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【王国内屈指の公爵家の令嬢ですが、婚約破棄される前に婚約破棄しました。元婚約者は没落したそうですが、そんなの知りません】  作者: ナロー


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【ウォール=エインズ専属執事:ポール=パシフィック】 3


 数年前。


 ウォールは知り合った貴族に連れられて、とある街の地下施設を訪れたことがあった。



「何ですかな、ニレス卿、面白い物というのは」


「これですよ、エインズ卿。ほら、見てください」



 それは地下コロシアムだった。


 円形状の闘技場と、それを取り囲むようにして配置されている観客席。


 闘技場ではたった一人の剣士を、百人近い武器を持った人間が取り囲んでいた。


 無表情にそれを見るウォールが、貴族に尋ねる。



「ニレス卿、これは?」


「地下コロシアムですよ。しかも今宵のマッチングは、このコロシアム最強の剣士VS貴族達が呼び集めた実力のある戦士や暗殺者達。何を隠そう、私が呼んだ暗殺者も出てましてね」



 嬉々とした顔で手すりを掴んだニレスが、闘技場を見下ろす。



「これこそ至高の賭け、贅を極めた貴族の嗜みですよ。最強の剣士が勝つか、貴族の刺客達が勝つか。刺客達が勝つなら、誰がトドメを刺すか。それぞれにオッズが設定されていましてね、見事当てることが出来れば高額配当が貰えるのですよ。最高で千倍ものね」


「たった一人に百人近くですか。それでよく成り立ちますな」


「それだけあの剣士が強く、皆が熱狂しているのです。最近はもう、如何にしてあの剣士に勝つかが焦点になってますな」


「…………」



 悪趣味だな。


 闘技場では死闘が繰り広げられていた。


 およそ十分後。


 闘技場に立っていたのは一人の最強の剣士だけだった。彼は地面に剣を刺し、うつむいて荒い息を吐いていた。


 観客は熱狂していた。ニレスも興奮して手すりを掴んでいた。


 ただ一人、ウォールだけが冷めた目をしていた。最強の剣士を見下ろしていた。



「…………?」



 ふと剣士が顔を上げた。視線を感じたからかもしれない。


 ウォールと視線がぶつかった。


 その視線には殺気も恐怖も憐憫も軽蔑も熱狂もなかった。いままで彼に向けられてきたどの視線とも違っていた。



「…………」


「…………」



 ウォールが背を向けた。男はそばにいる貴族にはなにも言わずに、静かに地下施設を去っていった。


 その数日後。


 その日も剣士が糧を得るために剣を振るっていたとき、観客席の入口に何者かが駆け込んできた。



「警察だ! 全員大人しくしろ!」



 ロバート警部だった。彼の後ろから大量の警官が雪崩れ込んできて、あわてふためく観客達を次々と捕らえていく。そのなかにはニレスの姿もあった。



「アアアアアアアアッ!」



 剣士と戦っていた魔物の群れの、最後の一体であるケルベロスが警部に飛び掛かっていった。魔物使いが殺害の命令を出したのだ。



「くっ⁉」



 懐から銃を取り出そうとするよりも速く、ケルベロスの爪が警部の頭上に振りかざされる。


 その一撃を、しかし疾風のように現れた老年の執事が小さな魔法陣で受け止めて、



「破!」



 その一瞬後、ケルベロスの肉体が粉々に四散した。



「よくやった、マギエル」



 言いながら入口から一人の男が入ってくる。ウォールだった。



「助かりました。エインズ卿」


「礼ならそこの執事長に言ってください」



 警部が執事長に改めて礼を言って、執事長が恭しく頭を下げるなか……ウォールは観客席を進んで、闘技場に間近の最前列まで来た。


 闘技場のなか、静かに見上げていた剣士に告げる。



「お前のことは調べさせてもらった。だが敢えて聞こう。お前の名は?」


「…………実の名は忘れた……便宜上、ポール=パシフィックと名乗っている……」


「俺はウォール=エインズだ。俺についてこい、ポール。剣を振らなくても飯が食える生き方を教えてやる」


「…………」



 そしてポールはエインズ家の執事となった。



 エインズ邸、応接客間にて。


 オルダー=オードが訪れていた。



「やあやあエインズ卿。今日はご自宅へお招き頂き感謝致します」


「それは何より。では警部」



 ウォールのそばに立っていたロバート警部がオルダーの両手に手錠を掛けた。



「へ? え、エインズ卿?」


「貴方が裏金を受け取って、マネロンしていた調べはついている。ついでに、数年前に取り逃がしたコロシアムの常連の一人だったということも」



 警部がウォールに言った。



「ご協力感謝します、エインズ卿。このお礼は後日また」


「連れていってください」


「はい」



 ガックリと観念してうなだれるオルダーを、老年の執事とともに警部が連行していく。


 ウォールの近くに控えていたポールが口を開いた。



「オード社は潰れるでしょうか」


「トップが代わるだけだ。俺にな」


「社員は安心するでしょう。路頭に迷わなくて済むと」


「俺にとってもメリットになる。ライバルが減り、資産が増える。Win=Winだな」



 ウォールがドアに向かいながら、ついていくポールに聞いた。



「次の予定は?」


「もうすぐ昼食です。奥様がダイニングでお待ちです」


「もうそんな時間だったか。どうりで腹が減るわけだ」



 二人はダイニングへ向かっていく。


 ポールは思っていた。


 ……剣を振らなくても、腹は満たせる。




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