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第26話 戴冠

 玉座の間に、再び静寂が戻ったのは、夜明け前だった。


 刺客は制圧された。

 教会急進派の最後の暴発。


 そして――


 エヴァンは、まだ生きている。


 医務室の扉の前で、私は立ち尽くしていた。


「命に別状はありません」


 医師の言葉が、ようやく胸に落ちる。


 矢は急所を外れていた。


 あと数寸ずれていれば、命はなかった。


 私は壁にもたれ、初めて深く息を吐く。


 泣かなかった。


 泣けなかった。


 だが。


 崩れそうになるのを、必死で押さえた。


「……王になる顔をしろ」


 背後から声。


 振り向くと、王太子――いや、アレクシスが立っていた。


 包帯を巻いた肩を押さえながら。


「殿下」


「もうその呼び方はやめろ」


 小さく笑う。


「王はお前だ」


 その言葉が、現実になる。


 夜明けと共に、即位の儀が執り行われることが決まった。


 教会穏健派も承認し、重臣たちも異議を唱えなかった。


 玉座の間。


 朝の光が差し込む。


 白い大理石の床。


 赤い絨毯。


 王冠が、中央の台に置かれている。


 重い。


 国の重み。


 私はゆっくりと進む。


 背後に、重臣。


 騎士団。


 そして。


 アレクシス。


 彼は一歩後ろに立っている。


 臣下として。


 宰相が宣言する。


「レティシア・アルヴェーン」


 名を呼ばれる。


「王位継承を正式に承認する」


 私は膝をつく。


 王冠が持ち上げられる。


 その瞬間。


 胸の奥で、あの兆しが脈打つ。


 王家の紋章が淡く光る。


 静寂。


 そして。


 王冠が、私の頭に乗せられる。


 重みが、首にかかる。


 だが不思議と、揺れない。


 私は立ち上がる。


 玉座に向き直る。


 座る前に、振り返る。


 アレクシスと目が合う。


 彼は静かに膝をついた。


「我が王に、忠誠を」


 胸が締め付けられる。


 だが私は王だ。


 涙は流さない。


「立ってください」


 静かに言う。


「あなたはこの国の柱です」


 彼は立ち上がる。


 微笑む。


 穏やかに。


 私は玉座に座る。


 視界が高くなる。


 王の景色。


 孤独な高さ。


 だが。


 独りではない。


「私は悪女と呼ばれても構いません」


 静かに告げる。


「それでも、この国を選びます」


 玉座の間に、深い沈黙が落ちる。


 やがて、騎士団が剣を掲げる。


「新王陛下、万歳!」


 声が重なる。


 王都の鐘が鳴り響く。


 私は王になった。


 恋を凍らせたままではいられない王に。


 だが。


 まだ一つ。


 選んでいない。


 医務室の奥で、眠る男がいる。


 黒い外套を脱いだ姿で。


 私は玉座から立ち上がる。


「式はこれで終わりです」


 重臣が驚く。


「陛下?」


「王には、やるべきことがあります」


 静かな宣言。


 王冠の重みを感じながら。


 私は歩き出す。


 玉座を降りても、王は王。


 そして。


 私はまだ。


 愛を選んでいない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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