【エインズ家メイド長:カミラ】 1
エインズ家で働くにあたって、使用人に恋愛の禁止令は出されていません。
『恋愛はしても構わない。結婚も自由。ただし仕事に支障がないように』
それがエインズ家での使用人に対する決まり事の一つでした。
他にも決まり事はいくつかありますが、いずれも仕事に支障がないようにであれば、エインズ家の外部での常識の範囲内……一般常識のルールと大して変わらない決まり事ばかりでした。
「メイド長か。洗濯干しに向かうところか」
「はい、執事長。貴方は旦那様のお部屋に?」
「調査が終わったのでな」
廊下でばったりと出くわした執事長と簡単な会話を交わしてから、私達は並んで廊下を歩いていきます。
洗濯物の干場とウォール様のお部屋は同じ方向にあったからです。
歩きながら、世間話のように簡単な会話を交わしていました。
「今度は何の調査に? 話せる範囲で構いませんよ」
「何、ただの旦那様の仕事相手の調査だ。清廉潔白なら良し、悪事に手を染めていたなら警察に通報し、その後その会社の経営をおこなう。いつものことだ」
「いつものことですね。『ライバルが減り、我が家の資産が増える』。旦那様の常套手段の一つですね」
「共同関係にあった相手が、後に犯罪に手を染めていたと分かればエインズ家も疑われかねないからな。初期調査と定期調査は必要だ」
「もちろんです。裏付けのない信頼関係など、極めて珍しいのですから」
「……耳が痛いな」
「ついでに口と鼻も痛くなってしまえばいいのにと思います」
「…………」
執事長は閉口しました。
執事長は既に白髪であり、年齢はウォール様よりも上です。彼は先代の大旦那様の頃からこの屋敷の執事として働いていました。
まあ、私ももう結構な歳ではありますが。
そんなことを話していると、ウォール様のお部屋が見えてきました。
「……では、私はここで失礼する」
「はい。ではまた、旦那様達のお夕食の時にでも」
「……うむ」
廊下を歩き続ける私の後ろで、執事長がドアをノックする音が聞こえました。
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干場で待機していたメイド達と共にお洗濯物干しを終えた後、私はエルザ様のお部屋にいました。
「ねえ、カミラ、新作のスイーツが出たみたいよ。試しに食べに行ってみる?」
雑誌を読んでいたエルザ様が声を掛けてきます。
「奥様、そう言ってまたたくさん食べたら、お夕食が食べられなくなりますよ」
「大丈夫よ、甘いものは別腹って言うじゃない」
アイラ様やキャロル様にも言えることですが、どうしてこのお方達は、しょっちゅうお菓子を食べているのに太らないのでしょうか?
そういう体質なのでしょうか? うらやましい。
「ほら、行きましょ。夕食までには戻るから」
「かしこまりました」
お部屋を出るエルザ様についていき、私達は長い廊下を歩きます。
その間もエルザ様は楽しそうに話し掛けてきてくれました。
つくづく思いますが、アイラ様はウォール様、キャロル様はエルザ様に似ておられます。
まあこんなことを言うと、アイラ様は嫌そうなお顔をなされますが。
「カミラは何食べたい? やっぱりプリン? それとも私と同じ新作?」
「私も食べるのですか?」
「もちろん。お菓子は誰かと一緒に食べた方が美味しいでしょ?」
「…………」
アイラ様が聞いたらどう思うでしょうか。
「どうしたの?」
「いえ、私の夕食は量を減らさないとなと思いまして」
「どうして?」
「……奥様がうらやましいです」
「????」
奥様は小首を傾げました。
私は心の中で溜め息をつきました。
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