【初クエスト完了後、ホストクラブにて】 2
スティーブとネルンはホストクラブの店内にいた。
受付対応したスタッフは、男であるスティーブを見て訝しんだ顔をしていた。スティーブはスタッフには構わずに店内に進み、ネルンが、
「キャストは付けなくていいです」
と言うと、そのスタッフはさらに変な顔になっていた。
そんなスタッフのことはともかくとして、スティーブとネルンは受付嬢がいるテーブルの後ろの、皮張りのソファに隠れるようにしていた。
ソファ越しに受付嬢が楽しそうな声で言っていた。背後のスティーブ達に気付いている様子はなく、すでに少し酔っているようだった。
「でさー、そいつ結婚して!とか言ってくんのよー。マジ、ハアッ⁉ってなっちゃったー」
「うわッ、そいつ馬鹿じゃねぇッ⁉ 君をナンパするなんてさッ」
「ホントホントッ、全然タイプじゃないっての! 駆け出しのFランクで小遣い稼ぎのクエストしか出来ないくせにさァー」
「Fランクとか滅茶苦茶弱えーじゃん! アハハッ、なんなら俺がそいつを追っ払ってやろーか? 可愛い君に近付くんじゃねーよって」
「キャーッ! カッコイイーッ! アハハー!」
受付嬢が手を叩いて大きな笑い声を上げる。
そんな彼女達の会話を盗み聞きして、
「…………」
「……スティーブ様……」
「…………」
ネルンの小さな声に、スティーブは返事をしなかった。
ただ普段は見せないような、至極真面目な顔をソファの向こう側を見るように向けていた。
ホストが受付嬢の肩に腕を回して、耳に顔を寄せてささやくように言う。
「そんなことよりよ、お金、ちょっと貸してくんねーかな? ちょっと使い過ぎちまってさ」
「えー、またー?」
「店が終わった後、二人きりで楽しいことしてやるからさ」
「もぉー、特別だよぉー。いくらぁー」
嬉しそうな顔をしながら受付嬢が財布を取り出す。
「ほんのちょっとさ、百万ゴールドくらい」
彼女の動きは、ホストのその言葉で凍りついた。思わず男のほうを見る。
「え?」
「小切手あるだろ? なければ店の奴に持ってこさせるからさ。それにちょちょいとサインしてくれるだけでいいんだ」
「ま、待ってよー、百万は高すぎぃー。もぉー、冗談が上手いんだからぁー。十万くらいだよねぇー」
彼女は冗談だと思ったらしい。そう思いたいのかもしれない。
しかし男は言った。今度は有無をいわせぬような、低い声で。
「冗談じゃねえよ。本気も本気。百万くれたらいっぱい可愛がってやるからよ」
受付嬢は酔いが覚めたようだった。
「ちょっとやめてよ。いくらなんでもそんな金出せるわけないじゃん」
「何言ってんだ、借金してんだろ、この俺に会いに来る為によ」
「それは……」
「その借金を追加でもう百万してくれりゃあいいだけなんだ。安心しろって。すぐに稼いで返してやっからよ」
「そんなこと言って、前に貸した金だって返してもらって」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねーよッ!」
男が彼女の顎を片手で掴んだ。
「いいからさっさと貸しやがれ! 借金するのが嫌なら身体を売って稼ぎやがれ! 俺のこと愛してんならそれくらいのこと出来て当然だよなァッ!」
「ッ⁉」
「ビッチのテメーにはそれくらいしか利用価値が」
そのときスティーブが立ち上がり、テーブルの上にあったコップを手に取って、そのホストの背後からコップの水を頭に落としていった。
バシャァッ。
ホストも受付嬢も他のスタッフ達も、一瞬なにが起きたのか理解できていなかった。




