第18話 三つ巴
三ヶ月の期限が公示されてから十日。
王都の空気は、静かな火薬庫と化していた。
王太子は迅速に動いた。
教会の財務監査を正式に開始し、横領の証拠を押さえ、穏健派と手を結ぶ。重臣たちへの根回しも抜かりない。
正統。
安定。
経験。
それが彼の強み。
一方、私は外へ出た。
市場、港、貧民街、騎士団詰所。
民と直接対話し、治安改善の提案を出し、国境警備の再編案をまとめる。
改革。
刷新。
決断。
それが私の武器。
だが――。
教会は黙っていなかった。
大聖堂前の広場。
臨時説教台に立つ大司教が声を張り上げる。
「王位は神の定める秩序に従うべきもの!」
信徒たちが頷く。
「戴冠の兆しが二つ現れたこと自体が異常である!」
視線が私へ向く。
私は階段を上り、彼の前に立った。
王太子も反対側から現れる。
三者が揃う。
三つ巴。
広場はざわめきに包まれる。
「レティシア・アルヴェーン」
大司教が冷笑する。
「あなたは混乱を広げている」
「混乱は既にありました」
静かに返す。
「私は照らしただけ」
王太子が口を開く。
「教会は王家の審議に介入するな」
「介入ではない。忠告だ」
大司教は言う。
「王位が争われれば、民は割れる」
「割れているのは信頼だ」
私は言い切る。
「横領、密約、権力の私物化」
ざわめきが広がる。
「それを正さずして、神を語りますか」
大司教の目が冷える。
「大胆だな」
「王になるつもりですから」
はっきりと。
広場が静まり返る。
王太子が私を見る。
その瞳に、複雑な感情が揺れる。
「君は本気だな」
「ええ」
彼は一歩前へ出る。
「ならば私も本気だ」
民衆へ向き直る。
「王位は私が継ぐ」
力強い宣言。
「だが」
続ける。
「レティシアの力を否定しない」
広場がざわめく。
「彼女は王国に必要だ」
私の胸が揺れる。
共に立つ未来を、まだ捨てていない声。
だが。
私は言う。
「必要なら、隣ではなく上に立ちます」
息を呑む音。
王太子の瞳が細まる。
挑戦状。
大司教が嘲る。
「女が王に?」
「血は男女を選びません」
私は胸に手を当てる。
「兆しは事実です」
沈黙。
そのとき、広場の外縁で黒い影が動いた。
エヴァン。
無言で立ち、全体を観察している。
存在自体が圧力。
「敵国の将を従えているのか」
大司教が指摘する。
「従えてはいません」
私は即答する。
「利用しています」
正直すぎる答えに、民衆がどよめく。
エヴァンが小さく笑う。
王太子が低く言う。
「危険だ」
「承知しています」
私は視線を逸らさない。
「王になるなら、危険も扱います」
沈黙。
三者の視線が交差する。
教会。
王太子。
私。
その均衡が崩れかけた瞬間――。
遠くで爆発音。
広場の端で煙が上がる。
悲鳴。
混乱。
教会急進派の過激信徒が暴発したらしい。
群衆が押し寄せる。
「下がれ!」
王太子が叫ぶ。
エヴァンが即座に動く。
私は転びかけた子供を抱き上げ、壁際へ運ぶ。
混乱の中、王太子と目が合う。
彼もまた民を守っている。
同じ方向を向いている。
だが。
同じ玉座を見ている。
煙が晴れ、騎士団が制圧する。
負傷者は出たが、死者はない。
私は子供を母親へ返す。
母親が泣きながら礼を言う。
民衆の視線が、私と王太子に向けられる。
どちらが王に相応しいか。
その問いが、空気に漂う。
エヴァンが低く言う。
「三つ巴だな」
「ええ」
「だが教会は自滅する」
「まだ油断できません」
王太子が近づく。
「君は怪我はないか」
「ありません」
「民を守った」
「当然です」
彼は小さく笑う。
「やはり君は王だ」
「まだ候補です」
だがその言葉は、どこか本心だった。
三ヶ月の戦いは、始まったばかり。
恋は凍ったまま。
だが衝突は加速していく。
誰が倒れ。
誰が残るのか。
まだ誰も知らない。
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