【学園生:クーイ=クエル】 3
数日後。
エインズ邸、キャロルの私室にて。
机の前に座るキャロルにレニーが言っていた。
「キャロル様に申し付けられた者の調査、完了致しました」
「……そう……結果は?」
書類を見ながらレニーが答える。
それはあのジョウロで花に水をあげていた男子の調査結果だった。
「名前はクーイ=クエル。学年はキャロル様と同じ一年次生、学業成績は平々凡々の中の中でございます」
「クエル……聞いたことない名前ね……」
「詳しく調べた所、孤児院の出身でした。『クエル』はその孤児院の院長の名字です」
「養子なんだ。でも、孤児院の子があの学園に入れるの?」
「クーイ=クエルはおよそ半年前にあの学園に転校してきました。以前の学校では成績上位だったようであり、教師からの推薦で転校出来たようです」
「成績上位だったのに、いまは平凡……?」
キャロルは疑問符を浮かべた。
もっともだというようにレニーがうなずく。
「奇妙なことはもう一つあります」
「何?」
「以前の学校において、クーイ=クエルと関わった者が、全身傷だらけで発見されることです」
「え?」
「発見時刻は真夜中や明け方であり、場所は学校の敷地内、傷だらけで発見されるのは例外なく学校でも手を焼いていた不良ばかりだったようです。全員、クーイ=クエル及び彼の周辺に悪事を働こうとした翌日から数日後に、そうなりました」
「それって……」
レニーはうなずいた。
「はい。間違いなく、クーイ=クエルがおこなったことでしょう。ただし、確証はありませんが」
「…………」
「私達の調査で確証を得られなかった時点で、クーイ=クエルは相当な切れ者です。キャロル様、充分にお気を付けください」
「…………、うん……調べてくれて、ありがと」
○
学園の食堂にて。
カトリーナがキャロルに話し掛けていた。
「ねぇ聞いた? この前の不良がね、焼却炉で見つかったらしいよ」
「不良? 焼却炉?」
物騒な言葉にキャロルは思わず少しびっくりした。
カトリーナは補足するように言う。
「この前の花壇に水をあげてた人に絡んでた不良だよ。その不良が、焼却炉に頭を突っ込んで気絶してたんだって」
「まさか燃やしちゃったの?」
「うぅん、足が出てたから用務員の人もすぐに気付いて、ゴミを燃やす前に外に出せたんだって」
「そう……」
キャロルはほっとしていた。
不良が助かったことそれ自体よりも、本当の殺人者がこの学園から出なくて良かったと思ったのだ。
それをおこなった人物に見当がついてしまっていたから。
カトリーナは続ける。
「その不良はどうしてそうなったのか全然覚えてないって答えたみたいなんだけど、何かに怯えているみたいにびくびくしてるんだって。昨日、逃げるように転校していったそうだよ」
「そうなんだ……」
「何だか怖い話だよね」
「…………」
○
学園。渡り廊下のそばの庭園の花壇にて。
ジョウロで花壇に水をあげているクーイに、キャロルが近付いて声を掛けた。
「花が好きなんですね」
クーイが振り向く。誰だか気付いたようだった。
「エインズさん」
「キャロルで良いですよ。皆からそう呼ばれてますから」
「……何かご用ですか?」
「いえ、少し気になっただけです。毎日ここにいるみたいですから」
「……花は静かに咲いているから」
クーイはそう答えると、再び花壇に顔を向けた。
「静かなのが好きなんです、俺は」
「もしかして読書や絵描きも?」
「本は読みます。絵は描きません」
「じゃあ私と一緒ですね。私も読書はするけど、絵は描きません。お姉様は時々描いてますけど。後、お父様には習えって言われてますけど」
「…………」
キャロルは庭園の中央にある柱時計を見る。
「あ、もうすぐ午後の授業ですね。それじゃあ私はこれで」
「キャロルさん」
振り向いた彼女に、クーイはポケットからなにかを取り出して差し出してきた。
この前のハンカチだった。
「洗濯しておきましたので、返します。ありがとうございました」
「いえいえ、どう致しまして」
キャロルは笑顔で受け取ると、背を向けて校舎へと歩き出した。
「…………」
その姿を見送ったあと、ジョウロを置いたクーイも授業を受けるために教室へと向かっていった。
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