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【王国内屈指の公爵家の令嬢ですが、婚約破棄される前に婚約破棄しました。元婚約者は没落したそうですが、そんなの知りません】  作者: ナロー


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【御者:ドライ=コーチ】 2


 改めてビリーがロジャーに向く。



「それは結構。お手柄ですな、ロジャー警部。この分ならいずれ警視に昇格ですかな、おめでとうございます」


「心にもない言葉を口にするくらいなら、自分のおこないを見直してください、ビリー巡査長。これで何回目ですか? 冤罪を被せるような自白の強要はやめて頂きたいと、以前から注意しているでしょう」


「いったい何を言っているのですかな? 私はただ優しく被疑者を説得して、その説得に感激した被疑者が泣いて自らのおこないを反省しただけですよ」


「……取り調べ室に入った時は無傷だった参考人が、貴方と共に出てきた時は傷だらけだったこともありましたね」



 聞いていたドライに寒気が走った。


 ビリーはなおもとぼけて言った。



「被疑者が椅子に座る際や立ち上がる際に転んでしまっただけですよ。後は罪の意識から、自分のことを殴ったりね」


「取り調べ室を記録魔法で調べたら、貴方のやっていたことはすぐに分かりましたよ」



 ビリーは苛ついた声を上げた。



「記録魔法記録魔法と、そんな得体のしれない不気味なものに頼ってばかりでは真実を見失ってしまいますぞ! もっとちゃんと現実を見定めなければいけません!」


「真実をねじ曲げようとするよりはマシです。……反省するつもりがないのなら、懲戒処分を覚悟していてください」


「ナッ⁉」



 ビリーが怒声を張り上げた。



「ふざけるなよ! 何でこの俺が処分されなくちゃあいけないんだ! そうか分かったぞ、有能すぎるこの俺が警部の立場を脅かすと怖くなって、叩き潰そうとしているんだな! そうはいくか、警視総監に訴えてやる!」



 そう言って、肩を怒らせながらビリーは取り調べ室から出ていった。


 その背中を見送りながら、ロジャーが深い溜め息を吐く。



「……さようなら、ビリー巡査長」



 改めてロジャーがドライに向いた。



「この度はうちの者が狼藉を働き、誠に申し訳ありません。ドライ=コーチさん、貴方の無罪は分かりきっていますので、お帰りになって構いません。もしも怪我をされてしまったというのなら、治療費は警察がお支払い致しましょう」


「…………」



 ドライはロジャーのほうを見上げていたが、やがて首をうなだれてしまった。


 ロジャーが声を掛ける。



「どうかしましたか? まさかビリーに他にも何かを……」


「……いえ、不幸中の幸いなことに、怪我とか物を壊されたとかはされていません……」


「…………」


「でも、ただ、その……私の職場の上司に、私が殺人を犯したと言っていたらしくて……」


「……!」



 ロジャーは頭を深々と下げた。



「本当に、誠に申し訳ありません。すぐに貴方の上司には事情を説明し、誤解を解きますので」


「それは、ありがとうございます……でも……他の仕事もそうですが、この商売はお客さんや職場の信用が大事ですので……」



 ロジャーは頭を上げて、ドライを見つめる。



「…………」



 それからロジャーはドライのいる小さな無機質の机まで来て、彼の前に座った。



「コーチさん、実は私の知り合いに、いまちょうど馬車の御者を探している方がいましてね。もし貴方が良ければなんですが、その方の元で再就職するのは如何ですか?」


「気持ちはありがたいですが、いま言ったように……」


「心配はいりません。その方は世間の噂や流言に惑わされるような方ではないですから。私からもきちんと事情を説明します。きっとご理解くださり、貴方を雇ってくれるはずです」


「…………その方って……?」



 ロジャーの口調が、その人物のことを話すときにより丁寧になるのを、ドライはいま気付いた。


 警察の警部がそのような口調になる人物……ドライは薄々、その人物が高い地位にいる者だと察した。


 ロジャー警部が答える。



「四大公爵の一つ、エインズ公爵家の現当主、ウォール=エインズさんです」


「……!」



 そうしてドライは警部を通じてウォールに紹介され、エインズ家の御者として働くことになったのである。


 余談であるが、ドライを冤罪に貶めようとしたビリー巡査長は、その後、それまでの数々の冤罪未遂が浮き彫りになり、懲戒免職されて警察から去っていった。


 男がいまはどこで何をしているのか、ロジャー警部にも分かっていない。




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