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【王国内屈指の公爵家の令嬢ですが、婚約破棄される前に婚約破棄しました。元婚約者は没落したそうですが、そんなの知りません】  作者: ナロー


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【キャロルとクーイ】 2


 週末の土曜日、街なかのカフェテラスにて。


 キャロルは友達のカトリーナと会っていた。



「それでさ、お兄様ってばずっと無言で本ばかり読んでるのよね。せっかくヘレナさんをうちに招待して、部屋で一緒にいるってのにさ」



 カトリーナは兄に対する日頃の愚痴を話していた。



「ヘレナさんもヘレナさんでずっと編み物してるんだよ。ドアの隙間から覗いてたけど、何で⁉って思わず叫びそうになっちゃった。せっかく気を利かせて二人きりにしたんだから、もっといちゃいちゃしたらいいのにって」



 カトリーナとキャロルのそばにはそれぞれの使用人も控えている。


 その使用人……じいやとレニーは聞きながら、各々思っていたりしている。


 じいやは、



(覗かないでください、お嬢様……)



 と内心で嘆息をつき、レニーはというと、



(覗いていることに気付いていたのでは?)



 と推測していた。


 それはともかくも。



「でもヘレナさんって、やっぱりすっごく綺麗で可愛かったぁ。気品もあるし編み物も上手だし、これぞ上流貴族のお嬢様って感じ。憧れちゃうなぁ……ってキャロル、大丈夫?」



 カトリーナが話している間、キャロルは相槌も打たずにずっとぼーっとしているような様子だった。


 普段ならば相槌を打ったり自分もおしゃべりをしたりしているのだが、今日はなにかしら思うところがあるようだった。


 カトリーナがキャロルの顔の前で手をひらひらさせても気付いていない様子であり……ぱちんっと手を鳴らしても反応しなかったので、カトリーナは仕方なく彼女の耳元に口を寄せて。



「起きてますかー!」



 と大声を上げる始末である。


 周りの席にいた客や店員やじいやもびっくりしていたが、その声にキャロルもようやくのことで、



「⁉」



 とびっくりした反応を示してカトリーナのほうを見た。


 カトリーナが安堵したように息をつく。



「良かったぁ、石像になっちゃったかと思ってたよ」


「ど、どうしたのカトリーナ? いきなり大声なんか出して?」


「それはこっちのセリフ。大声出すまで私が何をしても反応しなかったんだから」


「あ……」


「何? 何かあったの? あの元気すぎるキャロルがぼーっとしてるなんて、前代未聞だよ?」



 ……絶妙に褒めてるのか貶しているのか分からないことを言わないでください、お嬢様……。じいやはそう思った。


 キャロルは慌てて否定した。



「な、何でもないよっ。カトリーナの話すギャグ漫画を想像してたら、思わず笑いそうになっちゃって我慢してただけだよっ」


「お兄様とヘレナさんのこと話してたんだけど」


「あ……」


「やっぱり聞いてなかったんじゃん」


「ご、ごめん……」



 溜め息をついたカトリーナにキャロルは謝る。


 しかしカトリーナはそれ自体はあまり気にしていないように、キャロルに聞いた。



「でも本当に何があったの? いつものキャロルらしくないよ?」


「ほ、本当に何もないから大丈夫だよっ。しいて言えば、金曜にやった小テストの結果が気になるくらいっ。お父様にも家庭教師さんにも悪い点は取らないように釘を刺されてたから」


「ふーん……」



 なおも怪しむ目でカトリーナはキャロルを見つめている。


 彼女の視線と追及を避けるように、キャロルは皿にあったロールケーキの一切れをフォークに刺して、口へと運ぼうとした。


 落ち着いた様子でそれを食べて、カトリーナを納得させて、ついでに自分の懸念も喉の奥に飲みこもうとした。


 ……のだが。


 不意に、カフェテラスに面した通り道になにかを見つけて、カトリーナがつぶやいた。



「あ、クエルさん」


「っ……⁉」



 キャロルがびっくぅ⁉となったのを、見逃すカトリーナではなかった。



「あれってクエルさんじゃない? キャロルがたまに話し掛けてる、花壇に水を上げてる男子」


「え、え……?」



 カトリーナの視線の先を思わず振り返ったキャロルだったが、はたしてそこには本当にクーイがいた。


 彼は一枚の紙片を手にして、それを見ながら肉屋の前に立っていた。誰かからの買い物を任されているらしい。



「お使いなのかな?」


「…………」



 キャロルは振り返って、植え込みの向こうに見える彼の姿を見つめていた。無意識なのだろう、座っている椅子の背に隠れるように、身体をちぢこまらせている。


 その彼女を、



「「「…………」」」



 カトリーナ、じいや、レニーの三人は無言で見つめていた。



(分かりやすっ!)



 カトリーナはそう思った。他の二人も同じように思ったかまでは定かではないが。


 じっとクーイのほうを見つめているキャロルに聞こえるように、カトリーナはわざとらしく、それこそ棒読みみたいにじいやに言った。



「あー、じいや、私急用があったんだったわよね」


「え……? お嬢様、朝は暇だと……」


「あったんだったわよねっ」



 じいやが返答するよりも早く、カトリーナは席を立ってキャロルのほうに両手を合わせる。



「ごっめーん、キャロル、そういうことだから、私帰らなくっちゃ。また学園で会おうね」



 てへぺろとするカトリーナ。それから彼女はじいやに言った。



「じいや、会計を済ませてきて。私先に帰ってるから」


「お嬢様? お嬢様⁉ お嬢様!」



 帰ろうとするカトリーナをじいやは慌てて追いかけて、しかし彼女に会計カウンターのほうを指差されて、とぼとぼとそちらへと向かっていく。


 そんな様子を横目にしつつ、



「…………」



 キャロルの意識は通りの先へ歩いていこうとするクーイへと向いていた。




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