第34話 貴船楓
また新しい登場人物が登場です。女の子です。
(一度ある事は二度、三度。更に確率は上がっていくというけれど)
碕森率いる“辺境の地”には、誘拐同然で車と船で連れ去られて。
今日も今日とて半強制的にヘリで連行されている。
(次は飛行機かしら?)
スミレはヘリの窓から遠くを眺め、考える。
「もうすぐ、到着します」
隣に座っていた榊の声に、現実に戻って来たスミレは視線を遙か下に向けた。
「あれが、貴船の神域である、神南備島です」
榊が指差す先には、小さな島があった。
外界を拒絶するかのように、島全体が城壁のように切り立った断崖に囲まれている。
なるほどあれでは、船では近づけない。
崖の内部は、ほとんどが深い緑で覆われている。
その深い森の中。
ぽつんぽつんと、建物が数戸あるだけ。
そのうちの一番高い建物の屋上に、ヘリは着陸した。
榊に続き、スミレもヘリを降りる。
「ここに来られるのは限られた人間だけです。本来貴船と全く接点のない貴女を連れて来るのに、反対する者もいました。」
代々続いて来た旧家ならば、縛りや格式など色々ありそうだ。
榊の後に続き、ヘリポートのある建物から、神社を思わせる立派な日本家屋に入る。
「けれど、それを押してでも、楓さまの能力を復活させるのが、第一であるとの意見が勝ち、貴女をここに連れてくる事になったのです」
艶やかな板張りの長い廊下を榊の後ろについて歩きながら、スミレは尋ねた。
「その、楓様が、学園に来れば、よかったのでは?」
元々学園の生徒だし、そうしてくれれば、スミレも手間がなかった。
「楓さまは、能力が戻るまでは、ここを動きたくないと申されましたので」
なるほど。楓はとても一族で大事にされているらしい。彼女の意見は絶対なのか。
(いったいどんなお姫さまなのかしら?)
尊大でわがままなタイプなのか。それとも反対に、庇護欲を掻き立てるタイプなのか。
どちらにしても、慎重に行こう。
話をするだけ。一族の問題に巻き込まれるのは御免である。
「ここです」
跪いた榊が、襖を開ける。
スミレは促されるまま、中へと足を踏み入れた。
部屋の雰囲気は、一言でいうなら、エキゾチック。
和と中東を融合させたような雰囲気だ。
畳に臙脂の絨毯。その上にはこれでもかというほどふんだんに刺繍がされた豪奢なソファ。
部屋の左奥は一段高い上座があり、そこには寝椅子があった。また今は上げられているが御簾がある。
その寝椅子の傍に、これまた謎めいた美少女が立っていた。
長い黒髪。朱を塗りこめたような唇。目はすべてを見通しているかのように澄んで濡れている。
清楚な白いワンピース。それも上品で細やかな刺繍がされている。
顔立ちは美少女というより、美女と評したほうがふさわしいかもしれない。
可憐でありながら、どこか艶めかしい。本当に同じ16歳かと思うほどに色気がある。
それもどこか危うげなもので。
(これは危ないわね)
彼女の魅力にはまってしまったら。男女関係なく、抜け出せないだろう。
「遠いところようこそおいでくださいました。さあ。こちらへどうぞ」
少女は上座から降りてくると、部屋の中央に置かれたスミレにソファを勧め、榊に頷く。
榊は襖を閉めて下がった。
スミレが座ると、少女もテーブルを挟んだ向かい側に座る。
するとすぐにお茶が出された。出したメイドもすぐに下がる。
「初めまして。貴船楓です。まずは謝らせてください。こんな遠いところまでお呼びしてしまって、ごめんなさい」
楓が頭を下げた。
「いえ。きっと榊さんも、なんとか貴船さんの力になりたいと思ったのでしょう。私もクラスメイトの助けになればと思いましたので、気にしないでください」
どうやらこのお姫様はまともな人物らしい。
高飛車なところがないのが、好印象である。
「貴女の事は、榊から報告を受けて知っていたの。あの学園で転校生なんて、滅多に来ないし。それも私と同じ能力を持っているなんて。ふと、会いたいなあって呟いたのを榊が真面目にとらえてしまって。まあこうなるかなと思ったのだけど」
と思った矢先、中々計算高いところもあるようである。
「でも嬉しいわ。私、同じ能力を持った人とお話してみたかったの」
「私もです。急ではありましたが、今日お誘いいただいたのは、良い機会に恵まれたと思っておりますわ」
「私たちクラスメイトなのよね。敬語はやめてお話しましょう? 私の事は楓と呼んで」
「はい。では楓さんと」
「私もスミレさんと呼ばせてもらうわ。学校に行くようになったら、仲良くして欲しいわ。私、お友達が少ないのよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ふふ。急には敬語ぬきは難しいかしら?」
「は、ええ。そのこの部屋で、楓さんと話しているとどうしても敬語になってしまいます」
この部屋の雰囲気と楓の雰囲気が、調和して彼女の神秘性が更にアップしている。
「ああ、そうね。この部屋はそういう作りにしてあるから。慣れれば、大丈夫よ」
慣れるまではここには居たくないものである。
「もうね。ここにいても状況が変わらないなら、学校に行こうかなとも思うのよ。でも、ここの方がより貴船の根のエネルギーをより強く感じられるの。だからね、すがりついてここにいるの」
「早速ですが、その、急に力が使えなくなった経緯を、詳しくお伺いしても?」
榊がこの場にいれば、まずは自分の事から話すべきだろうと言われそうだが、先に聞いておきたい。
先にスミレの話をして、はい終わりとされたら、ここに来た意味がない。
「ええ。いいわ。それにはまずは私がどのように力を使うかお話するわね。本当は能力の発動方法は秘密なんだけど、特別よ。だから秘密にして、ね?」
口に指をあてた姿が何とも様になる。
自分がやったら、罵倒されそうだ。
それにしても、ドンドン深みにはまっていくように感じるのは気のせいだろうか。
「私には守り石があってね。ほらこれ」
楓は胸元から、青い石がついたネックレスを出した。
「力を使う時、この石を軽く握ると、力が湧いてきて、全身の血液に充満するの。そうすると、視たいものが視えてくるのよ」
「すごいですね。自分で力をコントロールできるのですね」
全く制御できない自分とはえらい違いだ。流石サラブレットのお姫様というところか。
「ええ。でも、その力が、ある時から全く感じなくなってしまったの」
彼女の力は守り石からのエネルギーがあって、はじめて発現できるらしい。
鍵が機能しなければ、自らの能力を開錠できないのか。
「なるほど。楓さんの力は鍵がないと発現できないのですね」
「鍵?」
「例えですが。その守り石が、いわば楓さんの能力を開ける鍵ということでしょう」
「ふふ。面白い考え方をするのね。でも、言われてみればそうかもしれない」
「先ほどのお話を考えると、今は何らかの理由でその鍵が機能しなくなっている状態。その原因が分かれば、楓さんの力を引き出せる」
スミレは考え込んだ。
「楓さんが使えなくなった時、何か変わった出来事がなかったですか? どんな些細な事でも構いません。今からでも調べてみるのも一つかと。ちょっとしたヒントがあるかもしれません」
「ええ。私もそう思って書き出してみたんだけど。これと言ったものは見つからなかったの。でも、もう一度やってみるわ。もしかしたら、何か原因の一端が見つかるかもしれないから」
スミレでもすぐ思いつくのだから、それはもうすでにやっていて当たり前だった。
なのに、肯定の返事をしてくれる楓は、年に似合わず大人である。
きっと年上との接触が多いのかもしれない。
「それと、私が所属している深遠館に聞いてみるといいかもしれませんよ」
「うーん。私もそうしたいのだけど、深遠館に聞くのは難しいかも」
「というと?」
「一族の大半は、深遠館は、その、力のない者の集団とみているふしがあるの」
「ああ」
ありそうな話である。異能力を持つ名門の家が、にわかにできた研究機関になど頭を下げられないと。
「貴船は独自に能力を磨くすべがあるから、深遠館とは関わってないのよ」
それぞれで動くより、協力して高め合った方が効率的な筈だ。
何とも残念である。
貴船のプライドだろうか。
「では、今はやれるものからやりましょう。もし可能なら、後でもいいので、調査結果を見せてください。私でも何か気づけるかもしれません」
「ありがとう。さて、私の話は終わり。今度はスミレさんの番。スミレさんはどうやって能力を使うの?」
楓は瞳を輝かせて、前へと乗り出す。
それに若干身体を引きながら、スミレは話し始めた。
スミレ振り回されてます。頑張れ~




