第42話 小さな友達
新しいキャラが出てきます。
鍵の塔作成2日目。
「先に言っておいて欲しかったです」
オムから聞いた貴煌石の特徴、白色の時には、人の気を吸い取る。
持つだけだったら、それほどでもないらしい。目的を持って使用するとかなり持っていかれるとの事。
半信半疑だったが、どうやら本当のようだ。
石を取る。特に気を吸い取られているとは感じない。
円の中央に持って行き、置く。
ズルリ。
昨日と同じ感覚。
最初ほどではないが、脱力感が来る。
また同じようにして置くと、また同じ感覚。
10個置いたところで、身体が重く、へたり込んでしまった。
「ああ。無理しなさんな。今日はここまでじゃな。根をつめると、死んでしまうぞ」
なんとさらっと怖い事を言ってくれるのか。
オムは気を吸われないように分厚い手袋をしている。
自分に手袋を渡さないのは、スミレの気が、塔には必要だからだろう。
(ヴァンはそんな事一言も言っていなかった)
にやりとほくそ笑んでいる男の顔が目に浮かぶ。もう呼び捨てである。
(これは先が長そうだわ)
文句を言いたいが、その気力もなく、床に突っ伏した。
「あの、腹黒男!」
何が簡単に扱えるだ。
貴煌石は確かに軽い。
だが、人の気を吸い取るなんて聞いてない。
おかげで作業が全然進まないではないか。
始めてからもう三日も経つのにまだ土台も完成していない。
これではいつ完成するのか。自分としては一週間くらいで仕上げられると思っていたのに。消耗が激しすぎて遅々として進まない。
これでは優に一つ月以上はかかってしまう。全くとんだ計算違いだ。一月も学校を休んだら、取り戻すのに大変だ。
「全くこれで奨学金を取り消されたら、恨むんだから」
幸いなのは、この館の外で月光浴をすることで、大分気が回復することだ。
こちらの月は日本よりも精神に大いに関わり合いがあるようである。なぜかは不明である。ともあれ助かった。
オムがそう教えてくれなかったら、どうなっていたか。
まあオムも、きっとヴァンに教えられたことを私に伝えたにすぎないのだろうが。
それを考えるとさらに悔しい。
(いけない、平常心平常心)
ただでさえ、気を使うのだ。気持ちが不安定だと余計に消耗する事は、すでに体験済みだった。
それにしてもここは不思議な場所だった。
作りは貴船の島と同じで、周りは絶壁で囲まれている。違いは貴船の屋敷は森に囲まれているのに対し、こちら側は平原だということだ。ひざ丈までの精霊の花と呼ばれる、ミルナーレの花、小さい白い花が壁の内側一面に咲いている。それが月の光を浴びてなんとも幻想的な雰囲気を醸し出している。鍵の塔の壁面を飾る花と少し違うので、オムに尋ねた所、塔の壁に描かれているのは原種だそうで、本物は殆ど見る事ができないそうだ。
この花の香りも回復に一役買っているように思う。
できればポプリにでもして持ち帰りたい、と、ひそかに思うほどにかぐわしい匂いである。
今日も何とか作業を終え、食事を済ませると、スミレは早々に外へと足を向けた。
遠くには行かないようにと言われているので、屋敷をでると階段になっているそこに腰を掛けている。
この館はは高床式になっており、外に出る際には必ず、階段を使用する必要がある。
風呂上りに着た、紺の浴衣の首筋を通る風が気持ちよい。
しばらく月を眺めながら、その階段の中段に座っているといつもの気配が近づいてきた。
最初は警戒したが、ちらっと見えたその姿はいつもスミレの傍にした小さき黒きモノと酷似していた為、警戒を解いた。悪意も感じられなかった。ただこちらをじっとうかがっているだけだ。
そしてそれは毎日やってきた。
話しかけるでもなく、それはこっちをじっと見つめるのみ。
スミレのほうが気になってしょうがなくなってしまった。
(今日こそは)
ちらっと見えたその姿に、スミレは思い切って話しかけた。
「こんばんは。今日も良い月ね。一人で眺めるのもよいけど、よければ話し相手がいた方が楽しいわ。こちらに来ない?」
それはびくりと身体を震わせ、花に身を隠す。
それからしばらく経っても出てくる気配はない。
人型をしていたから、話せるかと思ったが、違うのだろうか。また言葉も理解できないのだろうか。
だとしたら、とても残念である。
いつも助けてもらっていた小さき黒きモノたちと似ていたので、親しみがわいていたのに。
と、そう考えていた矢先。
声が聞こえた。
≪俺が怖くないのか? 俺は真黒でトゲトゲなのに≫
耳からではない。
頭に響いてくる、幼子のかわいらしい声だ。
感じからして男の子のようだ。
そっと顔を出した彼の顔には口がない。
あるのは目と思しき金色の二つの光だけだ。
それでも意思の疎通はできそうでスミレは嬉しくなった。
「怖くないわよ。私ね、小さい時から君のような、真黒でもっと小さい子たちにずっと助けられてきたの。でもこうして話したことはなかったわ」
そうだいつも助けられていた。帰ったら、お礼を言わなければ。いつもいて当たり前。逆にいたらから、自分が周囲に疎まれていて。だから感謝なんてしようとも思わなかった。ましてあの子たちに意思があるなど考えてもみなかった。
今度はちゃんと向き合ってみたい。
「よかったら、隣に来て。お話しましょう」
そう再度誘うと今度はおずおずと姿を見せてくれた。
身長は50センチにも満たない、全身真黒でトゲだらけだ。
触れる時には気をつけないと、手を怪我してしまうかもしれない。
「こんばんは。あなたはここに住んでるのかしら?」
≪わからない。気が付けば、ここにいたんだ。一人で。なぜここにいるかわからない≫
「そう。昼間は何しているの?」
≪地面に潜ってる。落ち着くんだ。夜はずっと月を見てた≫
「夜の時間、邪魔してしまった?」
≪いや。俺の姿を視えたのはお前が初めてだ。ここの連中俺が視えない。だからいつも一人でいた≫
「私も1人でいるより2人でいるほうが楽しいわ。お友達になってくれる?」
≪友達ってなに?≫
「こうして、お話したりする仲間の事よ」
≪なる!≫
「ありがとう。私はスミレよ。よろしくね」
≪俺には名前がない。誰も俺を呼ばなかったから≫
「よければ私がつけても?」
小さいものは頷いた。
スミレは顎に手を当て、考えた。
「アゲハはどう?」
女の子の名前のようだが、この子を見ていたら、あの蝶を思い出したのだ。黒い羽根に金の模様。
≪アゲハ! 俺はアゲハ!≫
どうやら喜んでくれたらしい。
「さて、私はそろそろ中に入って休むわ。貴方はどうする?」
アゲハはそれを聞いて少ししょんぼりする。
友達を置いて行くのは気が引けるが、明日の作業もある。
それでもあまりにしょんぼりしている姿をみると心が痛む。
きっとずっと一人で寂しい思いをしてきたに違いない。
スミレだってこちらの世界に来て、心細い思いを味わったのだ。
周りには言わないだけ。
スミレは次の問いかけをする前に一度考えた。
(もし拾うならずっと面倒見なければならない)
かといって突き放すなど、もうできる筈もなく。
(えい。女は度胸だわ)
そう思いきると、口を開いた。
「一緒に中に来る?」
≪いいのか?≫
「もちろん!」
アゲハは返事の代わりにスミレのふくらはぎにそっと抱き着いた。
自分のトゲでスミレを傷つけないようにそっと。
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