第44話 アゲハの成長
「アゲハ!?」
スミレは慌てて駆け寄った。
「どうしたの?! 大丈夫?」
そっとアゲハに触れようとした丁度その時、アゲハ自身が眩い光を発する。
「ああ!?」
スミレは咄嗟に目に手の甲を当てた。
瞼の裏からでも明るさがわかる。
それが少し治まった時、ヴァンの声が聞こえた。
「大丈夫だ。目を開けてごらん」
ヴァンの言葉に薄く目を開き、指の隙間からアゲハを見る。
膝を抱えるようにしていた彼の背中がパカリと割れた。
割れた中から、チョコレート色の肌の男の子。徐に起き上がる。
アゲハを、形作っていた、黒は光に飲まれ消えていく。
完全に光が治まると、黒髪の5歳くらいの男の子が立っていた。
「――」
「アゲハ?」
綺麗な金色の瞳で、スミレを見つめ、力強く頷いた。
「どうやら、扉を開く儀式がアゲハの成長を促したようだね。うまく脱皮できたようだ」
「脱皮?」
脱皮というと思い浮かべるのは、まず虫だ。
次に浮かぶのは蛇。
どちらもアゲハからは想像もつかない。
「ああ。アゲハはおそらく大地の精霊だ。あの黒い姿は幼体だったんだよ」
精霊。アゲハが不思議な者だとはわかっていたが、はっきり告げられるとまた現実味を帯びる。
幻想上の生き物が今目の前にいる。
益々現実世界から遠のいている。
スミレの意識も遠のきたくなった。
それでも聞いておくべきことはきいておかねばならない。
「で、ではこの姿が成体ですか?」
「いや、赤ん坊から幼児になったところかな。まだまだ成長するよ。楽しみだね」
「俺、スミレと一緒にいられるか?」
シリンに衣を肩にかけられながら、アゲハが尋ねる。
「そうだね。その姿まで成長したなら、自分で体調管理できるだろう。おめでとう」
「うん! 俺、嬉しい!」
「だけど、無理はダメだよ。調子が悪くなったら帰っておいで。大丈夫。スミレくんの傍にいられるように考えてあげるからね」
「うん! わかった! 俺、無理しない」
どうやらこの短期間の間に、ヴァンはアゲハの信頼を勝ち得たようだ。複雑な心境だ。こんな一筋縄ではいかない人物とは関わり合いにならないのが一番なのだが。しかし、アゲハの味方ができたのはありがたい。
「あちらに行ってもよろしくね」
「うん!」
アゲハは嬉しそうに笑った。
「さて、スミレはすぐにあちらへ帰るのかい?」
「もちろんです。今すぐにでも帰りたいですわ」
「そうか。それは残念。君はまれにみる逸材なんだが」
「買いかぶりすぎですわ」
「まあ。今回は引き留めないよ。ならば」
ヴァンは鍵の塔に近付くと、砂時計のくびれの下の部分に手を伸ばした。
見ると、そこには小さな鈴がついていた。
彼はそれを鳴らす。
二回。小刻みに三回。そして長く一回。
「あの?」
「ああ、あれはあちら側への知らせです」
スミレの問いに、シリンが答える
「そうこれで、貴船に伝わった筈だ。スミレ、帰る前に二、三打ち合わせが必要だ。何、少しの時間ですむよ。場所を移そう」
「わかりました」
帰れる目処がついた今、ヴァンに応じるのに否はない。なんのかんの言っても、この一ヶ月弱、お世話になったのだ。アゲハの手を取り、ヴァンに従う。
「ああ、アゲハのために取り急ぎ服が必要だね。オムにチムの服を持って来させよう。オム!」
ヴァンが呼ぶと、すぐに彼は現れた。
「オム、チムの服を2、3着持ってきてくれるかい?」
「かしこまりました」
オムは質問せずに、服を取りに行った。
「それじゃ行こうか」
スミレはアゲハの手を握ると、鍵の塔の間を後にした。
アゲハが少し大きくなりました。まさか変態するとは、思いませんでした。




