【裏舞台のカトリーナ=レオン】 1
お兄様ってば、本当に奥手なんだからっ。
「ああもうっ、じれったい!」
植え込みの陰に隠れながら、カフェにいるお兄様と婚約相手の方を、双眼鏡越しに見守っていました。
婚約相手の方はハイネス家の、ヘレナ=ハイネス様でした。
ハイネス家といえば、侯爵家の中でも指折りの名家。またそれを抜きにしても、ヘレナ様は本当に美人で、お兄様にはとってももったいない女性です。
本当に、婚約を結び付けられたのが奇跡のよう。
そばで一緒にお兄様を見ている執事長のじいやが言ってきました。
「お嬢様……別にお嬢様がお越しにならなくとも、私がライア様を見守っておりますのに」
「だってこんな面白いこと、げふんげふんっ、あの奥手のお兄様が失敗しないように見守るのは妹としての責務よっ」
「本音が漏れておられますよ」
「いいから見守るの。この婚約が上手くいけば、ヘレナ様が私のお義姉様になるんだし、どんな方か見ておかないとっ」
「やれやれ」
じいやは溜め息を吐きます。
「いいからお兄様達を見守るわよ。あっ、二人が立ったわ。後をつけるわよ」
私達はお兄様達にバレないように、こっそりと後をついていきます。
どうやら最近話題のあの劇を観に行くみたい。
「お兄様、ほらっ、そこで手、手を繋ぐのよっ。あぁもうっ、奥手なんだからっ」
「ライア様は真面目ですからな。恥ずかしがっておられるのでしょう」
「もうっ。もっと積極的に行かないと面白くな、じゃなかった、恋は発展しないのにっ」
「せめてもっと上手く本音をお隠しになってください、お嬢様」
劇場に到着しました。
私達はまたも物陰に隠れながら、お兄様達を見守ります。
けれど、あの劇は人気だから、当日券で買えるかしら?
と思っていたら、じいやが通信魔法で何か言っていました。通信が終了したみたいだから、聞いてみます。
「誰と話してたの、じいや?」
「この劇場のチケット売場です。予約しておいたあの劇のチケットをキャンセルしました」
「……じいやも案外策士ね」
「ライア様からの指示でございます。それとなく怪しまれないようにと」
「手を繋ぐ度胸はないくせに、こんなところは手を回してるんだから」
私は呆れました。
そのしたたかさを少しでもいいから、もっと前面に押し出せばいいのに。
そんなことを思っていると、劇の時間になって、皆が演劇ホールに向かっていきます。
「お兄様達が出てくるまで待つしかないわね」
「さようですな」
とか言ってたら、私達と同じように物陰に隠れていたらしいメイド姿の女性が現れて、こちらに近付いてきました。
え、え、誰? 逃げな……。
「お待ちください、お嬢様。あの方はヘレナ様の専属メイドでございます」
「え?」
メイドさんが来て、私達にカーテシーをしました。
「お久しぶりです、レオン家の執事長様。そちらはライア様の妹君でございますね?」
「さようです」
メイドさんが私に言います。
「お初にお目に掛かります。私、現在ヘレナ様の専属メイドでメイド長を任されておりますパトリシアでございます。以後お見知りおきをお願い致します」
「あ、は、初めまして」
私は慌ててぺこりと挨拶します。
なんか大人の女性って感じで格好良いっ。
「せっかくこうして合流したのですから、今日はお互いに協力して、お二人を見守れたら良いと考えておりますが、どうでしょうか?」
「あ、はいっ、そうですね、そうしましょう」
私はあたふたとしながら答えました。
まあ、結局そのあと、劇場からお兄様達は特に何事もなく、そのままデートを終わらせてしまいましたけど。
もう、お兄様ったら!
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