表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーガスの聖典  作者: らすく
第二章 建国暦159年
24/30

23. シュテヴィンの密林(4/5)

 

『"私"の機体名はЯΔ∇TИΛ――【基底文字列へ変換】――ラヴァトナ。E.M.N.所属Eg38型――【識別番号は標準開示項目に含まれません】――エングレアス軍規に従いあなた方の所属を問いたい』

「……えーっと、なんて?」


 少女の言葉はまるで目に見たイメージのように送られてくるが、アイリスもシェイラもクラウンもそれをさっぱり理解できないでいた。それもそのはず、彼等にはラヴァトナのコミュニケート想定にある最低限の知識すらないのだ。

 とはいえ敵意がない事や仲間とはぐれてしまっている事などは問題なく通じ、アイリス達は彼女のことを「持ち主を大昔に亡くした意思を持つ魔道具」だととりあえず納得することにした。

 会話の中でラヴァトナが文明レベルを更新してからは比較的スムーズに話が進んだ。ラヴァトナは行き場のない少女ということになり、行き場のない彼等にとって親近感のある境遇である。


「なるほど……少々理解しがたいところはあるが、なんとなくは分かったよ」

『申し訳ありません。"私"に想定されている応対機能とこの状況はあまりにもかけ離れてしまっています。貴方たちには"私"を理解することは非常に困難であると推測されます』

「確かに何言ってるかさっぱりわからんな」

「クラウンさん……」

「だが殺しにかかってくるわけでもなし。俺からすればただの一人の女の子だ」


 クラウンの言葉にラヴァトナは以外そうな表情を向ける。彼女からすれば得体の知れない女一人を構う理由など彼等には無いのだから。


「それについては私も同意見だよ。四騎士の血筋の者として、困っている淑女は放ってはおけないさ」

「そういうこった。お前が俺たちに危害を加えない限り、こっちだってお前に攻撃するつもりはない。まぁ人里に連れていくくらいまでならやってやるよ」

『―――人里、ヒトの集団居住地。該当項目――【測位機能は使用不可能です】――確かに私一人では辿り着けないようです』

「でも結局雨が止まないと帰れないことには変わりませんよ……?」


 全員の視線が外へと向けられる。

 相変わらず桶を逆さにしたような途轍もない大雨が降り頻っている。


『【外気湿度:異常値】【液滴に微小な魔力反応有】【軍属魔導兵器に1件該当】……え?』


 ぽつりと零れたラヴァトナの声は、雨音に掻き消えることなく3人に届いた。そしてその声は確かに戸惑いの感情を載せていて、3人を気にかけさせるには十分だったようだ。


「な、なにか気に障ることを言ってしまいましたか?」


 自分の言葉がラヴァトナを不快にさせてしまったのではないかと慌てるシェイラ。だがラヴァトナの視線は洞穴の入口から外れて、あらぬ方向で留まっていた。


「落ち着いてシェイラ、たぶん君のせいじゃないよ。――ラヴァトナ君、だったかい?何かあったのかな?」


 シェイラを自分のほうに抱き寄せて背中を撫でつつ、アイリスは燻る薪越しに声をかける。はっと意識を引き戻したラヴァトナは網膜に投影されている解析結果を漸く飲み込んで、そこでアイリス達が近くにいることに思い至った。


『あれは……何ですか』

「あれ、とは?」

「もしかして始祖種のことか?」


 クラウンの言葉にラヴァトナはそれだと揺らぐ瞳孔を向けた。コードネームが変わっていないことは不可思議だが、この際どうでもよい事だ。


『あれはかつて"私"が破壊した、"私"の祖国の兵器です』


 確かに破壊した。魔力反応の停止を確認し、そこで"私"は一度機能停止に陥った。

 ラヴァトナに残る最後の記憶は、パイロットとともに脅威を排除したその光景だ。


『どうして……いや、どうやって……?』


 何者かが修復したのか。再生産された別個体か。

 あんなものを再生産?ありえない話ではないが現実的でもない。

 なら()()は、"私"が倒し損ねたあの時の―――?


【Z.L.C.通信を受信】

【識別コード:エングレアス】

【機密保護されていません】

【予測:敵性発信源からのZ.L.C.による物理干渉攻撃】



 その時、突如として洞穴全体がまるで山をまるごと握られ振りまわされているかのように激しく振動し始めた。天井から細かな石片が剝がれ落ちこつこつと音を立てる。

 咄嗟に身を屈めるも姿勢を保つことすらできずアイリスは身体の下にシェイラを庇って地面に伏せ、クラウンは膝をつきながらなんとか這ってアイリスの元へ近付くことができた。


「なんだぁ!?何が起こってんだよ!」

「あまり喋ると舌を噛むよ!」

「……そ、そういえばラヴァトナさんは?」


 地域一帯にピンポイントに照射されるZ.L.C.干渉。ラヴァトナに向けられた指向性のそれは明確な敵意を孕んでいるようで、急激に上昇しはじめた魔力濃度が雄弁に物語っている。

 距離は判らずとも近付いていることくらい、生身の思考回路に不慣れなラヴァトナでも容易に想像がついた。


『――どうやら、狙いは"私"のようです』


 乱れた魔力流れの中でも問題なく魔法を行使するにはどうすればよいか。答えは非常に簡単だ。


「浮いている……魔術じゃないね」

「なんなんだよもぉーーーーー!!」


 魔法に頼らなければよいのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ