【『稀代の馬鹿王子』:エディオット=シーラー】 3
[証言一]
はい、私はエディオット殿下がご出席なされた社交パーティーに参加していました。
殿下はとてもユニークなお方で、笑顔でご冗談を仰って周りの方を笑わせたり呆れさせたりしていました。
私自身もとても面白いお方だなと思いまして、確かにご冗談は仰いますけど、噂に聞いたような『稀代の馬鹿王子』だというような失礼をするお方には見えませんでした。
そうして社交パーティーがつつがなく進行していった時のことですわ、私、ついワインを飲み過ぎてしまったみたいで、胸がむかむかして気持ち悪くなってきてしまいましたの。
このままでは吐いてしまうと思いました。お手洗いに急ごうとしたのですけど、その時お話している方に失礼のないように中座の言葉を述べるのも難しくて……。
このままでは皆様の見ている前で醜態を晒してしまうと、頭が混乱して泣きそうになってしまいました。
その時です。エディオット殿下が急にとても、とてもとても大きな、パーティー会場が震えるくらいの大声で笑い出しました。
あまりにも突然で、あまりにも大きすぎるその笑い声に、その場にいた皆様全員が唖然として、殿下の方へと注目したのです。
皆様の目が殿下へと向いている間に、私は急いで廊下へと飛び出しました。駆け足でお手洗いへと駆け込んで、ぎりぎりで個室に間に合うことが出来ました。
エディオット殿下の笑い声はまだ続いていて、お手洗いにいる私の耳にまで届いてきていました。皆様全員、殿下に気を取られて私のことには気付いていないようで、誰も私の後を追いかけてきてはいませんでした。
……その時は自分のことばかりで精一杯で、よくよく考えを巡らせることも出来ませんでしたが……。
きっと殿下は、私の様子に気付いて、わざとあのような振る舞いをなさってくれたのかもしれません。
……いえ、もしかしたら、ただの私の思い過ごしかもしれませんが……。
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[証言二]
私は医師でもありますが、こう見えて猟銃の免許も持っておりましてな、週末などには森に出掛けて兎や鹿などを狩って、ジビエ肉を食べるのが趣味だったりするんですな。
森と言いましても暗い奥深くではなく、すぐに帰れるような入口付近ですが。
森の深くにまで踏み入って、万が一にでも猛獣や魔物などに出くわしたら大変ですからな。
それはともかくとして、実は数年前、その森に野犬が徘徊していたことがあるのです。
それまで狼やその種族の魔物はいなく、後に分かったことでは、町の保健所から脱走していた野犬だったそうです。
ええ、保健所も慌てて犬の行方を探していました。その野犬は狂犬病に罹患した個体だったからです。
知っておられましたか。
確かに、現代の医学では狂犬病に対する特効薬は出来ておりません。薬で出来るのはせいぜい発症を遅らせることくらいです。
病気を治療する回復魔法ですら、狂犬病を治すのは至難の業とされています。私程度では使えないような、とても、極めて高度な回復魔法が必要になります。
だから保健所は慌てに慌てて犬を探しておりまして、町の住人にも厳重注意を促していました。例え野犬を見掛けたとしても、決して近付かないようにと。
その野犬ですが、保健所と、保健所が依頼した警察の必死の捜索の末、およそ数日後に発見、回収することが出来たとのことです。
野犬は鼻が利くので、わずか数日で回収出来たのは凄いことだと思いました。普通なら、回収しようとする前に逃走して、もっと時間と手間が掛かるでしょうから。
私は保健所に知り合いがいまして、その時の話をしたことがあります。
どうやら新聞には書かれなかったことのようですが、その野犬は発見当時、既に息絶えてしまっていたそうです。
野犬の頭部には一発の銃創がありまして、司法解剖の結果、頭部から銃弾が一つ見つかったとのことでした。
警察の見解では、どこかの誰かが狩ったのだろうとのことでした。ただ、いつ、誰が狩ったのかまでは分からなかったようですが。
偶然出くわしたから狩ったのか、それとも狂犬病を持つ野犬と知っていて狩ったのか……それもまた分かりません。
分かるのは、鼻が利いて素早い野犬の頭部に、見事銃弾を命中させた、その狩人の高度な腕前でしょうか。
いえ、もしかしたら何発も撃った末の、偶然の命中だったのかもしれませんが。
とにもかくにも、顔も名前も存じ上げないその方のおかげで、誰かが狂犬病の被害を受ける前に事が片付いたのは確かです。
保健所も警察も、その方にとても感謝していましたよ。
その保健所の私の知り合いも、どうせなら名乗り出てくれれば良いのにと言っていました。
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グロリアが付け足して言う。
「その野犬が徘徊していた時期と、エディオット第四王子が森にやってきていた時期は一致しています。さらに詳しく調べた結果、野犬を仕留めた銃弾と、王子が使用したライフルの銃弾も同一の物だと判明しました」
「…………」
「それが偶然の結果なのか、必然の駆除だったのか、はっきりしたことは判然としません。しかし他の事例から判断すれば……」
「そうね。その通りだと思うわ」
アイラはティーカップを置いて、
「面白いじゃない」
ニヤリと笑った。
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