【ウォール=エインズ専属執事:ポール=パシフィック】 1
敵は殺す。
敵を殺して、糧を得る。
地下コロシアムに現れる敵は毎回違う。
誰が用意しているのかまでは分からない。分かるのは殺らなきゃ殺られるということ。
ゴブリンの時。
オークの時。
ケルベロスの時。
ドラゴンの時。
そして、人の時。
一対一の時もあった。複数戦の時もあった。
殺し合いの度に観客は沸いた。
最後の一人が生き残り、勝ち残り、立ち上がる度に観客は狂喜し、あるいは罵詈雑言を浴びせた。
殺し合いが終わる度に、大量の札束が雨のように宙を舞った。
…………。
男は目を覚まし、ベッド上に上体を起こす。
(夢、か)
悪夢だな。
男はそう思った。
○
ウォール=エインズの専属執事、名はポール=パシフィック。
エインズ家の朝食の卓で、彼はウォールのそばに控えて給仕をしていた。
フォークとナイフを動かしながら、ウォールがポールに尋ねる。
「ポール、今日の予定は?」
「朝食の後、九時に出勤、十時に取引先のオード社の社長がご来訪して三十分の話し合い、その後は馬車に乗って自社工場への視察、十二時に昼食の為に本邸に帰宅し、午後からは……」
「いや、もういい。午後の予定はその時改めて聞く」
「は」
アイラが父親に言った。辟易したような声音だった。
「お父様、いつも思いますけど、毎日わざわざ屋敷に戻ってランチを食べるのは面倒じゃない? 会社や出先で食べれば効率が良いのに」
「効率ばかり求めていては、大切な物を見失うぞ、アイラ」
「守銭奴のお父様の台詞とは思えませんね。そっくりそのまま返したいですわ」
「お前、俺のことそう思ってたのか?」
ウォールは呆れた顔になる。
アイラの母親のエルザが微笑みながら言った。嬉しそうだった。
「アイラ、お父さんはね、可愛い可愛い私に会いに来てるのよ。愛してる奥さんの私にね」
「お母様、自分で言ってて恥ずかしくないんですか?」
「何が?」
エルザは分かっていないように小首を傾げている。
今度はアイラが呆れて溜め息を吐いた。
全く、いつまでものろけてるんだから。
アイラの妹のキャロルが口を開く。
「いいなぁ、お父様達、ジェシー達が作る美味しい料理食べられて。私、学園だから。学食も美味しいっちゃ美味しいんだけどね。やっぱりジェシー達の料理が食べたいなあ」
「何だ、キャロル、それならうちのコックを同伴させたらいいだろう。それこそジェシーとか」
「それはやめて。流石に恥ずかしいから」
ダイニングに隣接する厨房で耳にしていたジェシーは小さく肩を竦めて、同僚のコック達は苦笑いをしていた。
○




