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第22話 裏切りの噂

 それは、あまりにも出来すぎた文書だった。


 ――レティシア・アルヴェーンとヴァルディア王国との密約書。


 王都全域にばら撒かれ、教会の急進派が声高に叫ぶ。


「見よ! 敵国と通じる女が王を名乗ろうとしている!」


 広場に張り出された羊皮紙。


 そこに記された偽の署名。


 私の名。


 エヴァンの名。


 そして“王位獲得後、軍事協定締結”の文言。


 雑だ。


 だが十分に煽動的。


 玉座の間は重苦しい空気に包まれていた。


「説明を求める」


 宰相の声。


 視線が突き刺さる。


 王太子は沈黙している。


 庇えば彼の立場が悪くなる。


 私は前に出る。


「偽造です」


 はっきりと。


「証拠は」


「私の筆跡ではありません」


「似せることは可能だ」


「ええ」


 視線を大司教へ向ける。


「ですが、一つだけ決定的な誤りがあります」


 ざわめき。


「私は“王妃”とは署名しません」


 羊皮紙の一文を指す。


 ――将来の王妃として。


「私は王を目指しています」


 静寂。


「王妃ではありません」


 ざわめきが止まる。


 大司教の目が細まる。


「言葉遊びだ」


「いいえ」


 私は一歩前へ。


「私は守られる立場を望んでいません」


 視線を重臣たちへ。


「守る側に立ちます」


 王太子が初めて口を開く。


「公開討論を行う」


 低い声。


「ここで白黒をつける」


 玉座の間が揺れる。


 教会も逃げられない。


 三日後。


 王都中央広場。


 王太子と私の公開討論。


 そして。


 民が見る。


 夜。


 庭園に立つ。


 エヴァンが現れる。


「俺の名もある」


「ええ」


「怒っているか」


「少し」


 彼は苦笑する。


「疑われるのは慣れている」


「私は慣れていません」


 灰色の瞳が柔らぐ。


「公開討論」


「逃げません」


「落ちれば終わる」


「ええ」


「俺を切るか」


 核心。


 私は彼を見る。


「切りません」


「なら利用するな」


「利用します」


 正直に答える。


 彼は小さく笑う。


「王だな」


 そのとき。


 回廊の奥から足音。


 王太子。


「話は終わったか」


「今終わりました」


 視線が交差する。


 冷たい。


「討論では容赦しない」


「望むところです」


 彼は近づく。


「君が負ければ」


「ええ」


「王位から退け」


 重い宣言。


「承知しました」


 迷わず答える。


 エヴァンが低く言う。


「勝て」


「勝ちます」


 夜風が強く吹く。


 三日後。


 王か。


 裏切り者か。


 恋も信頼も、全てが試される。


 私は空を見上げる。


 凍らせたはずの感情が、胸の奥で軋む。


 負ければ。


 何もかも失う。


 それでも。


 退かない。

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