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第45話 ヴァンとの話し合い

 スミレ達は、館の応接間に移動した。最初にヴァンに会った部屋だ。

 ここもオムやチムと一緒に掃除をしたりして、すっかり馴染みになってしまった。

 嬉しいのか切ないのか複雑な気持ちだ。

 ヴァンが上座に、シリンがその隣。スミレはヴァンの正面、その隣にアゲハが座った。

 すぐにオムがチムを連れ入って来る。オムはなぜか膳を持っており、シリンの前に置く。

 シリンはずぐに食べ始めた。


「すまないな。儀式でかなり消耗するので、補充しなければならないんだ」


 それは納得だ。

 倒れない為にもしっかり食べてほしい。


「チム、服をスミレに渡してくれ」

「はい」


 チムはいつもの元気はどこへやら、しおらしく返事をすると、スミレに甚平を差し出す。

 そうしながらも、スミレの隣をちらちらと視ている。

 そう視ている。


「チム、ありがとう」

「うん。そいつに着せるの?」

「そうよ」


 やはり視えているようだ。さっきまでのアゲハは視えていなかった筈なのに。

 アゲハに甚平を着せながら、考える。

 その疑問が顔に出ていたのだろう。ヴァンが答えをくれた。


「生まれたばかりの精霊は、脅かされないよう、無意識に姿を隠す。だから普通は視えない」

「でも、アゲハはオムたちに気づいて欲しかったみたいですよ」

「好奇心よりも本能が優先だからね」

「私や貴方、それにシリンさんに視えたのは?」

「赤子の精霊よりも、我々のほうが、優れていたからな」


 ヴァンは両手を広げ、説明した。どうにも嘘くさい。


「貴方やシリンさんはともかく、私はたいした能力を持っていません。なぜ、視えたのでしょう?」


 ちょっと人と違うものがたまたま少し視えてしまうくらいだ。


「そう、謙遜する事はない。君の目は優秀だよ。でも、そうだね、もしかしたら、それだけでなく、アゲハが強く思ったのかもしれないね。君に見つけてほしいってね。本能よりも強く」

「うん! 俺、スミレとすごくすごく話したかったんだ!」


 全幅の信頼を込めたような目で、アゲハが見つめてくる。


「嬉しいけれど、どうしてそう思ったの?」

「んー。わかんない。ただ、スミレの傍にいたいって思った」

「精霊に理屈はいらない。特に幼い時には、本能が優先。本能でそう思ったなら、それがすべてなんだよ」


 そういうものなのか。

 にこにこと見つめてくるアゲハにそれ以上聞けず、納得するしかない。

 そこで我慢できなくなったのか、チムが尋ねて来た。


「ねえ、この子なんていうの?」

「俺、アゲハ!」

「アゲハ! じゃあ、あっちで俺と遊ばない?」


 今はスミレがいるとはいえ、いつもはオムと二人暮らしだ。

 同年代と遊びたい気持ちはわかる。

 スミレは尋ねるようにヴァンに顔を向けた。


「いいよ。アゲハ行っておいで」

「うん! チム、俺、お前とずっと遊びたかったんだ!」

「なんで俺の名前知っているの?」

「ずっと見てたからな!」

「見てた?」

「うん! ほら、行こう!」

「あ、待って!」


 会話が成り立っているようで成り立っていない。

 アゲハは余程嬉しいのか、走って行ってしまった。

 チムも置いて行かれまいと後を追って行った。


(なるほど、本能が優先)


 理屈より感情が優先。

 先程よりも少し納得する。


「さて、話を続けようか。実はね、鍵はまだ完成していないんだ」

「え?」


 アゲハとチムの二人のやり取りでほんわかしているところに、いきなり爆弾が投下された。

 スミレの顔が強張る。

 自分はまだ帰れないのか。


「いや、語弊があったね。扉は開くし、鍵も間違いなく機能する。しかしその守護者がいないと言いたかったんだよ」


 全くこの男は、自分に注目させるのが、上手い。

 スミレへの効果がわかっていて、敢えての言い方。悔しいがまんまとはまってしまう。

 が、それはひとまず置いておいて、ヴァンの言葉に眉を顰める。


「どういう事でしょうか。鍵は完成し、扉も元通りです。その上で、こちら側の守護はおそらく貴方の指示の元、強化されるでしょう。あちら側には貴船がいます」

「そうだね。もともと鍵、というか、扉はこちらからしか開けられないようになっていたし、これは今回の扉も変わらない。以前の鍵は、登録していた一部の人間を除いて、君たち側の人間にしか触れないし、壊せないようになっていたんだ。以前話したように、君たちの世界の住人はこちら側で過ごせる人間は滅多にいなかったからね。今回の鍵は、君たち側の人間はほぼ触れない。こちら側の人間も一定の能力以上を持っていないと触れないようにした。わかりやすく言えば、数持ち上位者しか触れない。その上位者は国で管理されている」


 上位者。つまり花びらが多数枚ないとだめだということか。 


「では私はもう触れないんですね。花びら二枚ですし」

「ああ、君は作成者だからね。もちろん塔に触れるよ。それに気づいていないのかな? 君、花びら一つ増えているよ」

「ええ!?」


 スミレは巻いていた額あてをとり、手をやる。

 が、勿論触っただけで判るわけがない。


「本当です。増えておられる」


 一瞬箸を止めたシリンが、じっとスミレの額に目をやり、頷き、そしてまた食べ始めた。


「アゲハを使役したことで、能力が増えたんだ」

「使役なんてしてません。アゲハは友達です!」

「君がどう思っているかじゃない。アゲハがどう感じたかだよ。アゲハは君をとても大事に思っているという事だろう。きっと自分のすべてをかけても守りたいと思ったんじゃないかな。寂しさから救ってくれた女神さまとでも思っているかも」

「ふざけないでください!」

「ふざけてなんていないさ。私は視たままを告げているにすぎない」

「な、なぜそこまで、アゲハは私を慕ってくれるのでしょうか?」


 ほんの少し一緒にいただけだ。なのになぜ。


「あー。それはさっき教えたでしょう?」


 精霊の幼子に理屈なし。本能が訴えるままに従う。

 自身の力を理解しようとはした。しかし増やそうとはしていない。

 どうしてこうなった。


(いえ。私自身の力が増えたわけではないわ。あくまでアゲハが私を慕ってくれているだけ。その結果が、花びら一つ増えただけ。そうそれだけよ)


 そう自分に言い聞かせて、心を落ち着かせようとしていたスミレに、ヴァンは更に追い打ちをかける。


「後、気づいてないのかな。髪と瞳」

「え?」

「鍵の塔の間から出たあたりから色の変色は始まっていたけど、今はかなり伸びているよ」

「ええ?!」


 そういえば、少し頭が重いような気がする。

 顔を傾けるとさらりと髪が揺れた。

 おかしい。正座している足元まで髪が伸びている。

 それに色が。


「青?」


 流れる髪を手に取り、しげしげと眺める。

 いや黒には違いない。青味を帯びた黒だ。


「瞳は綺麗な金だよ。黒には見えないねえ。私もそうだったけど、力が増えると姿が変わる事が多々ある」

「‥‥‥そうなのですね」

「不満そうだね。力が欲しい人から見れば、嫉妬されるよ」

「あげられるものならあげたいですわ」

「それ、ほかの人間には言わないように。憎まれるよ。特にこちら側ではね」


 要らぬ力が付与され、この上憎まれてはたまらない。

 ヴァンの忠告はありがたく受け取っておく。


「はあ。わかりました。でも、なぜ花びらが増えているのがわかったのですか。額は隠れていたのに」

「それはね。秘密だよ」


 ヴァンは唇に指を当てて、ウインクする。

 スミレのこめかみがピクリと一瞬震えた。


(いけない。いけない。冷静に冷静に)


 ヴァンのペースにのせられてはいけない。力については後で考える事にする。

 スミレは意図して話題をかえる。


「今話をきいていて、疑問に思ったのですが、なぜ鍵を作るのに、条件づけをするのですか? 完全に壊されない鍵にして、開錠できる人間もシリンさんだけとかにしておけば問題ないように思いますが」

「強固な鍵ほど、もろいんだよ。条件づけしたほうが、破られにくいのさ。その条件さえわからなれば、決して鍵は開かないし、壊れない」

「なるほど。でも、その条件付けが今回ばれてしまったんですね」


 それに今まさに秘密が漏れているではないか。スミレに。いいのか。流石にそこまで口にしない。


「‥‥君も口がへらないね。その件は目下捜査中だよ。さて、話を戻していいかな」


 脱線させているのは貴方だと言いたい。


「どうぞ。続けてください」


 眉間に再び力が入ったまま、スミレは促す。


「はは。だからね、新しい条件付けを行った鍵はもう壊される心配はまずない。それでも万が一鍵が壊され、扉がフリーになった時、果たしてあちら側の侵入者を食い止める事が、今の腑抜けた貴船にできるか、私は大いに心配なんだよ。自分の商売にばかり目が行っている貴船にね。そうだろう。実際、今回の有事の時、肝心の時に貴船は侵入者を許した。こちら側が早急に対策をとったから、大事にならなかったけどね。そんな一族に今後も任せてよいかと思ってね」


 スミレは驚いた。その気持ちがあるなら、なぜ同じ場所に扉を開いたのか。最初から扉を作るのが大変だからか。それに最大の問題は。


「貴船の後任がいるんですか?」


 スミレはよく知らないが、貴船家といえば、異能者の中、群を抜いていると聞いた。

 物理的にも、能力的にも、そう簡単に代わりが見つけられるとは思えない。

 

「ふふ。いるよ。私の目の前にね。君だよ。スミレくん」

「はあ!?」


 淑女としてあるまじき声がスミレの口からこぼれ出た。


「能力的には全く問題ないだろう? 精霊まで使役してる。頭の回転も速い。性格も問題ない。後は物理的に人手が圧倒的に不足しているが、ほら、貴船があるだろう? 整うまでは協力してもらえばいいよ。自分たちの尻拭いなんだからさ」


(鬼だわ。ここに鬼がいるわ)


 そんな事まともな神経ならできる筈がない。する気もない。

 無名な自分が異能で名を知られた一族を顎で使うなどできるわけがない。

 さっき憎まれないようにと忠告した口から、わざと憎まれるような提案をするのが信じられない。

 大体なぜ、自分が、やらねければならないのか。何もわざわざ面倒な事をしなければならないのか。

 自分は平和に暮らしたいだけである。


(落ち着いて)


 しっかり息をついて、再度気持ちを落ち着かせる。


「高く評価していただき、光栄ですわ。ただ、私は巻き込まれただけの一般人です。もっとしかるべき方が負う役割ですわ」

「私は君にも十分その能力はあると思うよ」


 馬鹿な事を。こんな未成年に誰がついてくるというのか。


「君がその気になってくれるなら、私が全面的にバックアップするよ。どう? 考えてみない?」


 この男、本気なのか。顔を見ても読み取れない。

 自分を傀儡にして、自らが管理しようとしているのか。

 もうあちら側が信用できないから。そんな計画に巻き込まれるのは御免こうむりたい。ならばどう回避する?

 自分の持っているカードは一つしかない。


「ありがとうございます。でもこんな小娘を一から鍛えるのは大変ですわよ。扉と同じですわ。最初から作るより、既存の物を鍛え直すほうが時間の短縮になりますわ」

「というと、貴船を使えと?」

「ええ。確かに貴船はミスを犯した。しかし、今回は大事に至らなかった。これを教訓戒めとして、二度と油断しないよう教えればいいのです。貴船には力あるのですから」

「君がそこまでいうなら、私ももう一度だけ信じてみようか」

「ええ。どうかそうしてくださいな」

「そこまで君が言うならね。君を信頼して任せようか」

「私ではなくて、貴船の今までの実績を信頼してあげてください。過去にはきっとあの扉を守るのに、随分貢献してきた筈ですから」

「そうだね。では過去の貴船の先達と君の目を信じよう。あの島にいたんだ。貴船とは仲がいいのだろう?」

「ええと、それほどでもないかと」


 まさか、こちらに来た時が初対面とは言いづらい。


「よし! では、任せてみようか。君も力を貸してくれるね?」

「ええ。もちろん」

「ありがとう! そうと決まれば、早速準備しようか」

「はい」


 ヴァンは満面の笑顔で再びオムを呼んだ。

 スミレも笑顔で頷きながら、ふと頭によぎった疑問。


(私、また巻き込まれた?)

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