表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/27

第24話 教会の暴発

 王太子が血を流したという報せは、その日のうちに王都全域へ広がった。


 急進派司祭カロスはその場で拘束されたが、彼の信奉者たちは止まらなかった。


「神を否定する女が王になるなど許されない!」


 夜。


 大聖堂前で暴動が起きた。


 石が投げられ、聖印が燃やされ、騎士団と信徒が衝突する。


 私は王城の医務室で、包帯を巻かれる王太子を見ていた。


「……命に別状はありません」


 医師の言葉に、胸の奥の緊張がようやく緩む。


 王太子は蒼白だが、意識ははっきりしている。


「広場は?」


「暴動が」


 私の言葉に、彼は起き上がろうとする。


「無理です」


「無理でもだ」


 歯を食いしばる。


「王位を争っている最中に、民を割らせるな」


 その姿に、胸が締め付けられる。


「……殿下」


「何だ」


「私が行きます」


 彼の瞳が揺れる。


「危険だ」


「分かっています」


「また守らせる気か」


 痛い言葉。


 私は静かに首を振る。


「今度は、守ります」


 王太子は数秒、私を見つめる。


 やがて小さく笑った。


「行け」


 それは許可ではなく、信頼だった。


 王城を出ると、夜の王都は炎に染まっていた。


 大聖堂前。


 信徒と民衆が衝突し、騎士団が押し戻されている。


 その中心で、カロスの信奉者が叫ぶ。


「王は神が選ぶ! 女ではない!」


 私は階段を上がり、群衆の前に立った。


「やめなさい!」


 声を張る。


 ざわめきが止まる。


「暴力で神を証明するのですか」


 信徒たちが揺れる。


「私は神を否定していません」


 胸に手を当てる。


「ただ、王になる可能性を与えられただけ」


「嘘だ!」


 誰かが叫ぶ。


「王太子を傷つけたのは誰ですか」


 静かに問う。


「教会の急進派です」


 沈黙。


「王国を割っているのは誰ですか」


 炎の揺らめきの中、視線を巡らせる。


「私ではない」


 一歩前へ。


「王位は評議会が決めます」


「神ではないと?」


「神が与えた兆しなら」


 強く言う。


「王家の血にも宿るはずです」


 沈黙。


「暴力を振るう者は、神ではなく恐怖に従っている」


 風が吹き、炎が揺れる。


「私は悪女と呼ばれても構いません」


 広場が静まる。


「それでも、この国を割らせません」


 騎士団が前進する。


 信徒たちが一歩、また一歩と退く。


 暴動は、ゆっくりと沈静化していった。


 炎が消え、夜が戻る。


 そのとき。


 背後から刃の気配。


 反応が遅れる。


 だが鋼の音が弾いた。


 エヴァン。


 黒い外套が夜を裂く。


 刺客を地に伏せる。


「油断するな」


 低い声。


「助かりました」


「当然だ」


 彼は私を見る。


「血の匂いがする」


「殿下の」


 灰色の瞳がわずかに揺れる。


「限界だな」


「ええ」


 私は夜空を見上げる。


 ここまで来た。


 民意は揺れた。


 教会は暴発した。


 王太子は血を流した。


 三ヶ月の期限は、まだ残っている。


 だが。


 実質、決着は近い。


 エヴァンが低く言う。


「王になる顔だ」


「なります」


「その先は」


 私は彼を見る。


「まだ選びません」


 彼は小さく笑う。


「最後まで残酷だ」


 だがその目は、誇らしげだった。


 夜が明ける。


 王位継承審議の最終日が、近づいている。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


明日からは1日1話の投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ