【キャロルとクーイ】 5
「その魚は孤児院に着くまで、私の収納魔法にしまっておきましょう。彼には孤児院についてからお渡しすればよいでしょう」
「うん、お願い」
レニーの提案に、キャロルは魚と保冷剤の入った箱を彼女に渡した。それからクーイのほうに向いて。
「そ、それじゃあ行きましょう、クーイさんのお家」
「……転移魔法を使うので、近くに寄ってください」
「は、はいっ」
緊張気味にキャロルが彼の近くに寄る。
レニーも目を少し眇めてからキャロルのそばに控えた。
クーイが言う。
「それじゃあ向かいます」
彼の足元に魔法陣が展開され、キャロルとレニーの足元まで広がっていく。三人の身体を覆える程度の大きさになってから、魔法陣は彼らを包み込んで姿を消していった。
転移の際にキャロルはぎゅっと目をつぶっていたが、転移自体は数秒ほどで完了した。
「着きました」
クーイの言葉で目を開くと、さっきまであった街の喧騒はなくなっていて、目の前に古びた建物が建っていた。
クーイの孤児院である。
「ここが、クーイさんのお家……」
「来てください。みんなにも紹介しなくちゃいけないので」
「は、はいっ」
緊張しているせいか、キャロルはまるで壊れた歯車のようにぎくしゃくした動作で、クーイのあとについて孤児院へと入っていく。
「リビングはこっちです」
孤児院の内部はそれなりに広く、掃除も行き届いていた。
玄関を抜けて、クーイが先導して廊下を歩き、リビングへと向かっていく。リビングに続くドアには、細長い縦長の不透明なガラスがはめ込まれていて、なかで遊ぶ子供達の声や姿がかすかな影となって透けていた。
そのドアを開けて、クーイがみんなに声を掛ける。
「ただいま。買い物から戻りました」
子供達がドアのほうを見る。なかにはクーイのほうへ駆け寄ろうとした子もいたが……彼の後ろにいる二人の見知らぬ人物を見て、足を止めていた。
……誰?
全員が全員、そんな疑問符を頭に浮かべていた。
クーイが二人をみんなに紹介する。
「紹介します。こちらは学園の同級生でキャロルさん」
「きゃ、キャロル=エインズです、よろしくお願いしますっ!」
キャロルが頭を下げて、クーイが続ける。
「彼女の隣にいるのが彼女のメイドで……」
そういえばメイドの名前を聞いていなかったなと、そこでクーイは気付いた。
彼の思ったことを察したのだろう、レニーが軽く頭を下げた。
「レニー=ラインです。以後お見知りおきを」
子供達は二、三秒、無言で二人を見つめていた。事態を飲み込んでいるような、あるいは二人を観察しているような、そんな沈黙の間。
「あ、あの……?」
キャロルが戸惑いの声をこぼしたとき……不意に子供達が一斉に大声を上げた。
『クーイが女の子と女の人を連れてきたー!』
ついさっきまで静寂が流れていた室内が、一気に喧騒に包まれていく。ある子供は部屋の奥につながるキッチンへと駆け出していき、ある子供はキャロル達のほうに近寄り、ある子供は二人の周りをぐるぐると駆け回る。
さながら玩具箱をひっくり返したような騒ぎに、キャロルはびっくりしてしまった。
「可愛い!」
「キャロルさんってお嬢様⁉ 専属のメイドさんがいるって!」
「またクーイがお金持ちを連れてきた!」
子供達の目はきらきらとしていて、あるいは珍しいものでも見るような顔つきだった。
「え? え? え? え?」
一瞬にして子供達に囲まれてしまったキャロルは、いきなりのことにしどろもどろしていた。
そんな彼女を放置するように、クーイが部屋の奥へと向かっていく。
「じゃ、俺は義母さん達に買ってきた物持っていくから。みんなはキャロルさんに遊んでもらってて」
『はーい!』
「えぇっ⁉ クーイさん⁉」
キャロルが困惑した声を上げたのはいうまでもなかった。
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