにスキルもテイマーとしての基本スキルであるテイムしか持っていない。

 テイム(I)は弱い魔物に分類される魔物しかテイムできないので、PTを組むとしても、戦力としてカウントされるのは難しいだろう。


 サラサは憐みの目を、ミツハに向けていた。

 そのミツハの顔は、血の気が引き、生気すら感じられないほど真っ白になっている。


(無理もないわ。残念だけど、探索者になるのは難しそうね…。)


 サラサはもう一度、ミツハのステータスを見る。


(HPも、MPも平均値。他の数値は平均以下ね…。)


 それだけでは、とても探索者としてやっていけるとは思えなかった。


(LUKだけは少し高い。テイマーとして見るなら、そこがせめてもの救いだけど…。)


 テイムスキルの成功率はLUKの高さに起因すると言われている。

 しかし、もともと弱い魔物は簡単にテイムできるので、テイム(I)でのLUKによる恩恵はないに等しい。


 それからなんとか、励まそうとサラサが何度かミツハに話しかけたが、ミツハからの反応はなく、こうして、ステータスを取得するためのミツハの初めてのダンジョン探索は、あっけなく終わった。




 ◇


 ギルドの建物を出たミツハは、まだ日の高い青空を見上げた。


 青い空。白い雲。平和そのものの景色。


 ほんの少し前まで、あの地下で魔物を倒し、自分の人生がこれから大きく変わるのだと思っていたミツハ。


 いや。


 変えなければならないと思っていた。


 ミツハの頭を占めているのは、ただ一つ。

 テイマーというジョブに関して、ミツハは特になんの感情も抱かなかった。

 だが、スキルレベル(I)に関しては、到底看過できない。


 ミツハは探索者になると決めてから、様々な可能性を想定していた。

 近接職、遠距離職、サポート職。

 どのようなジョブを得ても、それぞれに合わせた計画を立て、準備してきた。


 探索者という職業についても、かなり調べている。

 必要になる装備も、ダンジョンごとの難易度も、魔物の種類も、一応パーティーの組み方も。


 探索者として見れば、下の下と言ってもいい。

 最初から一緒にダンジョンへ潜る仲間がいれば、まだ話は違ったかもしれない。中学生までは他人とのコミュニケーションをまったく取っていなかったミツハにとっては陽キャのように簡単に友達や仲間の輪を築くとこはとても難しかった。


 施設を離れたかったミツハは、中学最後の一年間、とにかく勉強を頑張った。

 そして、地元から離れた進学校へと進学することができた。

 高校進学を機に施設を出て、両親が残した実家へ戻ったミツハは、そのままオンライン授業を受けることにした。

 人と関わる機会は、それまで以上に減っていった。

 そんなミツハにとっては、魔物を仲間にすることよりも、人間の仲間を募るほうが難しかったのである。

 一応、高校生になってから、趣味を共有することで個人的に話をする友人?ができたことはある。

 しかし、その友人は遠方に住んでおり、ましてや探索者になろうとは考えていなかった。


 ミツハは、放心状態のまま歩き出し、バス停の長椅子にちょこんと座る。

 そして、頭を抱えて長い長いため息をはいた。


「お、お金が…。来月からの支払いが…。ああああ……。」


 現在、ミツハはとにかくお金がなかった。


 ミツハが探索者を目指したのは、単純にダンジョンに興味があったからではない。

 探索者になれば、普通に働くよりも短期間で多くのお金を稼ぐことができるから。


 自分一人が生活していくだけなら、そこまで問題ではない。しかし、実家の維持には金がかかる。

 中学の3年間は誰も住んでいなかったのだ。人の住まなくなった家はすぐに傷んでいく。ミツハの家は古いので、傷んだらすぐに修理しないと取り返しのつかないことになるかもしれない。

 他にも家電類の故障。

 給湯器の交換。

 古くなった水回り。

 少しずつ修繕してきたが、貯金はそのたびに減っていった。


 だからこそ、ミツハは探索者になることに賭けていた。

 ステータスを得て、少しでも優秀なジョブやスキルを手に入れる。

 そして、ダンジョンで稼ぐ。

 それが、ミツハなりに考えた未来だった。


 先月までは、補助金は毎月支給されており、それを使って高校時代は裕福には暮らせなくとも十分な生活はできていた。


 しかし、高校2年生の時に探索者になることを決めた後からは、徐々に出費がかさみ、さらに古い建屋の実家の修繕費用が思いのほか高く、トドメとばかりに、燃費とかわいさで選んだ、原付バイクを一括で購入したことで、ミツハの口座も、財布も底をつきかけていた。


 ミツハは、俯いたままブツブツとうわごとをつぶやきながら、帰宅する。


 玄関を開け、無造作に靴を脱ぎすて、居間のソファーに倒れこんだ。

本作を読んでいただきありがとうございました。

よろしければ、ブックマーク、評価をよろしくお願いします。

投稿日は、3~4日に1話ペースで書けたらいいほうです。

キーボードを打つのが遅いため、申し訳ないです。


時事ネタで申し訳ありません。EDF6.2すごく楽しみです!

書いているタイミングでの発表だったので、とても驚きました。

イメージとしてはあのPVみたいにわんさか出る予定です。虫が。

本当はある程度書き進めたタイミングでの投稿予定でしたが、急遽投稿することを決めました。

次話までは少し時間をいただきたいと思います。


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