第21話 敵国の約束
ヴァルディア王国からの正式書簡が届いたのは、継承審議開始から二十日目の朝だった。
赤い封蝋。王家の紋章。
内容は簡潔。
――黒騎士エヴァン・ヴァルディアの安全保証を求める。
――不当な拘束、監視は国際問題とみなす。
――必要とあらば国境に軍を展開する。
脅しではない。
宣言だ。
玉座の間に重臣たちが集まり、空気は重く沈む。
「やはり来たか」
宰相が低く言う。
視線が一斉に私へ向く。
敵国将軍と関係が深い女。
王位候補。
疑念は簡単に繋がる。
「レティシア嬢」
重臣の一人が問う。
「あなたは事前にこの書簡を知っていたか」
「いいえ」
即答する。
「知っていれば、止めました」
「止められる立場なのか」
刺すような問い。
「止めます」
静かに返す。
「王になるなら」
ざわめき。
王太子が一歩前へ出る。
「彼女は関与していない」
「殿下はなぜ断言できる」
冷たい視線。
「私が保証する」
強い声。
だがそれは。
彼の立場を削る。
私は口を開く。
「保証は不要です」
王太子が振り向く。
「私が説明します」
全員の視線を受け止める。
「エヴァンは私を利用しています」
空気が揺れる。
「王位争いを有利に進めるため」
「それを認めるのか」
「ええ」
はっきり言う。
「私も利用しています」
ざわめきが広がる。
「敵国の圧力を抑止力として」
「危険だ」
「承知しています」
目を逸らさない。
「だからこそ、ここで明言します」
深く息を吸う。
「私はヴァルディアと内通していません」
「証明は」
「これからします」
沈黙。
そのとき、扉が開く。
黒い外套。
エヴァン。
堂々と歩み出る。
「呼ばれていない」
重臣が怒鳴る。
「知っている」
彼は中央に立つ。
「だが話がある」
王太子が低く言う。
「ここは王家の審議の場だ」
「だから来た」
灰色の瞳が、まっすぐ私を見る。
「ヴァルディアは軍を動かさない」
空気が止まる。
「……何だと」
「正式声明は牽制だ」
彼は続ける。
「国境には兵を集めない」
「保証できるのか」
「俺が保証する」
重臣たちがざわめく。
「将軍一人の言葉で?」
「ヴァルディア王家の名で誓う」
静寂。
私は彼を見る。
「なぜ」
小さく問う。
「お前の立場が悪くなる」
即答。
「俺のせいでな」
胸が強く打つ。
「国を裏切るのですか」
「裏切らない」
静かな声。
「王位を奪う女を支える」
玉座の間がざわめく。
王太子の拳が震える。
「その発言は敵対行為だ」
「なら拘束するか」
挑発。
空気が張り詰める。
私は前に出る。
「エヴァン」
「何だ」
「撤回してください」
彼の目が細まる。
「なぜ」
「私のために国を動かさないで」
沈黙。
「私は一人で立ちます」
「知っている」
「なら」
「それでもだ」
低く言う。
「お前が傷つくなら、俺は動く」
王太子が一歩前へ。
「彼女を理由に国を動かすな」
「彼女を理由に怒りで剣を振るな」
二人の視線がぶつかる。
三つ巴。
だが今は。
国家まで絡む。
私は叫ぶ。
「やめてください!」
玉座の間が静まる。
「私は誰の所有物でもありません」
強く言う。
「王になる女です」
視線をエヴァンへ。
「あなたの覚悟は理解しました」
次に王太子へ。
「殿下の恐怖も理解しています」
そして重臣たちへ。
「ですが決めるのは、この国です」
深く頭を下げる。
「三ヶ月後の審議で」
顔を上げる。
「それまで、ヴァルディアは動かないと確約してください」
エヴァンはしばらく私を見つめる。
やがて。
「……分かった」
低く言う。
「三ヶ月」
王太子も言う。
「王家としても、軍事挑発はしない」
重臣たちがざわめく。
均衡が保たれた。
だが。
私の胸は重い。
エヴァンは国を背負ってここに立った。
王太子は王家を背負ってここに立つ。
私は。
何を背負っているのか。
玉座の空席を見つめる。
三ヶ月。
恋も国も、凍った均衡の上にある。
だがその氷は。
確実に、ひび割れている。
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