【ウォール=エインズ専属執事:ポール=パシフィック】 2
ウォールが手掛けている事業の会社、その来客応接室にて。
ウォールは来訪したオード社社長、オルダー=オードと握手を交わしていた。
「こんにちは、エインズ卿。お初にお目に掛かれて光栄の極みです。今日は私との会見、誠にありがとうございます」
「俺の方こそ感謝致します。かの高名なオード社社長自らお越しくださったのですから。さあ、ソファにお腰をお掛けになってください」
「実に立派なソファだ」
オルダーはソファに腰を下ろし、次いでウォールも腰を下ろす。
ウォールが口を開いた。
「早速ですが、前置きは抜きにして仕事の話に参りましょう。俺も貴方もスケジュールが迫っていますからな」
「話が早くて助かります。では……」
それから二人は仕事の話を進めていく。
二十五分ほどが経ち、話がまとまった頃、オルダーがふとなにげなくポールのほうを見て言った。
「ところで、そちらの執事ですが、どこかで会ったことがなかったかな?」
ポールはオルダーとは初対面である。
「いえ、ありませんが」
「そうですか? いや失礼。いつかどこかで見たような気がしたんだが」
オルダーがウォールに聞いた。
「彼はいつ頃、エインズ卿の使用人に?」
そんなに気になることか?
と思いながらも、ウォールは一応答える。
「二、三年前ですな。路頭に迷っていたこいつを、俺が拾って執事に仕立てました」
「ははは、まるで野良猫を拾うみたいですな」
「最初は執事どころか慇懃な所作すら出来なかったがね。執事長が鍛えて、ようやくいまのようになった。物覚えは良い方だな」
「ははは、動物に芸を仕込むような言い方ですな」
ポールがぺこりと頭を下げて、ウォールに応じた。
「ウォール様、お褒め頂きありがとうございます」
ウォールは言葉ではポールに答えず、ちらりと目を向けたあと、再びオルダーを見た。
「二、三年前というと、オード社が設立された頃でもありますな」
「いやはやお恥ずかしい。その頃に私はこの王都にやってきましてね。地元では既に成功していたんだが、流石この国の中心都市だけあって、ここまで来るのに時間が掛かってしまいました」
「努力の賜物ですな」
○
オルダーとの会見が終わり、工場視察への馬車のなか。
ウォールは対面座席の斜め前に座るポールに言う。
「オルダー=オードについて調べておけ」
「は」
付け加えるように。
「奴はお前に見覚えがあると言っていた。もしかしたら、アレに出入りしていた可能性がある」
「…………」
「一、二度、誰かに連れられてや興味本意で行っただけで、すぐに嫌気が差してやめたのなら別にいい。だがもし、入り浸っていたのだとすれば」
「……可能な限り、詳細に調べておきます」
○
ポール=パシフィックは戦争孤児だった。
王国から離れた国同士の戦争に巻き込まれ、家族を失い、日々の食料にありつくことも困難な生活を送っていた。
そんな彼が、ある日、戦地の兵士の死体から剣を拾い上げたのは偶然ではなかったのかもしれない。
いずれはそうなる運命だったのだろう。時間の問題だったのだろう。
「……っ!」
それから彼は少年傭兵として剣を振るい、命懸けの戦いと引き換えに日々の糧を得られるようになった。
しかしそんな戦争もついに終結するときがきた。
王国の国王が戦争国に働きかけて、終戦協定を結ぶことに成功したのだ。
戦争は終わり、人々は心の底から安堵した。これでもう怯えなくて済むと。
町が戦後の後始末や復興で激動しているなか、ポールは呆然と青空を見上げていた。
戦争はなくなった。
彼の糧もなくなった。
放浪する彼が、とある街の地下コロシアムの存在を知り、糧を得るためにそこを訪れるのは必然だった。
そして生き残るために勝ち続けた彼は、いつしか地下コロシアム最強の剣士になっていた。
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