【王宮執事じいやの見聞。国王の気になること】 1
エディオット様のエインズ家への訪問は、表向きは特に何事もなく、つつがなく終了したように見えました。
しかしアイラお嬢様との二人きりでのお話の後から、エディオット様は明確に無愛想で仏頂面になっていました。
『何かあったのでございますか、殿下?』
帰りの馬車の中で私がそう尋ねても、殿下はぶっきらぼうに答えるだけでした。
『何もない。しいて言えば俺達の婚約と結婚について話し合っただけだ。俺とアイラは互いに結婚するつもりだってな』
それ自体が、何事かあったことの証左でした。
アイラお嬢様とのお話の前までは、エディオット様は婚約と結婚に消極的だったのですから。
しかし……私はそれについて問いただすことを躊躇しました。何があったのかは分かりませんが、殿下が前向きに検討してくれるようになったのですから。
素直に喜ぶべきなのでしょう。はたして、アイラお嬢様はいったいどのような『お話』をしたのでしょうかと、舌を巻いてしまいます。
私は話題を変えました。
『先日の会見については、謝罪はなされましたか?』
『したさ。じいや達を再び部屋に入れる前にな。一応、俺としてはその為に行ったんだから、やっとかねえと』
『そうでございますか』
無愛想な様子ではあるようですが、義理はきちんと通したようでした。
王宮に戻った後、エディオット様と私は国王陛下に呼び出されました。エインズ家訪問のお話をお聞きになりたいのでしょう。
謁見の間で、陛下は玉座にお座りになっていました。わざわざお待ちして頂いたようで、私は恐縮至極でしたが、エディオット様は辟易したようなお顔をなされていました。
『なんだよ、親父。俺はこれから寝るつもりなんだよ。疲れたからな』
『そう言うな。仮眠を取る前に話を聞いておきたくてな』
『仮眠じゃなくて惰眠だ』
『わざわざ卑下するな、眠ることに違いはあるまい』
『けっ』
細かくて嫌だ嫌だ、とエディオット様はつぶやきました。
国王陛下にそのような態度を取れるのは、王国広しといえども、エディオット様くらいのものでしょう。そばで聞いていて、わたしはひやひやしっぱなしでした。
国王陛下はエディオット様の実の父君であらせられます。だからこそ、エディオット様は陛下に丁寧な言葉遣いを致しませんでした。
『で、呼び出した理由は何だよ? さっさと済ましてくれよな』
『既に通信魔法でウォールから話は聞いているのだがな、お前の口からも直接聞きたいのだ。アイラ=エインズと再会して、どうだった?』
前言を撤回する必要があるでしょう。陛下に丁寧語ではない会話が出来るお方が、もう一人おられました。
ウォール=エインズ様です。陛下とウォール様は旧知の仲らしく、まさに友人として親しくしているようでした。
『……どうもこうもない。あいつは綺麗だった。理知的だった。魅力に溢れた女だった。俺はあいつと結婚することにした』
『……ほう』
面白いものを見るような目で、陛下がエディオット様を見ました。
『どういう心境の変化だ? 今朝までは婚約にも結婚にも乗り気じゃなかっただろう?』
『けっ。乗り気じゃなかったら文句を言われて、乗り気になっても文句を言われるのかよ。どうしようもねえじゃねえか』
エディオット様は足先で床を蹴るようにしました。絨毯の毛先が動いて、かすかに散った毛がふわりと舞い上がりました。
陛下はお笑いになりました。
『はっはっはっ、すまんすまん、つい気になってしまってな。だが教えてくれてもいいだろう? アイラ嬢になんて言われたんだ?』
『……結婚を決める理由なんか決まってんだろ。面と向かって奴に愛してると言われた、俺も奴を好きになった、それだけだ』
『ふむ……』
真面目なお顔で、陛下はエディオット様を見つめます。




