【初クエスト完了後、ホストクラブにて】 3
少しの静寂のあと、ようやく状況を理解したホストが立ち上がってスティーブの胸ぐらを掴んだ。
「テメエッ! 何しやがるッ⁉」
「ムカついたからやった。それだけだ」
「ッ! このヤロウ! 許さねえッ!」
男がスティーブに殴り掛かる。
しかしスティーブは首を少し傾けただけで避けると、片手の拳を男の頬目掛けて、横薙ぎに振り抜いた。
ドゴォン! 男が吹き飛ばされて壁に激突する。床に崩れて気絶する男の頭に、パラパラと破片が降っていた。
「……ッ……⁉」
白目を剥いているホストを、唖然とした顔で見つめる受付嬢や他のホスト達。
スティーブはなにも言わずに入口のほうへと向かおうとし、ネルンも立ち上がってそのあとをついていく。
皆が二人の背中に視線を移したとき、今度は入口のほうから中年の男性が駆け足で入ってきた。
「こんな所にいたのかっ、オリー!」
「お、お父さんッ⁉」
ついいましがた来たばかりらしく、その男性は気絶しているホストには気付いていない様子で、受付嬢の元へと歩み寄っていく。
受付嬢の父親が彼女の手を取った。
「この大馬鹿娘が! 借金なぞしおって!」
「ウソッ、あの借金取り達、実家には行かないでって言ったのに!」
「帰るぞ! 一人で大丈夫だからと言うから一人暮らしを認めたのに、何だこれは⁉ ホスト通いの為に借金をするとは! もうこの街から出ていかせるからな!」
「イヤッ! 離してッ! 私はこの煌びやかな都会の街にいたいのッ!」
受付嬢は父親の腕を無理矢理振りほどくと、駆け足でスティーブのほうへと向かっていく。
受付嬢がスティーブの腕を取って、懇願の声を上げた。
「ねえッ、お願いッ! 貴方、私のことが好きなんでしょッ! 結婚したいんでしょッ! いますぐ結婚してあげるし言う通りのことするし貴方の喜ぶことしてあげるからさァッ! 私のこと助けてよッ! 借金ももうしないからさッ! 私この街にずっといたいのよッ! ねえッ、お願いだからッ!」
「…………」
すがる彼女を、しかしスティーブは真面目な顔で見ているだけだった。
やがてスティーブが父親のほうへ顔を向ける。
「早く連れていってください」
「あ、ああ」
父親が再び受付嬢の手を取って、彼女をスティーブから引き離す。
「ほら帰るぞ! よそ様に迷惑掛けるんじゃない!」
「イヤッ、やめてッ、離してッ、離してよォッ!」
引きずられるように連れていかれる彼女を、スティーブは真面目な顔で見つめているだけだった。
そんな彼を、ネルンが見つめていた。
(スティーブ様……)
○
翌日。
スティーブとネルンは昨日のクエストの報告のために、ギルドにやってきていた。
昨夜は結局、あの一件のあとギルドに行かずに屋敷に帰っていたからである。
「やはりあの受付嬢はいませんね。故郷に帰ったのでしょう」
ギルド内を見渡して、ネルンが言う。それからちらりとスティーブのほうを見た。
「…………」
彼は無言で、真面目な顔を崩さずに受付へと向かっていく。
(流石のスティーブ様も、昨夜の件は効いたということでしょう)
ネルンがそう思っていると、二人が向かった先の受付に座る、昨日までとは別の受付嬢が笑顔で言ってきた。
「ようこそ当ギルドへ。本日はどのような」
「結婚してください!」
「ええっ!?」
いきなりのスティーブのプロポーズに、受付嬢はびっくりしていた。
ネルンは顔に手を当てて、深い溜め息を吐いた。
(全く、このお方は)
しかし何故だか、その口元にはかすかな笑みが滲んでいた。
そしてスティーブの後頭部を鷲掴みにする。
「スティーブ様、以前から言っているでしょう。婦女子をナンパしないでください」
「ぎゃあー!? いだいいだいいだいいだい!?」
いつものようにスティーブの声が響いた。
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