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第15話 選ばないという選択

 黒騎士エヴァンの一時解放は、王城内に新たな波紋を広げた。


 敵国将軍を解放した――それは王太子の決断であり、同時に私の意思でもある。


 廊下を歩けば、囁きが聞こえる。


「王位を狙う女が敵国と通じている」


「王太子は操られているのでは」


 予想通り。


 だが問題は、噂そのものではない。


 王太子の視線だ。


 執務室に呼ばれたとき、彼は立ったまま窓の外を見ていた。


「解放した」


「ありがとうございます」


「礼は不要だ」


 振り向かない。


「君の言う通り、ヴァルディアの軍が動けば内乱は避けられない」


「合理的な判断です」


「合理的、か」


 彼はゆっくり振り返る。


「君はいつからそんな顔をするようになった」


「どんな顔でしょう」


「感情を切り捨てた顔だ」


 胸がわずかに軋む。


「捨てていません」


「ならなぜ、彼を庇った」


 問いは単純。


「王として必要だからです」


「王として」


 その言葉が、彼を刺す。


「私よりも?」


「比べるものではありません」


「私は比べている」


 空気が重くなる。


「レティシア」


 彼が近づく。


「君は私を愛していたか」


 突然の問い。


 逃げ場はない。


「ええ」


「今は?」


 沈黙。


 胸の奥で何かが揺れる。


 過去の記憶。


 共に笑った日々。


 触れられなかった夜。


「……分かりません」


 正直に答える。


 彼の瞳が揺れる。


「分からない、か」


「殿下」


「何だ」


「私は選びません」


 はっきりと言う。


「王になるまでは」


 彼は息を止める。


「それは、どちらも選ばないということか」


「はい」


「私も」


「はい」


「黒騎士も」


「はい」


 静寂。


 やがて彼は苦く笑う。


「残酷だな」


「知っています」


「君は誰かを傷つける覚悟があるのか」


 胸が痛む。


「あります」


 声は震えない。


「あなたも」


「私も、か」


「ええ」


 彼は目を閉じる。


「王になる女だ」


 ゆっくりと目を開ける。


「ならば私は、君に負けない」


 低い宣言。


「王位を争う」


「承知しました」


「情けはかけない」


「望むところです」


 視線がぶつかる。


 恋人ではない。


 競合者。


 その関係が、決定する。


 執務室を出たとき、回廊の端にエヴァンが立っていた。


「どうだった」


「王位を争うことになりました」


「正式にか」


「ええ」


 彼は小さく笑う。


「面白い」


「楽しんでいるの?」


「いいや」


 彼は近づく。


「お前が本気で王を狙っている顔をしているからだ」


 灰色の瞳が柔らかくなる。


「選ばないと言ったな」


「ええ」


「なら俺も選ばれない」


「そうです」


「だが」


 彼は低く言う。


「俺は諦めない」


 心臓が跳ねる。


「王になる前に奪う」


「まだ言うの?」


「何度でも言う」


 真っ直ぐな視線。


「お前が王になっても」


「敵でしょう」


「構わない」


 静かな覚悟。


「王になったお前を愛する」


 息が止まる。


 甘くない。


 重い。


 覚悟の言葉。


「エヴァン」


「何だ」


「後悔しますよ」


「させるな」


 短い答え。


 私は目を伏せる。


 王太子も、エヴァンも。


 どちらも退かない。


 そして私は。


 どちらも選ばない。


 選ばないという選択が、最も残酷だと知りながら。


 遠くで鐘が鳴る。


 王位継承審議の開始を告げる音。


 私は歩き出す。


 玉座の間へ。


 恋を捨てるのではない。


 先送りにする。


 だがその間に、何かが壊れていく。


 それを止める術を、まだ知らない。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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