【刑務所への来訪者】
今日は珍しい人が来た。
なんと四大公爵家の一つ、バンディミック家の現当主のバリアンさんがやってきたのだ。
いくら俺が一介の刑務所の看守といえど、バリアン=バンディミックさんの話くらいは聞いたことがある。
バンディミック家の代々から続く資産や権力だけには頼らずに、自分自身でも事業を起こして、そしてそれを次々と成功させているとのことだ。まさに天才、まさにカリスマの成せる業だろう。
しかも最近では孤児院も訪問していて、食べ物や物資などといった様々な支援もおこなっているらしい。
なんでもきっかけはバンディミック家に連なる子が孤児院で見つかったらしく、それを引き取りに行ったところ、孤児院の現状を見てそのような支援をしたとかなんとか。
まあ俺も噂で聞いた程度だから、どこまで本当かは分からないけど。とにかく、そういう慈善活動をしているお偉いさんが、この刑務所にやってきたのだ。
応接室に招き入れた所長が、
「これはこれはバンディミック様。本日はどのようなご用件で斯様な場所までお越しになられたので?」
バンディミックさんにそう尋ねると、バンディミックさんは丁寧な物腰で答えてくれた。
「先日、ここに私の家系に連なる者が収容されたと聞きましてね。いままでは忙しくて中々時間が取れなかったのですが、今日ようやく来れたのですよ」
「まさか、バンディミック様のご親戚の方が⁉ 私は初耳ですぞ⁉」
所長は本当に驚いているようだった。
護衛を兼ねて所長のそばに控えていた俺も、つい目を見開いてしまう。俺は所長や副所長ほどの地位ではないが、それでも刑務所に収容されている囚人の情報はそれなりに見れる立場にある。
しかし俺自身は囚人リストの中にバンディミックという名字を見たことはなかった。本当に公爵家の血筋の者がいるのかと疑問に思ってしまう。
所長がバンディミックさんに聞いた。
「その囚人……そのお方のお名前を伺ってもよろしいですか?」
「彼女に対して敬語は不要です。彼女は罪を犯したのですから、他の囚人と同様に罪を償わなければなりません」
バンディミックさんの血筋の者は女らしい。
バンディミックさんがその者の名を答える。
「彼女の名前はベリンダといいます。収容時には結婚していたので夫方の姓に変えていて、ベリンダ=ジグソウとなっていました」
「ベリンダ=ジグソウ……」
所長が記憶を辿るようにつぶやく。俺も記憶を辿っていた。
思い出した。四大公爵家のエインズ家の令嬢を襲撃した女の名だった。
所長も思い出したのだろう、バンディミックさんに言う。
「なるほど、彼女でしたか。彼女は逮捕時に支離滅裂なことを喚いていたので、精神鑑定を受けた上で、ここの特別収容棟の独房に収容されています」
「ええ、弁護士から聞いています。精神鑑定の結果、彼女の精神は多少の錯乱状態にはあったが正常だった。魔力を封じて収容しているとはいえ、暴れる危険がある為、看守や他の囚人に危害が及ばないように特別な独房に入れられていると」
所長はうなずいた。
「はい。ですので、せっかくバンディミック様にご来訪頂いて恐縮なのですが、彼女との面会は一切謝絶させて頂いております。無論、ここのセキュリティーは万全を期しておりますが、万が一にもバンディミック様の身に危害が及んでは大変ですから……」
「分かっています。私は彼女と面会する為に来たのではありません」
「といいますと……?」
「お願いに来たのです。彼女は多大な罪を犯しました。そのような者を、たとえバンディミック家に連なるからといって容赦を与えてはいけません。むしろ私達の家系の者だからこそ、厳しく罰して、彼女には罪を償ってほしい」
「バンディミック様……」
「私はそれをお願いに来たのです。そして安心しました。この刑務所のセキュリティーであれば、万が一の事態も起こることはないでしょう。もちろん、油断はしてはなりませんがね」
「ありがとうございます、バンディミック様……!」
バンディミックさんの言葉に、所長は深く感激しているようだった。
そして恥ずかしながら、俺もまた少なからず心を動かされていた。
そう、俺達は看守であり、囚人を見張ると同時に彼らが罪を償えるよう、社会に復帰出来るように日夜奮闘しているのだ。
バンディミックさんの言葉は、そんな俺達を認め、激励するような言葉だった。
バンディミックさんが腕時計を見た。
「おっと、もうこんな時間ですか。そろそろ私はお暇させて頂きます」
「それでは入口までご案内しましょう」
「ありがとうございます」
刑務所の入口まで案内したあと、バンディミックさんは所長と俺に別れの握手をして、去っていった。
「頑張るぞ。バンディミック様のご期待に応える為にも」
「はい」
俺達はやる気を新たにして、俺達の使命へと戻っていった。
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