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【王国内屈指の公爵家の令嬢ですが、婚約破棄される前に婚約破棄しました。元婚約者は没落したそうですが、そんなの知りません】  作者: ナロー


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【嘘偽りの婚約者】 5


 両親から君との婚約の話を聞いた時、僕は最初辟易していた。


 どうせ貴族によくあるような政略結婚で、僕はあくまで家を強く、大きくする為の道具に過ぎないのだろうと思ったからだ。


 それまで会ったこともない女性と、いきなり婚約しろと言われるんだ。相手の方だって……君だって同じ気持ちだろうと思っていた。


 ハイネス家の名前自体は知っていたし、君の名前も噂では耳にしていた。良家のお嬢様という言葉がぴったりなくらい、器量の良い女性だと聞いていた。


 しかし、多くの貴族達が体面を保つ為や見栄を張る為に、実際より誇張して喧伝しているというのはよくあることだ。


 君もその一人だと思っていた。


 実際に会えば、どうせ噂よりも矮小で、外見こそ綺麗に取り繕っているが、内面はとても直視出来たものではないだろう……そう思っていた。


 しかし……笑ってくれ。君に初めて会った時、不覚にも僕は君に一瞬見とれてしまったんだ。散々外見がどうの内面がどうのと思っていたくせに、僕は君に一目惚れしてしまっていたんだ。


 だが、それでもその時の僕はその事実を認めたくなくて、自分の気持ちは一時の気の迷いだと思おうとして、君との最初の会見、会話の中で、君の悪い部分や醜い部分や粗を探し出そうとした。


 ……見つからなかった。


 君と話せば話すほど、君の更なる魅力を見つけていた。気が付いた時、僕の心はどっぷりと君に浸かってしまっていたんだ。


 君の僕に対する気持ちがどうなのかまでは分からない。おそらく君に出会うまでの僕と同じように、僕のことなどはただの政略結婚の相手だとしか見ていないんだと思う。きっとそうだろう。


 だが恥ずかしいことに、僕の気持ちは以前とは確実に異なっていた。君のことを本気で好きになってしまっていた。


 僕は君と結婚したかった。自分でも現金な奴だと思うが、僕は僕の両親にとても感謝した。


 君と出会わせてくれて、婚約を結んでくれてありがとう、とね。


 その時の僕は、間違いなく幸せだった。


 ……しかし、そんなある日、僕は急に胸が苦しくなって倒れてしまった。


 すぐに病院に搬送されて治療を受けたが……その時に、この重い心臓病に罹患していることが判明した。


 君も聞いたみたいだが、その時点でもう余命は残り少なかった。とてもじゃないが、君と結婚して、君との生活を共にしていくことは出来そうになかった。


 だから……僕は君に冷たく接することにしたんだ。君に嫌われようとしたんだ。


 君が僕を嫌いになれば、僕が君に婚約破棄を申し渡しても、何の疑いも持たずに、むしろ喜んで婚約破棄を受け入れてくれると思ったからだ。


 そうすれば……君を不幸にしてしまうことはなくなる。


 結婚してすぐに未亡人にして、寂しい気持ちにさせてしまうことはなくなる。僕との婚約が白紙になれば、もっと良い人と……少なくともすぐには死なない人と結婚して、幸せで寂しくない生活を送ることが出来るだろう。


 そう思ったから、そう願ったから、そう望んだから……僕は君の前から去ることを決めたんだ。


 僕は君の過去になり、いずれ忘れられてしまう存在になることを、僕は選んだ。


 それでも僕は良いと思った。


 君と一緒になって君を不幸にするくらいなら、君と別れて君の幸せをあの世から見守ることの方が、僕にとってはずっとずっと良いことだった。最善で最高の選択だった。


 だから……ヘレナ=ハイネスさん。僕は君との婚約を破棄する。


 どうか僕のことは忘れて、幸せになってくれ。



 ライアの話を聞き終えて。


 長いようで短いような、そんな静寂の間が漂った。


 そして、ヘレナが口を開いた。



「分かりました。ライア=レオンさん、貴方のお望み通り、私は貴方との婚約を破棄致します」


「……ああ……それで良い……」



 ライアは満足したように目を閉じる。


 ……これでもう、僕は……。



「私は貴方の心臓病を治す方法を、絶対に探し出してみせます」


「……っ⁉」



 ライアが驚愕に目を開いた。


 ヘレナの顔つきは決意に満ちていた。


「私は貴方に命を救われました。だから、今度は私が貴方を救ってみせます」


「なにを、ばかな……」


「そして私が貴方を助けた後。貴方がもうしばらく生きていけるようになった後。私は改めて貴方に婚約を申し込みます」


「っ⁉」



 ライアはまさしく信じられないといった顔になった。



「なにをいって……」


「これはハイネス侯爵家令嬢、ヘレナ=ハイネスからの申し込みです。拒否することは許しません」



 ヘレナは立ち上がり、ドアへと向かっていく。


 ライアが慌てて手を伸ばす。



「な、ま……」


「そうそう、一つ伝え忘れていましたが」



 閉じたドアの前で立ち止まって、ヘレナは毅然と告げた。



「貴方ほどではありませんが、私も、貴方のことを悪しからず思っていました。嫌いではありませんでした」


「…………⁉」


「ではまた。明日にでも会いに来ますので、心の準備と覚悟をしておいてください」


「……っ⁉」



 そう言い残して、ヘレナは病室から出ていった。



 そして――。


 とある帝国にいるという、心臓を一から造れるという凄腕のヒーラーの存在を、ヘレナ達は探し出すことに成功した。


 その後――ヘレナがライアを見事助けたのは、また別のお話――。




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