【ターハンは狩人で料理長】 2
焼いた肉にタレをつけたり調味料をかけたりしながら、ターハンが口を開く。
「しっかし、こんな森の奥に一人で来るとはねえ。もし俺が通りかからなかったら、マジで大豆死んでたんじゃないか?」
「それがよ、同伴者がいたんだけどよ、途中ではぐれちまったんだよな。俺が目的の魔物を見つけて追いかけてたら、そいつ、ついてこれなくてな」
「そいつぁ難儀だったな。その魔物食えんのか?」
「いやそれは知らねえけど。ともかく、せっかく俺に同伴してるんだからちゃんとついてこいって話だよな。目的の魔物も見失っちまったし、これじゃあ俺が森に迷ったみてえじゃねーか」
同伴していたネルンが聞いたら、目を離した隙に勝手に飛び出していかないでくださいと怒りそうな話である。
「ちなみに何の魔物なんだ?」
「んぁ、それは……」
口をもぐもぐとしながらスティーブが答えようとしたとき、周囲の茂みがごそごそと揺れて、何体もの鹿型の魔物が姿を見せた。
いつの間にかスティーブとターハンは魔物の群れに囲まれていた。
スティーブが串の先を魔物の群れに向ける。
「あれだよ、あれ。仲間呼んで戻ってきやがったみてーだ」
「おお、あれか。あれのジビエ肉もうまいんだよな。まだ食えるよな?」
「あたぼうよ。肉ならいくらでも食えるぜ」
「んじゃあ……」
スティーブとターハンが鹿の魔物に向く。その瞳は獲物を見つけた嬉しさでぎらぎらとしていて、口角を上げて満面の笑みを浮かべていた。
まるで悪魔のような二人に、鹿の魔物達がたじろいだ。
ゆらりと二人が立ち上がり、
「「いっただっきまーす!」」
鹿の魔物達へと飛びかかっていった。
○
約一時間後。
余った肉を収納魔法にしまいながら、ターハンはスティーブに言う。
「んじゃ、俺はもう帰るぜ。金をくれんなら森の入口まで連れてってやるけど?」
腹を大きく膨らませて、つまようじで食べかすを取っていたスティーブが答える。
「んにゃ、俺は連れを探さなくちゃいけねーからな。ここに残るよ。ま、どーせすぐに見つかるだろうから、あんたまで手伝う必要はねーぜ。手伝わせたら、どーせ金も要求するんだろ?」
「もちだ。金は天下の回り物ってな。んじゃな」
「おう。またどっかで会えたらメシ食わせてくれよ」
「おうとも」
別れを告げて、ターハンは森のなかへと姿を消していく。
スティーブが彼の背中を見送ったあと、スティーブの後ろの茂みががさごそと動いて、葉っぱまみれになっているネルンが姿を見せた。
「ここにいましたか、スティーブ様。探しましたよ」
「おう、遅かったな。探知魔法はどうした?」
「使ったに決まっています。それでいてなおここまで時間が掛かったのです。どんだけ走り回ってるんですか」
「かっかっかっ、そんな簡単に俺を見失うとは、見張りの風上にも置けねえ……」
ネルンの後頭部に青筋が浮かぶ。
どごぉん。スティーブの頭にネルンの怒りの鉄拳が振り下ろされた。
巨大なたんこぶをつけながらスティーブが地面にうつ伏せに倒れ、ネルンがぱんぱんと軽く手を払う。
その彼女の鼻に、香ばしい匂いが漂ってきた。
「おや? 良い匂いが……スティーブ様、焼肉でも食べておられたのですか?」
「……」
痛みでスティーブは答えるどころではなかった。
○
ターハンがエインズ邸の厨房に帰還すると、彼を見つけたジェシーが早速文句を言った。
「料理長! 有給使って魔物を狩りに行くなら事前にそう言ってくださいよ! こっちはてんてこまいだったんですから!」
「言ったぞ? ウォールさんと部下に」
「私にも言えって言ってんです! そのせいでスケジュール調整が大変だったって言ってんです!」
「まったく、ウォールさんも気が利かないよな? トップから直々に通達してくれたらいいのに」
「あんたが自分で言うってウォール様に言ったんでしょうが! 聞きましたよ!」
「そうだっけ? 細かいことは忘れちまったよ。さ、そんなことより、さっさと料理の支度をするぞ。ほらほら持ち場につけつけ」
そう言って、ターハンが厨房を進んでいく。
ジェシーは持ち上げた拳をわなわなと震わせながら、
「こんのマイペース天才料理馬鹿がぁっ!」
怒りの声を上げていた。
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