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第38話 異世界へ

今日は早めの更新です。

「痛っ!」


 膝への衝撃。次いで手の平への熱さ。

 それに気を取られたのも一瞬で、スミレは瞬時に起き上がると、振り返り、外へ出ようと試みた。


「痛い!!」


 目から火花が飛んだ。

 と同時に、後ろに尻餅をついた。

 通り抜けてきた筈の塔の壁が、スミレの行く手を阻んだ。


「何よ! どうして!」


 余裕なく、悪態をつく。

 何とか起き上がると、塔の内壁を強く叩いた。


「楓さん! 楓さん!」


 外が見える。

 懸命に呼びかける。

 が、楓は気づかない。

 音が遮断されているのか。


「出口! 出口は?」


 どこからか出られないかとスミレは目を走らせるが、外側同様、小さな穴1つない。

 自力では外に出られない。閉じ込められてしまった。


「どうしよう」


 どうしてこんなことに。

 さっき外から見た時の、異変も続いている。

 内側にいてもわかる。塔自体が収縮膨張を繰り返す。

 壁も色を変える。青から黄色、白へと変化していく。


(何が起こってるの?!)


 とにかく外に出なければいけない。

 このままこの中にいたら、押しつぶされてしまうのではないか。

 そう思うくらい、危険を感じる。


 しかしどうにもできなくて。気ばかり焦る。


「楓さん! 楓さん!」


 楓に縋るしかできない。頭が真っ白だ。


「楓さん! 助けて!」


 拳を思い切り、壁に叩きつけた。


「助けて!」


 楓は気づかない。声が届かない。

 絶望に膝から力が抜ける。そのままずるずると座り込んだ。


(さっきまでは、楽しかったのに)


 文句を言いつつも、楓とのおしゃべりは思いのほか、弾んで。

 それがなぜ。


(うう)


 瞼が熱くなる。

 とそこに、突然声が聞こえた。


<おい! 中に誰かいるのか!>


 低い男の声。

 頭に響く。誰なのか。


<おい! 返事をしろ! こっちからじゃ、そっちは視えねえ! いんのか、いねえのか!>


「います! 出られないんです! 塔の中に閉じ込められてしまって!」


 乱暴な問いかけ。

 しかし、藁にもすがる気持ちで、叫ぶ。

 言ってる内容も半分わからない。

 けれど、救いの手かもしれない。

 それが重要だ。

 この際、ここから出られるならば、誰であろうとかまわない。


<なっ! ああ!? くそ! なんで、中に人がいんだよ! わっけわかんねえ! おい! お前早く出ねえ、死ぬぞ! その塔はもう残像にすぎねえ!塔もろともお前消滅しちまう!>


「ええ!?」


 スミレの血の気が引く。


「出して! 出してちょうだい! お願い!」


<無茶ぶりだ! くそ! やるしかねえか! こっちとそっちをシンクロさせて、引っ張りながら、閉じる! よし! おい! いいか! 目を閉じて動くなよ!>


 スミレは胸の前で両手を握り、きつく目を瞑った。

 どうなるかわからない。助かるならなんでもいい。


<いくぞ!>

「はい!」


 刹那。

 身体全体に圧が掛かった。

 次いで、引っ張られる。強力な磁石に引かれたようだ。脳への衝撃が半端ない。


「ううっ!」


 胃液が急上昇する。放出一歩手前。

 薄目を開けみた。が、何も変わってない気がする。塔の壁。点滅してる。


<うらぁ! ぐずぐずすんな! 死にてえか!>


 と、突如壁から現れる腕。

 何者かの手がスミレの腕を掴み、勢いよく引っ張る。


「なっ!」


 スミレは塔の壁にぶつかる想像をし、目を閉じた。

 しかし衝撃は来ない。

 が、次の瞬間。

 引っ張られた勢いのまま、地面に打ち付けられた。


「こんの、のろまが!」


 容赦ない衝撃が再度襲う。

 あまりの痛みに声もでない。

 滲み出る涙をそのままに、スミレはそっと目を開けた。


 青の壁。見上げれば、ステンドグラスの天井。

 貴船の最深部の部屋に見える。


「出られた?」


 スミレはペタンコ座りの状態から、状況を確認する。

 どうやら塔の中から出られたようである。


「よかった‥‥‥っ」


 ずっとあのまま閉じ込められたままになるのかと思った。

 それにしても楓はどこだ。

 それに鍵の塔は?


「おい! お前! ぼけっとしてんじゃねえよ!」


 突然の怒鳴り声に、びくりと身体が揺れる。

 見上げた先には見知らぬ青年。険しい顔して立っている。

 紅茶色の髪に、金色の瞳。

 この人が自分を助けてくれたのだろうか。


「おい! 教えろ! あちらはどういった状況だ!」

「え? あちらって?」

「ああ!? さっき言っただろうが! こちら側へ連れてくるって! ここはお前がいた部屋と対の部屋になってんだよ!」


 いや、言ってない。

 言ってたとしても、スミレには伝わってない。

 それに対の部屋ってなんだ。

 全くわらかない。

 っていうかこの人は誰だ?

 それに。


「あの。楓さんはどこですか?」

「ああ!? いる訳ねえだろ! 引き込んだのはお前だけだよ! それより答えろ! あっちはどうなってんだ?」

「もうあっちって、どっちですか!? 全然わかりません!」

「察しがわりいな! ここはお前のいた世界と違う世界だ! 異界の扉の先の世界だよ!」

「べつの世界‥‥‥っ」


 本当にあった。なんてことだ。


「おい! 説明は後でしてやる! あっちの状況を教えろ!」


 強く肩を揺さぶられ、強引に現実に引き戻された。

 言わなければ、永遠にゆすぶり続ける勢いだ。


「早く言え! なんでお前、塔ん中に入った!」

「はい! 貴船家の娘、楓さんに、連れて来てもらって、鍵の塔の部屋を見学してたんです! そうしたら、島への侵入者から襲撃を受けました! 楓さんはその敵から鍵の塔と扉を守るため、部屋の入口を閉鎖しました! そうしたら、今度は急に塔が歪んで。咄嗟に塔を押えようとしたら、塔の中に入ってしまったんです!」

「そういうことかよ!」


 男は忌々し気に舌打ちすると、スミレを放し、立ち上がった。

 それから異世界へ繋がっている、青年の言葉を信じるなら、スミレのいた世界に繋がっている扉に近寄っていく。

 本当にここは異世界なのか。

 部屋は元いた貴船の最深部の部屋と同じに見える。

 違うのは、楓がおらず、代わりに見知らぬ青年がいる事。

 そして。


「鍵の塔がない」


 部屋の中央に堂々とあった鍵の塔が消えている。

 対の部屋だと青年は言った。

 ならば、こちら側にも塔はあったのか。それとも初めからなかったのか。

 代わりに。


「扉にノブがある」


 貴船側にはなかったのに。こちら側にはあるのか。

 ならば、こちらからなら開けられるのか。


「ああ。鍵が壊されちまったからな。封が解けて、取っ手が戻っちまった。あっち側にもついてるだろうよ」

「じゃあ、今ならこの扉は開く?」

「ああ。そういうこった。それが鍵を壊した野郎の狙いだろう。それと、同時にあちら側での襲撃。無関係とは思えねえ」

「どうして」


 扉を開けたかったのか。

 そもそも開かずの扉にするなら、

 なぜ扉を作られたのか。


「さあな。俺がここに着いた時には、もう塔を壊した奴はいなかった」

「この扉を通って逃げたんですか?」

「いや。そうしたかったろうが、できなかったんだ」

「え?」

「お前が塔の中に入っちまったせいで、壊しきれなかったんだ。もう少し待てば、お前もろとも、塔は消え、鍵は解除された。だが、ぐずぐずしてたら、追手が来る。奴はやむなく逃げたんだろう。扉を使わずにな」

「ということは、塔を壊した犯人は、まだ近くにいる?」

「さあな。少なくともこちら側にいるな」

「ええ!」


 スミレはキョロキョロと辺りを見回した。

 まだ近くにいたりしないだろうか。


「大丈夫だ。よほどの間抜けじゃねえ限り、もう遠くに逃げただろうよ。くそ! 俺がもう少し早くここに来れたら、逃がしゃしなかったのによ。ま、すぐに捕まえてやるがな」


 青年は獲物を狙う鷹のような眼をして、ニヤリと笑った。


「だがまずは扉だ! このままにしておけねえ! あっちから開けられたら、たまんねえからな! この扉を一時閉鎖する!」

「閉鎖って、どうするんですか? それに貴方がやるんですか?」


 塔から出してもらったから、きっと何らかの力があるんだろうが、どうにも言動から疑ってしまう。


「おまっ! 失礼な奴だな! できるに決まってんっだろ! 見てろ!」


 男はそういうや否や両手を扉にかざして、目を瞑った。


「あ! 待って!」


 その前に自分を返して欲しい。

 しかし、スミレの静止も間に合わない。


「月光を紬し、ミルナーレの花よ。今はその麗しき花を閉じ、葉に隠れ、森へと御身を隠したまえ! 集! 縛! 封!」


 その言葉の後、スミレの理解できない音を紡ぎ続ける。

 青年の言葉に合わせ、部屋の壁全面に彫られていた花が固くつぼみへと変化していく。

 次いで、蔓が異界の扉へと延び、覆い尽くした。

 そこに扉があったと感じさせないほど。

 扉は壁となってしまった。


「これでよし! 見て見ろ! ざっとこんなもんよ!」


 スミレは呆然と、扉があった壁を眺めた。

 自分の世界へと続く、扉が閉じられてしまった。


スミレとうとう異世界へ。

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