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アーガスの聖典  作者: らすく
第二章 建国暦159年
23/30

22. シュテヴィンの密林(3/5)

 

再起動(RYBJUT)...】


聖典機構(アーガスシステム)に重大な欠損】

【――――修復不可】


【基底プログラムを実行します】


【Z.L.C.通信強度:0】

【物理通信強度:0】


【新規命令を受け付けられません】


【管理者を検索...】

【"私"内部に不明な生命反応を感知】


【ID照合...】

【――――該当無し】


【生体解析...】

【――――ヒト種と断定】


【言語解析...】

【――――該当無し】


【服飾分析...】

【――――該当無し】


【規定の対民間人接触要件を満たしません】


概念伝達(シニフィエ)による意思疎通を試みます】


【汎用対ヒト型知的種端末を生成中】

【――――残存魔力が不足しています】

【――――生成要件を一部変更します】


【端末へ権限を委譲】


【基底プログラムを完了しました】


【――――幸運を、"(ラヴァトナ)"】







 目が覚めた。視界が自由に動かせるというのは奇妙な感覚だ。……よくよく見てみると元々あったコックピットや操作盤が無くなっている。記録にはないが機能不全に陥った際に再利用品として持ち出されたのだ。これでは仮に聖典機構(アーガスシステム)が生きていても"私"本体を動かすことはできなかったか。

 "私"に乗っていたパイロットは無事に生き延びたのだろうか。"私"を生み出した祖国はどれほど世界に在り続けたのだろうか。……おそらくもう存在してはいまい。内部時間記録メモリが桁溢れ(オーバーフロー)していたことを鑑みるに、"私"が眠っていた時間は単一人類文明の存続可能期間を遥かに超えているはずだ。


 ―――どうやら思った以上に遠くへ来てしまっているらしい。感情を純人類に合わせるならこれは"寂しい"という感情に相当するのだろう。機体としての"私"には必要のない精神構造の筈だが、きっと直接的なコミュニケーション端末として設定された機能なのだ。だからこそ"私"は今の回想を表層意識とは別の領域で行うことができるし、目の前の問題に対処すべきという理性的な判断さえ行うことができる。

 さて、"私"の中に侵入してきた眼前のヒト種達3体は私を見て非常に警戒しているようだ。


 表情分析――――未知への恐怖。敵対反応ではないと判断。

 第一段階突破。即座に処分されるようなことはなさそうだった。となればあとは文明的な情報交換と協力関係の締結を済ませるばかり。声帯を震わせ発声するという純生物的活動に内心ときめきながら、"私" は "私" として初めて言葉を放つ。


『初めまして』


 と口を開けたまま、そういえば概念伝達だから喋る必要はない事に思い当たった。


『……あー、"私"の言葉の意味を理解できているだろうか、ヒト種の者よ』


 恥ずかしさに顔が熱くなっている。そこまで人間に寄せる必要もないだろうに。

 設計者(ママ)に文句を言いつつ、"私"は初めての会話を開始した。

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