【学園生:クーイ=クエル】 1
ある日、キャロルが学園の渡り廊下を歩いていると、庭園に誰かがいるのを見つけた。
男子生徒だった。
彼はジョウロを持ち、静かに花壇に水をあげていた。
(水なら庭師の人があげるのに……)
ついそう思った。
わざわざ自分があげる必要はないのに……と。
「どうしたの、キャロル? そんな所に突っ立って」
キャロルが振り返ると、カトリーナが不思議そうな顔をしていた。
「うぅん、何でもないよ」
「そう? じゃあさ、学食に行こうよ。聞いてほしい話もあるし」
「うん、分かった」
二人は学食へ向かって歩き出す。
男子生徒は依然花壇に水をあげていた。
○
「それでね、ヒロインとその男の子の恋模様がきゅんきゅんするの。ページをめくる手が止まらなくて、早く続きを読みたくなっちゃうの」
学食のテーブル席で、カトリーナはとある恋愛漫画について話していた。
いま女子生徒の間で話題になっている漫画だった。
「そんなに面白いの?」
「それはもうっ。キャロル、まだ読んでないの?」
「それはまだだったかな。面白そうだから今度読んでみるね」
「だったら私のを貸すよ。最新巻まで揃えてるし」
「いいの?」
「うん。それぞれ三冊ずつ買ってるから。読む用と保管用と布教用に」
「三冊……布教……」
キャロルは目をぱちくりとした。
「本当に好きなんだね、その漫画」
「もちろん」
その漫画について話しているだけでも楽しいというように、カトリーナは笑顔でうなずいた。
彼女のその様子を見て、キャロルはほっと安堵してしまう。
「どうしたの、キャロル、私の顔に何かついてる? あ、パフェのクリームがついてたり?」
慌ててポケットからコンパクトミラーを取り出そうとするカトリーナに、キャロルは答えた。
「うぅん、大丈夫、ついてないよ」
「そう?」
「うん」
「じゃあどうしたの? 私の顔をまじまじと見て」
そんなにまじまじ見てたつもりはなかったんだけどなぁ。
「安心したから、かな。カトリーナ、この前すごく元気がなかったから」
「…………うん」
デート相手の本性を知った時期のことだった。
「あ、ごめんね、嫌なこと思い出させちゃった?」
「大丈夫だよ、キャロル。もうそれは私の中で踏ん切りがついたの。世の中色んな人がいて、私はまだまだ夢見がちな子供だったの」
「カトリーナ……」
「だからね、キャロル、私決めたのっ」
カトリーナは拳を握って、宣言するように言った。
「私、もっと素敵な人見つけて、絶対に幸せになってやるんだから。あんな女を食い物にするような最低な奴なんか、もうどうでもいいんだから」
「カトリーナ……」
「なんか知らないけど、あの人転校していっちゃったしね。まあ、もうどうでもいいんだけど」
「……強いなぁ、カトリーナは」
「そう?」
「うん。私のお姉様みたい」
「アイラ様となんて、そこまでじゃないよ私は……っ」
カトリーナは慌てて両手を振るが、その顔はどこか嬉しそうでもあった。
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