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第25話 王太子の選択

 王位継承審議、最終日。


 玉座の間は静まり返っていた。


 王は依然として臥せったまま。

 評議会の重臣、教会穏健派、騎士団長――国の中枢が揃う。


 中央に立つのは、王太子アレクシス。


 そして私。


 この三ヶ月、私たちは争った。


 言葉で。政策で。覚悟で。


 宰相が口を開く。


「両名、最後に述べることはあるか」


 王太子が一歩前へ出た。


 包帯の下の傷はまだ癒えていない。


 それでも背筋は真っ直ぐだった。


「私は王太子として育てられた」


 低く、揺るがない声。


「この国の安定を守る責務がある」


 重臣たちが頷く。


「だが」


 一拍。


「三ヶ月で理解した」


 視線が私に向く。


「王位は血だけでは決まらない」


 玉座の間が静まる。


「民が求める王がいる」


 ゆっくりと息を吸う。


「それは――レティシアだ」


 空気が凍る。


 私は息を止めた。


「殿下?」


 宰相が戸惑う。


「私は退く」


 はっきりと。


「内乱を避けるためではない」


 私を見る。


「彼女が王になる資格を持つと認めるからだ」


 胸が強く打つ。


「殿下、それは――」


「最後まで争えば、国は割れる」


 静かに続ける。


「私は王として育った」


 拳を握る。


「だからこそ、退く決断もできる」


 沈黙。


 彼は私の前まで歩み寄る。


「レティシア」


 名を呼ぶ。


「君が王になれ」


 重い言葉。


「だが」


 声がわずかに揺れる。


「私は最後まで君を愛している」


 玉座の間に、誰も声を出せない。


 私の胸が痛む。


 凍らせたはずの感情が、ひび割れる。


「殿下」


 声が震えそうになるのを抑える。


「ありがとうございます」


 それしか言えない。


 彼は微笑む。


 悲しくも、誇らしげに。


「負けたのではない」


 低く言う。


「選んだ」


 その言葉に、涙が込み上げる。


 王太子は玉座の前で膝をついた。


 正式に。


 王位継承権の辞退を宣言する。


 重臣たちがざわめく。


 だが誰も反対しない。


 民意は既に傾いている。


 宰相が静かに告げる。


「レティシア・アルヴェーン」


 私は一歩、玉座へ進む。


「王位継承者として承認する」


 空気が震える。


 だがその瞬間――


 鋭い殺気。


 玉座の間の上階から矢が放たれる。


 一直線に、私へ。


 間に合わない。


 次の瞬間。


 衝撃。


 黒い外套が視界を覆う。


「……エヴァン!」


 矢は彼の背に突き刺さっていた。


 騎士たちが刺客を制圧する。


 教会残党。


 最後の抵抗。


 エヴァンが膝をつく。


「馬鹿……」


 私は駆け寄る。


「王になる顔をしていない」


 かすれた声。


「死なないで」


 初めて、声が崩れる。


「泣くな」


 彼は微笑む。


「王だろ」


 胸が裂ける。


 凍らせた感情が、完全に砕ける。


 私は彼を抱き締める。


「医師を!」


 叫ぶ。


 王太子が立ち上がる。


「急げ!」


 玉座の間は混乱に包まれる。


 だが。


 評議会の決定は覆らない。


 私は、王となる。


 愛を凍らせたままでは、いられないまま。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


あと数話で完結となります。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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