第16話 王家の審議
玉座の間は、かつてない緊張に包まれていた。
王は病に伏せ、出席は王族と重臣、そして教会代表のみ。
中央の高座には空席。
その前に、王太子アレクシス。
そして私。
並んで立つ。
かつては婚約者として。
今は――王位継承の競合者として。
「本日より、王位継承審議を開始する」
宰相の声が響く。
「王太子アレクシス殿下、およびレティシア・アルヴェーン嬢の戴冠の兆しを踏まえ、正統性および適格性を検討する」
ざわめき。
教会側の席では、大司教が冷たい目で私を見ている。
王太子が一歩前へ出る。
「まず明言する」
低く、強い声。
「レティシア・アルヴェーンは異端ではない」
空気が揺れる。
「王家の血に宿る兆しは事実だ」
大司教が口を開く。
「だが王位は一つ」
「承知している」
王太子は迷わない。
「だからこそ審議する」
視線が私へ向く。
「レティシア」
名を呼ぶ。
「君は王位を望むか」
公の場での問い。
逃げ場はない。
私は一歩進み出る。
「望みます」
静かだが、はっきりと。
ざわめきが広がる。
「理由は」
宰相の問い。
「王国は今、教会との均衡を失いつつあります」
視線を巡らせる。
「内紛の火種もある。外圧も強まっている」
エヴァンの存在を暗に示す。
「揺らいだ秩序を再構築するには、新しい王が必要です」
王太子が微かに息を呑む。
「新しい王とは、君か」
「可能性があるなら」
視線を逸らさない。
「試したい」
大司教が嘲る。
「野心だ」
「ええ」
私は微笑む。
「野心です」
重臣たちがざわめく。
女が公の場で野心を認める。
それ自体が衝撃。
王太子が静かに言う。
「私は王太子として育てられた」
玉座の方を見る。
「だが血は、選び直した」
視線を私へ。
「私は退かない」
「私も退きません」
言葉が交差する。
恋人ではない。
完全な対等。
宰相が言う。
「適格性の証明が必要だ」
「どう証明する」
王太子。
「政務、軍事、民意、教会との折衝」
宰相は続ける。
「三ヶ月。両者に機会を与える」
玉座の間がざわめく。
「三ヶ月後、評議会にて決定する」
期限が定まった。
三ヶ月。
その間に。
王太子も、私も。
結果を出さねばならない。
大司教が低く言う。
「教会は静観しない」
「構わない」
私は答える。
「民が選ぶでしょう」
挑発。
大司教の目が冷たく光る。
審議が終わり、重臣たちが散っていく。
玉座の間に、私と王太子だけが残る。
「三ヶ月か」
彼が呟く。
「短い」
「長い」
私は返す。
「恋人でいられる時間としては」
彼が苦笑する。
「もう恋人ではない」
「ええ」
沈黙。
「レティシア」
「はい」
「後悔するかもしれない」
「何を」
「君と争うことを」
私は微笑む。
「私はしません」
「なぜ」
「王になると決めたからです」
彼はしばらく私を見つめる。
その瞳には、まだ愛が残っている。
だがそれ以上に、覚悟がある。
「ならば勝つ」
「私も」
背を向け、歩き出す。
回廊へ出ると、エヴァンが待っていた。
「三ヶ月だと」
「聞いていたの?」
「城の外まで声は届く」
彼は壁にもたれる。
「どうする」
「勝ちます」
「恋は」
「保留です」
彼は小さく笑う。
「残酷な女だ」
「知っています」
私は空を見上げる。
三ヶ月。
恋を凍らせ、王位を奪う時間。
だが。
凍らせた感情は、いつか割れる。
そのとき。
誰の血が流れるのか。
まだ、分からない。




