【キャロルとクーイ】 4
魚屋に着くまでの間、キャロルとクーイの間に会話はあまりなかった。クーイから話し掛けることはなかったし、キャロルが話し掛けても彼は適当に短く答えて終わらせていたのだった。
そうして魚屋に到着して、そこに並ぶ魚を見て、キャロルが感嘆にも似た言葉をこぼした。
「わぁ、お魚がたくさん並んでいますね」
まるで子供のような反応に、クーイはやはり無視を決め込んでいた。
レニーがキャロルに声を掛ける。
「キャロル様は魚屋にお越しになったのは初めてでございますか?」
「うん。話には聞いてて知ってたけど、こうして見るのは初めて」
「左様ですか」
二人がそんな話をしている間に、クーイは近くにいた店主に必要な魚を告げて会計を済ませていく。
手早くそうしたのは、キャロルが下手なことを言って、同伴した自分も恥をかくのを懸念したからかもしれない。
買った魚を入れた容器を収納魔法にしまって、クーイがキャロルに振り返る。
「買い出しはこれで終了です。俺は帰るので、ここで……」
さようならと言いかけたとき、キャロルの近くにいた店主の奥さんが、クーイの言葉には気付いていない様子でキャロル達に話し掛けていた。
「おんやぁ、こんな綺麗な人達が来るなんて珍しいね。どうだい、何か買っていかないかい?」
「え……?」
「いまならこの魚が旬だよ。刺身でも美味しいし焼いてもうまいよ。今日の晩ご飯のお供にどうだい?」
「あ、えっと……」
キャロルがレニーに目線を送る。レニーが答えた。
「お嬢様のお好きなように。ジェシー達に渡せば、美味しく仕上げてくれるでしょう」
「あ、じゃあ、二つください……」
毎度あり! 店主の奥さんが発砲スチロールの容器に氷と魚を入れて、キャロルに手渡す。
一連の流れを見終わってから、クーイが改めてキャロルに声を掛けた。
「キャロルさん」
「あ、はいっ、何ですかっ?」
「俺の買い出しは終わったのでもう帰ります。貴女とはここで……」
「あ、じゃあこのお魚、一匹あげますねっ」
「…………」
「どうかしましたか?」
「もしかして最初からそのつもりで?」
「へ?」
キャロル自体はそこまで考えて行動していたわけではなさそうだった。
クーイは断ろうかと思ったが、彼女のそばに控えていたメイドが真顔でじっと見つめてきていたので……。
(断ったら、そっちの方が面倒なことになりそうだな)
そう思い直して、キャロルの提案を受け入れることにした。本日二回目の妥協である。
「ありがとうございます。それじゃあ、俺の家まで来てください」
「ふぇっ、家⁉」
「公爵家の令嬢からもらうだけもらっといて、はいさようならとするわけにもいきませんから。貴族のお菓子には劣りますが、何か出しますよ」
「あ……」
「まあ家といっても孤児院ですが。嫌なら遠慮しても構いませんよ」
彼としては、むしろ彼女に遠慮してほしいというのが本音だった。
これはあくまで社交辞令的に言ったまでであり、キャロル自身が断ってくれれば、自分に非はないからという思惑だったのだ。公爵家に失礼にならず、そばのメイドにも目を付けられずに、キャロルと手早く別れることが出来るから。
しかしキャロルは彼の思惑に気付いた様子もなく。むしろ身を乗り出すようにして答えた。
「い、行きましょうっ、クーイさんのお家っ」
「「…………」」
クーイとレニーは無言で彼女を見つめた。
クーイの当ては外れてしまった。
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