【『星になった銃使い』】 1
その幼い女の子は自分の親のことを知らなかった。
物心がついたとき、その女の子はとある組織の一室に閉じ込められていた。窓はなく、防音されているのか外部の音は聞こえず、朝昼夜にドアに付けられた小さな開閉口から食事が出てきた。
自分がどこで生まれたのかも、なぜここにいるのかも分からなかった。
着ている服は白のワンピースであり、それ以外の服は洗濯の際に別の白いワンピースを渡されるくらいだった。
白色は清純や潔白をイメージする色ではあるが、女の子がそれを着させられていたのは、他になにかしらの物を隠し持っていないか、一目で判断できるようにするためだった。
女の子の首には特製の首輪が付けられ、手と足には長い鎖の手枷と足枷がはめられていた。鎖が長いので日常生活はなんとかできたが、室内での大きな運動はできなかった。
女の子の部屋には毎日のように組織の者が現れて、一日最低八時間、組織に貢献できるように特殊な訓練が施されていた。
「『Aセブン』、私のことは『先生』と呼びなさい」
「…………」
『Aセブン』とは女の子に付けられた呼称だった。
「『先生』の意味が分からないか。まずは言葉を教えることから始めないとな」
自らを『先生』と称したのは、組織の女性だった。
彼女は女の子に様々なことを教え込んでいった。
様々な国の言語。様々な国の体術。様々な分野の学問。そして様々な種類の魔法の使い方。
最初は拙かった女の子であったが、訓練を経るうちに才能を開花させていき、先生の教えを次々と吸収していった。
女の子が体術を学ぶ際は広い別室に移動していた。無論、部屋間の移動の際には目隠しをして、建物の全体像を把握できないようにされていた。
その体術を学ぶときだけ、女の子の手足の拘束具は外されていた。
「よく私の教えを守り、ここまでの実力を手に入れたな。特にナイフ捌きが素晴らしい」
「…………」
「褒められた時は礼を言う。以前教えたことだ」
「……ありがとう……ございます……」
「よろしい」
「……先生……質問をよろしいでしょうか……?」
「何だ?」
「何故、手足の枷は外すのに、この首輪は外さないのでしょうか……?」
「お前が知る必要はない……が、そうだな、特別に教えても問題はないだろう。知ったところでどうしようもない」
先生は説明した。
「その首輪には爆破の魔法式が組み込まれている。お前が組織の者に反逆しようとした時、あるいは任務に失敗して捕らえられた時などに、爆破してお前を殺害する。無理に外そうとした時も爆破する。無事に外すのは不可能だ、首を一度切断しない限りはな」
「…………」
「答えは以上だ。他に質問は?」
「……ありません……」
「よろしい。ならば訓練を再開しよう」
別の日には、先生は大量の本を持って部屋を訪れたこともあった。
「今日は文学について勉強する。本を選べ」
「…………」
女の子は一冊の本を指で示した。
『星になった銃使い』という題名の本だった。
選んだ理由は特になかった。しいていえば、一番近くにあったから。
「よろしい。ではその本にまつわる文学を教えよう。他の本も本棚に入れて置いておこう。自主学習するように」
「……はい……」
そうして数年の年月が経ち、子供だった女の子も成長していた。暗殺者として暗躍できるくらいに。
「Aセブン、私がお前に教えられることは全て教えたつもりだ。よくぞここまでの実力を身に付けた」
「……ありがとう、ございます……」
「これからは実際の任務に就くことになる。失敗は死を意味し、成功は組織の繁栄に繋がる。心して掛かるように」
「……了解、致しました……」
そして、Aセブンと呼ばれた彼女は暗殺者としての任務に従事していった。
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