【パズルのような継ぎ接ぎの組織】
組織は潰された。
たった一人の少女によって。
組織を潰した少女の名は、アイラ=エインズ。エインズ公爵家の第一令嬢だ。
エインズ家が力を持っていることは知っていた。だがそれは当主の権力と財力だとばかり思っていた。
しかし違っていた。エインズ家の人間は、当主だけではなく娘まで力を有していたのだ。
おそらく他のエインズもまた同様なのだろう。エインズの人間は誰もが何かしらの力を持っているのだ。
『囚人番号B145。刑務作業の時間だ。出ろ』
看守に呼び出されて、私は独房を出て作業場に向かう。当然、手には手錠が掛けられている。
ここは女囚棟であり、看守も女だった。男の看守は基本的に男囚棟か、あるいは共有棟にいる。
魔力は封じられ、魔法を使うことは出来ない。もし仮に使えたとしても、反乱を起こそうとした瞬間に取り押さえられ、厳罰を処せられることになる。
『B145。刑務作業に当たれ。私語は厳禁。不審な行動は厳罰を処す』
一時的に手錠が外され、私は目の前の刑務作業をおこなっていく。
作業場には、私以外にも複数の囚人がいた。皆、一言も喋らずに、時計の歯車のように作業をこなしていっている。
……皮肉なものだな。
内心で私は思う。
組織にいた頃、私は教育係として、組織にいた子供にあらゆることを教えていた。
私は『先生』として彼らをコードネームで呼んでいた。その私が、いまは番号で呼ばれる立場になっている。
組織が潰され、この刑務所に入れられた当初は、警察から毎日のように取り調べを受けた。私以外の捕まった組織の者達全員だ。
だが警察にとっては残念なことに、私は組織のことをあまり知らなかった。いや、知らされていなかった。
他の組織の者達も同様だ。個人が知っているのは、その個人が担当していた任務や役職だけであり、組織の全貌を知る者はほとんどいなかっただろう。
私が知っていたのは、私が担当した役職だけ。すなわち、私が育て上げてきた子供達と、彼らに指示した任務程度のものだ。
その意味でいえば、私もまた私が育てた子供と同じだったのかもしれない。
あの組織は私の想像以上に大きく、組織のメンバー一人一人が持つ情報は最小限だった。
いうなれば、あの組織は継ぎ接ぎの組織だったのだ。
暗殺や対外的な実行部隊の多くは、私のような教育係が育てた子供達が動員された。
その子供達は孤児、もしくは外国から拉致してきた赤子だった。その子供達を集めるだけの役割のメンバーがいた。
教え子に偉そうなことを言っておきながら、私もまた末端の末端だったということだ。井の中の蛙だった。
もし仮に組織の全貌を知る者がいるとすれば……それは組織のボスや上位幹部、そして……組織を壊滅に追いやったアイラ=エインズくらいかもしれない。
……アイラ=エインズ。
私の教え子の一人が、あの公爵令嬢の暗殺を請け負った。
私が教えてきた中で、最高といってもいい才能と実力を持つ教え子だった。組織の幹部にも見込まれていたらしく、最初は簡単な任務だったが次第に重要な任務も任されていた奴だった。
だからこそ奴にアイラ=エインズの暗殺任務が下されたし、教育係である私も組織内で一目置かれるようになっていた……しかし。
奴は二度と戻ってこなかった。奴は任務に失敗した。
奴の実力が低かったのではない、アイラ=エインズの実力が、私や組織の想定以上に高かったのだ。
任務に失敗した後の奴がどうなったのか、具体的なことは知らないが、あの爆破の首輪から逃れられるわけもない。首から上が爆散して死亡したに決まっている。
奴……Aセブンが任務に失敗した時から、組織の雲行きは怪しくなっていたのだろう。全てはあれから狂っていったのだろう。
『刑務作業終了。囚人は静かに待機。看守が呼び次第、部屋に戻れ』
作業を中断した私の手に、再び手錠がはめられていく。
そして私はまたあの独房へと戻っていく。
私の教え子達がいたような、及び私に割り当てられていたような、あの組織の一人部屋とたいして変わらない独房へと。
私の教え子達は捨て駒だった。
私も捨て駒だった。
切り捨てられた駒の代わりに、また同じ役割の駒が補充される。
私の教え子達や、私や、上位幹部や……ボスでさえも、おそらくは。
あの組織は、まるでパズルのような組織だった。ピースが欠ければ、それに合うピースをまた作り、補充する、そのような継ぎ接ぎの組織。
……組織は不滅だ……たとえ一つでもピースが残れば、そこからまた増殖し、復活する……。
……あるいは、組織を作った真の黒幕さえ生き残っていたならば……。
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