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【王国内屈指の公爵家の令嬢ですが、婚約破棄される前に婚約破棄しました。元婚約者は没落したそうですが、そんなの知りません】  作者: ナロー


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【誰の専属料理人?】 2


 翌日。


 エインズ邸の使用人の休憩室にて。


 ジェシーは前に座ってお茶を飲んでいるポールに、昨日の出来事を愚痴っぽく話していた。



「でさー、参っちゃったよほんとー。いきなり専属の料理人になってくれだなんてさー」


「それは大変でしたね」



 まるで食堂のように広い休憩室には、他にも数人の使用人が各々の休憩時間を送っていた。なかにはジェシー達のように雑談に花を咲かせている者もいる。


 軽食のコッペパンをもぐもぐしながら、ジェシーが愚痴を続ける。



「ほんと大変だったんだからー。あーもう、あのお店行けなくなっちゃったじゃーん」


「何故ですか?」


「いや何故ですか?って」



 問うポールにジェシーが呆れた顔になる。彼は本当に疑問に思っているようだった。



「行ったらまた男爵呼ばれて大変な目に遭うじゃん」


「ならばまた気絶させればよいのでは? あるいは気付かれないように変装して来店するなどは?」


「…………、ポールってさー、一見常識人に見えてけっこうずれてるよねー」


「そうですか?」


「そうそう。ま、うちの同僚はそーいう人多いけどさー。グロリアとレニーはご主人様命って感じだし、ヴェインはなんかテキトーだし」


「料理長は気さくで良い方ですよね。誰にでも明るく接していますし料理は上手ですし」


「…………それマジで言ってる? いや料理は確かに天才だけどもね?」


「この前も試作の料理をたくさん頂きました。ジェシーや他の方には断られるからと、私が請け負うと笑顔で喜んでいました」


「それ実験台にされてるだけだって!」


「美味しかったですよ。中には味の変な物や、意図せぬ科学変化で毒を発生していた物もありましたが。それらはお返ししましたし、今後は同じ真似はしないと料理長も言っていました」


「だから実験台にされてるんだって!」


「現に同じ失敗はしていませんよ。やはり料理長は優秀な方ですね」


「あーもうっ!」



 ジェシーは大きな溜め息を吐いてしまう。



(何でポールって変なとこで抜けてるかなー⁉ 執事長の後継者みたいな感じで、ウォール様の専属執事やってんのに)



 それにめっちゃくちゃ強いのに。


 ジェシーがそう思っていると、休憩室のドアのほうに一つの人影が颯爽と現れた。噂をすればなんとやらのごとく、件の料理長だった。



「ジェシー、こんなところにいたのか!」


「げっ、料理長⁉」



 ジェシーは思わず身構えてしまう。こういうタイミングで料理長が現れるとき、たいていろくなことが起きないと分かっているからだった。



「何の用ですか? 私いま休憩中なんですけど?」


「喜べ! その休憩時間を延長してもいいぞ!」


「は?」



 ほら意味の分からないことを言い出した。



「どういう意味ですか?」


「その通りの意味だ! 休憩時間の延長を許可する!」


「いや料理長にそんな権限ないですよね? エインズ家の方達がそう言ったんならまだしも」


「安心しろ! ウォールさんの許可なら取ってある!」


「は?」



 ほんとかよ?



「マジで何言ってんですか? いくらウォール様でも、何の意味もなく休憩時間を延長してくれるわけないじゃないですか」


「その通り! 休憩時間の延長は必要だから申請した! ジェシーには料理に必要な食材の買い出しをしてもらう! これはそのメモだ!」



 料理長が半ば押し付けるようにジェシーにメモを渡す。


 やっぱり! つーかさっきから無駄にテンション高けーな!



「それを早く言ってくださいっての!」


「いま言ったぞ?」


「だからもっと早く言えって言ってんです!」


「そうだ! ポールもジェシーの買い出しに付き合ってくれよ!」


「人の話を聞け!」



 ジェシーが文句の声を上げるなか、話を振られたポールが頭に疑問符を浮かべる。



「私もですか?」


「そうだ! ジェシーだけだと不安だからな!」


「不安ってなんですか⁉ 料理長よりはマシです!」とはジェシーの弁である。



 ポールは戸惑っている様子だった。料理長が彼に言葉を続ける。



「嫌か⁉ 休憩時間が伸びる、外に出られる、可愛い子をナンパ出来る、良いことずくめじゃないか⁉」


「ナンパすんな! あんたいつもそんなことやってんの⁉」


「うるさいぞジェシー! 少し黙ってろ!」


「うるさいのは料理長です!」



 やかましい声が飛び合うなか、ポールは戸惑いながらも落ち着いた声で料理長に答えた。



「私自身は手伝うのはやぶさかではありませんが……ウォール様の確認を取ってからでなければ」


「なるほど確かに! だがウォールさんなら分かってくれるはずだ!」



 言うが早いか、料理長は通信魔法具の指輪をポケットから取り出して、ウォールに通信をし始めた。


 二回のコール音のあと、ウォールが通信に出る。



『ターハンか? 何の用だ?』


「おうウォールさん! 実はいまジェシーに買い出しするよう言ってたんだがな、ポールも近くにいたからついでに買い出しを頼んでいいか⁉」


『ポールもか?』


「実はさっき言い忘れてたんだがな、その買い出しのなかに普通の店では売ってない草があってな! その草を取りに行くのに魔物がいる荒れ地の奥に行かないといけないんだ!」



 それは買い出しじゃないし、そんなとこに行かせんな!……ジェシーは思ったが、ウォールに通信がつながっていたので叫ぶのを控えた。



『……まさかドラゴンの生息地の近くだとか言うなよ?』


「よく分かったな⁉ そのまさかだ!」



 そのまさかかよ!……ジェシーの心の叫び。


 ウォールは深い溜め息を吐いた。



『分かった。ポール、そこにいるな?』


「はい」


『ターハンの要請を許可する。ジェシーの手伝いをしてやれ。いくら彼女が強くても、一人で複数のドラゴン相手は荷が重いだろうからな』


「かしこまりました」


『お前が戻るまでの間は、マギエルにでも代理を任せることにする。こちらの心配はするな』


「かしこまりました。任務を終え次第、すぐに戻ることにします」


『厳密には任務ではないがな』



 苦笑するウォールの声。それから料理長に再び声をかける。



『ターハン、話は以上か? 他にはないだろうな?』


「うむ、ないぞ!」


『ならば通信を切るぞ。ポール、ジェシー、頑張れよ』



 ぷつりと通信が切れる。


 こうして二人のお使いが始まったのだが……ジェシーは顔に手を当てて深い溜め息を吐いていた。




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