【ジグソウ元伯爵の後悔】 2
[●年●月●日]
今日、息子のザイアに面会しに行った。
ザイアは、本当にあのザイアかと思うくらい、見た目が変わっていた。
頭は坊主になっていた。いや、それはまだ刑務所にいる為なのだから当然かもしれない。
しかし……目元には大きな隈があり、頬はげっそりと痩けていた。胴体は枯れ木、手足は枯れ枝のように痩せ細っていた。
傍にいた看守は私の驚きを察したのだろう、説明するように言ってきた。
『この者は出された食事をまともに食べようとしていない。また刑務作業もろくにしようとしていない。この者を見て、囚人虐待だ人権侵害だ等と喚き散らさないように』
何故ザイアが食事も刑務作業もしようとしないのか、私には手に取るように分かってしまった。
ザイアは、こんな物自分には相応しくないと思っているのだ。家の爵位が剥奪されたいま現在も、自分は伯爵家の人間だと思い込んでいるのだ、信じようとしているのだ。
『面会時間は二十分だ』
看守はそう告げた後、ドアの傍の壁際に控えた。私やザイアがおかしなことをしないように見張っているのだ。
ガラス一枚……間違いなく、簡単に破壊出来ないように強化されたガラスを隔てて、私とザイアは向かい合って座っていた。
最初の数分は、私もザイアも、口を開こうとしなかった。いや、私は口を開けられなかったのだ、何を言うべきかが分からなかったのだ。
そうしてようやく開けることが出来た私の口から出てきたのは、
『食事も刑務作業も、しっかりせねばならぬぞ』
そんな、そんな言葉しか言えなかった。
その時の私は、いやいまの私も、やはり一人の父親だったのだ。いくらこんな馬鹿な息子だろうと、それでもザイアの父親だったのだ。
私の言葉を聞いて、ザイアの目に涙が滲んできた。
不謹慎かもしれないが、息子のその涙を見て、私はほっとしてしまっていた。
ああ、ようやく息子も、己のしたことに後悔を感じているのだと思った。これからは刑務所に服役して罪を償い、出所後は、いまさらもう遅いかもしれないが、普通に生活していけるかもしれないと思った。
私は、またザイアと共に暮らしていけると思っていたのだ。
『不味いんだよ』
だから、ポツリと呟いた息子の言葉の意味が、私には一瞬分からなかった。
『不味い……?』
その時の私は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたかもしれない。
『不味いんだよ! こんな豚の餌みたいな不味い飯なんか食えないよ! ステーキとかキャビアとかワインとか、もっと美味しい物を寄越せっていつも言ってるのに! 僕はジグソウ伯爵家のザイア=ジグソウだぞ!』
『……っ⁉』
私は我が耳を疑った。我が目を疑った。
ザイアは、私の息子は、この期に及んでまで……っ。
『刑務作業って何だよ⁉ 僕は伯爵家なんだぞ! こんなこと出来るわけないだろ! こんなのはゴミクズ共がやることだろうが! 僕は違う! 僕を侮辱してやがる! 愚弄してやがる!』
そう叫んだ後、ザイアは顔を突っ伏して小さな呻き声を漏らしていた。
泣いているようだった。
『父さん、裁判所に訴えてくれよ。これは不当な扱いだ、伯爵家の僕に対する侮蔑だ。もう、父さんや母さんしか頼れないんだ。酒だって飲めない、ギャンブルも出来ない、美味しい物すら食べられないし、重労働を押し付けてきやがる。もうこんな所になんかいたくないんだよ。どうして僕はこんな所にいるんだよ。僕は、僕は、伯爵家のザイア=ジグソウなのに』
私は、開いた口を塞ぐことが出来なかった。
その後もザイアは、面会時間の間ずっと、泣きながら恨みつらみを呟き続けていた。
そんな息子をぼーっとしたように見ながら、私はこう思うことしか出来なかった。
……どこで間違ってしまったのだろう……。
と。




