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【王国内屈指の公爵家の令嬢ですが、婚約破棄される前に婚約破棄しました。元婚約者は没落したそうですが、そんなの知りません】  作者: ナロー


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【王太子と第四王子】


 先日、弟のエディオットが婚約相手と会見し、それを早々に中座してきた。



『虫が出たから帰ったんだよ。文句なら虫に言ってくれ』



 何故中座して帰ってきたのか? そう問い詰めたら返ってきた言葉がそれだった。


 私は頭が痛くなってしまった。


 エディオットのことだ、『虫』というのは何かの比喩であろうということは容易に推測出来た。事実、そのレストランには警察が呼ばれ、屋根で白目を剥いていた男を緊急逮捕したらしい。


 男は暗殺者だった。警察の取り調べでは、エインズ家令嬢とエディオットの暗殺依頼があったから、そこにいたのだという。


 依頼をした者の正体について、男は知らないと言っていた。本当に知らないようであり、自白剤や記憶を探る魔法でも何の成果もなかった。


 また警察は目下、記録を探る魔法で色々と調べているが、未だにめぼしい手掛かりは見つかっていないという。



『エディオット、お前という奴は……暗殺者がいたならいたと、そう言えば良かっただろう』


『何のことだよ。俺は嫌いな虫が出たから帰っただけだ。ついでに婚約もご破算にしたかったしな。俺はまだ自由気ままにいたいんだ』


『その婚約相手だがな。お前に興味を持ったみたいだ』


『はあ?』


『後日、今度はエインズ家にて会いたいと言ってきた。やれやれ、一時は肝を冷やしたが、エインズ家のご令嬢も中々頭の切れる女性らしい』


『…………』



 エディオットは訝しんだ顔をしていた。当然婚約破棄になると思っていたのだろう。



『いいか、エディオット。相手は王国に四つある公爵家の一つ、エインズ家だ。かの家の力は、王家でも無視することは出来ない。だからこそ、父さんはお前をエインズ家のご令嬢と婚約させたんだ』


『……それがそもそもおかしいだろ? 何で俺なんだよ』


『それは婚約を決めた父さんとエインズ卿のみ知ることだろうな。まあ、お前なら察することが出来るだろう』


『へいへい、偉大なお父様のお考えは素晴らしいですよっと。どうせ強大な家と結婚して、その家を抑制すると同時に王家をより強くしようとかだろ?』


『そう見えてしまうのも仕方ないな。しかし父さんの考えはもっと単純だと俺は思う。皆仲良くしようぜ、とな』


『やれやれ』



 エディオットは辟易したように肩を竦めた。


 やはり親子だからだろう、父さんとエディオットはよく似ている。


 ひょうひょうとしているようで、その実は抜け目がなく、しかし単純な理由で行動する。


 単純であるが故に芯が強く、ちょっとやそっとでは諦めない。



『父さんが目指しているのは、皆が仲良く平和に暮らせる世界なんだ』


『ご立派な矜持ですこと。その為に俺は四大公爵家の一つに行かされることになるんだからな。平和を目指すなら隣国の王女と婚約させりゃいいのに』


『まずは自国の地盤を固めてからなのだろう』


『俺はその礎にされるってか。政略結婚の道具だな』


『父さん達はそれぞれの相性も考えてのことらしい。お前とエインズ家のご令嬢は、きっと馬が合うはずだろうとな』


『希望的観測だね』



 エディオットはもう一度肩を竦めると、部屋を出ていった。



『ふう……やれやれ』



 つい私も息がこぼれてしまう。


 エディオットが言っていたように、我が王国領内には四大公爵家と呼ばれる四つの公爵家が存在する。


 エインズ家を始めとして、それらは王国に多大な影響力を有していて、王家も無視することは出来ない。


 エディオットが言っていた抑制と王家の強大化も……見方によってはあながち間違っていないのが、仕方のないところではあった。


 だが、やはり父さん達は王国の平和の為に、エディオットとエインズ家ご令嬢を婚約させたのだと、俺は思っている。


(……エインズ家には黒い噂は聞いていない。エディオット、お前は何だかんだと文句を言うだろうが、父さん達や俺はきっと上手くいくと思っている)


 そう……エインズ家には黒い噂はない。


 問題なのは、四大公爵家の一つ……バンディミック家だ。


 かの家には、現当主であるバリアン=バンディミックがバンディミック家を受け継いだ時から、黒い噂が立ち始めるようになった。


 それらの真偽は定かではない。無論、バリアン=バンディミックは否定している。


 警察もそれとなく調べているようだが、未だに確証は得られていないらしい。



『黒い噂はあくまでただの噂に過ぎない。噂に惑わされてはいけませんな』



 それがバリアン=バンディミックの言だった。


 確かに噂はあくまで噂に過ぎない。


 しかし……このざわざわとする胸騒ぎを無視するわけにもいかないだろう。




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